No.1...「ぎ、義理よ、義理! 」



 護廷十三隊の隊長を務める人種は、実に千差万別。
いろんな意味でバラエティーに富んでいる。

一番隊→仙人並みの髭と寿命を持った(推定)厳格そうな頑固爺。
二番隊→冷静沈着・鉄面鉄皮の熟語が似合うボーイッシュな麗人。
三番隊→目が開いてるのか閉じてるのかわからない、細目の狐っぽいお兄さん(美形)。
四番隊→慈愛と母性の象徴・聖母マリア様を彷彿とさせる白衣の女神様。
五番隊→常に笑顔を絶やさない某韓流俳優モドキさん。
六番隊→気品と威厳溢れる、高貴かつ神々しい美貌の主様。
七番隊→いつも顔を隠す大柄でどっしりとした狐さん。
八番隊→酒好き・女たらしの尸魂界一の伊達男もとい、なかなか渋いおじ様。
九番隊→正義感厚い盲目の青年(接点がないのでイマイチよくわからない人)。
十番隊→天才児と誉れ高い、可愛い少年(本人の前では禁句)。
十一番隊→組長もやくざも不動明王も裸足で逃げ出す悪人面(コラ)。
十二番隊→人外魔境。
十三番隊→人望有り、人柄良し、義理がたいの三拍子揃った好人物。性格、顔共に良し。天は二物をも与えんと言いたいところだが、生まれつきの持病は天が与え賜うた試練なのか。

 以上、全て私ことの独断と偏見に基づく隊長紹介でした。

 さて。これらの隊長たちの中でも知名度が高いのは、文句なしに六番隊隊長・朽木白哉様だろう。なにせ朽木家は四大貴族筆頭の家柄で、白哉様は朽木家の現当主でもあるのだから。
 そしてもう一人、若年ながら他の隊長たちと肩を並べる実力者で、氷雪系最強の斬魄刀を所持する至上最年少の十番隊隊長・日番谷冬獅郎。
彼もまた、おそらく知名度は高いと思われる。

 多分、本人にとってはこの上なく屈辱だろうけれど、「背の小さい隊長さん」として。



「こんにちは〜、日番谷隊長はいらっしゃいますか? 」

 本日私がやって来たのは、可愛くて小さな隊長さんが統率する十番隊の隊首室。隊首室というのは、文字通り隊長格の人が与えられた一部屋のことで、いわば隊長専用の執務室のことだ。
書類整理を主とする十番隊は文字通り、書類整理に忙殺されていた。その中で、私は邪魔にならないように通り抜けて、こっそりとようやく目的の場所――十番隊隊首室に辿り着くと、とりあえず障子を閉め切った部屋の中目がけて声をかけてみた。

 反応は………ない。

「……留守? 」
 ならば仕方ないかと踵を翻そうとすると、中から声が帰ってきた。

「用があるならさっさと入ってこい」
 ぶっきらぼうで、いかにも機嫌の悪そうな少年の声がする。
とはいえ、ここの隊長が不機嫌そうにしているのはいつものことなので。

「それじゃあ、お言葉に甘えまして。失礼しま〜す! 」
 さほど気に掛ける事もなく、お言葉に甘えて私が中へ入ると。
隊長のいるであろう机の周りには、大量の書類が山のように積み上げられていた。

「ったくいい気なもんだぜ。こっちは忙しくて猫の手も借りたいってのに」
 書類の山の影からひょいと顔を出したのは、まだ幼さを残した少年だ。
月光を集めて織りなしたように見事な銀色の髪に、生命力溢れる輝きを宿す鮮やかな一対の翡翠。機嫌がいささかよろしくないのか、眉間に皺を寄せたその表情は実に見慣れたものではあったのだが、それが持ち前の端整な美貌にいささか翳りを落としている。
つくづく勿体ない。勿体ないけれど、逆にその翳りが彼の美貌に更なる味を持たせている事もまた事実である。

「相変わらずの書類の山だね〜、冬獅子君。君も若いのに大変だ、うん」
 しかめっ面で出迎えてくれる部屋の主に手を振って、私はさくさくと中へ中へと足を進めていく。

「冬獅子じゃなくて冬獅郎だ! ったく、何度言えばわかるんだてめぇは! 」

「別にいいじゃん、冬獅子君で。子ライオンみたいで可愛いし」
 怒鳴る相手のすぐそばに腰を落ち着けると、私は冬獅子君の髪に手を伸ばし、わしゃわしゃと撫で回す。一見すると硬そうに見える銀髪だが、実は触ってみると意外にも柔らかいことを知っている人間はそう多くないことだろう。

