世界と世界が繋がる時。
両者の世界には多かれ少なかれ、異変が起こる。
二つの世界は微妙に繋がり合って、今までとは違う世界を構築していく。

それは、一体どんな世界なのか。
そこでは何が起こるのか。

現時点で知る者は、誰もいない。





早朝にいろいろと騒ぎがあったけど、それはひとまずなんとかおさめて、いつも通りにご飯を済ませました。

いや、あんまりいつも通りじゃなかった気がするけどね・・・。

ちょっと想像してご覧なさいな。
美少女・美少年・美男・美女があっちにもこっちにも、
そっちにもさっちにもいるのよ?!
正直なところ、ご飯どころじゃない!!!

ご飯を食べるより彼らがご飯を食べる様子を逐一観察していたい(変態だ)!

・・・いや、結局食べたけどね。お腹空いてたし?




朝食でお腹も満腹になってすっかりご機嫌モードの私は、ボンヤリと眠気に襲われながら、フラフラといつもの場所へと移動した。
時折、柱にぶつかりそうになりながらも、フラフラと歩いてようやく着いた場所は、家の中庭に面した縁側だ。

平安貴族の庭を模した純和風の庭には、四季折々の木々や花々が植えられていて、今は丁度桃の花が満開の時期。
縁側に座って深く息を吸い込むだけで、桃の甘い香りが胸一杯に広がっていく。
曾祖父の時代に作られたという地下水を利用した小さな滝の流れは、赤塗りの橋を渡した琵琶湖型の池の中に静かに注がれ。池の中では色とりどりの衣装を纏って、錦鯉たちが優雅に泳いでいた。
鑑賞に十分足る条件を満たしたこの庭は、南東に面していて、この時間帯でもっとも日当たりのいい場所なのだ。
それゆえに、春の日差しもうららかなこの季節。
のんびりしたい朝には、私はよくここでひなたぼっこをしているのである。

空を吹き行く風は、無風ないしは微風。
柔らかくてポカポカした日差しが、身体をほんわかと温めてくれる。
これでフカフカのクッションでもあれば、床に突っ伏して眠りたいくらいだ。

いっそのこと、部屋から座布団でも持ってきて寝てしまおうか。
でも、身体を動かすことすら億劫だ。

・・・いいやぁ・・、このまま床の上で寝てしまおう。

半分以上とろけた頭で、そんなことをのったりと考えて。
私は吸い込まれるように、床に倒れ込む。
床は木で作られているから、何もないままで倒れ込むと冷たいんだけど。
このさい、眠れるならなんでもいいわ。






・・・それにしても、なんと広い屋敷だろう。
を捜して歩き回りつつ、イオスは思わず感嘆の溜息を漏らす。
彼にはにいくつか聞きたいことがあった。
ところが、ふと気づけば肝心な彼女の姿がどこにも見えない。
そこで彼女の祖母である老婦人に行き先を訊ねたところ、『南東の庭にいる』とのこと。
いまいち庭の正確な位置のがよくわからないイオスだったが、“南東の庭”というくらいだから南東に向かって歩いていけば、を見つけることは出来るだろう。

季節は、春を迎えたところ。
庭に植えられた木々のほとんどは葉のない丸裸のものだったが、なかには冬を越してなお、鮮やかな緑色をたたえた木々もチラホラと見られた。
一方この季節ともなれば、やはり花を咲かせる木々も数多い。
中でも桃色の花を枝につけた小振りな木もあれば、樹齢は相当古いと思われる立派な幹を持つ桜の木も、満開とまではいかなくとも美しい花を咲かせていた。
リィンバウムでもこれらの木々によく似たものはあるが、この庭に漂う独特の雰囲気の前には色褪せて見えることであろう。
それほどまでに、庭を彩る花たちには強い個性と艶やかさがあった。

「・・・それは自身にも言えることか・・・。」
ふと思い出して、イオスは苦笑する。

実際には会ってから一日も経っていないというのに、まるでずいぶん前から知っていたような既視感さえ覚えさせるのは、彼女の強烈な存在感がなせる技か。
ならず者に襲われていた護衛獣に優しく声を掛けて慰めていたかと思えば、余裕の笑みを浮かべたままで男を投げ飛ばし、関節技も軽々と使いこなすあの手腕。
そして不可抗力とはいえ、今朝目撃してしまった女性らしいしなやかな四肢。
濡れたままの黒髪が象牙色の肌により鮮やかに映え、その姿は花のように艶やかだった。
昨晩のあの攻撃を仕掛けた人物と、同一人物とはとても思えないくらいに。

今まで生きてきたなかでも、彼女のような人間に会ったことは一度もない。
正直言って、心底興味深い少女だと思う。




歩いても歩いても似たような景色ばかり続くので、やや不安になってきたその時。
イオスは、ようやく目当ての人物を見つけた。

「・・・・・・。」
そして、呆れて言葉も出ない。

は、床の上に長い黒髪を乱すのもおかまいなしに冷たい床に寝転んで、ささやかな惰眠を貪っていた。
日が当たっているせいか、この辺りの気温はわりと高い。うつらうつらしているうちに、床に倒れ込んでしまったのであろうことは容易に想像がつく。

しかし。

仮にも女性が床の上で惰眠を貪るというのもいかがなものかと思う。
さらに言えば、の年はイオスとそう変わらないのだから。

「全く・・・」
このままここで寝かせておいてもいいが、風邪を引きかねない。
どうせ空き部屋はたくさんあるのだ。(と家の主が言っていた)
どこか適当な部屋で寝かせてやった方がよいだろう。

イオスは手近な部屋へ入れてやろうと、を抱き上げた。




「ちょっと、に何するつもりよ!!!」
子供特有の甲高い声が響き渡ったのは、彼が手近な部屋へ足を踏み入れたその時だった。




眠りが丁度浅くなった頃。
聞き覚えのある怒声が脳裏を駆け抜けていった。

ミニスの声・・・・?
ふとおぼろげにそう感じ、次の瞬間には確信していた。
伊達にサモン2をプレイしてきたワケじゃない。
主力メンバーに組み込んでいたミニスの声は、ゲームでもよく聞いていたのだ。

にしても、どうしてミニスったら怒ってるのかしらね?

なんてことをのほほんと考えていると。
『恨むなら、隙だらけのテメェ自身を恨むこった!!』
誤って召喚してしまったサプレスの悪魔が言っていた言葉が、頭の中を過ぎる。

そうよ。私は隙があり過ぎなのよ!!
こうしていちいちグチグチとかんがえるよりも、行動あるのみ!!
つまり、問答無用で一撃をたたき込むようにすればいいと!(待てコラ)

頭の中でそう結論を出した瞬間。
考えるよりも先に、手の方が出ていた。


「うわっ!!」

肘鉄を相手の顎に叩きつけようとしたのだが、避けられたのか。
手応えは全くなかった。
その代わりと言ってはなんだが、私の身体が落下してるのは気のせい?

いや、気のせいじゃない。
頭から確実に落ちている。

自分が今、どんな状況にいるのかイマイチよくわからない。
そのため受け身姿勢を取ろうにも、取れないのが現状だ。
仕方ない、頭ぶつける覚悟を決めるか。


・・・・・・。
あり? 全然痛みがないです。
頭から落っこちたんだけどな、私。

不思議に思って私が目を開けるのと。

「危ないじゃないか!!!」
至近距離と言って差し支えない距離にいたイオスが怒鳴ったのは、ほぼ同時だった。


 

 


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