『海上都市、ワイスタァン。
海上都市のその名の通り海に浮かんだ都市で、住む住人のほとんどが鍛冶師であり、都市を統治するのも鍛冶師であるというなかなかユニークな特徴を持つ街である。
そこに住まう鍛冶師たちの腕は、他の国々の追随を許さぬほどに桁外れの高さを誇り、ワイスタァン製の武器といえば“最高級の良質な武器”として各国で高い評価を得ている。
その他、召喚士たちの蒼の派閥や金の派閥といったような集まりが存在し、「金の匠合」と「銀の匠合」という集まりがある。
金の集まりは主に商売や金銭に執着し、銀の集まりは武器の芸術性を重視する方針で武器作りを行っているとかで、両者の中は悪い。』
がエクスから行きがけに渡された紙に書かれていたワイスタァンについての記述は、おおよそにしてこんなものだった。
「なんというか…、どんな街なのかすっごく興味のある場所だわねぇ…。」
エクスに弟子入りしているだけあって、戦い方は召喚術メインの後衛に属するとしては、武器自体にこれといって興味はないものの。どんな武器があるんだろう、といった程度の好奇心は持ち合わせている。
そして、“シンテツ”という人に渡してくれと頼まれた、一振りの魔法剣。
かすかに青みがかった刀身は、わずかにサプレスの力を宿している。おそらくは氷に関係する悪魔か天使、もしくは聖霊の力なのだろう。
「その上、デグレアがひそかに狙っているワイスタァンの守護神の力…か。
でも、そんな強い守護神がいるなら、
別に私が行かなくたっていいと思うんだけどね。」
そんなことを思いつつ、がワイスタァンへの好奇心を募らせていると。
突然、レヴァティーンが急降下し始めた。
おそらくは目的地に着いたのだろう。
ビュウビュウと下から風が吹き付けてくるのも構わず、は地上を見渡した。
何もない海のど真ん中に、ポッカリと浮かんだ街がある。
あれがおそらく目的地なのだろう…なのだろうが。
「ねえ…、ちょっと。
レヴァちゃんってば、あそこに着陸する気じゃないでしょうね?!」
なんと。
レヴァティーンが降下しているその先は、船が幾隻も停泊している港だ。
大陸の港ならば地盤がしっかりしているだろうから、レヴァティーンほどの重量級の召喚獣が乗ってもひっくり返ったりすることはないのだろうが、いかんせん下の港は海に浮かんだ港だ。
たしかに地球でも羽田空港とか成田空港とか、空港はたいてい埋め立て地にあったものだが…、その常識がこの世界にも通ずるものなのか。
はなはだ不安だ。
加えてレヴァティーンは飛行機のように滑走して勢いを殺したりはしない。
そのまま地面にドスンである。それはマズイのではなかろうか…。
「待って待って!できれば、海の上に着陸してくれると…」
そこまで言いかけて、はあることに気付く。
海にこのままの速度でレヴァティーンが突っ込めば。
まちがいなく津波が起こる。絶対に。
「…仕方ない。こうなったら、奥の手しかないわ!!」
ぐんぐん近づいてくる地上を前に、は最終手段に出た。
彼女は懐からシルターンのサモナイト石を取り出すと、それを地上目がけて投げつける。そして、風を切ってグングン地上へ落下していくサモナイト石に向かって召喚獣を呼び出すための呪文を唱え始めた。
「永遠なる毒の呪詛に苦しみ続ける怨嗟の声と哀しみの声は世界を超えて、我が元へ届かん。呪われし骨たちの主にして、深遠なる淵を支配する者よ!
我が声に応え、彼の地に姿を現したまえ!!」
の声に応え、地上へ投げられたサモナイト石がその効力を発揮する。
鬼妖界独特の深紅の光に包まれて、ワイスタァンの港に突如姿を現したのは、毒素を吐き続ける呪われし髑髏の召喚獣“がしゃどくろ”だ。
「よしっ!とりあえず人を追い立てて、港を無人にするのよ!
