「あの……ここで、良いバイトって何かありませんか?」




その言葉を聴いた者皆が、箸を止め首を傾げる

(ばいと?)

「あの…その、働いてお金を稼いて…恩返しを、したく…て」

恥じらいながらもごもごとそう告げた
なんと健気な少女なんだろうか
何処から来たのかまったく分からない素性の知れない人間を、自分を
暖かく迎えてくれたこの家族
少しでも、と何か自分にできる事はないのかと思い…

不意に絳攸の目がきらりと光る
まるでにやり、という擬音語が聴こえてくる様だ

「…賃仕事なら良い条件のものがあるぞ、。三食休憩付きの雑用係だ」

ふっふっふ…と何かを企んでいる彼の魂胆に最も早く気がついたのは楸瑛
思わず額に手を当てる

「本当ですか!?是非、紹介して下さい!」
「明日の朝、秀麗と一緒に俺のところへ来い。人手が増えれば……助かる」

何処の部署が助かるのか、そこに居る誰もがきちんと理解していた

「でも、悪い話じゃないわね」
「そうですね。公休日以外は私も、お嬢様も、旦那様も登城しているワケですし」

いくらなんでも、此処に過ごし始めたばかりの少女を一人、残す訳にはいかない
もそれを分かっていた
分かっていたからこそ、此処の人たちの優しさが心に沁みる


「なら明日からいつでも顔をあわせられるね。こんなに可愛い子と毎日会えるなんて、光栄だな」

妙に喜ぶ親友(?)を横目に、絳攸はただまぐまぐと料理を平らげる
彼のそっけない態度にがっかりしたのか、

「…吏部みたいな所で働かせるより、私の所で侍女として居てくれる方がいいと思うけどなぁ」

「吏部みたいなとはなんだーーーーっ!!このっ…この常春男めがーーーっ」

「ははは、冗談だよ」

陽気に笑っている楸瑛だが、秀麗たちにはまったく冗談には聴こえなかった
この人ならさせかねない…と





今宵は満月
月の光が、暗黙の空にうすく靄をかけるように覆いかぶさっている
そんな月をじっと四角く切り取られた窓から眺める少女が居た

「あの月も一人ぼっちかしら…私みたいに」

「…一人ぼっちなんかじゃないよ」

後ろから聴こえた優しい返事
気配を殺して様子を伺っていた邵可が現れた

「月はね、一見一人ぼっちのように思えるかもしれない」

椅子に腰掛けていたの隣に邵可も落ち着く

「確かに寂しそうだね。けど、そうだったら誰かと一緒に居たいって思うだろう?」
「はい…」

それはまさしく今の
少し翳った顔でこくりと頷くは、邵可の話にじっと耳を傾ける

「だから輝く。光で照らして“一緒に居てくれる誰か”を探しているんだ」


周りに誰も居ないなら自分から見つけ出せば良い
秀麗や、静蘭や、邵可とめぐり逢えた様に


邵可は立ち上がった

「君も、これから探せばいいよ。一人じゃなくなれるようにね。
私たちは君と“一緒に居る”から」


部屋から出る前におやすみ、と一言
笑顔を残して退室した邵可の言葉を、はしっかりと心に留めた






―――……自分で探すんだ
  
        “一緒に居てくれる人”を





満月の優しい輝き…
最後まで満月を見つめて眠りにつく





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*後書き…
・始めましての方も、サイトに来て下さってる方も、改めまして…如月ルイと申します^^;
桜雨さんの素敵夢に感動しつつ、自分なりにベストを尽くしましたです…ハイ
麻妃さん♪この後どうかよろしくお願いしますvV 



   → 「Depression of a full moon」  Written by 如月ルイ