■ 時を越えて現れた宝玉の主


「…笑ってる。あの無愛想な風の奴が笑ってるぞ、おい!!! 」
 まるで恐ろしいものでも見るかのような、驚愕の表情も露わに、たじたじと後退るスノゥ。

 しかし、そんな彼の頭をグリグリ撫でながら、レンドリアはあっけらかんとしたもので。

「そんなに驚くことか? あの嬢ちゃんの前だと、あいつはいつもああだぞ」

「そうなのか?! ……って、頭を撫でるな!!!! 」
 どさくさにまぎれて子供扱いされたことに怒るスノゥを、レンドリアはいつものように飄々とした態度のままになだめる。

「やめなさいってば、レンドリア。
スノゥもやめなさいよ。レンドリアのことは放っておけばいいのよ」
 あわやスノゥの怒りが爆発するかか否かの絶妙なタイミングで、ジャスティーンが二人の仲裁に入る。彼女になだめられ、スノゥは発動させかけていた魔術を渋々解放した。


「なかなか二人の手綱を引くのが上手いわね。貴女、この二人のどちらかの主? 」
 ジャスティーンがハタと気づけば、と呼ばれた巫女姫がすぐ近くまで来ていた。

(すごい、綺麗な人……)

 間近で彼女を見たジャスティーンの第一印象は、この一言に尽きた。

 風になびく白金色の髪は、日の光を浴びてまばゆい輝きを放つ。大理石のように透明な白い肌に、ほんのり色づいた桜色の唇。そして何より印象強いのは、深い海色を宿す群青色の瞳だろう。光と闇とが調和し合った底知れぬ輝きの前には、宝石すら霞んで見えるほど。
 ソールとどこか似た雰囲気を持つ、クールビューティな巫女姫様である。

「あ、はい。一応、レンドリアの主、みたいです……」
 ジャスティーンは頬を人差し指で掻きながら、自信なさげな口調で答える。

「だって、レヴィローズ。実際のところはどうなの?」
 ジャスティーンの謙虚な態度(?)に、は苦笑しながらレンドリアへ話を振る。
 するとレンドリアは、ジャスティーンのすぐそばに転移し、彼女の顔を覗き込みながら疲れたように言う。

「あのな、ジャスティーン。一応でなくても、もしかしなくてもお前は俺の主なんだから、
もっと自信もってハッキリ言えよ」

 ジャスティーンはレンドリアの言葉に対して弁解を試みようとするが。
それよりも先に、無理矢理話に割り込んできたダリィが口を開いた。

「だから、ジャスティーンではダメだというのです!!
ですから、私がジャスティーンに変わってレヴィローズの主になって差し上げますわ!!!」

「いや、俺の主はジャスティーンだけだから。遠慮する」

「まあ、照れることなどありませんのよ、レヴィローズ。
私ならジャスティーンと違って、毎日毎日観察日記をつけて大切にいたしますわ。
ですから、どうぞ私の胸に飛び込んでいらして下さいませ」

「だってよ、飛び込んでいったらどうだ」
 心底嬉しそうな表情でスノゥはレンドリアの背中を叩く。
いつも自分がからかわれている側なだけに、逆の立場に立てるのが嬉しいらしい。

「お前、人事だと思いやがって……」
 ジリジリと後退しながら(ダリィが迫ってきているのである)、レンドリアは嬉しそうなスノゥを悔しそうに睨みつけた。


「ダリィ=コーネイル。君にこれをしばらく預かっておいて欲しいんだが、構わないかね?」
 嬉しそうにレンドリアをからかっているスノゥを一瞥した後、いつの間にか復活していた水の伯爵は、そう言って燦然と輝くサファイヤのペンダントをダリィに差し出した。
 言わずもがな、スノゥの本体ジェリーブルーである。

