「ぐわああああっ!!」 響き渡る男の声に、反射的に振り返り…。 私は絶句して立ちつくすしかなかった。 男の全身を包み込むのは、緋色の熱い帯。それはまごうことなく、灼熱の炎だ。 鮮やかで力強い…深紅の色彩そのもの。まるで自らの意志でもあるように盛んに燃え盛る炎は、男の全身を舐め尽くした後、すぐに虚空へ掻き消える。 それは現れた時と同様、唐突な退場であった。 炎の呪縛から解放された男は、全身から黒い煙を出しながら完全に意識を失っているようだった。そして支える物のない身体は、重力に従ってそのまま地面に倒れ伏す。 「……すご…」 目の前で繰り広げられる、あまりに非現実的な事態。 私はそれらにただただ驚くばかりだった。 ん?すでに死んでるくせに何を言ってるんだ、って? それとこれとは次元が別よ! 目の前で起こったのは、まるでRPGゲームかマンガやアニメの世界に入っしまったかのような光景だったんだから!! これで興奮するな、と言う方が無理ってもんでしょ!!! 「怪我はないかね、お嬢さん?」 頭上から降ってきた声に、私は反射的に顔を上げる。 この人は私を助けてくれたのだ。助けてもらったのだから、ここは一つ礼儀正しく。 笑顔を浮かべて、御礼を述べる。 …つもりだったのだが…。 声の主であるその人の姿を目に映した瞬間。 思考が真っ白になりました…。 黒曜石を思わせる漆黒の色彩を宿すのは、切れ長の瞳。それを隠すか隠さないか程度に覆うのは、夜空を切り取ったかのような深い闇色の前髪だ。着ているのは周りにいた警官(と思われる人々)と同じデザインの青い制服と黒いコート。やや童顔ながらも整った容貌には、どこか甘ささえ漂う。 間近で微笑まれれば、十人中八人は確実に惚けることは間違いないと思われる、美形と呼ぶにふさわしい容姿端麗な青年だ。 ハッキリ言って映画スターや芸能人なんかより、ずっと美人さん! そんな方が自分に向かって、優しげに微笑んでいるのですよ?! 思考回路がショートしたって全然おかしくないでしょ!! 「…………………っ、はっ!大丈夫です、この通りピンピンしてます!!」 しばし呆然としていた(=見惚れていた)私は、慌てて我に返った。 「そうか。それは良かった。」 そう言って、お兄さん(他にどう言えと?)はニッコリと微笑んだ。 あぁ……、我が人生に、一片の悔い無しっ! こんな素敵な方の笑顔を間近で見られるなんて、なんたる幸福♪ お願い、夢なら二度と覚めないでっ!!!! 「…全く。人質になりながらも犯人に喧嘩を売りつけるとは、えらく肝っ玉の据わったお嬢ちゃんだな」 半ばあっちの世界へ行きかけていた私を、横から聞こえた別の声が現実へ引き戻す。声の聞こえた方へと顔を向ければ、綺麗に揃えられた顎髭を撫でている眼鏡の男の人と目があった。 おじさんというにはまだ若く、お兄さんと言うには年を重ねたその人も、青を基調とした軍服のような制服と黒いコートを着ている。短い髪の色彩は黒。まるで猛禽類を彷彿とさせる鋭い瞳に宿るのも、同色の漆黒だ。威風堂々とそびえ立つ山のように落ち着いてどっしりとした貫禄のようなものを持ちながら、口元に笑みを浮かべるとひょうきんな印象を受けるなんとも不思議なおじ様である。 この人!このまま年を重ねていけば、間違いなく! ほどよい渋さのダンディーミドルエイジになると私は見た!! こういう人に、頭を撫で撫でされてみたいなぁ〜…(恍惚) まさに理想のパパって感じですよ!! 「…ところで、だ。さっきからずっとお嬢ちゃんがつけてる頭のそれ。 一体いつまでくっつけてるつもりなんだ?」 危なっかしいものを頭につけてる? 私、特に髪飾りやピンはつけてないんだけど? 「私もそれを言おうと思っていたんだ。奇抜なファッションと言えなくもないが、君のような女の子には少々厳つい感じがしていけないな」 しかし驚いたことに、お兄さんもまたおじ様と似たようなことを言う。 「…はい?」 二人にそう言われて、私はとりあえず頭に手をやる。左手が伝えてくるのはそこそこに柔らかい髪の感触。右手が伝えてくるのは…、まるで鉄のように固い感触だった。 「何……、これ」 両手で手探りしていくと、頭についているのは長い筒と指をひっかけるトリガーのようなもののついた何かだった。それと一緒にくっついてるのは、矢のような形をした鉛玉らしき物のようだ。 …そういや。謎の電撃でやられた人って、倒れた後も拳銃持ってた? ありえない事態に、頭の中が風化していく。