「・・・ねえ、ゲド。あれって・・・?」
「さあな。」
カラヤ村炎上の少し前にアイラが見たという謎の女性の後を追って、学術指南所の中の様子を探っていたゲドは、突然起こった騒ぎの中心に駆けつけた。
その二人の第一声がこれである。
ルビークの村のちょうど中央に当たる広場では、虫の大群VS二匹の龍の大激突が観戦できるようになっていた。
虫たちの攻撃標的が何なのか。皆目見当もつかないが、少なくともそれを守っているのが二匹の竜であることは間違いないだろう。
ただその竜たちというのが、異形。
かたや青白いプラズマを身に纏う竜。黒光りする鱗で覆われた長い巨体に、真っ白な稲妻をまとわりつかせている。頭に生えた二本の長い角は、光沢を消した金の鬣の間から突き出していて、時折パチパチと蒼白い燐光が走る。身体の割に足は小さく、剣一本分はあろうかという巨大な爪の生えた前足(手?)で、器用に琥珀色の宝玉がつままれていた。
かたやすさまじい突風を身に纏う細身の竜。実体があるのかないのか、どちらとも判別しにくい透明な鱗で全身を覆い、鋭いかぎ爪と鋭利な牙をむいて虫たちを威嚇している。小さな前足には、片方の竜と同じように宝玉をもっている。その色は竜自身の双眸と同じ、鮮やかな緑柱石の輝きだ。
二匹が牙をむいて虫たちに威嚇し、長い身体でもってお目当てのものをがっちり守っているので、虫たちは迂闊に近づけない。だが、彼らは諦めた様子もないらしく、虎視眈々と機会を窺っている。
「一体なにがあったんだ?」
素朴な疑問を投げかけてくるアイラだが、ゲドも返す答えを知らなかった。
「それは虫にでも聞かなければわからん。
……だが、一つ言えることがある」
ゲドの意外な言葉に、アイラは目を丸くする。
「それは?」
好奇心旺盛な子犬のように純粋な輝く瞳で見つめられて、いささか脱力感を感じつつ、ゲドは腰に帯びた剣を抜き放つ。
「あれをどうにかしないことには、この騒ぎはおさまりそうもないということだ」
過去に感じたことのある、紋章の気配。しかも一度知れば、二度と忘れようもない強烈な存在感を持つ紋章。
(まさか、彼女が……?)
ありえないとわかっていながら、どこかで期待してる自分がいる。
そのことに気付かされ、ルックは自嘲気味に笑みを漏らした。
そして、自らを叱咤する。
今更どんな顔で彼女に会おうというのか。
すでに自分の両手は汚れている。それどころか、多くの人間を騙している。
多くの罪なき人間を屠ったのだ。
それでなお、彼女に向ける顔があるというのか。
「……それでも」
会えるうちにもう一度、会っておきたい。
おそらく。この機会を逃せば、二度と会えないだろうから。
感傷に浸りつつ、現場へと足を踏み入れてみれば。肝心の現場は、正直、洒落にならない状況になっていた。
召喚された二匹の竜。この世界では異形とするに値する存在。
それこそ、彼女が習得した魔術の集大成の一つであることは知っていたが、こうして目にしてみると……たいしたものだ。
「極限まで高められた上級紋章の魔力と、彼女の額の紋章の特性を利用してこそ可能になる、高等召喚術……か」
「ルックさま? あれをご存じで?」
セラがこちらを振り返ってくる。
胸の内で呟いたつもりだったのだが、声に出ていたらしい。
「まあ、一応…ね。」
適当に言葉を濁してすませる。
隠し事をするつもりではないが、昔のことを全てをセラに説明する必要もない。
それに、今は。
「あれをどうにかする方が先だよ」
見れば、先程の傭兵が剣を引き抜いていた。
何をする気か知らないが、おおかたあそこにいる竜をどうにかするつもりだろう。
簡単にどうこうできる代物ではないが、それをさせるわけにはいかない。
「下がっていろ」
後ろから命令口調で声をかけられて、ゲドとアイラは振り返る。
そこにいたのは、異形の仮面を被る神官将と彼に付き従う謎の美女だ。
「私たちでなんとかする。お前達は下がれ。怪我をしてもいいなら、構わないが」
「なん・・・!」
アイラが食ってかかろうとするのを、ゲドが制する。
「しかし、神官将様のみを危険にさらすわけにはいきません」
ゲドはなんとか食い下がろうとするが、とりつく島もなく、仮面の神官将はそれを一蹴する。
