「え・・・、イオス?」 どうしてこんなにすぐ近くに、イオスの顔があるんでしょう? しかもどうして彼は怒っているのでしょう? そんなことを思いつつ。 私はじっくりと彼の美顔を愛でることも忘れない。 長い前髪は、朝日を浴びてキラキラとまばゆい輝きを放つ。 まるで絹糸のように手触りの良さそうな髪の間から、いつもは隠れているもう片方の目がわずかに垣間見える。金色の檻の間に覗いている片眼は、炎を思わせる深紅の色ではなく、神秘的な雰囲気を醸し出す美しい紫水晶の色彩を宿している。 なるほど、イオスってオッド・アイだったのね。 でもどうして隠すんだろう?綺麗なのに、勿体ないなぁ・・・。 「頼むから、時と場合を考えて行動してくれ。今回は僕が間に合ったからよかったけど、そうでなかったら確実に頭から落ちていたんだからな。」 そう言って溜息をつくイオスの言葉で、とりあえず先程の疑問の答えが出た。 要は危うく後頭部を床に打ち付けるところだったのを、すんでの所でイオスに庇われたわけですな、私は。 しかし、まだ腑に落ちないことが一つある。 「あ、頭が痛くないのはイオスのおかげなのね。ありがと。 ・・・ところで床で寝てたはずの私が、どうして落下運動を始めたんだと思う?」 そこでお礼を言うついでに、私はイオスに訊ねてみた。 「それは、イオスがをどっかの空き部屋に連れ込もうとしてたからでしょ!!」 再びミニスの怒声が辺り一帯に響いた。 「誤解を招くような言い方はやめてくれないか。僕はただ、ここで寝ていたら彼女が風邪を引くだろうと思って部屋に移そうとしただけで・・・」 「嘘よ!!じゃあ、今のその態勢は何?!思いっきりを押し倒してるじゃないの!!!」 ハッ!言われてみれば、ミニスの言う通りだ。 床の上にいる私の上にイオスが覆い被さってるこの状況は、どう見たってそれもんだわ。 というか、これも役得でしょうかね? 私としては押し倒したいと思うわけですが。(激しく待て) 「不可抗力だ!!」 ここでイオスと言い合っていても、不毛な議論だと気づいたのか。 ミニスはすっくと立ち上がると、 「!私、このことアメルに言ってくる!!」 「「ちょっと待った!!」」 踵を返したミニスに向かって、とっさに出た私の声は見事にイオスとハモった。 誤解も解かぬまんまでアメルにこんな話が伝わった日にゃ、間違いなくイオスは半殺しに遭うわよ!!! 現に昨夜、私に言い寄ってたと誤解されたネスティは、アメルによってボロボロにされたんだから!! いくらなんでも、誤解でイオスをそんな目に遭わせるわけにはいかないわ!! しかし、ミニスは私が彼を庇ったように見えたのだろう。 彼女は、納得いかないとばかりに頬をふくらませた。 いや、事実庇ったも同然なんだけど。 「?自分が何されそうになったかわかってるの?!」 「ミニス。それ、激しく誤解だから。」 相変わらずおマセ発言をするミニスに、頭を抱えつつ。 私はクイクイと彼女を手招きした。 渋々ながらもミニスは、私のいる方へと寄ってくる。 うふふふふ、ミニスGETだぜ☆☆(サ○シか、おまいは) 「そこまで心配してくれるなんて、お姉さん、感激よぉ〜っ!!!!! んもぉ、ミニスってば、めちゃくちゃ可愛い〜っ♥♥♥♥」 「ちょ、ちょっと、っ!?」 ミニスお持ち帰りしたい衝動度、現在MAX!!! ミニスがそこまで私のことを心配してくれてたなんて・・・・!! 針が振り切っちゃいそうなくらいに、お姉さん感動してます!!! 加えて、なんて抱き心地がいいの、ミニス?! ホッペはすべすべだし、蜂蜜色の髪はサラサラしてて撫で心地は最高! ハサハやレシィくんにも匹敵するラブリーさだわ!!!! もういっそのこと、私のお嫁さんになりなさい!!!(コラ) いにしえの光源氏の如く、私好みな素敵お嬢様になるようにしっかりと調教・・・じゃなかった、教育してあげるから♥ 「。