「もお〜っ!もも遅いじゃないの!!いつまで待たせる気だったのよ!!」 私とが茶の間のふすまを開けると同時に、甲高い少女の怒声が響く。 見れば、頬をふくらませたミニスが仁王立ちになって目の前に立っていた。 「それに、ったら私のこと忘れてたでしょ!!武器を取りに行ったら、すぐに戻って来るっていったくせに!!どうしてトリスたちと一緒にいたのよ!!」 …あ。 そういえばそうだった。 そういや最初は、そのつもりだったんだよね。 だけど途中でがビーニャのことを口にするもんだから…。 ごめん、ミニス。すっかり忘れてたよ……。 「ごめんごめん。途中で獣人騒ぎを起こしてた張本人を見つけたもんだから、ついそっちの退治に行っちゃって……。」 そう言って私がはんば苦笑を浮かべると、ミニスは一瞬目をまん丸く見開いた。 だがすぐに彼女の表情は険しいものに取って代わり、頬が怒りのあまりに真っ赤になる。 「私のこと、忘れてたの?! 冗談じゃないわよ!こっちは大変だったのよ?! 途中で私の魔力が尽きちゃって、大変だったんだから! が召喚したって言う護衛獣とたまたま通りがかったキールのおかげでなんとか獣人を撃退することは出来たけど……、本当に危なかったんだからね!!!」 声のトーンを高くして、声高に怒鳴るミニス。 私としては、まさかそんなに危ないことになっていたとは思わなかったので、驚くのと同時に彼女に対しての申し訳なさで胸がいっぱいになる。 「ごめんなさい、ミニス……。」 危ないところを助けてもらったのに、を逃がす時間を作ってくれたのに。 恩を仇で返してしまったなんて………!! たまらず私は跪いて、ミニスの小さな身体をかき抱いた。 「……今度、私のこと忘れたら絶対に許さないから…!!」 ミニスはそう言うと、私の服の裾をギュッと握りしめる。 「うん。今度は絶対にそんなことないようにする。約束よ。」 「約束破ったら雷ドッカーンだからね、。」 私はミニスと小指と小指で指切りげんまんをした。 ニヤリと笑みを浮かべて楽しそうに言う彼女の表情は、すっかり晴れている。 にしても、嘘ついたら雷ドッカーン…って、ファミィさんじゃないんだから。 さすがあの親にしてこの子あり、か。 「ったく、少しはオレに上手いモノを提供しやがれ。あっという間に浮上しやがって、こっちは折角のご馳走をくいっぱくれちまったんだからな。」 そして。折角ミニスと仲直りしてご機嫌なところへ水を差してくれたのは、彼女の危ないところを助けてくれたうちの一人、バルレルだった。 「くいっぱくれる?……ああ、負の感情があんたたち悪魔の好物だっけ?」 「よくわかってんじゃねぇか。」 わかってんならさっさとご馳走をよこしやがれ、と吐き捨てるバルレル。 だけど、いきなり負の感情を発生されろと言われても…ねえ。 「……そうよね、あんた悪魔だもんね。でもさ、なんでミニスを助けたの? そりゃ助けてくれたことは、非常に喜ばしいことだけど。悪魔が自分からすすんで人助けするなんて、珍しいじゃない。」 とりあえず、話の筋をずらすためとふと生まれたささやかな疑問を解消するため、私はバルレルの額を小突きつつ、質問してみた。 「んあ?何言ってやがる。別にオレはそこのガキを助けるつもりなんて、さらさらなかったぜ。テメェに呼び出されて苛ついてたんで、そこらに出てきた雑魚を倒して遊んでやってただけだ。」 あぁ、なんて生意気な。 でも敢えて言うなら、そこが可愛いんだけどねぇ〜♪ 「でも結局は、人助けしたことに代わりはないわけでしょ。うんうん、偉い偉い。」 額を小突いていた腕を払われてもめげずに、今度はバルレルの頭をくしゃくしゃと撫でてやる。当のバルレルは、子供扱いされるのがイヤでジタバタ暴れているが、こちらとすればそうやって反応されればされるほど、からかい甲斐があって楽しかったりする。 「ほらほら〜、ミニスもバルレルの頭を撫でてやって頂戴な。」 私がミニスを手招きすると、彼女はなにやら複雑そうな表情を浮かべて 「…ってつくづくよくわかんないわ…。」 小声でポツリと呟いた。 「ん?何か言った、ミニス?」 「ううん、別に。」 よく聞こえなかったので私が聞き返すと、ミニスはなんでもないと首を振ってバルレルの頭に手を伸ばす。 「なんでガキにまで子供扱いされなきゃいけねえんだよ!!」 「いいじゃん、見た目はミニスよりもガキだし。」 ミニスの手を払いのけようとするバルレルの手を押さえつけて、未だに未練がましく暴れる彼に対して、私はきっぱりと真実を述べてやる。 そりゃバルレルの本性は、“狂嵐の魔公子”で仮にもサプレスに君臨する王の一人なのだから、それなりの年月は生きてきているのだろうとは思う。ほぼ確実に私やミニスよりも年上だろうし。(つーか年上以前に、比べること自体が間違えてるような気がする) でも。 今の姿は、どう見たって生意気なガキにしか見えないし。 強がりを言われても、可愛いとしか思えないし。 しょうがないじゃん。 「テメェ…、一度本気で泣かしてやる…(怒)」 深紅の両目に殺意にも似た気迫をみなぎらせてこちらを睨みつけてくるバルレルに、私はいたって余裕の態度を見せていた。 なんと言っても彼は、私が召喚したことになってるわけだし。となれば、誓約に縛られてるバルレルが本来の力を発揮することは不可能。それに、万が一バルレルの誓約が解けたとしても私に彼を恐れる理由はない! 「おあいにくさま。こっちには、強い味方がいるのよ!返り討ちにしてくれるわ。」 「強い味方、だと?」 テメェ、頭は確かか?と言わんばかりのバルレルに、 「信じてないわね、あんた。でもね、私は嘘ついてる訳じゃないのよ!」 私はあやのの姿を見せるため、彼の頭だけを強引に方向転換させる。 「ほら!あそこにいるのが、私の親友にして強い味方!リィンバウムでリンカーと呼ばれる誓約者が一人、よ!!」 自分のすぐそばにいるを自慢げにバルレルに紹介してやる私。 …だったが。 対するバルレルは、ひどく長い沈黙の後にただ一言。 「……おめぇ、頭いかれてんじゃねえか?」 何を、と反論しかける私だが、バルレルの浮かべる表情に疑問を覚えて、口をつぐむ。いかにも悪ガキらしかった彼の表情が、まさに「呆れ」のそれに変わっていたからだ。 最初は、私の言った“強い味方”であるがひどく華奢であるからか、と思っていたのだが……バルレルの表情を見る限りではどうもそうではないらしい。 一体何事か、と私もバルレルの首が向いている方へと視線を移し……………。 ……………………。 ……………信じられない光景を、目にしていたのだった。 *後書き… ・大変お待たせいたしました〜っ!!! 半年ぶりと言っても過言ではない、サモンパラレルの更新でございまふ(ゲフッ)。 前の後書きで「護界召喚師が登場!」とか書いておいて、実は一カ所名前しか出てないというていたらく…。すみません、すみません。 これもみんな、個性の強いヒロインのお母様のせい…………(殺気が?!) ではなく、私のふがいなさのせいでございマフ。 次回こそは逆召喚の怒った理由やら地球で召喚術が使える理由やらを解明していきます! ついでに一カ所しか名前の出てない彼も出ますので!!! なにとぞ、ご容赦願いたし候………。 |