home dream summon short dream神隠しは唐突に…
神隠しは唐突に…



強くなりたい。
自分自身の弱い心を守れるように。
そして、自分を助けてくれたその人に恩返しをできるように。

誰よりも、強く、素敵でありたい。
強くて綺麗な幼馴染みと並んでも、見劣りしないようなくらいに。
憧れるその人に少しでも近づけるように…。

強く、ありたい……誰よりも…。

それが、ずっとずっと心に抱え込んできた、強い一つの思いーー







言いしれようもない感覚と突然起こった出来事と。
少なくともオレの頭は、それらの二重攻撃ですっかりやられてしまったらしい。

…そう、思うしかなかった。

目の前に広がるのは、荒涼とした土色の大地。
乾き果てた大地に倒れ伏す人影は、どれもがすでに死の宣告を受けて久しいものばかり。
荒廃した大地に折り重なるように倒れた、無数の人間の屍。
それはまさに、「死屍縷々」の文字を体現したかのような光景だった。
荒野を吹きゆく風は、湿り気のない空っ風。乾ききった大地を舐めるように、大地に倒れ伏す骸が発する独特の…動物の肉が焦げたきな臭いを伴って、オレの周りを駆けていく。
魚や牛肉を焼いた時のようで、それでいてもっと臭気を伴ったそれは、まぎれもなく人の肉が焦げた臭いに違いはなくて。鼻につく臭気がいやおうにも生理的嫌悪感を募らせる。

だけど。
その光景には、不思議と見覚えがあった。
そう、確か…「サモンナイト」と題打たれた、一本のゲームの中で。

オレは、これと全く同じ光景を目にしていたのだ…。






今日は珍しく部活も特講もない日だった。
それは親友のもまた同じだったので、早々と帰路につくことにした。
臙脂色のラインがポイントのセーラーカラーは限りなく紺色。今時珍しい膝下まで伸びる紺色のプリーツスカートを纏ったオレたちは、ハタから見ればお嬢様学校に通うまさしくお嬢様そのものだ。

…もっとも、会話の中身は外見に合ったようなものではなかったが。

「で、ついに全主人公全パートナーED制覇ってワケかい…」
「ほっほっほ。苦労はしたけど、その分の萌えはもう言葉には出来ないくらいよ!」
呆れた声を出さずにはいられないオレの隣を歩く親友は、それはもう瞳をキラキラとさせて意気揚々とまくしたてる。腰まで届く漆黒の髪は学校の規則通りに二つのおさげにまとめられ、黒水晶のように輝く闇色の瞳はどこまでも深い色彩を宿す。凛とした眼差しと常にスラリと伸びた姿勢は、どこまでも気高く美しい。楚々たる美人といって差し支えない見た目とは裏腹に、素手で熊と格闘できるほどのすさまじい強さを秘めた正真正銘のお嬢様――名をという。
「で…最終的に全てのパートナーEDを見てのご感想は?」
「やっぱしアヤとキールのコンビが一番好きだ!!!」

しかし…。
どれほどお嬢様してようが、男顔負けの力量持つ女剣士であろうが。
やっぱりの本質は、オレと同様に腐女子思考というか美形にうるさいミーハーなんだよな。

「あ〜、それはオレもわかるな。でも一般には、キールとナツミのCPが多いんだよな。」
「そうそう、なんでかね〜?」
片手に持っていた鞄を肩に担ぎ上げると、そう言って彼女は溜息をつく。
「やっぱ違うタイプの方がCPとしてはいいんじゃないのか?ほら、BLCP(ビーエルカップリング)にしたって、タイプの違う相手同士ってやつの方がよくあるし。」
そんなオレの答えに、は曖昧に同意の言葉を返したかと思ったら。
不意に真顔になってオレの方へと顔を向けてきた。
「…ねえ、。もしサモンの世界に行けたとしたら、あんたはどうしたい?」
「は?」
その言葉があんまりにも突拍子もないものだったので、オレは思わず聞き返していた。
「聞いてみただけだってば。ちなみに私は、萌え萌えなキャラを捜して三千里の旅に出るわよ。」

やっぱりそうくるか。

「…メチャメチャお前らしい答えだよ、…。でも、そうだな。オレがもしサモン世界に行ったら、まず護界召喚師を実写で見に行くかな。」
「やっぱり…。は護界召喚師好きだもんねぇ〜。」
「そういうもだろ?」
「まあね♪」


そんなとりとめのない話を楽しみながら、帰宅する。
それはほぼオレたちの日課と言っても差し支えなかった。
二人とも共通してハマっているゲームの話をして、盛り上がる。
どのキャラがいいとか、格好いいとか、あいつは嫌いだとか。このキャラEDを見たとか。
とにかく、おおよそたいていの日はゲーム談義に花を咲かせていた。

…しかし、天下の受験生がこんなことでいいんだろうか?(よくない)



この日もいつもと同じだった。
いつもと同じゲーム談義に話を咲かせ、盛り上がる。
そしてそのうちに、帰り道に見覚えのある神社が見えてくるのだ。

「じゃあ、。オレは神社に寄っていくから、先に帰っててくれ。」
「神社に?なんでまた?」
「ばあちゃんに、大学合格祈願の祈祷をしてもらえって言われてるんだよ。」
「な〜るほど。」
一般の4年生大学を受けるつもりらしいとは違って、オレは調理師の専門学校へ行くつもりだった。
専門学校の試験は、普通の大学よりもやや時期が早い。そのため、信心深いばあちゃんから祈祷をしてもらうように、度々せっつかれていたのだ。
「じゃ、そういうことで。また明日ね。」
「ああ、またな。」