 途端にダリィの顔がパアアッと光り輝く。
「勿論ですわ。しばらくどころか、ずっと預かっていてもよろしくてよ!! 」

「折角そう言ってくれるんだから、しばらく預かってもらおうか。
頼んだよ、ダリィ=コーネイル。」

「おまかせくださいませ!! 」
 そしてダリィは、意気揚々とペンダントを自分の首にかけた。

 水の伯爵はそれを確認してから、スノゥへと声をかける。
「そういうわけだから、スノゥ。
しばらくはダリィ=コーネイルに君を預かってもらうことにしたよ」

「んな…っ! なんでそうなるんだよ!!! 」
 顔面蒼白になって、スノウは思わず水の伯爵に掴みかかる。
だが水の伯爵は、いつも通り得体の知れない笑みを浮かべて一言。

「さっき私を助けようとしなかった罰だよ」

「なんだとぉっ!!! 」
 スノゥとしては、先程シルフソードを大気の泉から引き離そうとした時点で、もう伯爵の要求は果たしたつもりになっていたのだ。
 だが、水の伯爵のなかでは、どうもそんなことにはなっていなかったらしい。

「私の言うことを聞かなかったばかりか、ちゃっかりジャスティーンの方へくっついてしまっているんだからね。まあ、君だって男の子なんだから、格好いいお兄さんよりも可愛いお姉さんたちのたくさんいるそっちの方がいいと思う気持ちはわかる。
だけど、それは私を見捨てたと同然だということに気づいているかな、スノゥ? 」

「ふざけるな!!! そういうことはもっと早く言えよ!!! 」

「いやぁ、すっかり伝えるのを忘れていたよ、すまないね」

「嘘つけ!! てめェ、絶対わざとだろうが!!!!! 」
 顔を真っ赤にして憤りを露わにするスノゥの手に、魔力の光が生まれる。

 しかし水の伯爵は慌てず騒がず、ある人物に話を振った。
「ダリィ=コーネイル、レヴィローズともどもスノゥのことも観察日記につけて大切にしてやってくれないかね。どうにもスノゥは、君がレヴィローズにばかりかまけているので、拗ねてしまっているようだ」

「まあ、そんな心配など無用ですわ、ジェリーブルー。
レヴィローズと同じくらいに貴方のことも私大事にしましてよ?
さあ安心して、私の胸に飛び込んでいらっしゃいませ♪ 」
 キラキラと美しい輝きを放つジェリーブルーの本体を胸元に輝かせながら、ダリィはジリジリとスノゥに向かってくる。

 スノゥは後退しつつ、必死でレヴィローズの姿を捜した。
 なんと言っても彼女の本命は、レヴィローズなのだ。

 彼さえうまく引きずり出せれば、自分はこの恐ろしい娘から逃げられる。
 そんな確信が彼の心にはあった。
 さっさと姿を消してどこかへ姿をくらましている可能性もないわけではなかったが、ここにはシルフソードもいるのだ。逃げようとすれば、間違いなく彼が何らかの反応を起こす。そんな確信もあったので、スノゥはレンドリアが逃亡している可能性を否定した。


「火の玉娘の言う通りだぞ。ここはおとなしく、あいつに捕まってやれ。
お前が捕まれば、みんなが幸せになるんだ」

 そして案の定。
 レンドリアは逃げていなかった。

 スノゥにとって心底腹の立つ台詞をいけしゃーしゃーと吐いていたレンドリアは、なんとあろうことかの後ろに隠れていたのだ。
 ソールはを盾にされたことが気に入らないのか、横目でレンドリアを睨みつけている。

(前に逃げるか、後ろに逃げるか…)

 追いつめられたスノゥは一瞬考え込むと、脇目もふらずにの背中の後ろへと回り込んだ。

「頼む!あのおっかない女をどうにかしてくれ!! 」
 そう言って服の裾を掴んでくるスノゥの額を、は苦笑いをしながらこづいた。

「…あのね、二人とも。私は君たちを守るための壁じゃないんだけど?
第一、レヴィローズは、主がいるんだから主のところへ行けばいいでしょ? 」

「そうだそうだ!お前はジャスティーンに守ってもらえるんだから、さっさと向こうへ行け!
お前と一緒にいるとこっちまでとばっちりがくるんだからな!! 」

「コラ待て。俺の方が先に避難してたんだから、出て行くならお前が出て行くべきだろうが。それに今の火の玉娘は、ジャスティーンどころかシャトール=レイの手にすら負えないんだぞ!そんなときにジャスティーンの元に戻ってみろ。間違いなく、俺は火の玉娘の餌食だ」

