「ねえ、ちゃ〜ん。ちょっとい〜い?」
いつものように店の前を箒で掃き清めていたは、後ろからかけられた声に仕方なく顔を上げる。
しかし顔を上げた瞬間、彼女は心底イヤそうに表情を歪めて見せた。
その理由は言うまでもなく、珍しく朝早くに(といってももうすでに日は昇りきっている)起きてきた店の主人――メイメイの手に、酒の入った一升瓶がしっかりと握られていたからだ。
「珍しく朝早く起きてきたと思ったら…、またお酒呑んでたわけ?
何度言ったらわかるのよ、朝酒は身体に良くないって!!!」
「そんなことないわよ〜、お酒は万病の薬って言うじゃなぁ〜い?
それよりも、ちょっといらっしゃいな。
ちゃんに、是非とも見せたいものがあるのよぉ〜。」
怒鳴るに、メイメイはいつものようにのったりとした口調でそう告げる。
だが。
眼鏡の奥に見えるメイメイの瞳には、酔っぱらいにはおおよそ似つかわしくない光が浮かんでいた。ほんの時折彼女が垣間見せるその表情は、世の中の全てを悟りきった高僧や聖職者を思わせるほどに人間離れしていて。
文句を口にしようとしたも思わず口をつぐんでしまったくらいだ。
「見せたいもの?」
「…そうよ。これは貴女が関わるべき運命。
そして貴女自身にもけして無関係なことではない事…。
ちゃんじゃなければ、頼めないことなの。」
「……。」
四六時中ほとんど酔っぱらっているメイメイだが、占いの腕は確かだ。
彼女がこれだけ言うからには、なんらかの理由があるのだろう。
は持っていた箒を店の前に立てかけると、
「わかったわ、メイメイ。とりあえず中で話して頂戴。」
そう言って、面食らうメイメイの横をすり抜けて中へ入っていった。
**************
店の中は、赤を基調とした独特の装飾で囲まれている。
豪奢で大胆な色使いの柱や壁に囲まれた部屋の中へが入っていくと。
中では彼女のよく知った人物が笑顔でを出迎えてくれた。
「やあ、。」
年の頃は、どう見ても10代前半。
くせのない銀色の髪と不可思議な光彩を放つ紫水晶の双眸、シルクのような肌触りを持つ高価な布をふんだんに使った服にはところどころに宝石があしらわれている。物腰柔らかで、いかにも育ちの良さそうなお坊ちゃんといった印象の拭えない彼は、の姿を認めるとやんわりと微笑んだ。
「っ…、エクス師匠!!なんでここに?!」
どう見てもの方が年上にしか見えないのだが、事実…
目の前にいる少年――エクスは彼女の召喚術の師である。
彼の本名は、エクス=プリマス=ドラウニー。
ここ聖王都の首都ゼラムに本拠を構える召喚師の集まり“蒼の派閥”の総帥という立場に立つ、超一流の召喚師だ。
「メイメイから聞いていないのかい?君に是非見せたいものがあるって。」
エクスの言葉に、は困ったように苦笑いを浮かべる。
「あ…、いえそれは聞いてますけど。
師匠がいらっしゃってるなんて、メイメイのやつ一言も言ってませんでしたから…。」
「そりゃあそうよぉ〜。
だってぇ、エクスが来てること、ちゃんには言ってないものぉ。
どうせだから、ちゃんをおどかしてやろうと思って…、にゃはははは〜!」
すると、後から着たメイメイがお酒の入ったコップ片手に姿を見せた。
その途端…、部屋中に酒の独特の香りが辺りに立ちこめる。
「メイメイ。これから大事な話をしようとしてる時に、お酒はないだろ?」
そんな彼女の姿を見て、さすがのエクスも難色を示す。
しかしメイメイは全く気にした様子もなく、いつもの笑みを浮かべている。
「ん〜…、べっつにいいじゃない?
お酒呑んでたって、お話くらいは出来るわよぉ〜?」
「あんたはよくても、私はイヤだって言ってんの!
