世界が、変貌を遂げていくーーーー 本来なら、けして繋がるはずのなかった二つの世界。 かたや科学文明と環境破壊の進む地球。 かたや召喚術とはぐれ召喚獣が存在する未知なる世界リィンバウム。 似ているようであまりに異なるこの二つの世界が、偶然にしろ繋がりを持ったのはなぜだろうか。 偶然に開かれた召喚の門はあまりに不安定で、易々と創り出せる代物ではない。 強大な魔力を持った存在が創り出したか。 もしくは制御を失った力が偶然に創り出したか。 考えられるのは、二つに一つ。 だが少なくとも、一つだけ言えることがある。 活動するために強いマナの力を必要とするサプレスの悪魔たち。 彼らの仕業ではないことは、火を見るよりも明らかだ。 現に、悪魔の気配が現れたのは、この世界にマナの力が満ちてから。 なら、いったい誰が? なんのために、この世界とリィンバウムを繋げた? そして何よりも。 誓約者となってこの世界へ帰ってきたその時から、常に感じる違和感。 本来この世界にあってはならない力が、確かにここに存在している。 そのあってはならない力とは、一体なんだ? なぜその力がこの世界にある? 謎は、深まるばかりーーーーー。 とりあえずビーニャの獣人騒動は、ブラックアメルの力の前にあっけなく幕を閉じ。 彼女の攻撃に巻き込まれないように全速力で走ってきた私たちだったが。 ようやっと一息ついて、落ち着いてきた。 そして。 一番最初に口を開いたのは、やっぱしネスティでした。 「。見たところ、君は僕たちの知らないことを幾つも知っていそうだな。一体何がどうなっているのか、僕たちにもわかりやすく説明してくれ。」 うわっ。いきなし“命令形”できちゃいましたよ、ネスティさん。 しかも口調が限りなく固いし。 相当頭にきてるな、これは…(汗)。 ここで私一人なら、必死で話をはぐらかしているところなのだが。 あいにくと、今回は事情を知っている人間がすぐそばにいた。 だから、私はネスティの方へ向けていた顔を隣にいたの方へと移す。 「さあ、。ビーニャ騒動が終わったところで、早速話してもらいましょうか? あんたは知ってるんでしょ?どうしてトリスたちがこっちに召喚されてきたのか。なんで使えないはずの召喚術が使えるようになっているのか。ビーニャがこっちにやって来たのか。さあっ!キリキリとこの場で白状したらんかい!!!!」 「…わかってるって。ちゃんと話してやるから、そう焦るなよ。」 しかしはあっさりとしたものだ。そのあまりに動じない態度は、焦っている者からすれば、逆に腹立たしく映ってもおかしくないだろう。 現に、ネスティは彼女の態度を見て明らかに気分を害している様子だ。 「あいにくと僕たちは、悠長に構えていられるほど暇人ではないんだ。 手短に頼む。」 「手短に済むような話じゃないんだよ。」 一方のもネスティの態度にカチンときたらしく、目が完全に据わっていた。 こりゃ早いところで中断してやらないと、延々と睨み合うぞ。こいつら。 私はなんとか二人の間を仲裁するため、口を開きーーー。 「あらあらまあまあ…。皆さんこんなところで立ち話もなんだから、お家に入ってお話ししたらいかがかしら?」 皆の耳に入った声は、私が発したものではなかった。 その声の源は、私の真後ろ。 声がするまで全く気づかなかったのだが、いつの間にそこへいたのやら。片腕にネギやら豆腐やら食品のたくさん入ったスーパー袋を抱えた主婦――もとい私の母さんが人当たりの良さそうな笑顔を浮かべて佇んでいた。 つーか、気配消して娘の後ろに立つなよ。怖いから。 だが神経の半分がささくれ立っている今のネスティには、母さんの行動の中に含まれた異常さを感知する余裕はなかったらしい。 「いえ、すぐに済む話ですから。おかまいなく。」 知らぬが仏とはよく言ったもので、彼は母さんの意見を綺麗さっぱり一蹴する。 