01. 転移した先は、人と虫が共存せし村




泣き寝入りなんてしたくない。
自分のできる限りを尽くして、願いを叶えたい。
生きていていけないひとなんていないもの。
どんな理由があったって、今ここに生きているなら生きるのは当然の権利でしょ?

だから、私はあなたと一緒にいくの。
あなたが決めて信じた道を最後まで見届けるために。

そしてーーーーーー

我が儘な神からあなたを助ける、そのために…。






「ありゃりゃ…」
 ふと気づけば、真っ暗な空間を落ちていた。
それも、ひたすら、真っ逆さまに。

 だけど、はけして取り乱したりはしない。
 これは自分に宿る紋章が何かに導いてるだけだから。



 そして、暗い空間の先に真っ白な光が見える。

(ほらね、出口が見えてきた)

 さてさて先には何が出ることやら。

 そう思いつつも、は口に浮かぶ笑みを抑えることが出来ない。
久々に感じるスリリングな感覚がひどく心地よくて。




 落下運動の終着点は、意外とすぐにやってきた。
いきなり明るいところに出たもんだから、目はまだ視力が完全に戻ってない。
だけど、お尻に感じた落下の感触は確かに感じ取っていた。
とにもかくにも、自分は無事らしい。


 視力が戻っていないので、いまいる場所は全く把握できない。
 頼りになるのは、五感のうち「聴覚」くらいだろうか。

 そこで、視力が回復するまでの間、耳を澄ませてみることにしたのだが。

 ジジッ、ジジジッ、ギチギチギチギチ・・・・


(何この音?)

 聞こえてきた怪しげな音に、は訝しげに眉間にしわを寄せる。
怪しい奇妙な音ではあるが、彼女はこの音にどこか聞き覚えがあった。

(あ、そうだ。ハエやハチの羽音に似てるのよ!)

 セミの羽音にも似た、耳障りな不快音。
時折聞こえる「ギチギチ」という音は、全く聞き覚えが無い。
もしも昆虫の顎をすり合わせる音が聞こえるとしたら、丁度今のような音になるのだろうか。


(……まさかっ、こっ、昆虫!!!!????)


 の全身に冷や汗が吹き出す。妙に嫌な予感がしていた。
は慌てて目を擦ると、鼓動の音が段々と早くなっていく。

 ひとまず、ここがどこだか把握してしまわないと、何をするにも身動きが取れない。
そう考えたは、まずは状況を把握しようと、辺りを見渡す。

 辺りを見渡すが…、思えばそれがまずかったのだ。

 次の瞬間、の視線はそいつとバッチリ合っていた。
ファッションセンスを疑う(人のことは言えない)どぎつい色彩に彩られるのは、日光を浴びて黒光りする固そうな身体。その大きさは、ゆうに大きな虎くらいはあるだろうか。しかしその巨体の割に、正面についた二つの眼は黒豆のように小さい。背からつき出す二枚の羽は、鈴虫の羽根にもよく似ているものの、擦り合わせると無駄に耳障りな音を立てる。ギチギチ音の鳴る顎は、カブトムシのそれによく似ているだろうか。
一言で言うならば、「どことなくカブトムシに似た、三頭身の巨大生物」である。


カブトムシ=昆虫。

 ………(頭、真っ白)。


「ぎゃああああああああああっっ!!!!!」

気づけばは、渾身の力をこめて両手の紋章を発動させていた。





 ルビークの村の外れに位置する学術指南所。
村人達は神官将一行の部屋を宿に用意してくれていたが、人の出入りが少ない方がよく休める、という理由でもってココを強引に貸し切っていた。ちなみに、学術指南所で学術指南を営む一家には、しばらく宿に逗留して貰うことにした。(無論、その間の宿代は全てこちら持ちである。)

 神出鬼没なユーバーは例によって姿を消していたし、アルベルトも野暮用があるとのことで、現在別行動をしていた。
 そばにいるのは、ある意味気心の知れたセラだけ。
そこでようやくルックは一息ついた。

 正直、ユーバーとアルベルトがいると気が張りつめてしまい、必要以上に疲れてしまう。

「ルックさま、お茶をお入れしましょうか?」
 疲れているルックを気遣って、セラが尋ねてくる。

「……少し、くれるかい…?」
 喉が渇いて仕方ない、と溜息をつくルックを、セラは安堵した表情で見つめていた。
が、すぐにお茶を入れるために台所へ入っていく。


「…『神殺し』……か、許されざる大罪だな…」

 世界を司る真なる27の紋章は、いわば神と同等の存在。
その一つである真なる風の紋章を、自分はこの手で破壊しようとしている。
全ては、いずれ訪れるであろう灰色の未来の到来を防ぐため。

