主導権は握りつつ…
「サモン世界に行けたら、何をしたい?」
突然、そんなことを聞いてきた親友の言葉。
それはその後に起こるであろう未曾有の出来事を予測していたのか。
はたまた偶然か。
その言葉が引き金になったのかは知らないが、世界は開かれる。
神域にも近い神社の空に、異世界への門は開かれた。
そしてーーーー。
目覚めた場所は、冗談抜きで…目の前に広がる光景全てが、ゲームと全く同じだった。
先程のオレと同様に穴の中で倒れているのは、オレとほとんど年の差はないと思われる4人の少年少女たちだ。本来ならサプレスの魔王が召喚されるところを、様々な要因が重なって偶発的に召喚された彼らは、のちに「伝説のエルゴの王」…誓約者になるべき人物。
オレがここにいることはまあともかく、とりあえずここから物語は始まるわけだ。
「…ここは?」
ようやく目を覚ました彼らは、思い思いの行動をとる。キョロキョロと辺りを見回す者、未だボンヤリとしている者もいれば、立ち上がって服の埃を払う者もいる。
とかく十人十色な反応を示す彼らを見て、オレは思わず笑みを浮かべていた。
つくづく個性が強いというか、なんというか…。
「…貴女は?」
4人のうち一人がオレの存在に気付いたらしい。
見る者に冷たい印象を与えずにはいられない切れ長の瞳は、黒曜石のように混じり気のない漆黒の闇色。短い髪もまた同様に漆黒の色彩を宿している。おそらくはオレと同じ高校生だろうに、年頃の少年と比べるとやや大人びた印象を受ける。どちらかといえば中性的な顔立ちだろうか。どことなく翳りを帯びた表情が、もともと端正な顔立ちがより魅力的に浮き立つ。
…実写版でもトウヤは、やっぱり中性的な美人さんだな。
袴や着物がよく似合いそうだ。
ここにがいたら、さぞかし喜んだことだろうに。
とりあえず、ここは見た目通りに乙女らしく。可愛くいこう。
そう決意して、オレは滅多に浮かべない乙女スマイルを浮かべた。
「私は、と申します。皆さんがなかなかお目覚めにならないので、先に外の様子を見ていたんですの。」
「貴女も僕らと一緒にここへ?」
「そのようですわね。気付いたら、私も穴の中に倒れていたんですもの。」
少し前までなら、口にするだけで鳥肌が立っていたような言葉もスラスラと出てくる。伊達にお嬢様学校に通ってないぜ、オレは。
あぁ…今この時ほど、あの学校の教育方針に感謝したことはないぞ。
「あの…。それで…、ここは一体どこなんですか?」
オレにこの問いを投げかけてきたのは、トウヤではなかった。
黒水晶のような綺麗な瞳がオレを真っ直ぐに見ている。背を流れる髪の色は、艶のある漆黒の色彩を宿す。典型的な大和撫子といった風貌だ。柔和な雰囲気と同時にどこか高貴なオーラすら漂わせる楚々たる美少女。笑顔のよく似合う彼女だが、今はかすかにその笑みがぎこちない。
文句なしに楚々たる美少女ってのは、まさにアヤのことだ。
日本人形のように整った顔立ち。
是非とも振り袖とか十二単とか着せてみたい…!
「さあ…。少なくとも日本ではないことは確かでしょうね。」
日本にこんな荒涼とした荒野があるものか。
さらにいえば、地面に倒れ伏す屍たちは長いローブに杖といった典型的な魔法使いの格好をしているのだ。コスプレイヤーというのも考えられなくもないが、コスプレイヤーが出没するのはイベント会場であって、こんな荒野で死んだふりをするコスプレイヤーが存在するのかどうか。
当然答えは、否…だ。
「日本じゃないって…それ、どういうこと?」
オレに率直な言葉をぶつけてきたのは、黒褐色の髪をした少女。見るからに活発な印象を受ける体育系の彼女は、どちらかと言えば可愛らしい容貌の持ち主だ。豊穣の大地の色を宿す大きな瞳は、どこまでも真っ直ぐで綺麗。ただしその瞳の大きさは、彼女を本来の年寄り幼く見せている。アヤの笑みを百合に例えるなら、彼女の笑顔は向日葵といったところか。
うんうん。やっぱりナツミは、元気印の典型的なヒロインタイプの女の子だ。
綺麗な人間も好きだが、可愛い人間もやっぱり目のいい保養になるな…。
「…そのまま見た通りだよ、きっと。ここは日本じゃない。日本でこんなことがあるはずがないんだから…。」
すぐそばで聞こえた声にオレが振り返ると、いつの間にか最後の一人は穴の外へ出てきていた。その声がわずかにかすれているのは目の前に突きつけられた現状に、思考が完全について行っていないからだろうか。
意志の強さを思わせる一対の黒曜石の瞳は真っ直ぐな光を宿し、見た目硬そうな印象を受ける髪の色は夜空を切り取ってきたような純粋な漆黒。整った顔立ちではあるのだが、どちらかといえば可愛らしい感じを受ける。やや童顔めいた顔の作りが、彼の実年齢を下に見せていた。
トウヤとは対照的な容貌持つ少年で、名は確か新堂隼人。
思わず頭を撫でたくなるくらいの可愛さだな…☆
実写で見てもこれだけの萌えを放つとは…さすが元祖ワンコ!!