私がお酒呑めないことくらい、あんただって知ってるでしょ!!!」
部屋中に充満する酒の香りにむせかえりながら、は机を叩いて抗議するが。
「そんな細かいこと。
メイメイさん、ぜっんぜん気にしないから大丈夫。
にゃはははっ!」
「あんたじゃなくて、わ・た・し・が気にするんだ、このうわばみっ!」
まるっきり応えないメイメイに机の上にあったティッシュ箱を投げつけ、精一杯の反抗をしてみせる。
しかし、部屋にムンムンと漂うアルコールに酔ったのか。
その場にフラフラと倒れ込んでしまう。
「?!大丈夫かい?」
すんでのところで、エクスが助けの手を差し伸べてくれたおかげで、
なんとか地面に激突する事態は免れたものの、グルグルと混乱する頭まで治るはずもなく。
は力なく首を横に振り、その意志を伝えるしかできなかった。
そして、そのことを理解したエクスは。
「……メイメイ。」
先程とはうってかわって、激しい怒りの感情を浮かび上がらせた目でメイメイを睨みつける。その据わりきった瞳には、子供らしさなど欠片も見当たらない。
それもそのはず、エクスはゆえあって子供の姿をしているが、その実はよりも年上の大人なのだ。
彼のそんな様子に、さすがのメイメイも反省したのか。
酒瓶とコップを机の上に置くと、酒の香りをとばすために窓を全開に開けた。
「これで、文句はないでしょう?」
そう言って彼女は、心底残念そうに肩を落とした。
「それじゃあ…師匠、メイメイ。話を始めて下さい。
私にしか頼めない事って、一体なんですか?」
部屋の中に充満していた酒の香りがすっかりと飛んでしまうと、体調もどうにか回復し。すっかり普段通りに戻ったは、早速エクスとメイメイに質問をぶつけた。
「…海上都市ワイスタァンという都市を知っているかい?」
「ワイスタァン?全然聞き覚えがないんですけど…。」
エクスの言葉に、はブンブンと首を横に振った。
“名もなき世界”から4年前に召喚されて以来、メイメイの店があるゼラムの歓楽街からほとんど離れたことのない彼女は、ゼラム以外の国や町の名前についてはほとんど知らないも同然なのだ。それでも一応、聖王都の簡単な歴史については、多少エクスから講義を受けているのだが…ワイスタァンという名に聞き覚えはない。
「ワイスタァンってのは、“剣の都”って呼ばれる鍛冶師たちの街なのよぉ。」
「はあ…。」
「ワイスタァンは自治都市なんだ。
鍛冶師の中でも特に優れた鍛冶師7人は“七鍛聖”と呼ばれていて、
ワイスタァンの政治を行い、都市の平穏を守る役目を担っている。
つまり、“七鍛聖”は「政治家」と「騎士団」と両方の業務を行う都市の最高機関であり、領主や国王のように都市を治める権限を持っている。
ここまではわかるかい?」
「ええ、まあ。要するに、“七鍛聖”というのが、
都市の主だった統治権を掌握しているということでしょう?」
「そういうこと〜♪
そんでもって、私たちは貴女にそのワイスタァンへ行ってもらいたいのよぉ。」
「どうして…?」
「一つは、この剣を“シンテツ”という人に渡して欲しいんだ。
僕らはこの通り、忙しい身だからね。なかなか遠出をすることが出来ない。」
そう言ってエクスが一振りの剣を取り出す。
はそれを受け取って、鞘から剣を抜き出した。
一点の曇りもない刀身はわずかに青みを帯び、かすかな燐光を放っている。
そこいらのショップで売っているような剣ではない。
刃の鋭さ、刃に浮かび上がる綺麗な文様、そして何よりも刀身から感じられるかすかな気配は、明らかにサプレスのそれ。
おそらくは召喚獣の力を宿した魔法剣なのだろう。
「でも、私がこんなにすごい剣を持っていっていいんでしょうか?
それにエクス師匠はともかく。メイメイなら別に遠出しても平気なんじゃあ…。」
「何言ってるのよぉ、ちゃ〜ん?
私には若人たちを見守るという大事な大事な任務があるじゃないのぉ〜!!
それにぃ、メイメイさんがお店を休んだりしたら、お得意様が困るでしょうぉ?」
メイメイはこの界隈ではそこそこに名の知れた占い師。
通の客しかとらないとはいえ、その知名度と占いの才能ゆえに固定客は数多い。
さらにこの店へよくやって来る若い召喚師は、何やら複雑な事情を抱えているらしく、メイメイは彼らの動向を見守り、時にはアドバイスを与えてやったりしていた。
(…ん〜、まあ確かにメイメイの言う通りではあるわね…)
悔しいが彼女の言っていることは、事実だ。
「なによりも、さっき言ったでしょお?