 とはいえ、自分のしていることは、けして『善』とはいえないだろう。
目的のためだけに、関係のない者たちの命を数多く奪っているのだから。

「もし僕のやっていることを君が知ったら、なんていうだろうね…」
 ふと脳裏に浮かぶのは、黒髪黒目の少女の姿。
異世界から来たという彼女は、非常に変わった思考をもっていたが、曲がったことや悪いことをとことん嫌う正義感の強い面もあった。
 世界を救う為とはいえ、罪のない人々の命を奪った自分に彼女はどんな態度をとるだろう。


「どうぞ、ルックさま」
「ああ、ありがとう」
 紅茶の入ったカップが目の前に置かれると、ダージリン特有のふくよかな香りが辺りに満ち溢れる。
一口飲めば、ほどよい渋みと甘みが口の中に広がっていく。鼻に抜ける香りは芳しいバラの香りだ。
身体の中に満ちていくあたたかな香りとぬくもりに、少しだけ気持ちが落ち着いていく。

 それでも、心の奥底に潜むかすかな良心を突き刺す棘を抜くには至らない。

「セラ、時の流れの到達する場所、世界の終焉がきみには見えるかい?」
 そばに立っているセラを見上げれば、セラは怪訝そうに言葉を返してくる。

「この世界の、終焉ですか…?」
「ああ、そうさ。未来が終わる瞬間、それがきみには見えるかい?」

 セラは少し沈黙した後、静かに首を振った。

「わたしに宿る力は、そのような大きなものではありませんので…。
ルックさまには、それが見えるのですか?」

「見える…というよりも、真なる風の紋章が覚えている、そういうことかな…」

「それは?」
 セラはやや怪訝そうな顔をして見せた。
ルックはここでセラに向けていた視線を外し、テーブルの上に置いた両手に視線を落とす。
そして険しい表情のままで静かに言葉を紡ぎ始めた。

「世界の究極の結末は…」
ドガガガガガッン!!

「法の力と混沌…」
ギチギチギチギチギチギチギチ・・・

「そこに、人の…」
ズガゴゴゴゴッッッン!!!


「「…………」」


「やけに騒々しいね」
 ルックは、はぁと疲れた疲れた溜息を漏らした。

 仕方あるまい。真面目な話をしているところに、思いっきり横槍を入れられたのだから。

「はい、ルックさま。セラが見て参りましょうか?」
 疲れているらしい彼をいたわって、セラが部屋を出て行こうとする。

 しかしルックは椅子から立ち上がると、横に置いてあった仮面を付ける。

「いや、僕も行こう。人の話に横槍入れる馬鹿には、それ相応の天罰が必要だろう?」
 右手の手袋をギュッと入れ直す彼の姿を見て、セラは何も言わずに扉を開け、道を譲った。

(わたしは百万の命より、ルックさまを選んだのですから…)

「…はい」

 要するに、なんのことはない。
 セラは、ルックの気晴らしの為に、騒ぎを起こしている人間を生け贄に捧げたのである。




*後書き・・・
・EDに絶望し、けして手を出すまいと思っていた幻水3ゲームストーリィ。
ついに書き始めちゃいましたよ。もちろんルック救済の為に。
本当はあのEDも彼の選んだ選択なのだから、そのままのストーリィでいっても良かったのですが、さすがに辛い!!!!
書くより先に自分の心がまいっちゃうなと判断して、今の今までゲームストーリィは禁忌の領域だったのですがね。
開き直りました。
夢小説は、乙女の・・というか作者の妄想!!
なれば、自分の心のままに思いのままに書くべし書くべし!
さらに一度神殺ししてるし、もう一回殺すのも別にねぇ〜、という判断から
(短編「神々の魂すらも打ち砕き」参照)神殺し決定!!!!
そしてこの連載を始めました。
ヒロインは異世界ヒロインを使うことに。彼女なら好き勝手動いてくれるし、ギャグっ気満載になりそうだったので。
・・・非難・苦情が来ないことを祈りながら、書きます・・・・。