■ 時を越えて現れた宝玉の主


「ちょっと!! 私を無視して、レヴィローズやジェリーブルーと楽しくお話しするなんて、ずるいですわよ!!!」

 完全に自分を無視して、会話が進められていくのが我慢ならなかったのか。
ダリィは憤然たる面持ちで、に抗議する。

「第一巫女姫だかなんだか知りませんが、そんなみずぼらしい服を着ているなんて年頃のレディとしてあるまじき行為ですわ!!! あのジャスティーンですら、もう少しましなボロ服を纏っていましてよ?!全くお育ちの悪さがしれるというものですわね。
 それになんですの? 装飾品というものはやたらにジャラジャラとつければよいというものではありませんわ。なんて趣味の悪い…。
 真に女性の美しさというものは内面からにじみ出るもの。そのように意味もなくたくさんつけていては、逆に自分をよりみすぼらしく、醜く見せるだけですわ。
 もっとも、貴女のようなみすぼらしい服を選ぶしかないセンスでは、それもおわかりにならないのでしょうけど?」

 相手が何も言わないのを良いことに、ダリィは好き放題に言いまくる。
 ジャスティーン命名“ダリィのお育ち攻撃”も健在なようで、それを含めた罵倒の数々が容赦なくを襲う。


「おい、ジャスティーン」
 自分を呼ぶ声にジャスティーンが振り向けば、いつの間に移動してしてきたのやら、グッタリとした様子のレンドリアの姿が映った。
 大方ダリィの標的がに移ったことでとばっちりを受けないように、こっそりと逃げてきたのだろう。

「どうしたの? レンドリア」

「火の玉娘の口をどうにかして封じてくれ」
 レンドリアの進言に、ジャスティーンはたちまち苦い顔をした。

「そんなの無理よ。今のダリィを止められる人間なんていないわ」

(ここまでくると、私どころか、シャトーでも太刀打ちできないわよ……)

 かつて4番目の候補者としてジャスティーンたちの目の前に現れたクイーン=リザベス=クオーレ。ジャスティーンの指に嵌っていたレヴィローズに触れようとしたがために、ダリィの逆鱗に触れ、かなり手ひどい罵声を受けた人物が昔、いた。
 だが今回はその時に輪をかけて、ダリィの怒りは激しい。レヴィローズだけでなく、ジェリーブルー・シルフソードといった貴重な宝玉たちと平然と会話をする彼女に対する怒りは、あのときクイーンに対して感じた怒りよりも激しいものなのだろう。おそらく。

「そこをなんとか」
 珍しく必死になっているレンドリアの様子に、ジャスティーンは首を傾げる。

「…なんで? 理由くらい聞かせてくれてもいいじゃない」

「このままだと確実にキレる。下手すりゃ両方ともキレて手がつけられなくなるぞ」

「???」

 まるで何を言いたいのかわからないレンドリアの言葉に、ジャスティーンは首を傾げずにはいられなかった。



(にしても、ホントにむかつく女ね…… )

 最初こそはおとなしくダリィの罵声を浴び続けていただが、だんだん腹が立ってきた。
どうしていきなりこんなやつに説教なんてされなくてはならないのだろう。
自分が着ている服は、原初の女神に仕える巫女の正装。別に彼女が好き好んでこの服を着ているというわけではない。さらに時代が違えば、着ている服は当然違うわけで。別に自分は間違えたことをしているわけではない。

 なのに。
 どうして育ちが悪いだのセンスが悪いだのと、文句を言われる必要があるのだ。


ムカ。
ムカムカ。
ムカムカムカムカ(怒)

(この女、本気でぶっ飛ばしてやろうかしら…)


 そんなの思考に反応するように、彼女の周りを不自然に風が取り巻く。
風に煽られるように、彼女の長い髪がフワリと宙に舞う。

 風は人の耳には聞こえない歌を紡ぎ出す。
 歌は風に乗り、空を駆け、かの者を呼び寄せる。
 嵐の空を統べる者。
 神々の怒りと称される、大いなる自然の恐怖。
 すなわち、神の怒りーーー雷。


 彼女のしようとすることに気づいたソールは、自分と真正面に向き直らせるために彼女の肩を引き寄せた。そして、ブルートパーズの輝きを放つ瞳での群青色の瞳を真っ直ぐに見据えながら、キッパリと告げる。

「わざわざお前の手を煩わせるまでもない。だから怒りを鎮めろ。
アレには、俺が相応の仕置きをくれてやる」

 ハタから見ればソールの表情は冷静そのものだが、付き合いの長いには、彼がポーカーフェイスの後ろに隠している怒りがハッキリと見てとれた。

 本来、この時間軸では生きていない。
この世界が、彼女の死後何百年経った未来だかは知らないが、少なくとも千年は軽く超えているだろう。

 それなのに……。

 千年以上も昔の存在である自分のために、ソールが怒ってくれている。
 原初の女神に仕える巫女としては、あるまじき思いであることは知っていたが、それでもは思わずにはいられない。

