時刻は既に午後10時をまわっていた。
さすがにこの時間ともなれば、閉店している店の方が圧倒的に多い。
そして私のバイト先もまた、10時閉店の店だ。

と言っても、『私一人くらいいいだろ?』という自己中なお客のせいで、私たちアルバイトが上にあがれる・・・もといお仕事終了となるのは10時10分過ぎ。

そのため。
タイムカードを押した後、マッハで着替え終えて飛び出してきたにも関わらず、時計の針が指し示すのは「10時18分」だ。

あ〜!!26分の電車に間に合わない〜!!!

私は速攻でエレベーターに飛び乗ると、力一杯ボタンを押して扉をすぐに閉める。
イライラしながらエレベーターが下がっていくのを待ち、これまた目当ての階に着いて早々に中から飛び出した……………のだが。


グガァァァァァァァァン!!

ガギィィィン!キィン!キィン!

ドドドドド!!!


「・・・・・・・。」
私の足はピッタリと止まってしまった。

なぜって?
そりゃあもちろん、擬態語の羅列のような変な音のせいに決まってますとも。

私のアルバイト先である某本屋さんは、現在改装工事中だ。
今改装しているのは、もと文具売り場だった場所。
そこは分厚いシャッターで外界と隔離されていて、向こうで行われる工事の雑音も全てシャットアウトできるようになっている。はずだ。

なら・・・・、この音は私の空耳でしょうか??
そのわりに異様にリアリティ溢れる音量なのは、ステレオだからでしょうか?

このまま夢の世界へ吹っ飛んでいきたい衝動を抑えて、しばし考え込んだ結果。



「空耳よ。誰がなんと言おうと。」


開き直りました。
現実に背を向けたとも言うかもしれない。

とにもかくにも私は、再び目当ての時間の電車に乗るために走り出す。
閉められたシャッターに沿って角を曲がり、速度を上げて駅まで長距離走を開始しようとしたときだ。

私の鈍い第六感、俗に「女の勘」といわれるそれが危険を告げた。
それが何か確かめるより早く、私はその場にしゃがみ込んだ。
ほぼ同時にすぐ横のシャッターを突き破って何かが飛んでくる。

ひまわりとチェーンソーを合体したような不思議な生物・・・。
・・・・「ベズソウ」??
ベズソウと思われる物体は、立っていた私の頭があった場所を通り過ぎていったかと思うと、唐突に虚空へかき消えた。

……反応があと一瞬でも遅れてたら、確実にあの世行きだったわね。

思わず私は、自分の悪運にしみじみと感心する。
だから、「その場から逃げる」という選択肢をものの見事に選び損ねていた。



『シルヴァーナ、この壁を壊してっ!!!』
無人なはずの地下街に子供の声が響く。それも聞き覚えありまくりの声が。

……ちょっと待て。
シルヴァーナって確か、火炎攻撃じゃなかったっけ………?


ふとイヤな予感に駆られた私の予想は、見事に的中した。

真夜中も迫った静寂に包まれていたはずの地下街。
その一角で突如生まれたのは、鼓膜も破れんばかりの轟音と鉄製のシャッターを盛大にぶち壊す大爆音が轟き響いたのだった。



 

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