瞬間・・・、目の前が真っ赤に染まった。
それがバルレルの髪であると気づいたのは、だいぶ後。
唇に何かが触れていると感じた矢先に、思考が完全に止まった。
口の中を好き放題に蹂躙していく、彼の舌の動きに。
ただひたすら翻弄されるしかなかったのだ。

「・・・ん・・、ふぅ・・・。」
深い口づけから解放された後も、思考回路は完全に停止状態。
ただ呼吸を何度も繰り返して、足りない分の酸素を補うことしかできない。
荒い呼吸のなかで吸い込んだ空気は、檜の香りをいっぱいに含んでいた。

呆然としている私の顔を覗き込むと、彼は口端に笑みを浮かべる。
深紅の双眸に宿るのは、まるで獲物を捕らえた獣のような荒々しい光だ。
「オレを用件なしにタダで呼びつけたんだ。この貸しは高くつくぜぇ?
・・とりあえず。そうだな・・・・見りゃ、結構いいオンナじゃねぇか。
まずはテメェに大人の遊びってやつを教えてやるよ。実践つきでな。」
そう言って笑う彼の瞳は、実に嬉々とした光を帯びていた。

そして、バルレルの手が遠慮なしに身体の上を這い回る。


・・・・・・・・って!!
このままじゃ、本気で犯される!!!!


覚醒。


「いやあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

身体の硬直が一気に解けた反動を利用して、私は力いっぱいに目の前の悪魔を投げ飛ばした。飛ばされたバルレルの身体は、最初に激突した風呂場の扉に食い込んだまま、脱衣所の扉まで盛大にぶち壊して床に叩きつけられる。
しかしそれだけでは、私の怒りは収まらず。
浴槽から出ると、脱衣所にあったバスタオルで身体に巻き付け、外へ出た。

「いきなりなにしやがる、この馬鹿オンナが!!!」
とっさに“爆裂猪突猛進投げ”をかましたいうのに、さすがは悪魔。
よろよろと起きあがると、身体に食い込んだ扉をたたき壊した。

「だれが馬鹿オンナだ、このエロ悪魔!!!!
嫁入り前の清い乙女になんてことするのよ!!!
いくら用件なし・タダで呼びつけたとはいえ、乙女の純潔渡すには高すぎるわ!」

「ケッ。あれくらいのキス一つじゃ安すぎるだろうが!!
第一、テメェだって満更じゃなさそうな顔してたくせによく言うぜ!!!」

「馬鹿かあんたは!!!誰が満更じゃないって?!
乙女の大切なファーストキス奪っておいて安すぎる?!
ふざけるのも大概にしなさいよ!!!」

「そっちこそふざけるな!!
このオレを呼びつけた貸しをテメェの身体一つで勘弁してやるって言ってンだぞ!
ありがたく思って、オレに身体を差し出せ!!!!」

「外見子供のくせに変態じみた言葉を使うんじゃないわよ、このエロ悪魔!!
やれるもんならやってみなさいよ!!
“改・流星ヒグマ殺し”と“獅子流星爆裂投げ”で返り討ちにしてやるわ!!!!」

「その言葉、後悔するんじゃねぇぞ!!」
「そっちこそ!!!!!!」



「・・・・・で、そろそろ俺たちに気づけよな、お前ら・・・・。」
突然聞こえた声と共に、目の前にいたバルレルの姿がフッと消える。
ビックリして声の聞こえた方を見あげれば、バルレルの首根っこをつかんでいるフォルテと目が合った。

「フォルテ?」

「俺だけじゃねぇって。他にも・・・ほれ。」
肩をすくめて、首だけで方向を指し示すフォルテの教えてくれるままに、私は首を動かす。
首を動かして視線が合った瞬間、慌ててあさっての方へ視線をやるイオス。
真っ赤な顔で呆然とこちらを眺めているレルムの村双子。

そして冷静そのものの表情で、ルヴァイドが一言。
「とりあえず着替えてこい、。」


その言葉で我に返って、私が家中にとどろく悲鳴を上げたのは言うまでもない。



*回想シーン終了*


で。着替えた後、駆けつけてきた爺ちゃんになんとか言い訳をしようとしているところに、フォルテから事情を聞いたらしく烈火の如く怒ったネスティが来てしまい…。
結果として、二人から説教を受ける羽目になってしまったのである。

