夢じゃない。
夢であり得るはずがない。

平和なはずの日本に、突然現れたモンスター。
二足歩行で武器を持つ獣人たちの群れだ。
手には斧や剣、槍などの武器を構えている。

一体何の目的があって、彼らが出てきたのか。
一体何の理由があって、彼らが出現したのか。
それは誰にもわからない。

ただ一つだけ、言えるのは。
彼らが私たちに敵意を抱いてるらしいこと。
私たちを襲う気が十分にあるということ。

やらねば、やられる。
再び生きてこの地に君臨したいというのなら。

戦うしか、ないーーーーーー。





いきなり上から降ってきた私に、獣人たちも一瞬驚いていたようだが、すぐに持ち直すと私たちに向かってくる。
私はを庇うように前へ出ると、先程蹴り飛ばした下駄を履き直した。

「ったく、噂をすればなんとやらとは言うけど、本当に出てくるとはね。
出てくるならもうちょっとミニス&イオスと楽しい語らいをしてからがよかったわ。
あと3時間ほど。」
そんな軽口を叩きつつ、私はゆっくりと手足を構える。

あぁっ、刀さえあればこんなやつら速攻で切り刻んでやれるのに!!!
今度からは常時刀を持っていることにしよう。

ジリジリと私との距離を詰めようとする獣人たち。
そんな中、の真横から彼女を狙う不届き獣人がいた。
向こうは気づかれてないと思っている様だが、おあいにく様。

私だって、伊達に樹海の中や深い山の中で修行して育ってきたわけじゃない。
気づいてるのよ、キチンと。

私はの手を引いて獣人の攻撃を空振りさせると、わずかにがら空きになった獣人の懐へ飛び込み、アッパーカットを叩き込んだ。その攻撃でよろめいた獣人の頭に容赦なく回し蹴りを叩き込んで、地面に沈める。
すると、地面につくか否かのところで、倒れた獣人の身体はフッと消えていった。

一体何がどうなってるのかは知らないが、死体が残らないのは嬉しいわね。
あとあとでモンスターの死体処理なんてやりたくないし。

そんなことを思いつつ、私は振り下ろされた剣先を跳躍することで無効化する。
振り下ろされた剣の上にバランス良く乗っかれば、そいつは私を振り落とそうと剣をでたらめに振るう。やつがそうすることはお見通しだったので、私は再び跳躍し、それを難なく交わす。
そして私が次に足場にしたのは、私に剣を振るう獣人の頭の上だ。当然いきなり重みがかかったために、その獣人はおもいっきりバランスを崩した。

「おいっ、?!」
先に逃げていたが、声を上げる。
私は慌てず騒がず、獣人の頭の上からフワリと飛び降り、綺麗に着地を決めた。

そして。
『グギャアアアアッッ!!』
響き渡ったのは、仲間の剣で頭を割られた獣人の断末魔の悲鳴だった。

一体何が起こったのかと言えば、種を明かせば至極簡単な話。
私を倒そうとした別の獣人が剣を振り下ろしただけのこと。
そこでポイントとなるのは、私がいた場所だ。
その時私がいたのは、別の獣人の頭の上。
それにも構わず振り下ろされた獣人の剣は、その場を離れた私に当たるはずもなく、下のお仲間の頭を叩く羽目になったというわけだ。
とことん間抜けな話である。



しかし、そのことが獣人たちの怒りを煽ってしまったらしい。
彼らは束になって一斉に襲いかかってきた。

やや後退しつつも、なんとか応戦するが・・・数が多すぎる!!!

襲いかかってきた一匹の獣人の剣をかわせば、間髪入れず次の獣人の槍が私の身体を狙ってくる。身体をひねってそれをかわしても、すぐに別の獣人の攻撃が襲ってくる。
延々とそんなことを繰り返していたら、間違いなく先に私の体力が尽きる。

こうなれば多少の怪我は覚悟の上で、攻撃重視でいくしかないか。
それでも私の放つ拳撃や蹴りの攻撃力は、モンスター相手には少々不足。
カウンターや急所狙い、不意打ちを駆使したところで苦戦は必死だ。
力はさほど強くない私の得意とする攻撃法は、拳撃・蹴り・剣術の全てを取り入れた総合戦法。蹴る・殴るで相手の体勢を崩し、急所に刀を叩き込む。
これが私のいわば必勝先法。
そのため私が実力を出し切るには、どうしても刀の存在が必要不可欠なのだ。