「大丈夫ですか?あんまり見ない方がいいと思いますけれど。」
オレは声をかけて、驚きのあまりにほとんど膠着しているハヤトの肩を軽く揺さぶる。
その拍子で彼は我に返ったのか、辺りをキョロキョロと見渡した。
「とりあえず。穴の中の女の子たちには目隠しでもさせて、一刻も早くここから逃げた方がいいでしょうね。」
「…あ、うん。そうだね。」
はんば心ここにあらずといった状態でそう答えるハヤト。
それでもこうして問いかけに答えることが出来るのなら、それほど心配することもないだろう。そう判断したオレは、もう一度ハヤトの肩を叩いて、そのまま穴の中へと足を進めていく。
とりあえず今は、ナツミとアヤにこの光景を見せないようにする方が先だ。
オレがいそいそと穴の中へ入っていくと、訝しげな表情をした3人と視線がかち合う。
「外を見ない方がいいというのは、一体どういうことですか?」
そう聞いてきたトウヤの問いは、誰だってしたくなる当然の質問だろう。
だが、少なくとも今この時点でハッキリと答えることは出来ない。
「お答えしたいのは、山々なんですが…その質問は後にして下さい。早くこの場を離れないと。それとも貴方は、肉の焼ける香りにつられてやってきた獣たちの生き餌になりたいですか?」
オレがそう言ってやると、ナツミとアヤが顔を強張らせた。
「絶対にそんなのイヤよ!」
ナツミの言葉にオレは思わず笑みを浮かべてしまう。
こうやって自分の意見を素直に言ってくれると、話を先に進めやすいから助かる。
「それなら、そこの二人の女の子。私の問いに黙って答えて下さいな。貴女たち、スプラッタなホラー映画とか好きな方ですか?」
「へ?…あ、あんまり好きじゃないけど…」
「私はどちらかというと嫌いですね…」
唐突に妙なことを言い出したオレの問いに、あからさまに不審そうな表情を浮かべるナツミだが、それでもキチンと問いに答えてくれる。アヤもそれにつられるように、これまた想像通りな答えを返してくれた。
「…そう。それじゃあ悪いんだけど、貴女たち二人はハンカチか何かで目隠しして下さいな。殿方お二人は、目隠しをしている彼女たちに手を貸してあげて。日本男子たる者、この程度のスプラッタな光景で意識を失うようでは、まだまだですからね。」
あなた方の荷物は全部私が持ちますから、と言ってニッコリ笑顔を浮かべてみせる。
「それってどういうことなんですか?!」
先程からのオレの言葉でなんとなく状況を理解したのだろう。顔面蒼白になったアヤがはんば悲鳴同然の声を上げて、オレに答えを求めてくる。
…って、さっきからこの辺に漂う焼けただれた肉の臭いは、この穴の中にいても多少かぎ分けられるからな。なんとなく勘が良ければ、予想はつくか。
「後で説明します。
今は…、獣に喰われたくなければ、黙ってこの場を離れましょう。」
「僕も貴女の意見に賛成ですよ。とにかく、樋口さんも橋本さんも早く目隠しを。僕とハヤトで君たちを誘導するから。」
「俺もその意見に賛成。外ははっきり言って見るに堪えない状況だよ。見ないですむなら、それにこしたことはないと思う。」
トウヤとハヤトがそう言うと、二人は渋々ながらハンカチを取り出して目隠しをした。
そしてナツミをトウヤが、アヤをハヤトが脇から支えてやる。
オレは穴の中に落ちていた彼らの鞄を持って、歩き始めた。身動きのとりづらい彼らを出来るだけ通りやすい道を案内するためだ。
「それでは行きましょう。私の後をついてきて下さい。
一番足場の良さそうなところを通りますから。」
*後書き・・・
・召喚儀式跡を離れましょう。
冗談抜きであのままノロノロしていたら、野犬とかはぐれ召喚獣にやられていますよ。
生き餌になるなんて、誰だってまっぴらゴメンですから。
そして、名前変換ほとんどしてないですね。ついでに自己紹介もしていないです。
ま、それは街に着いてからでもボチボチとしていきたいかな…と。
がなぜ外のスプラッタな死体に耐えられたのかは、後々説明するかと思います。
さ〜て、早くガゼルたちにかつあげされに行かなくては。
そして…うふふふふ。(怖いって)