「…レヴィローズ。今の発言は、主に対して失礼なものだと思うけど?
主のお嬢さんは、この発言に何か言うことはないの? 」
 呆れ果てたが、ジャスティーンに発言を求めるが。
当のジャスティーンといえば、対して気にした様子はない。

「いや、レンドリアがそういう口を叩くのは今に始まったことじゃないし。
それにレンドリアの言うことも一理あるから。
これしきのことで根を上げてたら、とてもレンドリアの主なんてつとまらないわ」
 レンドリアとは、長くもないが短くもない付き合いがあるジャスティーンは、彼のだいたいの性質は十分すぎるくらいに理解していた。それゆえにいい加減あるまじき彼の言動にもすっかり慣れっこになってしまっているようだ。

「なんて健気なお嬢さんかしら。さすが、今の今まで主を決めなかった我が儘王子。
相も変わらずマイペースね。私なら即契約解除してるところよ」
 はそう言って、つくづくレヴィローズに気に入られなくてよかったわ、と安堵の溜息を漏らした。

「んまぁ!! さっきから黙って見ていれば、シルフソードだけでは飽きたらず、レヴィローズやジェリーブルーまでたぶらかしただけでなく、こともあろうにレヴィローズを侮辱するとは全くもって許し難いですわ!!! これは私たち炎の一族に対する侮辱です!!
シャトール=レイも黙っていないで、この生意気な女に何か言っておあげなさいな!!」
 憤怒するダリィの矛先は、悲しいかなシャトーにまで向けられてしまった。
 だが、長い付き合いの中ですっかりこういった状況に慣れきっているシャトーは、別に動じることもなく、簡潔に呟いた。

「私たち炎の一族がレヴィローズを至宝とするように、風の一族が至宝と戴くのはシルフソード。風の一族である彼女と私たちで、多少感覚が違うのは当然のこと」

 正論といえば正論と言えるシャトーの言葉に、ダリィは勢いを殺がれて口ごもった。



 そんな二人のやり取りを見ていたは、おかしさで歪む口元を手で押さえつつ、
「まさに彼女の言う通りだわ。レヴィローズ、炎の一族はなかなか個性的な面々が多いわね。実に見ていて飽きないわ」

「見てて飽きないのは確かだが…、俺にとっては命がけなんだからな?
人事みたいに傍観していないで、昔の友のよしみで火の玉娘をどうにかしてくれよ」
 笑いをこらえるを恨めしげに見つめつつ、レンドリアはがっくりと項垂れる。

 そんな彼にが仕方なく言葉をかけようとするが。
 それよりも先に、不機嫌さを露わにしたソールの声が響く。

がいつ、お前の友になった? 勝手なことを言うな」

「そんなに目くじら立てなくったっていいだろ。
独占したい気持ちもわかるが、あんまりしつこいとに嫌われるぞ」

「独占欲の強さに関してお前に言われる筋合いはないと思うが? 」


「…俺に言わせれば、どっちもどっちだな」
 触らぬ神に祟りなし、とばかりに完全に高みの見物をしていたスノゥは、両者の耳に聞こえるかそうでないかくらいの小さな声で呟いた。
彼に言わせれば、レンドリアのジャスティーンに対する執着心とソールのに対する執着心、どちらも似通ったものにしか見えない。

(ここまで一人に執着できるのは、羨ましい気もしないでもないけどな…)

 生まれてこのかた、自分から主にしたいと思う人物に巡り会っていないスノゥとすれば、ここまで執着できるほどに気に入った人間を見つけることの出来た二人に、少々畏敬の念を感じずにはいられないのだが。

 たとえそう思っても、絶対に表に出すことはないだろう。
 ソールはともかく、レンドリアにそんなことを言えば、彼が絶対に図に乗ることは目に見えているからだ。



*後書き…
短編ソール夢ヒロインの設定説明がメイン(オイ)なお話。
でも、まあ…レヴィローズキャラもたくさん出てるし…。
一応夢小説?として成り立ってる…と言ってみたり。
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