興味本位で知らないものに手を出すのは、危険です。

“パンドラの箱”というお話を知ってますか?
世界のあらゆる悪を詰め込んだ箱をパンドラという女性が神から預かりました。
神は彼女に“絶対に箱を開けてはいけない”と忠告します。
ところがパンドラは、好奇心に負けて箱を開いてしまいました。
すると、箱の中からあらゆる悪が世界中に飛び散ってしまったのです。

思えば、トリスとマグナが蒼の派閥に引き取られたのは、偶然落ちていたサモナイト石を拾ったことが原因だったはず。
あ、別にそのことをどうこう言おうってワケじゃありません。
だってその事件がなかったら、こうして彼らに会えたこともなかったかもしれないわけですからね。

ただね・・・・。
いくらサモナイト石がその辺に落ちてたからって、むやみやたらと召喚の呪文を唱えるのは、マズイね〜ってことですよ、ハイ。




「いくら興味本位でもやっていいことと悪いことがあるだろう!!
それくらいの区別もつかないのか、君は!!!
いいことと悪いことの判別の出来ない子供じゃあるまいし、いくら興味があったからといってよりにもよって“召喚術”なんかに手を出すとは、君は馬鹿か?!
いや、正真正銘本物の馬鹿だな。
そもそも、派閥と無関係な人間に召喚呪文を教えたトリスとマグナも悪いが、その辺にサモナイト石が落ちていたからと言って、おもしろ半分に召喚呪文を唱えた君が一番悪い!!!!!そのことをわかっているのか、!!!」
「・・・・・はひ、十分に悪いことをしたとは思ってますです・・・・。」
「悪いと思うだけですむ問題か?!」

じゃあ、どうすればいいのよ!!!!!
召喚しちまったもんは、もうどうしようもないんだってば!!
それともタイムマシンで過去へ戻って、過去の私に召喚呪文を唱えるのをやめさせろと?!できたらとっくの昔にやってるわよ!!!!!!

そんなことを思わず心の中で呟いていると、唸りを上げた剛剣(竹刀)が私の脳天を直撃する。
「反省の色がたらん!!!わしはお前をそんな孫に育てた覚えはないぞ!!
そもそも興味本位で未知のものに手を出すことが危険だと言うことは、小学校・中学校・高校・大学とさんざんに言われてきたことであろうが!!!!
それにも関わらずこの失態!!!
全くもって、我が家の風上にも置けんわ!!!」
「ごめんなさい、もうしません!!!
だから、樹海送りだけは勘弁して下さいっっっ〜!!!」



ってわけ(どんなわけだ)で、バイト帰りに突然サモンキャラを拾って、いろいろとこまごましたことやってた私は、家に着くなり布団の中へばたんきゅ〜。

気づけば一夜が明けて、その次の日。
どうやらサモンキャラがうちにいるのは、夢ではないようで。


お早うございます、皆さん。
のっけからネスティ&MY爺ちゃんにお小言もらいまくってる嬢です。
いや、本当に今回の事件は明らかに私に非があるので、ひたすらに低姿勢。
それでもって、二人に怒鳴られてる私を、さもいい気味だとばかりに高みの見物している小生意気なかわゆい少年・・・・もとい、小悪魔。
本当なら“これは見せもんじゃないのよ!!”とか言って追い出したいとこだけど、それはできません。なぜなら、彼は今回の事件の被害者だから。
小悪魔と形容した通り、彼は人間じゃございません。
背中にコウモリのような羽(本物)を生やした人間がいるというなら、ぜひお目にかかりたいものですよ、私は。

そうよ。
興味本位で手を出しちゃったのよ、召喚術というやつに!!
んでもって、召喚してしまったのよ!!!
“狂嵐の魔公子”の二つ名もつ悪魔をね!!!

思えば、全てはそこらに落ちてたサモナイト石がみんな悪いのよぉ〜(泣)!!