とりあえず離してやって方がいいと思うんだが・・・。」 「ん〜、残念。もう少しミニスを愛でていたかったのに。」 イオスに言われて、私は渋々ミニスを離してやった。 「で、そこまで誤解だって言い切れる理由って何よ?」 ジト目でこちらを見てくるミニスに、私は胸を張って答える。 「あのね、ミニス。イオスにはキチンと意志があるんだから、相手を選ぶに決まってるでしょ?彼ほどの美形さんなら、相手も絶世の美女とか掛け値なしの美少女とかに決まってるんだから、私が相手になるはずがないの。わかる?」 私がキッパリと言ってのけると、ミニスは呆気にとられて絶句した。 それは私の後ろにいたイオスにも言えることで。 早い話が二人して呆れていたのである。 なんでよ? 私はただ事実を述べただけなのに。 「・・・・・自覚がないのって、怖いわよね。」 「・・・その件に関しては、僕もその意見に賛成だ。」 仲が悪いはずの二人は、この時だけしっかりと同意見を抱いたらしい。 このまま仲良くなってくれると助かるんだけど、世の中そこまで甘くはない。 「それはいいんだけどさ。二人とも私に用事でもあったの? そうでなきゃ、こんな離れたところまで来る必要ないと思うんだけど。」 そうなのよ。 ここはミニスやイオスたちが使っている部屋から一番遠い場所。 私を捜してるわけでもない限りは、まずここへ来る必要はない。 もっとも家の中を見て回ってて、偶然ここへ来たって仮説も成り立つんだけど。 すると、ミニスがハッとして 「そうよ!、前にこの世界じゃ召喚術は使えないって言ったわよね!! なのに貴女、サプレスの悪魔を召喚したんでしょ?! どういうこと?私たちに嘘ついてたの?!」 「偶然だな。僕も同じことを聞くためにを捜してたんだが・・。 それで、一体どういうことだか説明してもらえないか?」 「説明したいのはやまやまだけど。正直私にもワケがわかんないわよ。」 マシンガンのように立て続けに連射される二人の質問に、私は肩をすくめた。 「ごまかさないで!!!」 「落ち着きなさい、ミニス。私はこの世界のことはなんでも知ってる物知りさんじゃないのよ?あなた達がこちらの世界に来たことで、この世界に何らかの異変が起きていたとしても、それを察知するような力なんてないんだから。 私はまっとうな一般市民で、予言者でも占い師でもないの。わかる?」 「あ・・・。」 「まあ、聞きたくなるのも無理ないけどね。 あなた達はこの世界のことは、ほとんど知らないわけだし?」 バツの悪そうな表情をしているミニスの頭をポンポンと撫でながら、私は茶目っ気いっぱいにウインクしてみせる。 すると彼女は、ムッと頬をふくらませると、いきなりガバッと抱きついてきて 「子供扱いしないでよね!!」 なんて強気な発言をしたりする。 私に抱きついてる時点で説得力ないよ、ミニス。 でも、可愛いから許す☆ 抱きついてきたミニスの頭を撫で撫でしながら、すっかり私はご満悦。 「・・ちょっと待て、。 それはつまり、この先どんな事態が起こってもおかしくないと言うことじゃないのか?」 おおっ、さすが鋭いね、イオス。 「うん。何せ召喚術が使えるようになったからね。 街の一角にモンスターが出てこようが、誰かの家がモンスターの大群に襲われようが、今更不思議でもなんでもないでしょ?」 ゲーム世界からゲームキャラが飛び出してきた時点で、 もうある程度のことは覚悟の上。 最悪、世界が真っ二つに割れたとしても驚かないわよ、私は。 ・・・さすがに世界が割れたら困るけどさ・・・。 「それって、ものすごく問題な発言だと思うんだけど?」 「仕方ないじゃない。事実だもん。」 キッパリハッキリと言い張る私を見て、ミニスはとりあえずそれ以上の追求をすることをやめたらしい。 