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オレは知っていた。
オルドレイクが魔王を召喚してしまえば、
同時に弱体化していた悪魔王に力を与えてしまうことを。

だから、なんとかしてやめさせようと思った。
オルドレイクの野望の犠牲となったあの男を助けてやるためにも。

だけど、結果は何も変わらなかった。
どれほど努力しようにも、オレはあまりに無力だった。

儀式は完成し、魔王は復活した。
魔王の憑代となった男は、命を落とした。
魔王降臨で大量に流れ込んだサプレスの気は、メルギトスの活動力となり。
レルムの村は滅ぼされてしまった。

リィンバウムに召喚された際に偶然宿った、誓約者の力。
その力をもってもバノッサを救うことは出来なかったけれど。
今度はもう、あんな悔しい思いはしたくない。
騎士としての性につけこまれ、自分の主義に反する非道な行為を余儀なくされた彼らを、このまま放って置いてはおけない。
そのまま行けば、彼らはメルギトスの駒としてその寿命を全うすることになってしまうから。
他者によって運命を狂わされ、いらなくなればあっさりと捨てられる。
そんなふうに命を落としたのでは、あんまりだ。

そして何よりも、オレの愛するあの人を苦しませたくないから。



だからオレは、運命をねじ曲げてみせるーーーー。





何がなんだかよくわからないままに、私は走っていた。
いや、正確にはアヤノに引きずられるようにして走っていた。

突然出現したあまたの獣人たち。
彼女は、これをビーニャの仕業だと言ってのけたのだ。
あの時はついつい、その場のノリで“打倒ビーニャ”を叫んだけれど。

よくよく考えてみたら、そんなことできるのだろうか?

腐ってもビーニャは、上級悪魔。
サプレスの悪魔王の一人としてその名を知らしめるメルギトスの腹心の部下だ。
私たちに倒されるくらいの弱いやつが上級悪魔だというなら、メルギトスの強さもたかがしれてるというもの。

・・・そう、忘れてはいけない。
私たちはトリスたちのように召喚術を使えるわけでもなければ、ルヴァイドやイオスのように武術に優れているというわけでもないのだ。
私たちにぽっくりやられるような腹心の部下を持つメルギトスなんて、はっきし言って弱すぎるぞ。

でもさ。もしもメルギトスが弱かったなら、ルヴァイドの父上だって殺されることはなかったかもしれないね・・・。



んでもって現在は、さっきからアヤノに言葉をかけたくても、なかなかそのタイミングが見つからなくて困っているところだ。
先程までは私と一緒にハイテンションだった彼女だが、今は何かを強く思い詰めている。
その顔があまりにも真剣なので、言葉をかけようにもかけられないのだ。
一体、何を考えているというのだろう・・。


「おい、お前の部屋についたぞ。さっさと刀をとってこいよ。」
「ほえ?」
アヤノのことをいろいろと考えていたら、いきなりそのご本人に話しかけられて、うろたえる私。
意識を戻して周りを見れば、もうそこは自分の部屋の真ん前だった。

「あ、うん。わかった。」
時間がないんだよ、と言わんばかりにジロリとアヤノに睨みつけられて、私はおとなしく部屋の中へと足を踏み入れた。

年頃の乙女の部屋と言うにはいささか殺風景なその部屋に入ると、私は押入の脇にある横長の金庫のダイヤルをある番号に回した。

ジーゴロゴロゴロゴロ・・・・、カチン!
何とも無機質な音がしたと思うと、鉄製の金庫の戸がギイィィィと軋んだ音を立てて開く。

う~みゅ、そのうち油でも差しておこう。うるさくて仕方ないわ。

開いた扉の中にあったのは、黒光りする鞘と螺鈿の施された柄が美しい日本刀数本。
私はその中から一番のお気に入りである愛刀“焔龍”を取り出すと、すぐに金庫の扉を閉める。わざわざ金庫の中に保管してあるのは、盗難防止用もさることながら、発見されてなりふり構わなくなった盗人が刀を振り回して壊されることを懸念してのことだ。
そうして私はいつものように、刀を鞘からかすかに引き抜いた。
美しい銀色の刀身に炎状の波が鮮やかに刻まれているその様を確認し、私は刀を鞘に戻す。

「武器の準備完了!次はどこへ行くの?」
刀を片手に私が部屋から出てくると、アヤノは無言のままで庭に降り立った。

この機会を逃せば、ビーニャのことを訊ねる機会もなくなる。
そう思って、私は気付ば口にしていた。

アヤノ、さっきから聞きたかったんだけど・・・」

「どうして獣人騒ぎをビーニャと結びつけたかってことだろ?」

「うん。私にはイマイチあんたがこの獣人騒ぎの主犯をビーニャだと確信したのか、よくわからないのよ。確信するからには、なんらかの確証があるんでしょう?」
アヤノの隣に降りて刀を左側の腰に装着すると、私はさらに質問を続ける。

すると、アヤノはポケットから何かを取り出した。
彼女の手の中にあったのは、握り拳大の大きさをした宝石に似た鉱物。
一つは鮮やかな朱色の石、もう一つは緑色の、最後の一つは紫色の石だ。

・・・って、これってまさか?!