オレの事情を理解していたは、特にそれ以上何かを聞こうともせずに、そのまま帰っていった。

いつも通りの簡単な挨拶で彼女と別れた後、オレは目の前にそびえる石段に足をかける。
目測からいっても上の神社へ続く石段の高さは、ざっと5メートル以上。
げんなりする高さだが、いい加減に祈祷しに行かないとばあちゃんがいろいろうるさい。
単なる説教が宗教じみた語りに発展することの常であるばあちゃんの説教を聞くのと、この目の前の石段を登ることを天秤にかけたとしたら…、どう考えてもばあちゃんの説教の方がおっかない。
「やれやれ…。」
オレは鞄を身体の脇に抱えて持つと、不承不承石段を登り始めた。



右、左、右、左、そしてまた右。
とにかく何も考えず、無心のままに。オレはひたすらに足を動かし続けた。
その甲斐あって、日が傾きかけた頃にはなんとか頂上が見えてくる。
神社特有の朱塗りの赤い鳥居が茜色の光をほのかに反射し、鳥居にかけられた白い紙のれんのようなものが淡いオレンジ色に染まりながら風にハタハタとはためく。
神社に行けばどこにでもある、ダイヤ型の白い紙を繋げた代物。
前に見たTV番組によると、それは神隠しと何やら関係があるらしい。これ以上の詳しいことは知らないが。

息を切らしながらオレが石段を登り切る頃には、もうすっかり日が暮れていた。
冬だというのにオレの額からは、幾筋もの汗が滴り落ちている。
手の甲で浮かび上がった汗の玉を拭い取り、顔を上げる。
すると周りに吹いていた風がオレの方へと流れてきた。からっからで湿り気のほとんどない風は、汗とともに身体の体温を奪っていき、火照っていた身体を冷やしてくれる。

「…神隠し…か。」
風に乗って揺れる白いヒラヒラ(オイ)を眺めながら、何とはなしに言葉が漏れた。
まるで神様に攫われたかのように、人が突然いなくなってしまうこと。
なんの手がかりも証拠もなくさずにいなくなるので、神様に攫われたかのようだと昔の人が命名したのが始まりだったはずだ。

サヤサヤと紙の擦れ合う音と風の音だけが辺りを支配する。
風に吹かれて崩れた前髪を元に戻しながら、オレは鳥居を見上げるのをやめた。

「さて、それじゃあ祈祷でもしてもらいに行くか。」
そうして鳥居をくぐって神社の中へと入っていく。


入っていこうとした時…だった。



『……け…て』

かすかに耳元を声が過ぎる。
反射的に足を止めて、辺りを見回すが誰もいない。

「なんだ…?」


『…いが……こわれ……しま…』


『……止めて……誰か…』


『…僕らを………止め…』


断片的な言葉の数々が頭の中に直接飛び込んでくる。
それらの言葉が頭に響くにつれて、感覚が徐々におかしくなってくる。
目眩を覚えるような、立ちくらみを覚えるような。
まるでここはオレのいるべき場所ではないといわんばかりに。
身体全体が、この世界を拒絶する…。


そしてーーーー。



『あ………、あああああああぁぁぁぁっ!!!!』



断末魔の声が、頭に、身体に直接響いてくるーーー。



その声が、世界を、秩序を壊していく。

よくわからないまでも。

オレの感覚は、不思議とそう確信していた。

空を仰ぎ見ると……。
真っ赤に輝く夕日が毒々しいほどに、輝いていた。

あんなに夕日はまぶしいものだったか?
もっと静かな輝きではなかったか?


オレの自問自答を全く無視したままに。


茜色の輝きが視界を満たす。



それとほぼ同時に、意識は完全に闇へと沈んだ……そんな気がする。





本当のところは、いつ意識を失ったのかすら定かではない……。










「う〜ん……。」
オレはとりあえず、頬を力いっぱいつねってみる。

…痛い。

とりあえず、目の前の光景は間違いなく現実らしい。
まあ、よく考えてみれば、ここへ来る前の奇妙な現象――あれはサモンナイトの主人公がリィンバウムに召喚された時の状況と結構似ていた。
…最後の断末魔に覚えはないが、あれはサプレスのエルゴの悲鳴というやつだろうか?

そんなとりとめのないことを考えていると。
物音が聞こえてきた。

勿論それは、目の前の荒野からではない。
先程からずっと見ているが、荒野に蠢く生き物はいない。
倒れ伏す召喚士たちは皆、息絶えている。

となれば、物音の出所はおそらく……。

オレはついさっきまで自分が倒れていた穴の中を見遣る。
すると、倒れていた少年少女たちが目を覚ましたようだった。


*後書き・・・
・サモン2の時代より少し遡って、一年前。親友さんが神隠しにあった時期です。
とどのつまりは、サモン1の連載の始まりとなります。
2では圧倒的な力を見せつける強い女の子ですが、
前からこんなに強かったワケじゃござんせん。
それまではいろいろと悩み多きお年頃だったのですよ。
そんな彼女の成長を書いてみようかな、ついでにキールとの馴れ初めも書きたいな、
なんて思いから、このサモン1連載は生まれました。
よろしければ、サモン2ともども見守ってやって下さいマシ。
← back   next →
back to series index