いいことと悪いこと。
善と悪。
その二つの境目はどこですか?

人の行いを、二つにばっさりと分ける事なんてできるの?
人には人の信じる道があって。
人には人の貫く正義があるというのに。
ある人にとっては、正義でも。
ある人にとっては、悪に見えること。
そんなことは世の中にたくさんあるのに。

その人が何を思って行動したのか。
その人が何を信じて行動してきたのか。
それをキチンと理解した上で、接すること。
それってすごく大切な事じゃない?


怒りと悲しみに支配されたままでは、その先に見える真実が何も見えない・・・・。




というわけで、のっけからシリアス風味でございます、嬢です。
一時はどうなることかと思いましたが、どうにか終電に間に合いました。
それで現在は、私の家のある最寄り駅目指して相鉄線に揺られてます。
さすが終電近い電車ともなれば、一両まるまる貸し切りも同然。
かくゆう私たちの乗る車両も、ほぼ貸し切り状態です。

で、なんでのっけからシリアス風味かと言いますと。


電車に乗ってゆったりしたところで、私たちはたわいないお喋りをしていた。
それは個人的な趣味によるものだったり、リィンバウムの風習とかこことの違いとかについての話で結構楽しかったんだけど・・・・。
その雰囲気をぶち壊すかのように、ネスティがこんなことを言い出したんだよ。

「そんなことよりも、もっと話さなくてはならないことがあるだろう?
僕たちとルヴァイドたちとが敵対している理由もキチンと話しておいた方がいい。
世話になるわけだし、にも事情を知っておいてもらった方がいいだろう?
反論はあるか、アメル・ロッカ・リューグ?」

話を振られた3人は、少し考える仕草を見せた後、
「いえ、私は別に・・・。」
「僕もネスティさんと同じ考えですよ。」
「俺も別に異論はない。むしろ言っておかなくちゃならねえだろ。
そいつらがどんな奴らなのか、こいつだって知っておいた方がいいに決まってる。」
レルムの村っ子たちは、ネスティの意見に反対する素振りはない。
むしろリューグが言ったように、言うべきだと皆が思っていたように思う。
ただ、タイミングがつかめなくて言うに言えなかったと考えるべきね。

「・・・そういうわけだが、ルヴァイド。お前たちの方で反論意見はあるか?」
レルムの村っ子の意見を聞いた後、すぐに話に入るかと思われたネスティだが。
そんな皆の期待を裏切るように、彼は自分たちとだいぶ離れた位置に座るルヴァイドたちに了解をとる。そんな彼の行動に、双子たちはいい顔をしなかった。

つーか・・・リューグ、怒髪天をついてる・・・・。

「なんでやつらにそんなこと聞く必要があるんだよ!
そいつらの意志なんて、関係ないだろ!」
怒りに身を任せてネスティに掴みかかるリューグ。
それをなんとか引きはがしたロッカだが、ネスティの目をまっすぐに見据えながらキッパリと言い放つ。
「彼らが自分のしでかした悪事を話されるのはイヤだと言っても、僕たちはに本当のことを話しますよ。」

「んな心配なんて、するだけ無駄だ。そうだろ、黒騎士の旦那?」
呑気な口調で言ってのけ、フォルテはルヴァイドの方へ視線を向ける。

「ああ。俺たちのやったことを隠すつもりはない。話したければ、好きに話せばいい。」
「僕もルヴァイド様と同じ意見だ。
隠したところでいつかはわかることなら、さっさと話しておいた方がいい。」

はぁ〜・・。そう言うとは思ってたけど、さすがだなぁ・・・。
この潔い態度を、裏金だの脱税だのしてる政治家たちにも見習って欲しいわね。
あぁ、騎士道魂万歳!(意味不明)

「だってよ。そういうわけだから、二人とも座席に座りなさい。
電車の中って結構揺れるから、立ったままじゃない方がいいのよ。
あんたたちが倒れて、ミニスやハサハ、レシィくんがつぶれたら大変でしょうが。」
私の言葉に、納得いかないといった表情を見せる双子。
しかし、何か言いたそうにしながらも、何も言わずにおとなしく座席に着いた。
ネスティは、ロッカとリューグが座席に着いたことを確認すると、私の方へと向き直り、レルムの村を襲った悲劇を淡々と語り始めた。