これは貴女自身にも関わる運命なんだって。」
「…そういやそうだった。」
はポリポリと人差し指で頬を掻いた。
何がなんだかよくわからないが、メイメイの占いが外れることはない。
彼女がそう言うのだから、何かあるんだろう。
「それからもう一つ。
最近、デグレアの動きが活発化してきている。
少し危険ではあるけれど、にはデグレアの様子を探ってほしいんだ。
あそこは昔から、軍事兵器になりそうな武器や兵器を捜すのが好きな国だからね。
ワイスタァンに目をつけないとも限らない。」
「そこには何か秘密の武器とかがあるんですか?」
が首を傾げると、エクスは苦笑いを浮かべた。
「あくまで噂だけどね。ワイスタァンは聖霊バリスタパリスに守られた都市で、
都市の最深部にはその聖霊が眠っているらしいんだ。
なんでもバリスタパリスは、ワイスタァンの守護神らしいけど、
デグレアにとっては十分に軍事兵器に使うに値する代物だと思わないかい?」
「…というよりも、師匠。
もうすでにデグレアがワイスタァンに目をつけていると確信しているんでしょう?」
そんなことを言われ、エクスは思わず目を見開いた。
まさか彼女にそこまで読まれるとは思っていなかったのだろう。
だがすぐに持ち直し、
「…まあね。最近、ヴァンスの岬付近で怪しい連中を見かける人が多くなってる。
彼らの証言を聞く限りでは、デグレアの兵士たちである可能性が高いんだ。」
「それで、デグレアの様子を探って、場合によってはその野望を阻止しろ!と。
そういうことですね。」
「…そこまでは言わないけど、できるだけその方向で動いて欲しい。
頼めるかい?」
「OKです。殺れるだけのことはしますよ♪」
「いや…、できるだけ穏便に頼むよ?」
の笑みがどことなく不穏な空気を漂わせていたことに気付いたエクスは、
それとなく釘を刺してはみたのだが…。
果たしてその言葉を彼女が聞いているのか、否か。
(うっふっふ…、最近暇でしょうがなかったんだよねぇ〜♪
兵士相手なら召喚術ぶっ放したところで、どこからも文句でないだろうし?
思う存分、暴れてやらなきゃ!)
妙にはりきっているの姿を見つめながら、
疲れたような溜息をつくエクス。
そんな彼らを、メイメイはいつもと変わらぬ笑みを浮かべて見ていた。
勿論、メイメイにを止めようという気はこれっぽちもない…。
****************
それからしばらくしたある日。
はエクスから借り受けたレヴァティーンで、海上都市ワイスタァン目指して旅立っていった。普通は船で行きそうなものなのだが、あいにくは船に弱い。
そんな彼女を気遣ったエクスは、彼女用にとわざわざ用意してやったのである。
「にしても、エクスってば本当にちゃんには甘いわよねぇ〜?」
遠くなっていくとレヴァティーンの姿を見送るエクスの隣にいたメイメイは、手にしたコップに酒をつぎ足しながら、なんのことなしにそう呟く。
「そうかい?そんなつもりはないんだけどね。」
「ふぅ〜ん…?」
何気ない答えを返してくるエクスに、メイメイは意味ありげな笑みを浮かべたままで、じぃ〜っと彼の顔を凝視する。
「何か僕の顔についているかい、メイメイ?」
そう返すエクスもまた、何やら意味ありげな笑みを浮かべている。
端から見れば、その様子は狐と狸の化かし合いそのものであろう。
(ま、そう言うならいいけどねぇ〜?)
とはいえ。腐ってもメイメイは占い師。
いくら平静を装ったところで、エクスがに愛弟子以上の…言ってしまえば恋愛感情を抱いていることなど、すっかりとお見通しである。
だからこそ。
メイメイはあえて、には話していなかったことを彼に告げた。
「実のことを言うとねぇ…、
ちゃんには黙ってたんだけどエクスには教えておくわねぇ。
メイメイさんの占いによ・る・とぉ、彼女には出会いの相が出てたのよぉ〜。
それも運命的な出会いってやつ〜?
赤い糸で結ばれる可能性、超おおありな出会いがあるみたいなのよぉ〜。
にゃはっ、にゃははははっ!!」
そして。
メイメイのその言葉に、たいていのことには動じないエクスの表情が凍りついたことはまあ、言うまでもないだろう…。
*後書き…
・冬休み中にアドバンスを買いました。そしてクラフトソードをプレイしました。
…すみません、滅茶苦茶はまりました!!面白いッス!クラフトソード、いいです!!
戦闘方法はテイルズシリーズに似ていて、レベル上げがすっごく楽しくて!!
プラティちゃんが可愛いし、サクロさんが格好いいし、ルマリさんはすっごく強いお姉さまだし、
それから以下略…。とにかくキャラが皆、素敵です!!
是非、PS版で出て欲しいッスね。そしたらたくさんセーブデータ作れるし。
そんな萌え萌え心を抑えきれずに、始めちゃいましたクラフトソード夢。
なのに、メイメイやエクスが出ているのは、まあなんというか…ご愛敬?
2をプレイしてない人には、謝るしかないッスね…。