ただし攻撃はしちゃダメ!」
の無茶苦茶な要望に応えて、がしゃどくろは自身の身体を動かして不気味な音を立て始める。
いきなり地上に現れた召喚獣の姿に呆気にとられていた皆は、がしゃどくろの立てた不気味な音に我に返り、慌てふためいて逃げていった。
皆ががしゃどくろに脅えて港から避難した頃、レヴァティーンはようやく着陸態勢に入る。彼が背に生える巨大な翼を大きく羽ばたかせ、降下時の勢いを殺そうとすると、当然ながら翼の巻き起こす強風が港中を吹き荒れていく。
レヴァティーンより一回りくらい小さい大きさの船やそれよりももっと小さい船やらが、その風を受け、うねり狂う波に乗って大きく揺れ動く。
こんなところに人がいたら、すぐさま吹き飛ばされてしまうことは間違いない。
そのため、はあえてがしゃどくろを召喚して皆を港から遠ざけたのだ。
そして、それから少しもたたないうちに、サプレス最強の召喚獣と謳われるレヴァティーンはその巨体を大地に下ろしたのであった。
「ご苦労様、もう戻っていいわよ。」
がそう言って落ちていたサモナイト石を拾うと、がしゃどくろはたちまち姿を消した。鬼妖界へ送還されたがしゃどくろは、再び命令されるその時までしばしの休憩を故郷で過ごすのだ。
「…にしても、ちょっとやりすぎたりなんかして…。」
見れば、を遠巻きにして人々がこちらを見ている。
その瞳や表情には、明らかに怯えの色が混じっていた。
(やれやれ…前途多難な予感がするなぁ…)
が懐からサプレスのサモナイト石を取り出そうとすると、レヴァティーンは翼をしまって顔をすりよせてくる。それを優しく撫でてやりながら、彼女はレヴァティーンに一言お礼を言って、レヴァティーンもまた送還する。
「あの…」
誰もが近づこうとしないなかで、一人の人物が話しかけてきた。
青を基調としたローブと帽子をかぶった、召喚師らしき人物だ。
「なんでしょうか?」
振り返ったに、その召喚師はおずおずと尋ねてくる。
「貴女も召喚師ですよね?」
「…召喚師じゃなきゃ、私はなんに見えるんですか。」
その人物のあまりな質問に、は思わず呆れ顔で答えていた。
「ああっ、気を悪くしないで下さい!確認しただけなんです!」
「で、私が召喚師だったらなんだっていうんです?」
「僕は銀の匠合から依頼を受けてここまで来たんですが、あいにくと他にも仕事の依頼を抱えているんですっ!
で、次の依頼にちょっと間に合いそうもないんですよ〜っ!!」
(別にそっちの都合なんて聞いてないんですけど?)
「だから?」
「レヴァティーンを召喚できることからみて、貴女は相当実力のある召喚師なんでしょう?できれば、僕の代わりに銀の匠合の依頼を受けて欲しいんです。
依頼料は後払いになっているから、
依頼が終わった後にでも匠合のボスから受け取って下さい。それじゃ!」
そこまでまくし立てると、召喚師はに一枚の紙を押しつけるとさっさとどこかへ行ってしまう。
「…ちょ、ちょっと待ってよ!!!」
あまりの展開に呆然となっていたが我に返った頃には、すでに先程の召喚師の姿はなかった。
実に逃げ足の速いやつである。
「さて、と…。どうしたもんかね、これは。」
無理矢理押しつけられた紙切れを見てみれば、それは依頼の手紙だ。
依頼主は銀の匠合のブロンという人で、依頼内容は“護衛獣の召喚をして欲しい”とのこと。
案外に簡単そうな依頼である。
(なんでこんな簡単な依頼を、私に押しつけていったのかしら…?)
