英雄の誇りと兄妹の絆と (3)




「フン、口でどういったところで俺たちに勝てないようでは、お前たちの言葉など、ただの戯れ言にしか過ぎんな!!!」

「自分は部下に守られておいて、そんな口叩くんじゃないわよ。
白騎士ふぜいのくせに生意気よ、あんた!!!」

「っ!!!!」

私の声が後ろでしたことに驚いたのか、はたまた私の発言に驚いたのか。
両方だな、これは。
とにもかくにも、こちらを向いたニセ英雄は明らかに動揺していた。
その隙を逃すさんじゃなくてよ、ほほほ。

「喰らうがいいわ、邪眼!!!!」
 私が叫ぶとほぼ同時、空に佇むサリエルの6枚の翼が一斉に広がった。
その反動で虚空に舞い散った羽は、たちまちに大きな雲に変化していく。
そして、雲の出現で突如暗くなった空に、一つの巨大な目が浮かび上がる。
らんらんと光る瞳は、血紅色。禍々しく毒々しい色彩だ。(ホントに天使様か、この人)

そして、次の瞬間。
禍々しい紅光がニセ英雄に降り注いだ。


「ぐ、ぐわあああああっ!!!」

無駄に叫ぶな、ニセ物。
攻撃してるわけじゃないんだから、痛みはないでしょ。

「さてさて。早速ニセ英雄さんの紋章を拝見しましょうか。」

「ち、近寄るな!!!」
 ニセ英雄さんは、剣を振り回そうとした。だが、私には当たらなかった。
否、剣を振り回すことなど出来ないのだ。

 先ほど奴が喰らったサリエルの邪眼。
 あれには、動きを麻痺させる効力があるのだ。

 それを知っていたから、私は堂々とニセ英雄に近づき、右手をとる。
手の甲をひっくり返してみれば、案の定“烈火の紋章”だった。

「ふふふ、これのどこが真の紋章なのかしらねぇ〜。
どっからどうみても、烈火の紋章じゃないの。嘘ついた罰として、この紋章は没収!!」
 私はニセ英雄の烈火の紋章に手を翳す。
意識を集中させれば、翳した手に紋章の力が伝わってくる。

 自らの意志で自在に姿を変える、紋章の炎。
 全てを焼き尽くす破壊の力と新たな力を創り出す再生のエネルギー。

「紋章よ、今一度その力を封じ、しばしの間眠りにつけ・・・」
 瞬間。ニセ英雄の手に宿っていた烈火の紋章が光を放ち、次の瞬間には私の手の中に入っていた。紋章球の形になって、その力を封じた状態で。

「さてと。これでもう、“炎の英雄”は名乗れないでしょう。
どのみち大嘘ついてたわけだけどね。」
 取り上げた烈火の紋章球を懐にしまい込んで、私はナッシュたちにVサインを送った。

 ナッシュとはそんな私を見て、苦笑いを浮かべ。

彼らとやり合っていた盗賊たちは顔色を真っ青に変えていた。
「お、お頭が・・!」

「“炎の英雄”を倒しちまうなんて・・・。」

「待てコラ。」
まだあんたたちは、このニセを“炎の英雄”と呼ぶか?!
なんならこいつの宿してた紋章をあんたたちに宿してやろうか。
誰でも宿せる紋章をまだ“真の紋章”だと思うのか?
・・・勘弁してくれよ。



「っ、ッ!!!!」
 突然響いたの焦った声に、私は後ろを振り向こうとする。
が、それよりも先に、何かが私の頭を横殴りに殴りつけていた。

 その勢いに吹っ飛ばされて、私は地面を転がった。
何度か転がってからようやく止まった私の体は、すでに自分の体ではなかった。

立ち上がろうとしても体が重くて言うことを聞かない。口の中がジャリジャリする。
殴られた場所がジンジンと鈍い痛みを放つ。

「ケッ。真の紋章だかなんだか知らないが、所詮はただの小娘だろ。
魔法さえ使えなきゃ、こっちのもんだぜ。」
 顔も上げることもままならずに、かろうじて開いていた目に盗賊の足下が見える。
いつの間にか後ろにいた盗賊に殴り飛ばされたらしい。

 この野郎。それがレディに対する態度か。

「よくやった。誉めて遣わすぞ。」
てめぇは殿様か。さっきまで動けなかったくせに。
とはいえ、私が殴り倒されたことでサリエルが消え去り、邪眼の効果が切れてしまったらしく、ニセ英雄も動けるようになってしまったようだ。(チッ)

やつの・・・もとい白騎士生き残りの声が私の頭上で聞こえる。

「そこの二人も武器を捨てろ。さもなくば、この小娘の命はないぞ。」

「・・・どうする。」

「仕方ない。
ここで俺たちが歯向かっても、奴らの親玉を殺る前に確実にが殺される。」

「チッ。」
ナッシュとの声がし、何かが地面に落ちる音がする。

金属同士の擦れ合う音と棒が地面に倒れたときのような音。
武器を、捨てた?


