英雄の誇り〜想いの強さゆえに (2)



私達が広場についた頃には、もうやつらは広場中央に陣取っていた。

そしてそいつらの真ん中でえばりくさってる一人の男。
赤い文様のついた白い仮面をかぶって顔を隠し、朱色の髪を二つに分けて結いている。
身に纏うのは、オレンジと赤を基調とした中華風の服。

一応炎の英雄に似せてあるみたいだけどさ。
服はともかく・・・顔を隠してる時点で怪しめよ!!!
顔を隠してるなんて、何かやましいことがある証拠でしょ!!!!
第一あんたらグラスランドの人間だろうが!?
の顔を覚えてないのかい!!!!(それは無理か)


「この様子だと、盗賊達に貢ぎ物を差し出すことで話が付いてるってのは、本当らしいな・・・。」

「そんでもっておとなしく村を滅ぼされようってわけ?お人好しねぇ〜。」

「コラ、。声がでかい!」
 焦って口をふさごうとするナッシュを逆に押さえつけて、

「だって事実だし。第一あんな仮面男と炎の英雄を一緒にされちゃたまんないわよ。
それに炎の運び手の中には、真の紋章を持ってたのは一人だけじゃなかったのよ?」

「ほんとか、それ?!」

「そうよ。他にも真なる水の紋章と真なる雷の紋章が揃ってたんだから!!
なのにあいつらのなかに、真の紋章宿してそうなやつは一人もいないじゃない。
それに、あいつがホントに真の紋章を持ってるかそうでないかなんて、真の紋章を持ってる人間になら誰にでもわかるわよ。」
 そこまでまくし立てた時、が見かねて私の頭を撫でる。

「・・・ま、確かにな。だけど普通の人間にそれを感知する力はない。
それどころか、紋章をほとんど見たことのないやつだっているんだ。
威力を見て、真かそうでないかなんて見極められるやつの方が少ないさ。」

「うん・・・。それはわかってるけど・・・。」

「・・どうもあんたがいないとは暴走する嫌いがあるみたいだな・・。
しばらくそいつのそばにいてやってくれないか?そうすると助かる。」

 おい、ナッシュ。人をまるで爆弾みたいな言い方しないでよね。

は笑いをかみ殺しながら、それを了解する。
ええぃ!お前も笑うんじゃない、!!



 唐突に村人達の間から悲鳴が上がる。
ナッシュが慌てて仮面男の方を向くと、そいつがちょうど村の長らしい人に対して剣を振りかぶっているところだった。

「『ひづめと草笛の宴』に交易品が集まるのは承知のこと。
交易品は全て頂いてくぞ!」

だぁ〜!!!!!あんた、短気過ぎじゃ!!!
ナッシュが火炎弾を取り出そうとするが、それよりも仮面が長を斬る方が早い!

私は仕方なく額の紋章に魔力を込める。
異界の人間である私と額の紋章は、いわば一心同体。
私が死ねば、異界の紋章もこの世界から消え去り、異界の紋章にもしものことがあれば私の命は尽きる。ゆえにこの世界で、私はほぼ不死身も同然!!!
あんなやつ助けたくはないけど、だからといって見捨てるわけにもいかないし。
瞬間移動で長の前に移動して、私自身が盾となる。
ま、とりあえずこうすれば時間は稼げるでしょ?

そして私が紋章の力を解放しようとした矢先。
赤い煌めきが目の前をよぎった。
そして仮面たちの前を同じ煌めきがよぎり、それは地面に衝突して大爆発を起こす。
爆発は紅蓮の炎を巻き上げ、驚くほどの熱を吐き出す。
それでも燃え盛る炎は村の家屋を傷つけることはなく、その場で燃え続けるだけだ。


もしかして・・・・?!
私は思わず後ろのを振り返る。
彼の右手は炎を宿し、紅く輝いている。
さっきのあれは、が放った魔術だったんだ・・・。
それにしてもなんて制御力。
炎系の紋章はそのほとんどが全体攻撃で形成される。
なのに、が放った炎は必要以外のものをけして燃やさない。

『熟練の魔術師になれば、炎系の攻撃魔法でも燃やしたいものだけを燃やすように制御することも出来る。だけど、魔法制御力の弱い君に、使いこなせると思うかい?』

 そういや。昔、私の師匠だった毒舌魔術師がこんなこと言っていたっけ。
何でも【精密】と呼ばれる特殊なスキルが関係してるらしいけど、それを持ってる人はほんの一握りだとか。

はこの【精密】スキルを持ってるわけね!!
さすが本物の炎の英雄!!



