「私は秀麗、紅秀麗よ」


そう言って差し出された手は、温かかった。





異世界より訪れた少女、

引き取られた先、貴陽紅家での彼女の仕事は専ら、炊事と洗濯、掃除だった。

は最初、彩雲国の料理なんて知らなかったから、味噌汁を作ったらそれなりに好評だった。

それから秀麗に彩雲国の料理を教えてもらいながら、自分の知っている料理をアレンジしている。

その中で家の主である邵可を台所にいれてはならないことも学んだ。




「え、明日静蘭、休みなの?」

「ええ、公休日ですから」

食べる手をとめて、秀麗は静蘭を見た。

「じゃあ、に街を案内してあげてくれないかしら?」

「へ?」

自分の名が出てきたことに眼を軽く開いた。

「ほら、ってまだこの国のこと、よく知らないでしょう?
だから街を案内しながら教えてあげようと思って」

私は昼からは賃仕事があるから午前までだけど、と秀麗は付け足した。

「わかりました。、明日は街に行きましょう」

静蘭が実は結構強引なのは、薄々気付いていた。

「あ、それじゃあ、お願いします。」

街に出るのは初めてで嬉しかった。

「旦那様はどうなさいます?」

静蘭が公休日で休みだということは、邵可も休みなのだろう。

「私は、少し仕事をしなければならないから三人で行っておいで。
大丈夫、昼なら自分で何か食べるから」



明日帰って来た後の家が、心配だ。






「静蘭さん、あれはなんですか?」

 迷子にならないように――情けないが人が多いから気を抜けば絶対はぐれるだろう――静蘭の上着を掴みながら歩いていたは一つの店を指差して訊いた。

「別に呼び捨てでかまいませんよ――あれは焼き菓子ですね。
少し固いですが、子供達に人気があります‥‥何枚か買いますか?」

衣服類は午前中に秀麗と共に選んで買ってもらった。

家計が苦しいところ申し訳なかったが、なければ困るものなので仕方がない。

もうちょっと慣れてきたら自分もバイトをはじめよう。

「いいです!全然いいです!」

「言葉がおかしいですよ。買ってあげますよ、ね?
人の好意は受け取りましょう?」

「‥はい!ありがとうございます!!」



買ってもらった焼き菓子を食べようとすると、静蘭は何を思ったのかひょいっと取り上げた。

「っえ‥‥」

「敬語をやめるならあげます」

にこっと脅されては固まった。

いや、黒いのもなんとなく気付いてはいたけれど。

「や、でも、静蘭さんは年上ですし‥‥」

「本人が良いって言ってるんですよ」

そう言って静蘭は先程から取り上げた焼き菓子を囓った。

恨めしそうに見るに静蘭はにっこりと微笑んで見せた。
そしてまた焼き菓子を囓る。

それを見ていたは、どうしようもなく、しかし、意地を張るようなことでもないので、静蘭の要望に応えることにした。

「静、蘭。」

やはり、年上の、こんな美形を呼び捨てにするのは勇気と根性がいる。

だが、呼べば静蘭は焼き菓子と共に今までで一番の笑顔をくれた。





美形と共に暮らすには、覚悟と度胸がいるということを、は学んだ。




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*後書き...
「リレー夢小説ってとても難しいことを学習し、自分の文才のなさを実感しました(汗)桜雨澪鵺様、続きをよろしくお願いします。」
遅くなった上に稚拙な文で申し訳ないです。
それでは、次の担当、桜雨澪鵺さまにバトンタッチです。



   → 「必要なもの」  Written by 結羅葛葉