*以下回想シーン*



朝の目覚めも爽やかに、いつも通り早起きした私。
昨日の夜、帰ってきてそのまま寝たから、お風呂に入ってないんだな、これが。
だから、昨日の分の汚れを落とすために、早朝から朝風呂としゃれこんだわけ。
早朝といっても、うちの連中はみんな早起きだから、別に日常な朝の風景なんだけどね。


しいて違う点を上げるなら、朝もはよから庭で手合わせなんぞをしているレルムの村双子がいたり、弓の訓練をしてるケイナお姉さまがいたり、母さんのお洗濯を可愛いレシィくんがお手伝いしてたりする点かしら。


ん〜・・・、朝から目の保養ができるなんて、すう゛ぁらしい(素晴らしい)・・・♥

手合わせをするロッカとリューグが流す汗が、昇りかける朝日に輝いて、いかにも青春の一ページ的な爽やか美少年ぶりを発揮中。さすが好青年ロッカ。
リューグもこうして見ると、十分好青年?
というか、戦ってる時が一番光ってるわね、格好いい・・・・。
あぁ、その真っ直ぐな鋭い瞳で是非とも私のハートを射抜いてっ!!!(馬鹿)

かたや遠く離れた的を射るケイナお姉さま。
長い黒髪と凛々しい横顔が、まるで戦える美しき巴御前のよう・・・・。
矢をつがえて弓を射るその姿は、もうまさしく理想のお姉さま像ですよ。
私が男なら、速効でプロポーズしてますとも!!ええ!!!

そして、母さんのお手伝いをするレシィくん!!!!!
ああっ、可愛い!!可愛すぎるわ!!!!!!!
洗濯物のしわを伸ばすその姿も、背伸びして洗濯物を干すその姿も可愛いっ!
私も洗濯物になりたいです。そしてレシィくんに干して貰いたい・・・(待て)。
もうもうもう、是非とも私の嫁にしたいです!!!!!!


なんて朝から爆裂思考モードで、気分も上々。
ウキウキとした足取りで、お風呂場へと向かっていった。

曲がりなりにも、私の家は旧名家。
広い日本家屋と池のある広い庭、加えて離れと道場までが我が家の敷地。
ってこれ・・・、計測したらどのくらいの広さがあるんだろう・・・。
・・・ま、いいかそんなことは。
とにもかくにも広い我が家は、場所移動が面倒です。
お風呂場は私の部屋のある本宅ではなくて、離れの方にあるもので。
実は結構な距離があるんだな、これが。
自分の部屋に戻るまでに、夏は汗かくし、冬は寝冷えするし。
ある意味いいことなし・・・・・。


ようやくお風呂場に辿り着き、脱衣所のなかに入る。
すると胸いっぱいに檜の香りが入ってくる。
広くもないが狭くもない、脱衣所とお風呂場は全て檜で作られている。
タオルとバスタオルを戸棚から取り出し、さあ服を脱ごうとしたその時。
床の上に握り拳大の光る石が落ちていたことに気づく。

というか、気づいてしまったのよ!!!!!
あぁ、思えばこれがすべての元凶!!!サプレスのサモナイト石!!!

「これって、サモナイト石?」
手にとって明かりにすかしてみると、キラキラと輝くそれはまるで宝石。
紫色の神秘的な色を宿すそれは、橙色の明かりのなかでより一層存在を誇示するかのようにひときわ鮮やかな光を放つ。

それを見ているうちに、私の心の中にはある好奇心が生まれたのよ。
サモンのゲームを知っている人間なら、多分一度はやってみたいと思うはず。
ズバリ、これで何か召喚してみたい!!!!
当の私もこの例に漏れず、やってみようと思ってしまったのさ。
幸い召喚呪文は、昨日の夜トリスたちから聞いて知ってたしね。

ごめん、二人とも!
ネスティには内緒♪、と言いつつ今回の事件でバレました(滝汗)。

とにもかくにも。
好奇心の赴くままに、私はサモナイト石を両手に持ち直すと呪文を唱えた。
「古き英知の術と我が声によって、今ここに召喚の門を開かん!!
我が魔力に応えて異界より来たれ・・・新たなる誓約の名の下に、が命じる。
呼びかけに応えよ、異界の者よ!!!!」



・・・・・・・・・・・。

・・・・やっぱり。
いくらサモナイト石があっても、魔力のない私がやっても召喚なんて無理か。
第一地球で召喚術が発動するはずもない。
うみゅ〜・・・、ちょっと残念。

私はサモナイト石を洗面台の上に置くと、さっさと服を脱いでお風呂場に入った。
その時、サモナイト石がかすかに光を放ったことには、全く気づかぬままで。







「んあ〜・・・いい湯だなぁ・・・」

ババ臭いとか言わない、そこ!
いいじゃないの!本当にいいお湯なんだから!!!!