 突然起こった大爆発で我に返った村人は、我先にちりぢりと逃げていく。

「アイリ!村人達の誘導を頼む!!」
 広場のどこかにいるであろうアイリに向かって、ナッシュが指示を出す。
そして村人達がいなくなった後には、私達とニセ英雄達だけが残った。

「貴様、さっきの・・・よく生きていたものだな。」

なんかやな感じのやつだな。声まで人を見下しきった響きがある。
あぁやだ、つい元某騎士団のデブ団長のことを思い出しちゃったよ。

しかしナッシュは飄々としたもので、肩をすくめて
「わりと悪運は強いようでね。それよりもあんたは自分の命の心配をしな、ニセ炎の英雄さんよ!!50年前の英雄が生きてるなんて、おとぎ話だぜ!」
 右手に持った短剣をニセ英雄に突きつける。

 すると、ニセ英雄はくくくっと喉の奥で笑った。
「真なる27の紋章の話は知っているだろう?
真の紋章を宿した者は、同時に不老の宿命すら手に入れる。
俺は真なる炎の紋章を継承したのだ!
50年前の英雄が生きていてなんの不思議があろうか?!」

こんのくそ野郎・・・・私、完全に切れたからね・・・・・。

「へえええ。そうなんだ、すごいわね。ところで真なる炎の紋章って一体どんな形をしてるのか、すっっっごく気になるんだけどぉ〜、その手、見せてくんない?」

「ふん!貴様のような小娘に見せてやるとでも思っているのか?!」

「好きに言ってちょうだい?
私はあんたが死んでもイヤだと言っても、見せてもらうつもりだから。力づくででもね!!!!」
 言うなり、私はニセ英雄へ向かって駆けだした。

「取り押さえろ!」
 ニセ英雄は、手下達を私の足止めに向かわせる。

だけど。
私みたいな武術の心得ゼロの乙女が、武器を持ってる盗賊にがむしゃらに突っ込むとでも本気で思ったわけ?????

、ナッシュ、後は頼んだわよ!」
その声を媒介にして、私は額の紋章を発動させる。
瞬間、盗賊達の前から私の姿がかき消える。


「消えた?!」
 戸惑う盗賊達。

 その隙を逃さず、達が突っ込んでくる。

「お前達の相手は俺たちだ!」
反応の遅れた盗賊達は、面白いように吹っ飛ばされていく。
その中でも最前列に立って敵を薙ぎ払うのは、その人だ。
棍を振るう度に、確実に敵が減っていく。
それを見ていたナッシュが思わず口を鳴らしたくらいだ。

「ヒュー・・あんた、メチャクチャ強いな。」

「ハルモニアの正規兵と比べれば、たいしたこたねえよ。」

(ハルモニアの正規兵?????)
 返ってきた言葉に、唖然とせずにはいられないナッシュだ。



「くそ!あの小娘、どこへ消えやがった?!」
ニセ英雄は、キョロキョロと辺りを見回すが、私の姿は全く見あたらない。
それもそのはず、私のいる場所は空の上だからねぇ。

「そんな下を捜しても私はみつかんないわよ☆」
ニセものを見下ろしながらほくそ笑んで、私は呪文を唱え始める。

「我が額に宿る額の紋章よ、我が魔力と記憶に従い、かの者をこの地へ呼び寄せん。
死にゆく人々の魂の安息を見届ける者、『神の命令』の名を持つ邪眼の大天使よ。
異界の我らは汝をこう呼ぶ、善と悪を定める大天使サリエルと!!!」

 瞬間、辺り一帯を真っ白な閃光が埋め尽くす。
光の中から現れるのは、6枚の真っ白な純白の翼。
輝く金色の髪は鮮やかに虚空を舞い、身に纏うのはひだの多い古代ローマ風のドレープドレス。非の打ち所のない完璧な美貌のなかに、一つだけ違和感があるとすれば、それは鮮血のように真っ赤な一対の瞳。
まるでは虫類の目のように細い瞳孔は、見る者に深い戦慄を覚えさせるだろう。

それもそのはず、彼の持つ瞳は【邪眼】。
いにしえより人々が恐れ続けてきた、悪魔の力もつ魔性の瞳だ。

「大天使サリエル、貴方の【邪眼】の力を少しだけ貸して下さい」
 具現化した大天使は、私の願いに応えるように頷いた。



「な、なんだあれは?!」
 地上では、突然空に現れた謎の物体(大天使に向かって失礼な)に大騒ぎになっていた。
もっともうろたえていたのは盗賊達の方で、ナッシュ達は平然としている。