「さてと。そいつらは後で始末するとして、この小娘はどうしてくれようか。
奴らの目の前で喉笛を引き裂くか、それとも生きながら薄皮を剥いでやろうか。」

 拷問マニアみたいな危ないこと言ってんじゃない、もと白騎士!!!

せめて傷が頭じゃなければ、転移魔法で逃げ出すこともできるんだけど。
いかんせん、頭の傷が痛んでうまく意識を集中できない。
この状態で転移魔法を使ったら、確実に失敗する。

「とりあえずはさっきの紋章を返してもらうとするか。」
 言って、ニセ英雄は私の懐に手を突っ込んで漁り始める。
それはいいけど、どさくさに紛れてへんなとこ触るんじゃない!!!!

「・・・小娘かと思えば、意外に楽しめそうな身体をしてるな。」
 紋章球を取り出したニセ英雄の空いてる方の手が、無防備な私の身体の上を這い回る。
気持ち悪いから慣れ慣れしく触るな!胸を揉むな!!

って、これは本気で貞操の危機?!

「思いついた。そいつらの目の前でこの小娘を犯してやるとしよう。
お前たちはせいぜい仲間が啼かされてるところを悔しげに見ているがいい。」

「なっ・・!!」

なんですって、馬鹿野郎!!!!!

ナッシュの声と私の心の声が見事にハモる。

乙女の純潔をよりもよって、こんなニセ英雄に奪われてなるかい!!!
出てこい、紋章の化身!!!
私が死んだら、あんたも死ぬんでしょ!!!!
怒りに任せて私は、額の紋章に語りかける。が…。

『そのときになったら出ていく。
だが、こちらとしてはお前の純潔がどうなろうと知ったことではない。』

にくったらしい紋章の化身の言葉に、私は愕然となりましたよ。
ようは私という存在が死ななきゃ、あとはどうなろうと構わんと?!


この、人でなしぃぃぃぃぃぃーーーーっ!!!(人じゃない)


そんなことを言ってる間にも、ニセ英雄の手が私の身体を撫で回し…、って奴だけじゃない?他の連中も一緒になって、人の身体を好き勝手撫で回してやがる!

くそぉぉぉぉぉっ!!
こんなごっついやつらに私の身体を好き勝手させてたまるか!

私は意を決して左手の紋章に魔力を込める。
左手の紋章は、旋風の紋章。これで一気に蹴散らして・・・・・!!


「させるかよっ!!!」

ナッシュの怒号が辺りに響き渡る。
それとほぼ同時に、銀閃が視界を薙いだ。


「「ぎゃあああああっ!!!」」

 銀閃に身体を薙ぎ払われて、私の周りにむらがっていたうちの幾人かが、吹き飛ばされながら断末魔の悲鳴をあげていく。


「貴様っ!!」
 さすがにこの状況下で人の身体を撫で回している余裕はなかったのか。
ニセ英雄の手が止まる。

 勿論、その隙を逃すさんじゃない!!!

「風よ!!!」
 先ほどまでこっそりと溜めていた魔力を一気に解き放つ。

 目標はニセ英雄たちではなく、この私自身。
たとえ呪文を発動させた術者といえど、自分自身に向かって魔法を使えばただではすまない。 ただそれはごく一般の人間の話であって、ある一定以上の魔力を持つ術者なら、即座に作った魔力結界で幾分その攻撃力を半減させてやれる。
まして私は、異界の紋章とは一心同体。私が死ねば、紋章もまたこの世界から退くことを余儀なくされる、といった特殊な状況下にあるのだ。当然異界の紋章は、私に向けられるありとあらゆる紋章攻撃を無効化するし、私を命の危機から救ってくれる。