 ーーーー貴方のそういうところが、何よりも愛しいのよ…

 人間とは違う存在であるからこそ、一度目に入れた者にはとことん尽くせてしまう。
宝玉たちのそんな純粋な感情が、はとても好きだった。
 何よりも、普段ポーカーフェイスを装っていて感情を露わにすることを好まず、人間嫌いで有名なシルフソードが、自分のために感情を露わにしてくれることがとても嬉しい。

 周りに誰もいない状況ならば、そのまま抱きついてしまいたいくらいだ。
さすがにこの状況でそれをやる勇気はないが。

「いいえ、ソールの手を煩わせるほどのことじゃないわ。
それに今回は、是非とも私自らで手を下したいの。
だから、貴方の気持ちは嬉しいけど……ね? 」
 肩に置かれたソールの手に自分の手をそっと重ねて、は微笑みを浮かべた。

 本当のことを言えば、ソールに取りなされた時点でダリィに対する怒りは地平線の彼方へと吹っ飛んでいるのだが、ここで放置すればああいうタイプの人間は図に乗る。
 それを今までの経験で知っているは、あえてダリィへの報復を諦めない。

 ソールは溜息を一つつくと、彼女の頬にそっと手を触れる。

「わかった…。お前がそこまで言うなら、もう俺は何も言わない」
 紡ぎ出す言葉は、呆れが見てとれるものばかりだが、口調はとても優しい。
かすかに苦笑いを漏らすソールの表情は、とても穏やかだ。

「ありがとう、ソール」
 それにつられるように、も極上の笑顔を浮かべた。




「…なんなんですの、あの二人。まるで私なんて眼中にないと言わんばかりのあの態度。
ですけれど、なぜかあの中へ入っていくことが躊躇われてしまうなんて…。
本来ならば、あの女は魔術界でも貴重なシルフソードを自分のものにしてるというのに。
本当ならば、私自らが出向いて取り返さなければならないというのに…。
シャトール=レイ、私おかしくなってしまいましたわ」

 珍しく弱気な発言をするダリィに、シャトーは慰めの言葉をかけた。

「大丈夫。貴女は、彼らの間を取り巻く特殊な気に当てられただけだから。すぐに元に戻る」

 そしてシャトーは、項垂れるダリィの背を軽く叩いてやったのだった。



「さすがの火の玉娘もすっかり気を削がれたみたいだし、ま一件落着ってとこだな。
…どうした、ジャスティーン? お〜い、ジャスティーン? 」
 話しかけてもまるで反応のないジャスティーンの目の前で、レンドリアはパタパタと手を動かす。

 彼女が我に返ったのは、それからだいぶ経ってのことだった。

「…はっ。レンドリア、どうしたの? 」

「どうしたのって…、さっきから何度呼んでも返事がなかったんだぞ? どうした?」

「いや、どうしたっていうか………」
 ジャスティーンは、言葉にするのを一瞬躊躇い、戸惑いながらもそっと指を差した。
彼女が指で指し示したのは、とソールのいる方角だった。

「あの二人がどうかしたか? 」

「……なんであんたはそんなに平然としていられるのよ!! 」

「ほほぉ、ようはあいつらの毒気に当てられたってとこか。心配するな、ジャスティーン。
あの二人はたいてい、ああだからな。気にするだけ無駄だ」

「そうは言っても、ねぇ……」

(こうもあからさまに見せつけられて、気にするなって方が無理よ)

 まるで新婚夫婦を彷彿とさせる、あの光景を見せつけられては、完全に何も言えまい。
というよりも、あの光景の前ではどんなに強い怒りや憎しみも褪せるというものだ。
 現にあれほどに対して怒りを露わにしていたダリィですら、完全に怒りを喪失している。
それどころか、自分そっちのけで勝手に世界を構築されて、ついていけないようで呆然としていた。
 さらに、気づけばにひっついていたスノゥまで、ジャスティーンの傍に来ていた。
ジャスティーンやダリィと違い、至近距離でまともにアレを食らったためか、完全に意識がどこかへと吹っ飛んでいる。

「……それにしても、あの火の玉娘ですら対抗できないとはな。さすがだ」

 一人でうんうんと頷くレンドリアは放って置いて、ジャスティーンは、思考の波に飲み込まれていた。

 あのダリィすら無力化させるとは、なんてすごい必殺技だ。
しかも二人とも意図してやっているわけではなく、完全に地でやっているのである。
手を握るだけでダリィを無効化するソール兄といい、全くもって風の一族というのはつくづく計り知れない。

(恐るべし、風の一族……)

 そんな見解をジャスティーンが新たに認識したところで、誰も何も言わないだろう。
 否、誰も言えない………。



*後書き…
ヒロインとダリィ、相性は悪そうですね〜。
下手したら、ジャスティーンとダリィよりも相性悪いかも。
…よく考えてみると、結構似てる部分もあるんですがね。
あれか。同族嫌悪というやつか。
BACK