「どこへ行くつもりだ?」 問われて、私は人差し指をピッと立てた。 「実は後々で気づいたんですけど、地下街って、この時間になると閉まってる場所の方が多いんですよね。それに、どこだかわからない場所に放り出された人間は、とにかく外を目指すと思うんです。」 「つまり外を調べようというわけか。」 ルヴァイドの答えに頷いて、私はそのまま階段に足をかけた。 県の主要都市であるこの駅は、駅ビルと地下街が非常に発達している。 そのうちの一つであるここ「ダイヤモンド地下街」は利用者の非常に多い地下街としてそこそこ名を馳せているらしく、広い。そして非常に迷いやすい。 小さい頃から両親に連れられてよくこを訪れていた私ならともかく、初めて来た人間にとってはほぼ迷路も同然である。 迷路に迷った人間は、本能がなせる技か、とにかく出口に出ようとする。 つまり、外に近い場所の方が捜し人と会える確率は高いということだ。 階段を上まで上りきり、周りを見渡してみる。 と。 予想に反してまだ人の通りは多い。 ・・・日曜日なのに、なんでこんなに人がいるわけ? 平日ならともかく、休日ならば遅くまで飲んでる輩も少なかろうとタカをくくっていたのだが、私の予想は見事に外れたらしい。 「どうした?」 思わずこめかみを押さえて溜息を吐いた私のすぐ隣。 ルヴァイドは怪訝そうな表情を露わにしていた。 「たいしたことじゃないですから、気にしないで下さい。」 トリスやアメル、ミニスならば一見したところで目につくようなことはないだろうが、いかんせん黒い鎧を着込んだルヴァイドは目立ちまくるんだよね。 格好もそうだけど、声も容姿も文句なしに一級品だから。 めざとい女達が見逃すとも思えないんだよね、正直・・・。 だけど、そんな私の思考は杞憂で終わった。 私たちのいる場所からそう遠くない場所でバカ騒ぎをしていた一団の中の一人、いかにもOLっぽい女性がこちらを振り向いた。 この先想像される事態を想像して、私は思わず息をのんだ。 が。 OLは特に反応も見せぬまま、こちらに背を向けお喋りを再開したのである。 彼らはすでに出来上がっている酔っぱらい達。 普通の人間と同様の反応を彼らに期待してはいけない。 私は今、そのことを思い出していた。 「・・今回ばかりはお酒に感謝しなくちゃね・・・。」 周りを気にしつつ、捜し人を見つけようとしていると。 突然立ち止まったルヴァイドの背中におもいっきり顔をぶつけてしまった。 「な、何ですか、急に・・。」 赤くなった鼻の頭を擦りながら、私はルヴァイドの顔を見上げた。 見ればかすかに彼の表情が険しくなっている。 私もつられてその視線の先を見てみれば・・。 「何、あれ?」 背広やスーツを着た大人達の群れが集う中、ブレザーと腰パンという学生の群れはひときわ目立つ。どうやら不良達の集団が誰かに因縁をつけているらしい。 もしくはかつ上げでもしてるとか? 被害者の姿は遠いからか、私たちのいるところからでは見えない。 「行ってみるか?」 「はい。なんとなくやばそうな雰囲気ですしね。」 私たちはこっそりとその集団に近づいていった。 不良達は誰か一人を囲んで包囲しているようであった。 「おらおら、命が惜し気りゃ金を出せよ。」 そのうちの一人が例によってお決まりの啖呵を切る。 すると、柄の悪そうな不良少年に取り囲まれた少年は、ガタガタと震え出す。 「お、お金なんて、僕もってません・・!!」 彼は精一杯の勇気を振り絞って、周りの彼らにそう告げる。 が。 そんなことであっさりと解放してくれるような輩ではなかった。 「何言ってやがる。その懐に隠し持ってるものはなんなんだよ!」 言うなり一人の不良が少年の胸ぐらを掴みあげる。 少年といっても彼の身長は、せいぜい不良達の腰くらいまでしかない。 そのかわり彼の頭には、途中で切り取られたような角のようなものがついている。 「こ、これは、ご主人様の・・・」 「いいからとっとと出しやがれ!!」 少年のおどおどした態度に業を煮やしたのか、不良は彼を地面に叩きつける。 「そいつの懐にあるものを取り出せ。」 リーダー格の不良の命令で子分達は、なんとか起きあがろうとする少年を再び地面に倒し、懐を漁る。少年も抵抗しようとするが、手足を押さえられた状態ではそれも叶わず。 「ほら、これだ。中身は何だ?小銭か?それとも・・」 リーダーに袋を渡した子分は、中を覗き込もうとしてリーダーのひじ鉄を食らって撃沈する。 リーダーは袋を開け、中に手を突っ込んだ。 中に確かな手応えを感じて、彼はニヤリと口端に笑みを浮かべる。 そして取り出してみたものは・・・。 「な、なんだこれは?!!金じゃないじゃないか!!」 取り出されたのは、鮮やかな緑の輝きを放つ石だった。 だがあいにくと宝石のようなまばゆい輝きを宿してはいない。 「この野郎!ふざけやがって!!」 リーダーは忌々しげに石を地面に叩きつけた。 「金を出せっていってるだろうが!!」 「だから、お金は持ってないんですぅ〜!!!」 涙を浮かべて訴える少年を足で蹴りつけ、リーダーは荒い息を吐く。 「んのやろう・・・いいかげんに!!!」 怒りを溜めた拳をリーダーが振り上げる。 反射的に少年は頭を抱えてうずくまった。 「んにゃろ、さっきから黙って見てればぁ〜!!!!!」 私は不良達に制裁を与えるべく駆け出そうとした。 だが、それはルヴァイドによってあっさりと遮られてしまう。 「あのまま放っておくんですか!?」 「心配はいらん。見てみろ。」 言われて見てみれば、殴りかかった少年が逆に殴り飛ばされていた。 突如そこに現れた一人の青年によって。 輝く黄金色の髪と深紅の片眼を持った、おとぎ話の劇で王子様をやらせたいほどの文句なしの美青年。 (イオスだあぁぁぁぁっっ!!!) まさに美形の極み!!!金髪美形万歳!! 悪者を退治するイオスの勇姿をしっかり目に焼き付けておかなくちゃ!! はっ!!携帯の写メールで彼の写真を撮って送れば、うちの女どもは泣いて喜ぶわ!! それに「トリス達を居候させよう計画」を実現させるための家族交渉もスムーズにいくわね!! 何より私の目の保養になるしねぇ〜・・・フフフ。 私はズボンのポケットから携帯を取り出して、こっそり構えた。 その時点で私の頭には、苛められてた可哀想な某護衛獣の存在は消えていた・・・。(コラ) *後書き・・・ ・って、イオス出てないし。 次ですね、出てくるのは。微妙な話の運び具合ですなぁ・・。 はい。次はいよいよ彼が出ます。大活躍します。 だから、イオス好きの皆様待って下さい・・・・・。 にしてもが羨ましかったりして・・・。 |