あぁ・・・好奇心につられてあんな事をしたばっかりに、ファーストキスを奪われた挙げ句、男性陣の大半(ネスティとマグナは除く)にセミヌードをバッチリ見られ、あまつさえダブル説教を受ける羽目になるなんて・・・・。

金輪際、私は二度と好奇心だけで知らないものに手を出すのはやめようと、固く固く心に誓ったのである。



「こうなったら最後!!!
富士の樹海のまっただ中に、食料も水も何もなしにそのまま放り出してやる!!
もう二度とここへは帰ってくるな!!!!」

ちょ、ちょっと待ってよ!
いくら樹海サバイバルに慣れてる私でも、事前食料他諸々一切無しでサバイバルして生き残れるはずがないじゃないのっっ!!!

「私に死んでこいと言うの、爺ちゃん?!」

「そうに決まっておろうが!!馬鹿は死ななきゃ直らんのだ!!!!!」

「御仁、それはいくらなんでもやりすぎでは・・・?」
立ち上がって私の首根っこをひっつまえる爺ちゃんをネスティが止めに入る。
「しかしじゃな・・・。」

「今回のことに関しては、僕たちにも非がありますし・・。」

「そうそう。それにそいつに死なれると、オレが困るんだよ。
戻りたくても元の世界に戻れなくなっちまう。」

「被害者である当人もこう言ってることですから。」

「むぅ・・・。」
ネスティとバルレルの言葉にようやく納得したのか、爺ちゃんは私の首根っこから手を離す。


「・・・・助かったわ・・・、ネスティ・・・とバルレル・・・。」
解放された私は、心底ホッとする。
私は襟元を直しながら、命乞い(と言っても過言ではない)をしてくれたネスティと・・・、不本意ながらバルレルにもお礼を言った。

「今後二度とこんなことがないように気をつけるんだぞ。」

「はひ…金輪際こんなことしないです。もう二度とこんな目に遭いたくないもん。」
泣きたくなるような心境で、私が呟くとネスティは眉をひそめた。

「何があったんだ?」
「・・・お願い、聞かないで。口に出したくもないことだから。」
「・・・・・・そうか。」

ネスティはそれ以上、追求しては来なかった。
どうやらフォルテからはバルレルを召喚したことしか伝わってなかったらしい。
というか、むしろ伝わるな。

そういえば、あの時ネスティが駆けつけてこなかったのは、マグナの寝起きが悪かったおかげなんだよね。後でマグナにお礼を言いに行こうっと。


「にしても、助けてやったのにそのとってつけたような言いかたはなんだ、オイ?」
背中の羽を使っているのか、あぐらをかいた姿勢で宙に浮かぶバルレルは、不満の声を上げた。
いくら私でも、さすがにこれに黙っていられるわけもなく。

「やかましい。確かにあんたを召喚したことには、明らかに私に非があるけどね!
だからといって、あんたのやったこと全てを水に流すわけにはいかないのよ!!
ハッキリ言ってあれは犯罪よ、犯罪!!!!
婦女暴行未遂犯で、本当なら即刻ブタバコ行きよ、あんた!」

「なっ・・・!!!」
「婦女暴行未遂?!一体それはどういうことじゃ、!!!」

やばっ!そういやまだ爺ちゃんがいたんだっけ!!!
どうやってこの場を切り抜けよう・・・・う〜む・・・。


「えっと、それはその・・・・言葉のアヤというかなんというか・・・・」
「言葉のアヤにしてはずいぶんと聞き捨てならぬ言葉が羅列しておったがな。」
「いや・・・・それは・・・・。」
爺ちゃんの絶対零度の視線を100%に受けて、私はうまい言い訳が思いつかずに、しどろもどろと答えることしかできない。

つーか、あの出来事をどうやって爺ちゃんに説明しろと?