「危険はない。下がれ」
ここまではっきり言い切られては、ゲドに為す術はない。
もとより、ハルモニアの傭兵である彼にとって、神官将の命令は無視出来るものではないのだ。
「…下がるぞ、アイラ」
「…あ、ああ……」
釈然としないものを感じながらも、他に打つ手もなく、二人はおとなしく下がる。
「セラ。虫たちを追い払いたい。頼めるかい?」
視線は二匹の竜に向けたまま、ルックはセラに問いかける。
セラはチラリと虫たちの方へ視線を向けて、杖を静かに構えた。
「はい。傷つけない程度に驚かせるくらいでよろしいですか?」
「ああ」
ルックが頷くと、セラはすぐさま呪文の詠唱に移る。
「……焦がれる情熱と共に、灼熱なる朱よ、螺旋を描け!!」
――――踊る火炎。
セラの放った火炎は、竜と虫たちが対峙する空間の間で弾けた。
炎はたちまちで大きく燃え広がると、辺り一帯に存在する全てのものを無差別に巻き込みながら、更に遠くへと緋の腕を伸ばし、虚空に朱緋の華を咲かせていく。
その様子はさながら踊る舞姫のように、軽やかでしなやかな動きを見せる。
虫だけあって炎に弱いのか。虫たちは、踊る炎に巻き込まれないように慌てて踵を返し、我先にと逃げるように去っていく。
そして、ほどなくして彼らは完全に姿を消したのだった。
一方の竜たちも、威嚇する相手がいなくなったことで落ち着いたのか。周囲に見境無くふりまいていた強烈な殺気は、みるみるうちにおさまっていく。
その頃を見計らって、ルックは竜たちのいる方へ近づいていった。
近づいてくる新たな存在を認めると、龍達は再び威嚇の咆吼をあげ、強烈な殺気を辺り一面に撒き散らし始める。
「…ルックさま?!」
ルックの身に危険を及ぶことを懸念したセラが、慌てて杖を構えようとする。
しかし、彼は片手を挙げてそれを制した。
そうして威嚇の声を上げる二匹に視線を向け、静かに語りかける。
「異界の紋章よ、汝が主の盟友の姿を見忘れたわけでもあるまい。牙を退け」
ルックの言葉に、思い当たる節があったのか。竜たちは、明らかな動揺を見せる。かと思うと、次の瞬間には彼らの姿は綺麗さっぱりと消えていた。
竜たちが完全に消え去った後には、一人の少女が残されていた。
グラスランド風の旅装束に、背中を流れる黒い髪。どこにでもいそうな、いたって平凡な顔立ちの少女だが、ルックは彼女のことを見知っていた。
この世界の創世に関わる27の紋章のうち、最も『異端』とされる力を司る異端の神。彼女は、『異界の紋章』の継承者になるために、異界から召喚された継承者である。同時に、デュナン戦争の際には『破壊神』の異名をとった凄腕の魔術師だ。
かつての知り合いの姿を目にして、ルックは呆れたように息をつく。
「全く…。虫嫌いな人間がどうしてわざわざこんな村に来るんだか」
口調はぞんざいだが、響きは不思議と柔らかい。
彼は大地に横たわる少女を抱き上げると、あっさりと踵を返す。
「ルックさま、その少女は…?」
セラが訝しげに尋ねてくるが、ルックは口の端をわずかに歪めてあっさりと答えた。
「昔の知り合いだよ。あのままあそこに放っていくわけにもいかないだろう?」
その答えに彼女は不満そうな表情を一瞬見せるが、すぐにそれは隠れてしまう。
セラに出来たのは、無表情のままでただ一言。
「…そうですね」
と当たり障りのない答えを返すだけだった。
仮面の神官将に抱き上げられて連れて行かれる少女には、見覚えがあった。
「…?」
「ゲド?知り合いか?」
不思議そうに尋ねてくるアイラに、上の空のままで答えを返し。
彼の視線は、仮面の神官将の腕の中にいる少女の姿を追っていた。
*後書き・・・
・ゲーム通りに書くといいつつ、いきなりそれてますね。
というより、ヒロインの存在自体がオリジナルである以上、
オリジナルな要素が入らないのは無理というもので。
そのわりにバリバリオリジナルで書いてるけどさ〜。
だって夢小説だし?私の妄想の世界だし?
いいじゃないですか!!!
そういやこれを書いてる時点で、
まだ幻水2の方では炎の英雄達にあってなかったりするんですよね。
そこまでいかせなきゃいかんではないですか!!
でも、とりあえず載せてみたり。