「ええい、しつこい!!」
思わず怒鳴りながら、私は突き出された槍をひっつかみ、槍の持ち主たる獣人を武器ごと投げ飛ばした。



不意に辺りに立ちこめる、言いようもない何か。
それが一体何なのか、残念ながら今の私にそれを確かめる術はない。

「我が盟約に応え、清き水に住まう者よ・・・汝が力を持って我が敵を流し清めたまえ、アクアトルネード!!!!」
その声に応えるように虚空に美しい水を纏った人魚の姿が現れる。
彼女が持つ大降りの槍を振れば、たちまち水流が巻き起こり、範囲内にいた獣人たちは全身を切り刻まれて消滅した。

「ミニス!!」
セイレーンを元の世界に返した彼女は、私の声に応えるようにパチンとウインクを返す。

あぁぁっ、ミニス可愛いっっっっ♥♥♥
これが戦闘時でなければ、速攻でギュ〜ッってしてるのにぃぃぃっ!!!!
ええいっ、私のひそかなる野望を阻もうとはたかが獣人風情のくせに、いい度胸してるじゃない!
こうなったら、とことん相手してやろうじゃないの!!!!!

あ、でも、その前にできれば武器が欲しいな。
私は獣人の攻撃をかわしつつ、武器になるようなものを捜してみる。
だけどこういう時に限ってなんにもないんだよね、これが。

鉄パイプとか棒切れとか、この際物干し竿でもいいから武器おくれ(切実)!

家の中に取りに行くとなると、相当時間かかるし。
正直その間をミニスだけで防げるとはとても思えないんだよ・・・。

・・・って、そういやイオスはどこ行った?!
ミニスがいてイオスがいないのは変だ。
(さっきの状況からして一緒にいたわけだから)
彼のことだから逃げたとは思えないし、じゃあ今どこに???

、後ろ!!!」
鋭いミニスの声が響く。
そして背後に生まれた殺気が爆発的にふくれあがった。
私はとっさに地面に倒れ込む。それとほぼ同時に、空気を切り裂く音が頭の上を通り過ぎていく。すぐさまその場を横に転がって離れ、手と足のバネを利用して全身を起こすと、先程私を攻撃してきた獣人に向き直った。

目には目を、歯には歯を!!

私はそいつに仕返ししてやろうと、足を踏み出しかけたのだが・・・。
私が攻撃に移るよりも先に、獣人がうめき声を上げて前のめりに倒れた。

「ほえ・・・?」
思わず呆気にとられる私の腕を誰かが強く掴んだ。
、無事か?!」
「イオス!!今までどこ行ってたのよ!!」
「仕方ないだろう!一旦武器を取りに戻ってたんだ!!
文句を言うなら、やたらと広い君の家に文句を言ってくれ!!」

・・・あはは。やっぱりイオスもそう思ったか。
にしても武器を持って来てくれたのは、非常に心強い。

「何はともあれ、来てくれてありがとう。
私は一旦を安全なところにおいてきたいんだけど、ここ任せて平気?」
こうしている間にもが危険にさらされる可能性がないとは言えない。
現に今だって獣人たちは、容赦なく襲ってきている。
できることなら、一刻も早く彼女を安全な家の中に避難させたいのだ。

「当たり前だ!」
獣人を威嚇するように獲物を振り回して構えると、イオスは私へ流し目をくれつつ、不敵に笑ってみせた。

きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ(萌え)、素敵すぎですイオスさん♥
ここに醜い獣人どもさえいなければ、速攻で愛でてます!!
つーか愛でたい!!!!ギュ〜ッってさせて欲しい!!!!

「大丈夫よ、!私もいるんだもの!!でも早く帰ってきてよね!?
来るのが遅すぎて、戦闘が終わってたなんてことになったら承知しないから!!」

はにゃあぁぁぁぁぁぁっ、ミニス可愛い!!!!
待っててね!戦いが終わった暁には、イオスともどもたっぷりと愛をこめて愛でてあげるから♥(いらんて)

激しく後ろ髪を引かれる思いで、私はその場を離れる。
そして半ば呆然としてこちらを眺めていたの手をひっつかみ、裏口のある西側を目指して全速力で走り出した。


 

 


戻る /// 次へ