「どうもこうも、こういう意味だよジジィ。」
いきなり乱入してきたバルレルに、お前は黙ってろと言いかけた私だったが。
その前に有無を言わさず、キスで口を塞がれてしまう。

って、よりにもよって爺ちゃんの前でやるんじゃない!!!!!
いやそうじゃなきゃやって良いとは、一言も言ってないけど。

「バルレル!!!!!!あんたはまた〜っ!!!!!」
「ケッ。恨むなら、隙だらけのテメェ自身を恨むこった!!!」
「ふざけるんじゃない!!!!!!」
私はバルレルを捕まえようとするが、彼は身軽に私の手の間をすり抜けて部屋の外へ飛び出していく。

「待ちなさい、バルレ・・・・・」

真っ白になってる爺ちゃんと硬直してるネスティは放って置いて。
私も後を追って部屋を飛び出そうとしたが、その足がピタリと止まる。
出かかっていた声までもが、喉の途中で凍りついた。

いや。反射的に。

「離せ、この野郎!!!」
ジタバタと暴れるバルレルの腕を片手でしっかりと掴みながら、彼女は私の方を向いてニッコリと微笑んだ。
本能的に危機を感じて、私は思わず数歩後退る。

それを知ってか知らずか、アメルは百合のような清楚な微笑みを浮かべたままで
「ごめんなさい、さん。私の管理が甘すぎたせいで、さんの清らかなファーストキスがこんな悪魔に奪われてしまったんですね。
かくなる上は、二度とこんなことが起こらないように、徹底的におしおきしますから。」

「ふざけるな!!テメェみたいなオンナにやられてたまるか!!!!!!!」

「・・・・誰に向かってそんな口をきいてるんですか、バルレルくん?」
ニッコリ笑顔はそのままに、アメルはバルレルに向き直った。
その背中には・・・・・・え?


ええええええええっ!!!!
なんで、天使の羽が生えてんのよ、アメル!!!!!!
貴女が自分の正体に気づくのは、まだ先のはずでしょ!!!!!


「天使だと?!」
目を見開くバルレル。
そりゃそうだ。天使と悪魔は犬猿の仲だし、よもや天使がこんなとこにいるなんて思いもしないでしょうよ(当たり前だ)。

いや。むしろバルレルは、目の前のアメルの黒さに驚いてる気がするよ。

「そうですね。貴女に比べれば、清楚な私は天使でしょうね。
ふふふ、とりあえずそのお世辞だけは褒め言葉として受け取っておきますね。
でも、バルレルくん。
だからといってさんに手を出した以上は……、
ただじゃ済ませませんからね?

・・・・・羽のことに気づいてないよ、おもいっきし。
本人には見えてないんだ・・・・。
というか、待て。ブラック降臨で生える羽って、天使としてどうよ?



「うふふふふふふふふ・・・・・・(黒)、天の裁きを喰らいなさい・・・」

ちゅごごおごおおおおおおおおおおおおおんん!!!!!!

「ぐあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁつ!!!!!!」
「うふふふふふうふふふふ・・・・まだまだこの程度じゃ済ませませんよ・・・・」

ちゅぐああああああぁぁぁぁぁぁん!!!!!!

「#$%&+・・・・!!!」

「うふふふふふふふふふふ・・・・・・」

どごあああぁぁぁぁぁん!!!!

以下エトセトラエトセトラ(略)。


お、恐ろしい・・・・・。


「ブラック降臨度、いくつぐらいかしら、あれ・・・・・・。」

つくづく自分の家の庭が広くて良かったと思いつつ。
私は、そのまま現実逃避するに至ったのであった。

あぁ・・・空が青い・・・・。今日もいい天気だね、きっと。

そんな、早朝の出来事でした・・・・・。




*後書き・・・
・とりあえず家に着きまして、その次の日早朝。
朝もはよから疲れるようなことばかりやってますな、皆々様。
そしてバルレル登場です。なぜこんなことになったのか・・・。
あうっ、ファンの方、ごめんなさい!!!!!
そして再び黒聖女。言ってることがさりげなく天然ですが黒い。
さて、次こそモーリン&カザミネ師匠を出すぞ!!!


 

 


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