だが、手の感触は私の想像が正しいと、つぶさに伝えてくる。 さらに極めつけは。 「私には拳銃と弾丸にしか見えないが」 「俺も右に同じだ」 目の前で客観的に私の姿を見ているお二人のこの言葉。最も信憑性の高い意見…つーか真実だ。 「嘘っ!!」 頭に拳銃を貼り付けてたら、普通気付くよね? なんで気付かなかったんだろう、自分。 混乱している私をよそに、二人は話を進めていた。 「まあ…とにかく。犯人たちの捕獲も済んだみたいだし、本部へ戻るぞ。 積もり積もる話は、本部へ帰ってからだ。ところでお前はどうするよ? このままイーストシティへ帰るか?用事はもう済んだんだろ」 「いや。ここまで関わって素知らぬふりで帰るわけにもいかんだろう。 それにな、ヒューズ。彼女が先ほど犯人の一人を倒したあの電撃は、間違いなく錬金術だ。私がいた方が何かと都合がいいかと思うが」 …ん、イーストシティ? それに、お兄さん、今“ヒューズ”っておじ様を呼びました? 「確かに錬金術の話をするなら、俺よりもお前の方が適任だよな、ロイ。 向こうには俺の方から、一日遅れるとでも連絡しておいてやるよ」 「ああ、頼む」 …………。 すみません。私の耳は本気でいかれてしまったのでしょうか。 今、おじ様がお兄さんのことを“ロイ”と呼んだように聞こえました。 「それじゃ行くか」 そう言って、おじ様は踵を返して歩いていく。 呆然とそれを見送っていた私の頭上に、ファサと柔らかいものがかぶせられる。なんだろうと首を傾げていると、右肩へ手を置かれて。思わず仰ぎ見れば、私の前にいたはずのお兄さんが隣にいた。先程まで詰め襟仕立ての制服の上に黒いコートを羽織っていたと思ったのに、今は羽織っていない。 …もしかして、私がかぶってる物ってこの人のコートなんじゃ……。 でもこうしていれば、私の頭に拳銃一式がくっついていることは見えない。多分そこまで考えて、お兄さんはコートを貸してくれたんだろう。 「なにをぼんやりしているのかな?君も当然、私たちと一緒に来るんだよ」 気付けば、お兄さんは私の顔を覗き込んでいた。 「………私も、行くんですか?」 「積もり積もる話は本部へ帰ってから、とヒューズが言っていただろう。事件の報告書を書くためには、君の証言も必要になるしな。それに、君だっていろいろと私たちに聞きたいことがあるのだろう。違うかい?」 漆黒の双眸に浮かぶ色は、底知れない深淵を思わせる深い闇色。 それがユラリと煌めいて、より一層鮮やかに、蠱惑的に輝いた。 うぅっ…、あまりに素敵すぎて目眩が……。 「…………………、違いません」 思考回路が完全にショートする中で、かろうじて一言絞り出す私。 「なら、決まりだ。行くぞ。」 私の答えに満足したように頷くと、お兄さんは私の肩を軽く押して歩くよう促す。 それに従って、私も足を動かして歩き出した。 「そういえば、まだ君の名前を聞いていなかったな」 「。・です。ところでお兄さんの名前は?」 なんとなく外国風に名乗った後、気になっていた相手の名前を尋ねる。 「そういえば、まだ名乗っていなかったな。私はロイ・マスタング。 地位は大佐で、二つ名は”焔の錬金術師”だ」 …ロイ・マスタング? それに、焔の錬金術師………って………。 そういやさっきから“錬金術”という言葉が度々出てきたような。 それじゃあ、さっきのおじ様がヒューズ中佐ですか?! それで。目の前の人が、マスタング大佐……?! 嬉しい、と言う気持ちよりも、はるかに驚きの気持ちが勝っていて。 あまりの衝撃的事実に、目の前はフェードアウト。 祖国のお父さん、お母さん。 私の頭はどうやら完全にいかれてしまったようです。 お母さんたちの言うこと聞いて、真面目に受験勉強するべきでした。 マンガばっかり読んでると、そのうちマンガと現実の境目がなくなるって、さんざんに注意されてきたその通りになりました…。 、15才。 なんの因果か、はたまた祟りか。 ハガレン世界へと迷い込んでしまったようです(汗)。 *後書き… ・ヒロイン、微妙に困惑中なお話でした。そしてようやくキャラが出てきました!!! この回を読んで頂ければ、管理人の好きなキャラが誰か一目瞭然ですな。 にしても、慣れてないと台詞考えるのも一苦労。 一つの台詞考えるのに、下手すれば10分単位で時間費やしてます。 こればかりはもう、回数をこなして、いっぱいマンガやアニメを見るしかないか。 時間軸は、いつなんでしょうね。かーなーりいい加減。 04.03.22 若干文章修正。 |