 しかし、いくら額の紋章に守られているとはいえ、上級紋章の生み出した烈風をまともに受けたのだ。只で済むはずもなく、私の身体はまるで紙人形のように、風に乗って吹き飛ばされていく。

!!」
 そのままの勢いで地面に叩きつけられれば、打ち身か打撲になるところを。
ギリギリの所でナッシュに受け止められた私は、怪我一つ無かった。

「ありがと、ナッシュ。ナイスタイミング♥」

「……頼むからあまり無茶しないでくれ。でないと、俺の寿命が何百年あっても足りない。」

「以後、気をつけるよ。」

「あのな………。にしても、どうしてあんなことをしたんだ?
せっかく呪文を唱えたんだ、やつらに当ててやってもよかったんじゃないか?」

「…まあ、普通の状況ならね。」
ごく普通の状況だったら、私は迷わず彼らを狙って魔法を使った。
しかし今回は、なんといっても地面に倒れ込んだままでの呪文発動だ。

不自然な体勢から繰り出した魔法は、当然殺傷力も攻撃力も多少鈍る。
そうなれば、奴ら全員を倒し損ねる可能性が出てきてしまう。
万が一にもやつら全員を倒し損ねたら、間違いなく私たちの命はない。
それどころか、私の場合は命どころか乙女の純潔すら危うい。

こんな状況でバクチに出ろ、という方がどだい無理な話だ。


「貴様らっ、本気で俺を怒らせたな!!!」
ニセ英雄が腰の剣を引き抜いた。
構える剣先は、怒りのあまり大きく震えている。

「殺してやるっ!!!」
構えたニセ英雄の剣がまっすぐに私たちを捉える。

…まずいっ!
今までの情報を総合すれば、やつはマチルダ白騎士の生き残り。
当然、剣の腕はべらぼうに立つはずだ。
加えてナッシュは、私を受け止める際に双蛇剣をも地面に放り投げている。
走って武器を取ったとしても、その前にやつの剣がナッシュを捉えるだろう。


 ………………っ!!

 痛みをこらえて額の紋章に魔力を注ぎ込もうとしたその時。


 圧倒的な、魔力を感じた。

 そして次の瞬間には、視界が紅に染まっていた。


「うぎゃああぁぁぁぁぁっ!!!」
「ぐあわああぁぁぁぁっ!!!」
「があぁぁぁぁっ!!」

 ニセ英雄と彼にならって私たちを斬り付けようとしていた盗賊たちの絶叫が響く。

その声を、私はただ呆然と聞いていた。
私の視界を赤く染めるもの。私を護る紅の竜の姿に、ただただ圧倒されて。
炎に包まれているのに全く熱さを感じないのは、きっと精密スキルのおかげ。

!!!」
 見ると彼は、私たちの後方―――驚く盗賊たちの視線の先に静かに立っていた。
右手の紋章を紅の輝きに包んだそのままで。

全身を紅蓮の炎に身を包みながらも、平然として大地を踏みしめる。
その堂々とした立ち姿は、まさに“炎の英雄”の名にふさわしい。



 その姿、まさに……威風堂々。


「本気で俺を怒らせたのは、てめぇのほうだよ。
折角“炎の運び手”の名前を騙ったことも“炎の英雄”を騙ったこともチャラにしてやろうと思ったんだけどな。…よりにもよっててめぇは、にまで手を出しやがった……。
俺の可愛い妹に手ぇ出しといて、五体満足で帰れると思うなよ?!!!」

の怒りの声に呼応するかのように、彼を取り巻く炎がより一層勢いを増す。
その頭上に燦然と輝くのは、この世界の炎という炎を統べる者。
正真正銘、真なる炎の紋章の姿である。

「我が手に宿りし、真なる炎の紋章よ…。
我が怒りと魔力を糧に、汝が持てる真なる力を世界へ解き放ち、我らに仇なす暗愚たる者へその煉獄の炎をもって報復せよ!!!」

 の怒号に応え、虚空に浮かんだ真なる炎の紋章がより鮮やかな緋色を帯びる。




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コメント
ヒロインが活躍…してたと思ったら、ピンチです。
そして微妙に活躍するナッシュ、完全に美味しいところを持って行く炎の英雄さん、もとい義兄さん。
ギジムとかマイクとかカミューとか、完全に蚊帳の外ですねぇ…はっはっは。ま、あくまでこのお話は「炎の英雄」メインのお話ですから、大目に見てやって下さい(笑)。