ネスティの淡々と話す声を聞きつつ、話し手に当事者であるレルムの村っ子やトリス、マグナを採用しなくて正解だと、私は思った。
当事者であるレルムの村っ子や、感情移入の激しいトリス・マグナに話させたら、どんな修羅場が待っている事やら。ことにリューグ辺りに話させた日には、間違いなく電車の中でルヴァイドたちとの戦闘に突入しかねない。

その点、物事を客観的に判断することにかけては、ネスティの右に出るものはいないし、彼の説明は的を得ていて非常にわかりやすい。

・・・ま、その反面、あまりにも説明的すぎるとの声も上がるかもしれないけど・・・。
一応彼だって、レルムの村の壊滅時に立ち会ってるわけだし。

それはともかく、もしもネスティが先生なら、どんな教科だろうと私、絶対頑張れるんだけどなぁ・・・。そう、例え死ぬほど嫌いな英語であろうとも!
いや、案外「君は馬鹿か?!」と言われたいがために、テストで赤点取る可能性もあるやもしれない・・・う〜みゅ・・。


「・・・・僕の話を聞いているのか、?」
思わず妄想の世界にいってしまいそうだった私に、ナイスなタイミングで、ネスティのつっこみが入る。そのあまりの剣呑な視線にびびって、私は慌てて現実世界に戻ってきた。
そうでなければ、間違いなく妄想の世界に行ってしまっていたことだろう。

「え、聞いてますよ。聞いてますですよ、ハイ。」
「取り繕ってごまかしても無駄だ。僕が声をかけるまで、君の目は完全に宙を泳いでいた。
折角人が説明してやってるのに、君のその態度は何だ?!」

・・・どうせこっちは見てないと思ってのに、ちゃんとしっかり見てたわけね(汗)。

「いや、だから、聞いてました。聞いてましたってば。
目が泳いでたのは、今どのへん走ってるのかなぁ・・・って気になったからで・・・。」
「ならさっきまで僕が話していた内容をキチンと言えるな?」
「言えるわよ!!
簡単に言えば、某国の密命を受けたルヴァイドたちがアメルを攫おうとして、レルムの村を焼き討ちにかけました。だけどアメルを攫おうとしたところ、トリスたちに邪魔されて結局アメルを誘拐できず。そのためルヴァイドたちは、アメルを攫うためにトリスたちを執拗に追い回してる。とどのつまりはこんなとこでしょ?」

「・・・・某国の密命なんて、僕は言った覚えはないが?」

ハッ!ついつい口が滑ってしまったわ!
いかんいかん、なんとかしてこの場を取り繕わなければ!!!!

「なんとなく、そうかなと思っただけよ。」
「それにしてはずいぶんと具体的だな。」
さりげなく視線を逸らして、素知らぬふりをしてみる私だが、ネスティは更につっこんでくる。
内心の狼狽を隠したつもりだったのだが、どうやら表情に出ていたらしい。
「何言ってるかな。そんな設定、いまどきのハリウッド映画や小説では日常茶飯時よ。」
「はりうっどえいが?なんだ、それは?」
「気にしない気にしない。まぁ、なんとなくそう思って言ってみただけだから。」
パタパタと手を振りながら言った私の言葉を、ネスティはどうにも信じがたかったらしくこちらを訝しげに見つめていたが、結局追求はしてこなかった。ホッ。

「それがわかったところで、お前はまだあいつらを自分の家に招くつもりかよ。」
「うん。」
うすうす予想していたリューグの言葉に、私は即答した。
「やつらは俺たちの村を滅ぼした元凶なんだぞ!それでも・・・!!」
「貴女の家も、僕たちの村の二の舞になるかもしれない・・・。
それでも貴女は彼らを自宅へ招くと、そう言うのですか?」
私に掴みかからんばかりのリューグを抑えつつ、ロッカが静かに問うてくる。
しかし、私は顔色一つ変えない。
むしろ不敵な笑みを浮かべて再び答えを繰り返す。