「サモナイト石?!なんでアヤノがこれを持ってるのよ!!!」
「なんでって・・・、護衛用だが。」

護衛用?魔法の使えない世界でそれ持っててなんの意味がある?
それ以前に、なんでゲーム世界のアイテムをもってるのよ!?

「あんたの言いたいことは理解した。
つまり、サモナイト石のおもちゃが発売されて、アヤノはそれを買ったのね。」

「どこをどう解釈すれば、そう言う結論が出るんだラリサ。」
私が必死で頭をひねって出した答えを、アヤノは馬鹿かお前、といわんばかりの口調で却下する。
「だって、アヤノがリィンバウムに召喚されて誓約者になって帰ってきたというよりは、ずっとまともな答えだと思うんだけど。」

「なんだよ。答えがちゃんと出てるじゃないか。正解だ。」
アヤノの答えに、私の目は思わず点になる。

「・・・嘘、でしょ?」

「嘘言ってどうするよ。」

「だって、そんなことってありえるの?」
至極もっともな問いかけをすれば、アヤノは苦笑いを浮かべて
「そんなこと言うなら、オレからも言わせろ。ミニスやイオスがなんでここにいるんだよ。」

「・・・・・・降参。」
私はまいったとばかりに両手を上げた。


実のことを言えば、うすうすは感づいていた。
アヤノが遭ったという一年前の神隠し。
そのときから自分は変わったという彼女。
そして何よりも、彼女が手にしているサモナイト石。


導き出される答えは、至って単純。
“サモン世界に召喚されて、誓約者になって元の世界へ戻ってきた”

・・・まさか本当だとは思わなかったけどさ。

「で、だ。四界の気には人一倍敏感になったもんでな。わかるんだよ。
メイトルパの召喚術を行使する、サプレスの住人の気配が。
サモン2に出てくるキャラでこの条件にあてはまるのは、ビーニャくらいだろうが。」

「イレギュラーであるキャラが出てなければ、そうかもね。」
私が茶化すような口調で言っても、アヤノは気にする様子もなく。

「じゃあオレの言ったことが事実だと信じるか?」

「信じるわよ。それに今はそんなこと言ってる場合でもなさそうだし。さっさと言ってビーニャを退治するなり撃退するなりして、じっくりとその時のお話聞かせてもらうからね。」

「ああ、そうだな。」
私たちは互いに顔を見合わせて、不敵な笑みを浮かべると。
アヤノを先頭に、ビーニャがいるであろう場所へと向かって猛然と走り出したのである。





一方その頃、トリス達も私たちと同じように、獣人達と格闘していた。

倒しても倒しても数の減らない獣人を懸命に倒しながら、トリスはふと視線をあらぬ方向へと向ける。その視線の先にいるのは、黒い甲冑に身を包んだルヴァイドの姿だ。

(やっぱり・・・強い・・・)

リューグやロッカ、フォルテ達も前線で戦っている。
彼らもそれなりに獣人の数を減らしていくのだが、彼らよりわずかに離れた場所で剣を振るうルヴァイドが倒す獣人の数はリューグ達が倒す数と比べてもひけを取らない。
彼の手にした大剣が白刃を閃かせるたびに、一匹、また一匹と獣人が倒れていく。

(それにしても、おかしいよ・・・。リューグやロッカ達だって、頑張って数を減らしてる。
ルヴァイドだってかなりの人数を倒してるよね?
私やネスの召喚術でだって、結構な数の獣人を倒してるはずなのに・・・どうして?
どうして獣人の数が減らないの?)

「トリス!!」
ハッと気がつけば、獣人がトリスのすぐ後ろまで迫っていた。
目をつむったトリスの視界の先で白刃がきらめく。
彼女がそっと目を開けば、自分と瓜二つの顔をした兄の姿があった。

「ボォーッとしてるんじゃない、トリス!!危ないだろ!!」

「君は馬鹿か!!!死にたいのか!!!」
マグナの叱責に続いてトリスに浴びせられた声は、毎度定番の兄弟子の決まり文句だ。

「そんなんじゃないってば!それより二人は気にならないの?
さっきから倒しても倒しても獣人がいなくならないこととか。」
トリスが珍しく真剣な顔つきで二人に相談すれば、

「気づいていたさ。」
という想像を裏切らないあっさりとした答えはネスティのもので。

「ええ~っ、そうなのか?!どおりでなかなか減らないわけだ。」
心底天然なマグナの言葉も、これまた想像するにたやすいものだった。

「だが気づいたところで、僕たちに何が出来る?
とにかく何も出来ない以上、こうして地道に目の前の敵を倒していくしかあるまい。」
ネスティは渋い色を顔面へ露わにしながら、ため息をついた。

そんな彼の声が終わるか終わらないか、の瀬戸際に。
場違いなほどに明るい子供の声が辺りに響き渡る。


「わっかんないよねェ~、なんで無駄ってわかってるのに戦うのさァ~?
いい加減に、諦めてあたしのオモチャになればいいのに。」


 

 


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