不思議に思って首を傾げてみても、当の本人はどこかへ消えてしまっているから聞こうにも聞けやしない。 は余計な思考を頭から閉め出すと、とりあえず街の中へ入ってみることにした。
街の中は、普通の街とそう大差はなかった。
特筆すべき所といえば、多少武器関連の店が多いことくらいか。
街の中央には大きな建物――お城のような建物だーーが見える。
そして改めて街を見回した後。
「で…、銀の匠合ってどこにあるのよぉ〜っ!?」
思わず叫んで、は力いっぱいに肩を落としたのだった。
彼女は、もう一度さっきの召喚師に渡されたメモをまじまじと見てみる。
しかし、何度見ても銀の匠合の場所までは記載されていない。
初めてここを訪れる人間に渡す手紙にしては、全くもって不親切極まりない代物である。
『場所がわからぬなら、誰かに聞けばよかろう?』
不意に聞こえてきた声に、は驚くこともせずに顔を上げる。
目の前にいたのは、等身大の槍を手に虚空に佇むサプレスの住人――魔臣ガルマザリアの姿だった。
召喚するやいなや意気投合し、いまやすっかりの良き友人となった悪魔は、どういうわけか自らの意志でリィンバウムに出てくることが出来る。
そのため、こうして度々前触れもなく姿を現すのである。
「それもそうね、ガルマちゃん。ナイスフォロー♪」
『…全く。妙なところでぬけておるな、おぬしは。』
ズバリと言われて、は頬をふくらませる。
「うるさいよ。」
『本当のことを言っただけであろう。』
「人間、図星を指されるとこういう反応をするの。」
の言葉にガルマザリアは何も言わず、ただ呆れたように腕組みをしただけ。
どうやら今回の口喧嘩はの勝利に終わったようだ。
「…ちょっと、いいかしら?」
ガルマザリアとの一連の口喧嘩を終えると。
丁度その頃を見計らったかのように、突然後ろから声をかけられる。
(つくづく今日は、声をかけられることの多い日だな…。)
そう思いながら、は後ろを振り返り……。
絶句した。
「(うっわあぁぁぁぁ…)」
振り向いたの目の前にいたのは、涼しげな瞳持つ一人の女性だ。
流れる漆黒の髪は腰の辺りまで届き、風にそよいで波を打つ。スラリとした長身を身体の線がハッキリわかる深紅のワンピースに身を包み、どことなく近寄りがたい雰囲気を纏って佇んでいる。
何よりも印象的なのは、極上の紅玉を思わせる鮮やかな深紅の双眸だろうか。抜き身の剣を思わせる鋭い美貌の中にも艶めかしさも持ち合わせた、颯爽とした美人だ。
彼女はをじっと見つめていたが、不意に口元に笑みを浮かべてみせた。
「……そう。貴女、銀の匠合を捜しているのね。
銀の匠合はこの先の道をまっすぐいってすぐの建物よ。
……それから、貴女の持っているその剣…、貴女がしばらく持っていて頂戴。
その方が安全だと思うから…。」
「っ!!どうしてそれを!」
何も話していないというのに、目の前の女性はがどうして困っているのかをピッタリと当ててしまった。その上、傍目からは見えないように隠し持っている剣の存在を指摘されてしまっては、動揺するなという方が無理という物。
そして例に漏れず、動揺しているはといえば、オーソドックスながらもお決まりの台詞しか返すことが出来なかった。
「あの、貴女は…?」
が尋ねるが、彼女は何も言わずにそのまま踵を返して去っていく。
「ちょ、ちょっとっ!」
(一体なんだってのよ…)
わけのわからぬまま、は先程の女性が去っていた方へ目線を向け続けていた。そうしたところで、彼女に質問をぶつけることが出来るわけでもなんでもないが。
『…剣、とな?おんし剣を持っておるのか?』
ガルマザリアの声ではようやく意識を正常に戻した。
「師匠からの預かりものなんだけど。サプレスの力を宿した魔法剣みたい。」
『サプレスの?一体何じゃ、その剣は?』
「さあ…。とりあえずシンテツって人に渡すまでは、私が持ってるけどね。」
『何やら厄介ごとに巻き込まれそうな予感がするの。』
「そりゃなんたって、師匠とメイメイの頼み事だから。
平穏無事ですむとは思ってなかったけどさ…。」
そう呟きつつも、の表情は暗い。
それはそうだろう。
彼女は度々エクスとメイメイの頼み事で、いろんな事件に首を突っ込んでいる。
過去に関わってきた事件の中には心底面倒くさそうなものから命に危険があるものまで、いろいろ様々だった。
(どうか、今回こそはまともな頼み事でありますように…!!!)
そんなことを心の中で神様にお願いしながら。
は、さっきの人に教えてもらった通りに、銀の匠合を目指して歩き出したのだった。
*後書き…
・クラフトソード物語第2弾。とかいいつつ、限りなくオリジナル路線。
まだ微妙に原作沿いになってないですね。あとどのくらいで原作沿いになるのか…。
それは私にもわからない。
ところで、このドリームってマイナーですよね、やっぱ…(涙)。
こんなに面白いゲームなのにぃ〜っ!!