さてさて。すっかりとさっきのことは忘れて(待て)。
髪も身体もきれいに洗った後、湯船につかって私は大きく伸びをした。
檜の香りがたちこめる檜風呂は、実のところ私のお気に入り。
温泉の硫黄臭い臭いよりも、正直檜の香りの方が好きだったりする。
だってあたたかい感じがしていいじゃない。
髪を湯船に入れるな、と母さんにきつく言い渡されているので、腰まで届く髪はタオルでグルグル巻きにして頭の上へ。
多少頭が重いでもないけど、そこは我慢!
檜で出来た浴槽の縁に寄りかかるようにして、両腕をもたせかける。
ついでに重い頭も縁に置いて、身体を休ませてやると最高に気持ちいい。
気持ちよさついでに目も閉じて。
このまま少し寝てしまおうかと思ったくらいだ。

「あぁ・・・極楽、極楽・・・・」


突然の乱入者が現れなかったら、きっとそこで寝ていたに違いない。





「何が極楽だ!オレを勝手に呼びつけておいて、テメェは呑気に風呂入ってやがるとは、どういうつもりだよ!!!」

勢いよく風呂場の扉がガラッと開いたかと思うと、見覚えありまくりの少年が憤怒の表情も露わに飛び込んできた。
逆立った赤い髪に鋭い光を宿す深紅色の瞳。
何より目を引くのは、エルフのように先の尖った耳と背中に生える鋭い爪のついた小さな羽。
コウモリや翼竜の羽を彷彿とさせる、薄い皮を張ったような骨張った羽だ。
天使の羽を鳥の翼に例えるように、コウモリや翼竜の翼は見た目の不気味さ故かもっぱら悪魔の羽として描かれることが多い。
そして、目の前にいる少年の羽は、間違いなく悪魔のもの。
それもそのはず、彼は“狂嵐の魔公子”の二つ名を持つ悪魔だ。


でもなんで、こんなところにバルレルがいるわけ?




・・・・・・・・・。
まさか。まさかねぇ・・・?
さっき使ったサモナイト石、そういやサプレスのものだったような・・・・・。
そして、バルレルは私になんと言った?
『オレを勝手に呼びつけておいて』と言ったような・・・。



「・・・・ねえ、あんたまさか、さっき私が使ったサモナイト石に呼ばれてきた?」
おそるおそる私が聞いてみると、彼は何を今更言ってやがると言わんばかりに詰め寄ってきた。
「寝ぼけたこと言ってンじゃねぇぞ、オイ。それ以外に何があるんだよ!
ふざけるのも大概にしねえと、本気で怒るからなオレは!!!!!」
「そうか、やっぱりそうなんだ。なんだ、私でも召喚術使えるじゃん。
で、一応名前は聞いておかないとね?名前は?」
「・・・普通はテメェから名乗るのが礼儀だろうが。」
「それもそうだ。私は、よ。で、あんたは?」
「バルレルだ。で、なんでオレを呼びつけたんだよ。」
「はい?」
「呼びつけた理由を聞いてンだよ!まさか何もないとか言わせねえぞ!!!」

………はっ!!
そういえば、召喚ってそれ相応の用事がある時にするもんだっけ、普通。

「・・・・あ、あはははは。ゴメン、用事ない。」
「なんだとぉっっっ!!!!!」
「ゴメンゴメン。あ、ちょっとこっち来て。」
「・・・ケッ。なんでオレがテメェの言うことなんぞ聞く必要が・・・・」

当然バルレルが言うことを聞かないであろうことは、百も承知。
私は彼が減らず口を叩いている隙をつき、上体を動かすとその小さな身体をギュッと抱きしめる。不意打ちは見事に成功して、バルレルの小さな身体はスッポリと私の腕の中。

ふっふっふ・・・・(萌)♥

「あああぁぁぁっ、可愛い!!!この生意気さがもうたまらなくサイコー!!」
不意をつかれてバルレルが呆然としてるのをいいことに、私はギューギュー抱きしめた挙げ句、彼の背に生える羽に手を伸ばした。
「すごい、本物!!おおっ、羽はちゃんと動くのね!!」
クイクイと上下にさせてみたり、骨をなぞってみたり。

すごい、すごいわ!!!まぎれもなく、この羽本物よ!(当たり前だ)

「・・・オイ!!!」
下から怒気むき出しの声でバルレルが怒鳴る。
怒るのも無理ないわよね、ゴメンゴメン。
私は背中の羽をいじるのをやめると、上機嫌でバルレルの顔を覗き込んだ。

 

 


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