「な、なんだ、てめえは!」
突然現れた人物に向かって、一人が声を荒げる。


「口だけは威勢がいいな。」
一言でキッパリ言い捨てて、イオスがうずくまる少年の前に一歩足を出す。
暗い夜の闇を切り開く光の群れに祝福されるのは、柔らかな金の髪。
細くしなやかな身体に纏うのは、夜の闇に似た深い紫紺色の軍服だ。
不良達に向けられる目は髪に隠れて、一つ。柘榴石のように紅い片眼。
しかしそこに宿る光は冷ややかで鋭く、獲物を狙う猛禽類を思わせる。

「そっちこそ、随分と威勢がいいじゃねえか。けっ、いっちょまえに正義の味方きどりかよ!!おい、かまうことはねえ、やっちまえ!!!」
「おうよ!そのほそっこい腕をへしおってやる!」
「へへっ、出しゃばってきたことを後悔させてやるぜ!」
不良達は口々に言って、ジリジリとイオスとの間を詰めていく。

一方の彼は、さして興味もなさそうに不良達の動きを目に止めるだけだ。
そして、溜息を一つ。
「別に正義の味方を気取ってるつもりはないんだがな。ただ、そこでうずくまってる召喚獣に見覚えがあったから、間に入った。それだけのことだ。」
言って、後ろに庇う少年にチラリと視線を向ける。
その拍子に柔らかな前髪がフワリと宙に浮く。
宙に浮いた髪は、街頭の光に照らされてまばゆい輝きを放った。


(あぁぁぁぁぁっ!!!美形のき・わ・み♥ )
まさに至上のシャッターチャンス!
勿論逃さず、私は撮りましたとも!!!(エバリ)
照準も明るさもバッチリ合わせてあったし。
ふふふ・・・我ながらナイスに撮れたわね。

「・・・一体何をしているんだ?」
「乙女にはいろいろと秘密があるものなんですよ ♪」
後ろから訝しげに尋ねてくるルヴァイドに、ニッコリと笑顔で対応する。
ニッコリ笑顔の裏には、「これ以上追求しないでくださいね」との念を押して。
そのことを察したのか、ルヴァイドはその先何も言わなかった。

ああぁぁぁ・・・・神様、仏様、アラーの神よ。
私を今まで生かしてくれてありがとう・・・・。
恍惚・・・・。

・・・・・としてる場合じゃないわ!!!
手元の携帯ディスプレイに表示された時間は、
すでに11時を過ぎているではないか?!

このままでは終電に間に合わない!!!!
そうなると、早いうちにここを切り上げて、皆と合流。
そのまま相鉄線に駆け込まなくては!!!

「そのためには、まずレシィくんを回収ね・・・。」
「何をするつもりだ?」
「あそこでうずくまってるいたいけな少年を回収します。」
「・・・・・。」
キッパリと言い切ると、なぜかルヴァイドは沈黙した。

どうしてかしら、事実を言っただけなのに。

「それじゃ、ちょっと行ってきますね。」
未だ沈黙を保ったままのルヴァイドに手を振って、
私は全速力でレシィくんの所へと向かったのでありました。




「くらえっ!!!」
「おりゃあぁぁ!!」
不良達は次々に拳を、蹴りを、青年に入れようとしていた。
しかし、イオスはそれら全てを紙一重でかわしている。
当然といえば、当然の話だ。
不良達は単なる不良でしかなく、かたやイオスは戦場の前線で己の技をふるってきた生粋の軍人である。
不良達は、平和ボケした日本人(自分より弱い奴)相手に拳を振るうだけの単なるチンピラ。対するイオスは、自分と同様、厳しく訓練されてきた軍人達を相手取ってきたのである。
幼い頃から武術をたたき込まれ、望めば師範代の免許皆伝を受けられるほどの実力を持っている私でさえ、正直彼に勝てるとは思えない。
単なる実践稽古と命のやり取りは、全く別物なのだから。

だが、悲しいかな。
相手の力量を計ることを知らない不良達は、ただがむしゃらに相手に向かっていくことしかできないのである。
尤も、ああいうやつは一度酷い目に遭ってみればいいのだ。
そうすれば、意外と真人間に戻るかもしれない。
・・・多分、無理だと思うけど。



「お〜い、そこで震えてるレシィくん。もう大丈夫だから、顔上げてごらん?」
ようやく震えるレシィの所に辿り着いた私は、
できるだけ優しい声でそっと話しかけた。
しかし、彼はプルプルと震えるばかりだ。

う〜む・・・手強い・・・。
そういえば、この子って結構人見知りするタイプだったっけ。(関係ない)

そこで、レシィくんの震える背中を優しく撫でてやる。
「恐いだろうけど、顔を上げて。トリスの所に戻りたいんでしょ?
連れてってあげるから。」
トリスと言う言葉に、レシィくんの身体がかすかに反応する。
そして、おどおどしつつもおそるおそる顔を上げてくれた。
涙に濡れるつぶらな瞳は、鮮やかな緑柱石の輝き。
同色の艶のある髪は、肩まで伸びている。

ああああああっ、お持ち帰りしたい!!!!!(コラ)
はぁぁぁ、なんてラブリーなのかしら ♥

「ご主人様を、知ってるんですか・・・・?」
くうううっ、萌え!!!
「うん。ちょっとお知り合い、かな。私は。レシィくん、トリスの所に戻りたい?」
思いっきりギュウギュウ抱きしめたい衝動を何とか抑えて、私は優しいお姉さんを演じつつ、レシィくんの髪を優しく撫でてやる。

あぁぁぁぁ、なんて手触りの良い髪・・・・・・(惚)。

そんな私の心は露知らず、レシィくんはコクンと頷いた。
「じゃあ、まずまわりに散らばった石を全部拾わないとね。
大切なものなんでしょ?」
「は、はい。」
ニッコリと微笑みかけると、レシィくんはたちまち顔を真っ赤に染める。
そしてせっせと地面に散らばるサモナイト石を拾い始めた。

ああああぁぁぁぁぁ・・・可愛い・・・・ ♥♥
私はひそかに片手に持っていた携帯を構えて、
そんなけなげなレシィくんのショットもバッチリと手に入れたのであった。

さて、私もサモナイト石を拾わないと・・・・・。


気を取り直して、辺りに散らばるサモナイト石を拾い集める。
さっきあの馬鹿不良が叩きつけたせいか、ところどころ欠けてしまっているものが大半だが、それでもかろうじて無傷なものもいくつかあった。

これで全部割れてたら、絶対不良どもの頭をかち割ってたわね。腹いせに。
つくづく命拾いしたわね、不良ども。
怒りの余り、思わず中指なんぞおったててしまいましたよ、私は。

と。
幸か不幸か。
偶然不良どもの方を向いたために、ある光景が目に入った。
イオスに刃向かっていく不良の一人の進路先で、
サモナイト石を拾おうとするレシィくんの姿を!!!!

やばい!あのままじゃ踏みつぶされる!!!!!

「レシィくん、上!!!」

叫びながら、私は地面を足で蹴っていた。

「邪魔だ、小僧!!!!」
不良がレシィくんを蹴り飛ばそうと、左足を後ろに蹴り上げる。
レシィくんは・・・動かない!
動けないの方が正しかっただろうけど。

しか〜し!!!
この私があんな可愛いレシィくんを傷つけさせると思ってか?!

 

 


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