「ところで聞いておきたいんだが、
君はルヴァイドたちを庇ってるように見えるんだが、それは僕の気のせいか?」

相鉄線を降りて、私の家へ向かって歩くその帰路の途中。
ブラック降臨状態のアメルをなだめるトリスたちから離れて(いや何となくとばっちりが怖くて)先頭を歩く私に、いきなり核心をついた発言をしてきたのはネスティだった。


「な、なんで?」
いささか逃げ腰になりつつ、後ろを振り返る私。
だが、予想とは裏腹にネスティは怒ってる様子はない。
てっきり怒られるかと思って構えてた私は、思わず拍子抜けしてしまう。

「怖がらなくても、俺たちはお前さんを責めるつもりはこれっぽちもないって。
そんなに逃げ腰になるなよ。」
頭をグリグリと撫でられて、見上げれば人なつこい笑みを浮かべたフォルテの姿がある。
「そうよ。私たちはただ、貴女の考えてることを聞いてみたいと思っただけ。
平たく言えば、単なる野次馬根性ね。」
フォルテの隣を歩くケイナお姉さまは、そう言って優しく微笑んだ。

「・・・じゃあ、お言葉に甘えてハッキリと言っちゃいますね。
多分、私はルヴァイドたちを庇ってるんだと思います。」
言葉通りに包み隠さず自分の思っていることを口にすれば、ネスティは顔を顰めた。

「なぜ彼らを庇う?僕が先程話したことは事実だ。
彼らは、一つの村を滅ぼした殺戮者たちだぞ?」

「それは否定しません。だけど、彼らの理由を私たちは何も聞いてないじゃないですか。
彼らがどうしてレルムの村を襲ったのか、アメルを捕らえようとしたのか。
そうは言っても多分、聞いても答えてくれないでしょうけど。」

「だろうな。あいつらは軍の命令で動いてるんだ。
お前さんの聞きたがってることは、軍事機密になるようなことだしな。
答えるはずがないさ。」

「でしょう?だから、私は彼らを悪人だと思えません。さっきも言ったけど、イオスはレシィくんを助けてくれました。本当の極悪人なら、見捨てると思いませんか?」

「確かに。の言うことも一理あるわね。」

「私はあなた達と同じように実際の現場を見たワケじゃありません。
だから、第三者の意見しか言えないと思います。両者の意見を公平に聞いた後じゃないと、私の中で結論はずっと出ない、出すことが出来ないんです。」

「・・・とか何とか言って、ただ見た目の良さで判断したんじゃないだろうな。」

うっ・・・・ナイスつっこみフォルテ!!!
だけど、ここで彼の言葉を肯定してはいけない!!!

「違うわよ。それだけじゃないわ。」
「それだけじゃ、ということは、それも含むのね・・・?」
「あう・・・。」

ケイナお姉さま、つっこみ厳しいです・・・。

私は気を取り直して、さらに続ける。
「第一、彼らだけが責められるのはおかしいです。
彼らに命令を下した国、もしくは実際に命令を下した人物、その人たちだって責められるべき立場にあると思いませんか?
そいつらはルヴァイドたちが自分たちに逆らえないことを承知で、命令を出したんですよ?
よく考えてみれば、裏で暗躍してる彼らの方が腹の底がどす黒い、心底救いようのない人物だと思いますけど!!」
気づけば、私は脳裏にレイムの顔を浮かべながら喋っていた。
“裏で暗躍してる〜云々”のくだりはもろにレイムのことだもんね。

おのれ、レイム=メルギトス!
さっさと全てあること暴露して、おとなしくトリスたちにやられてろ!!!

「・・・無茶なことを平然と言ってのけるやつだな、お前は・・。」

「事実です。あのドス黒エセ吟遊詩人を全員でたこ殴りサンドバックにした上、私の新必殺技開発用の人形としてさんざん利用してボコボコにして、アメルのブラック降臨度MAXで世界の彼方に吹き飛ばして魂ごと消滅させないことには、ルヴァイドたちの無念は永遠に晴らされないんですから。」

「ドス黒エセ吟遊詩人?」
「新必殺技開発用の人形って・・・・。」
「ルヴァイドたちの無念とは一体どういう意味だ?」

あぎゃあぁぁぁぁぁっ、しまったあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!


レイムの顔が頭にちらついていたが故に。
思わず本音を思いっきり口走ってしまいましたよ!!!
私が我に返ったのは、三人がそれぞれ疑問の声を出したその後。

つーか、ネスティが滅茶苦茶怖いです。
そんな顔しないで下さい。折角の美貌が台無しです。

「空耳です。今の発言はオフレコってことで、忘れて下さい。」
。“ドス黒エセ吟遊詩人”と“ルヴァイドたちの無念”というところが非常に気になるんだが、どういうことか説明してもらおうか。」
「ですから、今の発言はオフレコ・・・・。」
「どういう意味か説明してもらおうか。」
「あのですね・・・。」
「どういう意味だか、説明をしてほしいんだがな、僕は。」

視線を背けて、あさっての方向を向く私。
ネスティはそんな私の肩をガシィッと掴んで、鬼気迫る表情で迫ってくる。

怖いです。

マジで怖いです、ネスティさん。

てか、そんなに細かいとこばっかし気にしてると、ハゲますよ?