おそらくはよほど頭にきているか、謎の解明に必死になっているかのどちらか。 …両方だな、これは。 にしても、知らないとは本当に恐ろしいことだね。 あの母さんの提案をあっさりと蹴り倒すなんて、私には絶対に出来ないよ。 「さあ、早く話してもらおうか。僕たちは一刻も早くもとのせ……」 ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン! 母さんの提案をすっかり無視して話を進めるネスティの言葉が、不意に途中で途切れる。代わりにその場に響いたのは、風を切って移動する鎖分銅の音と鎖同士が擦れあった金属音だ。 そして。 ようやく音が収まった頃、ネスティはめでたく鎖巻きミイラと化していた。 もちろんそれを実行したのは、うちの母さんに決まっている。 てっきり母さんなら、ネスティの美人度に免じて許すかなと思ったけど…。 やっぱり怒ったか。 ごめん、ネス。おとなしく成仏してね(オイ)。 この先の展開がなんとなく読めていた私は、極力ネスティから距離をとる。 一方、いったい何が起こったのかわからずに唖然とするご一行(ネスティ含む)に対して、母さんは一点の曇りもない爽やかな笑顔を浮かべていた。 そして、その笑みの中に何か感じ取るものがあったのだろう。 ロッカとリューグは無意識のうちに後方へと足を進めている。 母さんをよく知らない人間なら、あの笑みの向こうに何があるかけして勘づくことはないであろうに、それを察知するとは! …二人とも伊達にアメルと幼なじみやってないってことね。 「あのね、ネスティ君。ここは皆さんが通る道なのよ? こんな大勢の人が道の真ん中で集まっていたら、ご近所の皆様にご迷惑がかかってしまうでしょう?君にもいろいろと事情があるのは知っているけれど、人様にご迷惑をおかけしてしまうのは、やっぱり悪いことなのよ。 だからね、ネスティ君。ちゃんのお話を早く聞きたいって気持ちを、グッと堪えて家の中に入ってくれると、おばさんとっても嬉しいわ。」 口調は限りなくおっとりだが、よく見てみれば母さんの目は全然笑っていない。 しかも、さりげなく彼女の利き手には、凶悪なまでに鋭利な刃先を持った大降りの鎌が握られていたりする。 「…………………、わ、わかりました………(汗)。」 柔らかな表情を浮かべる母さんとは対照的に、ネスティは顔面蒼白だ。 大方のところ、昨日の夜アメルに散々にボコボコにされた時のことを脳裏に描いていたのだろう。 一方の母さんは彼が自分の言うことを受け入れると、嬉しそうに微笑んだ。 そして鎖で縛っていた彼の身体を解放すると、皆へと裏のない笑顔を向ける。 「さあ、皆さん。お家の中へ入って下さいな。ミニスちゃんとイオスさん、それからちゃんの彼氏が首を長〜くして待っていらっしゃるのよ。」 ……………。 の、彼氏? 聞き違いかと思って、私は母さんに聞き返そうとするが。 「おばさま、彼が来てるんですか?!」 聞き返そうとするよりも先に、表情を変えたによってあっさり遮られる。 「ええ、そうよ。 ちゃんったら、あんなに素敵な男性を捕まえるなんてさすがね♥」 答えを返す母さんは、ひどくご機嫌だ。 しかもあの面食いの母さんが本音で“素敵”と称するとは…。 よっぽどの彼氏とやらは美形さんらしい。 んな美形をどこでGETしてきたんだ、!!! 「そうと決まれば、早速中へ入るぞ!来い、!!」 疑問ずくしの私とは対照的に、はひどくご機嫌だ。 彼女は私の腕を強引にひっつかむなり、さっさか先を急ぎ出す。 後に残されたみんなは呆然としていたけれど、多分母さんが案内してくれる。 にしても、のこのうかれよう。 今までの彼女からは到底考えられない姿だわ…。 彼女がこんなに浮かれる彼氏ってどんな美形さんなのかしら? ちょっとワクワクするわね。早く会ってみたいわ☆ |