もはやあなたなしでは考えられない*
「私、絶対精市には甘いと思うの」
後ろから身体を抱き寄せ、私の肩に顔を埋めたままの従弟に対して、私は溜息混じりに呟いた。
「そうだね」
対する精市は気のない返事をしながらも、私の身体を抱き寄せる手の力は弱めない。
「……わかってて、貴方も甘えないでよ」
大きな音を立てながら脈を打つ鼓動を抑えようとしても、抑えられる程度ではない。
密着している精市に、この音が聞こえないはずがないのだが、なぜか彼は沈黙を保っている。
「ん……、でも俺が甘えられるのって、だけだから。
君はちゃんと俺の言葉を聞いて、考えて。
俺に媚びたりしないで、自分が思ったままに言葉を返してくれる」
「貴方に媚びても仕方ないじゃない。
媚びたところで、嫌味全開でこき下ろされるのが関の山ね」
「……ホント、は俺のことをよくわかってる。
ただ血が繋がってるだけの従姉より、よっぽど従姉らしいよ」
一瞬、私を拘束する精市の腕が緩んだかと思えば、すぐに。
先ほど以上の強さと深さでもって、抱きしめられる。
「には全然自覚がないと思うけど、俺にとって君は『特別』なんだよ。
俺の隣にがいないなんて、考えられないくらいに。ね。
なのに……君ときたら、俺の目の前で赤也に抱きついたり、柳と楽しそうに話したり、真田と意気投合したり、俺のことなんかまるっきり眼中に無いんだから嫌になるよ」
「………いや、それはつい………いつもの癖で」
「そこで、俺に焼き餅焼かせたくてわざとやりました、っていうなら可愛げもあるんだけど、馬鹿正直に素直に答えてくれるんだものね。
もう少し俺の気持ちを考えて、歯に衣着せて言葉を口にして欲しいな」
…私以上に思ったことを歯に衣着せず言葉にするくせに、よく言うわよ。
そう思わないでもなかったし、言ってやろうと思ったけれど。
憎まれ口とは裏腹に、精市の表情はいつも以上に柔らかくて。
吐息がかかるくらい耳元近くから聞こえる声は、とても優しくて。
私の口をついて出るはずだった言葉は、綺麗に霧散してしまった。
ああ、もう。そんな年相応の笑顔を浮かべないで。
もっともっと甘やかしたくなっちゃうじゃない。
*後書き・・・
・プチアンケート結果をプチ反映。幸村夢…のつもりです、が。
この二人は両想いになっても、ベタ甘カップルにはほど遠いようです…。