「何度訊ねられても、答えは“YES”よ。」
「自分の家が燃やされてもいいってのか?!」
「そんなことして、ルヴァイドたちになんのメリットがあるの?
貴方達の村を襲ったのは、アメルを攫うためでしょ?
第一、アメルを攫うチャンスならいくらでもあったはずよ?
地下街で休憩していた時に、アメルだけを強引に攫うことも出来た。違う?」

「・・・・。」
私の言葉に、リューグもロッカもぐっと言葉を詰まらせる。

「それから・・・まだみんなには、まだ知らせてなかったけど。
さっきレシィくんがたちの悪い不良に絡まれてたの。
そりゃ私もちょっぴり頑張ったけど、一番最初にレシィくんを助けに行ったのはイオスだよ。」

「嘘だろ?」
「嘘じゃない。ホントだよね、レシィくん?」
リューグと話してた私からいきなし話題を振られて、あたふたするレシィくん。

ああああぁぁぁぁっ、あたふたするその姿がたまらなくラブリー!!!!

「あ、はい。ホントです・・・。」
「彼女と口裏を合わせているんじゃないでしょうね?」
ロッカにずいと迫られて、はんば泣き出しそうな顔になりながらも、
「そんなことしてないです!嘘じゃないですぅ〜!!!!」
トリスにギュッとしがみつきながらも、必死で応えるレシィくん。

あぁぁ・・・萌えをありがとう、レシィくん。
君の可愛い泣き顔(危ないよ)はキチンと携帯の写メールにおさめたからね。

「ロッカもリューグもレシィくんやさんを責めるのはやめて下さい。
そもそも責めるべき相手が違うでしょう?

そんなに責める言葉を吐きたければ、あっちの張本人さんたちに対して吐いてきて下さい。
ただし、乱闘騒ぎは起こしちゃだめですよ?
そんなことしたら、さんに迷惑がかかってしまうもの。
・・・・さんにもし迷惑なんかかけたら・・・、ロッカ……、リューグ……、
私、貴方達を生かしておいてあげられる
自信がありませんから♥


アメルの言葉にたちまち顔色をなくした双子たちは、そのままスタスタと自分たちがもと座っていた座席へと戻っていった。


ところで。
・・・・・・・・・・・アメル?
今、非常に不穏な台詞を聞いたような気がするのですが?

さん、ごめんなさい。ロッカとリューグがものすごく失礼なことばっかりほざいて・・・・。
今後こんなことのないようにきちんと“調教”しておきますから。」

調教?調教って、あの調教????

私が何も言えずに口をパクパクさせていると、隣に座っていたマグナが背中をポンポンと優しく叩いてくれる。
「・・・マグナ、私、すごく耳が悪くなったみたい・・・・。
なんかとても不穏な言葉を聞いてしまったような気がするんだけど・・・。」
。今のアメルはブラック降臨度1だから、まだ大丈夫。
怯えたくなる気持ちはわかるけど、頑張って慣れてくれ・・・。」

慣れるってのは、一体何に慣れるのですか???

「そうそう、そっちで他人のフリしてる、誘拐犯のお二人さんも。
ロッカとリューグが決闘を申し込んできても、絶対に受けちゃいけませんよ。
もしも彼らが来たら、黙って獲物でどつき倒して私のところまで運んできて下さい。
息の根を止めたらダメですよ?そのギリギリ手前ならいいですけど。
もしもロッカとリューグを殺したりしたら・・・・、もれなく二度と私を誘拐しようなんて思えないくらいに徹底した“調教”と“拷問”をプレゼントしてさしあげますから♥

・・・くれぐれも、覚えておいて下さいね。」

一見すれば、清楚な美少女。天使の生まれ変わりであるはずのアメルの口から零れ出す、恐ろしい言葉の羅列に、さしものルヴァイドたちも顔色を変えていた。
隣で“ブラック降臨度2・・”と呟くマグナの声が聞こえてくる。


あぁ・・・ネットで騒がれてるブラックアメル・最凶聖女説は、真実だったのね。


そのままフェイドアウトしたくなる意識を懸命に繋ぎ止めながら、私は心の中で滂沱の涙を流していた・・・。


 

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