「何はともあれ、今は平和なんだからいいじゃないの。」 「ずいぶんと楽観的だな。」 「ここで悩んでも何も変わらないでしょ。 それよりも庭に咲いてる桃や桜の花を愛でてる方がよっぽど効率的よ。」 「効率的?」 「目の保養になるじゃない。」 ズバリ言い放つと、イオスもミニスも沈黙した。 「・・・つくづく君の思考は理解できないな・・・。」 「そりゃそうだ。他人同士だもの。」 「そういう意味じゃなくて、の思考は普通じゃないって言ってるの!」 「なんだかんだ言って、気があってるじゃないお二人さん。」 「「合ってない(わよ)!!!!」」 合ってるじゃんか。おもいっきし。 そんなふうに二人をからかいつつ、楽しく会話をしていたその時だ。 無意識のうちに、自分の感覚がふと研ぎ澄まされるのがわかった。 同時に、フッとイオスが真顔に戻った。 「・・・何か来るぞ。」 「できれば来て欲しくなかったんだけどね。」 懐かしい、この感覚。 感情を一切殺して、まるで波の立たない水面か鏡のように、心を落ち着ける。 そして敵の気配を探るために、ギリギリまで感覚を研ぎ澄ましてやるのだ。 確実に敵の位置を知るために。 自分自身のみを守るために。 そんなこと、この平和な日本ではしなくても済むはずなのに。 それをしなくてはならないということは、多かれ少なかれ、敵となる何かが出現したということなんだろう。 突然、ピリピリとした張りつめた空気が辺りに漂う。 ミニスは胸元に掛けているシルヴァーナのペンダントを握りしめた。 「ミニス。状況次第では、召喚術の使用を認めるわ。 だけど、火災を起こすのだけは極力やめて欲しいんだけど・・・。」 「じゃあ、シルヴァーナは使えないわね。 しょうがないから、他ので何とかやってみるわ。」 「頼もしいわね。」 年は幼いとはいえ、さすがに戦い慣れしてるだけのことはある。 彼女はポケットからサモナイト石をいくつか取り出し、それを両手で包み込んだ。 いつでも召喚術を発動させられるように。 そして。 「きゃああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」 女性の悲鳴が上がる。 妙に聞き覚えのある、声・・・。 まさか・・・・!! 私は下駄をつっかけて、声のした方――垣根の向こう側へ向かって走った。 後ろでイオスとミニスの声がするが、とりあえず今は無視する。 庭を駆け抜け、池にかかった橋の上にヒラリと飛び乗ると、勢いをつけて欄干の上を走り。自分の身長くらいの高さがある草の垣根の上に飛び乗った。 そして、思わず息を呑む。 無数の獣人たちに追われる、一人の少女。 生まれつきだと言っていた色素の薄い金色がかった鳶色の髪は、丁寧におさげに編み込まれ、瞳の色は豊穣の大地を象徴する黒褐色を宿す。 身に纏うのはベルテッド・コートと呼ばれるベルトの目立つベージュのコート。膝まで伸びるコートの下には、今年の春の流行色だという淡い若草色のフレアスカートが覗いている。 清楚なお嬢様という言葉を具体化させたような風貌の彼女は、私の知り合いだった。知りあいどころか、親友と言った方がいいだろうか。 。私の幼馴染みにして、無二の親友たる少女だ。 「!!!」 必死で逃げる友人の髪を掴もうとした獣人の一体を、 とっさに飛ばした下駄の一撃で撃沈させ。 親友を助けるべく、私は寸鉄一つ帯びぬままでの前に飛び降りた。 *後書き・・・ ・モーリンとカザミネ師匠の出番は、次回へ持ち越しです・・・。 代わりにイオスとミニスが出張りました。謎な組み合わせですね。 しいて言うなら、金髪同盟?みたいな? ようやく少しずつ物語の本筋へ話を進めていけます。 まずは獣人さんをなんとかしましょう。 そしてさんの親友、さんの登場です。 ってなわけで、次回。さんは暴れまくります。 こうご期待(早く書けよ?) |