。おとなしく白状した方がお前さんのためだぞ?」
「大丈夫よ。これから先の貴女の発言は、私たちだけの胸におさめておくから。」

フォローしてくれないんですか?!お二人さん!!!!
助けて下さいよ、フォルテさん!ケイナお姉さま!!!
この際、レイムでもメルギトスでもガレキュラビー(三匹の悪魔の略称)のうち誰でもいいから助けて下さい、お願いします!!!!!


そんな時。まさに絶体絶命な大ピンチな私を助けてくれたのは、
「あぁ〜っ!!ネスティが嫌がるに迫ってる!!!!」
いささかピントのずれたミニスの発言だった。

てか、ミニス。この状態をどう見れば、そんな風に見えるのですか?
ま、根本的に間違ってはいないんだけど。
ニュアンスがどうにも違う気がします。

「なんですって!!お兄ちゃん、のピンチよ!!!を助けて!!!」
勢いよく響くトリスの声。
そして、すぐに私の身体はネスティから解放される。

「なっ?!誤解だ!!その手を離せ、マグナ!!!」
見れば、マグナがネスティを後ろから羽交い締めにしていた。
そっか。純粋に力勝負なら、マグナに軍配が上がるワケね。

「ありがと、マグナ。おかげでものすごく助かったわ。」
「ごめんね、。俺たちが目を離してる間に、ネスがこんなことしでかすなんて思わなかったんだ。謝っても仕方ないと思うけど、本当にごめん。」
ネスティを羽交い締めにする力は緩めぬままで、マグナは叱られたワンコのような表情を浮かべて私に謝罪してくれる。

そんな貴方を可愛いと思ってしまう私を責めないでね♥

、ごめんね!!
後でネスにはよぉ〜く言っておくから、今回は私に免じて許してあげて!!」
「大丈夫よ、トリス。
貴女の可愛さでさっきのイヤなことは綺麗さっぱり忘れてしまったわ!!」
ガバチョと抱きついてくるトリスを嬉々として抱きしめ返しながら、私は実に爽やかな笑顔で答えた。

くわ〜っ、トリス可愛い!!激ラブよ!!!!

「お前たち!さっきから言わせておけば言いたい放題・・・!!
そもそも誤解だと言ってるだろ・・・!!!!」
ネスティは、暴走する弟妹弟子を叱りつける。

否。叱りつけようとしたが。

「・・・・ネスティさん、言いたいことは言い終わりましたか?」
見れば、丁度アメルがネスティの方へと視線を移したところだった。
それが何を意味するのかを知っていた彼は、言葉を続けられなくなったのだろう。
どうやら、ネスティがトリスたちの勝手な誤解を解くよりも、アメルが状況を把握する(無論、トリスたちと同様の誤解をしている)方が先だったようだ。

哀れ、ネスティ。
アメルのブラック降臨スキルの前に、倒れ伏すのか?!

「あ、・・・アメル!!だから、これは誤解なんだ!!
ミニスが勝手に勘違いをしただけで、僕はけしてそういうつもりがあったわけじゃ・・・・!」

「言いたいことは言い終わりましたね、
 ネスティさん…?」

地獄のカウントダウン終了を告げるかのように、ニッコリとアメルが微笑んだ。
対するネスティの顔色が蒼白になったことは、まあ言うまでもないだろう。



「一つ、聞いておきたいんですが。」
列の最後尾を歩いていたルヴァイドたちに声をかけたのは、なんとロッカだった。

「なんだ?」

「まさかとは思いますけど、あなたたちがアメルを狙っている理由は、アメルの持つ戦闘能力と調教能力、笑って人間を拷問にかけられる強靱な精神力・・・すなわち『ブラック降臨』のスキルが目当てじゃないでしょうね・・・・。」

「そんな理由でアメルを狙ってるなら、やめておいた方がいいぜ。
敵を潰すより前に、確実に自分たちが潰れるからな。
・・・・ま、別にお前たちがどうなろうと俺らの知ったことじゃねえけどな。」

ロッカとリューグの忠告に、いささか背筋の寒くなる感覚を覚えつつも、ルヴァイドはとりあえずキチンと彼らに答えを返す。

「・・・・心配するな。我が軍としてもこれ以上変な奴らが入隊されても困る。
変な奴らはあいつらだけで十分だ。」
「・・・全くもって、ルヴァイド様の言う通りです・・・。
あんなものが増えたら我々の神経は、今度こそ引きちぎれてしまいます・・・。」

心底疲れたようなイオスの呟きに、リューグはそうか、とだけ答えてあさっての方を向いた。


幾つも立てられた街頭や看板のネオンの光沢で明るく輝く人工の光。
そんな光たちに負けてしまった星の光は、わずかに地上に届くだけ。
わずかにちりばめられた星々の光の中。
とてもロマンチックとは言えないような、恐ろしい音が響き渡っております。
アメルがネスティにお仕置きをしている音だそうですが、何をしているかは・・。
知らない方が貴女のためです。




*後書き・・・
・シリアスになるはずだったのに、書き上がるとギャグでした。
アメルはどうにもやっぱし黒いみたいです。
でもただ黒じゃつまらないので、スキルの中にブラック降臨という特技を入れてみました。
戦闘中に使用すると、一定のターン、敵味方関係なく怒濤の攻撃をしまくります。
ターン終了後、敵味方共に共倒れなんてこともあるかも☆(待て)
そして、ネスティごめん。アメルの貴い犠牲となってしまいました。
次回は、いい加減の自宅から始めます。
長いんだよ、ヒロインの家に着くまでが!!!


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