「ケッ。真の紋章が聞いて呆れるぜ。いいか、よく聞きやがれ。さっきのお嬢ちゃんこそ、真なる紋章の継承者よ。あれはお嬢ちゃんの紋章の力で呼ばれた神様の姿だぜ。
真の紋章を持ってるくせに、そんなこともわかんねえのかよ!!!」
 ギジムの啖呵に、ニセ英雄は慌てて叫ぶ。

「そんなもの、わかるはずがないだろう!あの小娘が、真の紋章の継承者だと?!」

「おかしいねえ。本当にあんたが真の紋章を持っているのなら、気配でわかるはずなんだけどな・・・。あ、そうそう、あんたデュナン戦争の話を聞いたことがあるか?
その戦乱のさなか、『破壊神』と呼ばれた一人の少女がいた。額に宿す真の紋章を使って、異界の神やその眷属を呼び寄せ、一兵団も一瞬で焼き払うまさに破壊の化身。
あいつがその『破壊神』なんだよ。」
 向かってくる盗賊を足払いで吹っ飛ばし、愛用の棍を肩にかけながら言うのはだ。

「あんたはどうやら一度も真の紋章の威力を目の当たりにしたことがないみたいだな。
ある意味それは幸せなことなんだろうが・・・。
俺なんて、人使いの荒い上司と妖怪オババの二人が真の紋章持ちだったから、たまんないぜ。しょっちゅう真の紋章の威力を体感してたんだもんなぁ・・・・よくもったよな、俺の身体・・・。
ホント、俺って不幸だよなぁ・・・・。」
 自分の不幸をしみじみ噛みしめながらぼやくのは、ナッシュ。
考えてみると、本当に彼は苦労人だ。

「お前が先ほど使った魔法など、ミューズで見た俺が見たあの禍々しく、強大な力に比べれば児戯にも等しいこと!!!!」
 愛剣ダンスニーを構えてマイクロトフが吠えれば、なぜかニセ英雄は忌々しげに舌打ちし、彼に向かって怒鳴り返す。

「青騎士風情が生意気な!!!!ええぃ、総員かかれ!!!」
 残っていた盗賊達が一斉になだれ込んでくる。



って、ちょっと待て。
青騎士ふぜいってどういうこと?!

マイクロトフは確かに元マチルダ騎士団の青騎士団長だった。
だけど。グラスランドの盗賊がどうして彼のことを知ってるの?
加えて『青騎士ふぜいが』というあの言葉。
ようは青騎士の分際で俺様に向かって偉そうな口を叩くな!って意味よね?

あんな言い方する人間は、おのずと限られてくる。
青騎士・赤騎士の一ランク上の位を与えられていた、マチルダ騎士団団長ゴルドー直属の騎士、白騎士たちだ。
あのブタ団長の配下だけあって、確か性格の悪いやつが多かった様に記憶している。

こいつ!!!間違いなく偽物!!!
マチルダが同盟軍の手に落ちた時、白騎士だったこいつはこっそり逃げ出した。
そしてどういうわけか「炎の英雄」の名をかたって盗賊家業にいそしんでると。
つまりそういうことね!!!

ええい、たかだか白騎士如きの分際で英雄の名を騙るとは、片腹痛いわ!!!



「ギジム、ロウエン、コウユウ!!さっきの打ち合わせ通りに頼む!
マイクロトフも頼んだぞ!」

「ナッシュ殿は?!」

「俺はこっちに残る!
多分カミューのやつも来るだろうから、そっちの奴等は任せたぞ!」

「はい!!」
そして指名を受けた山賊3人組とマイクロトフは、村の中へと散らばっていった。
それを追いかける盗賊がおよそ2/3。
残りの1/3は、ナッシュとの足止めにかかる。


「さてと。そろそろいいかなぁ?」
私は再び呪文を唱える。
その言葉に従い、額の紋章がまばゆい輝きを放ち。
私の姿は空の上から消えた。





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コメント
ヒロインがさりげなく大活躍…してます。
というよか、彼女の額の「異界の紋章」が活躍してるんですけどね。本編じゃあまだ全然正体ばれてないのに、ここじゃあ完全にヒロインが紋章を使いこなせてます。
スミマセン…、本編もぼちぼち書き始めないと…(滝汗)。