「邪魔するだけで用がないならさっさと帰れ! 」
 厳しく言い放つと、冬獅郎君は頭を撫でる私の手を払いのける。

「……じゃあ、シロちゃん? 」
 彼の幼馴染みである雛ちゃん(雛森桃)が昔呼んでいた呼び名で呼ぶと、彼はカッと耳まで赤くなって怒鳴る。

「その名前で呼ぶな!!! 」

「それじゃあ、ひっつん? 」

「ふざけるな! つーか、お前は普通の隊員だろうが! 日番谷隊長と呼べ!! 」

「意外に上下関係に五月蠅いよね、日番谷隊長って」

「お前にだけは特別だ。で、何の用だ」
 付き合うのも馬鹿らしいとばかりに、書類整理へと神経の半数を集中させ始めた冬獅郎君は、ぶっきらぼうこの上ない言いぐさで言い放つ。

「……今日がどんな日だってことは、日番谷隊長でもご存じよね? 」

「俺でもってのは、どういう意味だ」
 冬獅郎君は、ムッとした表情で書類から顔を上げる。
この辺がまだまだ詰めが甘いというのだ。朽木隊長なんて、私の話す事を聞いてるのか聞いてないのか。書類を片づける手を全く止めないままで、私と会話してるぞ。いつも。

「ウブで雛ちゃんラブなのに未だ告白も出来てない一途な少年は、あんましこういう行事には興味なさそうだから。あ、でも乱菊さんから無理矢理聞かされてるよね、きっと」

「……てめぇの妄想に俺と雛森を巻き込むな。つか、何度もいわせんな。雛森は身内みたいなもんで、そういう色恋沙汰とはまるで関係ないんだよ」
 心底ウンザリと吐き捨てる冬獅郎君の態度から見るに、やはり『冬獅郎君→雛ちゃん』という公式はたいていの隊員たちの頭にインプットされた情報であったようだ。

「身内って事は、雛ちゃんが奥さんって事でしょ? 」
 多分冬獅郎君は、家族(姉弟感覚なのかな)として雛ちゃんが大事なんだろうけどね。家族の中には、“妻”だって含まれるわけで。私は彼の言いたい事を十二分に知っていながらも、敢えてからかう為に言ってみたのだが。

「阿呆」

 一言できっぱりと叩き返されてしまうと、さすがに二の句が継げなくなる。

「……つれないなぁ、冬獅郎君は。もうちょっとお姉さんと遊んでくれても良いのに」

「誰が“お姉さん”だ。女神見習いだがなんだか知らないが、俺より実年齢年下だろうが」
 いかにも偉そうにーー隊長だから事実偉いのだがーー腕組みしながら、あっさりと言ってのける。

「まあそれは置いておいて。今日は“何の日”でしょう? 」

「知るかよ」
 対する冬獅郎君の答えは、即日回答ならぬ即瞬回答だった。

「乱菊さんから聞いてないの? 」

「知らんと言ったら知らん。松本が何か言ってた気もするが、全部聞き流してたからな」

「おやおや。若いのに勿体ないなぁ」
 可愛い、可愛いと柔らかい銀髪をわしゃわしゃと撫でくり回してやれば、やっぱり冬獅郎君はいい顔をしない。それどころか、撫でてた手を無理矢理引き剥がされた。

「おやじみたいな事言ってンじゃねぇよ。
言う事がおやじくさくなってるぞ。浮竹と一緒にいるせいか? 」

「浮竹隊長は関係ない! てか、隊長のどこがおやじよ! 京楽隊長ならともかく!! 」
 確かに私は浮竹隊長の定期往診係をしているし、ぶっちゃけ彼とは恋仲でもあるわけだから。当然面識もあれば、一日に会う時間も非常に長い。だけど誓って言うが、浮竹隊長はベタベタのおやじ的な話し方はしない。やや子供っぽい一面もあるけれど、基本的にあの人は爽やか系好青年だ。それでいて話し方は、年を相応に重ねた大人そのもの。
しかし、断じておやじではないし、おやじ的話し方などしない。
おやじというのは、浮竹隊長の同期であるセクハラ隊長…もとい京楽隊長のことを指す言葉だ(断固断言)。

「………で、今日は“何の日”だって? 」
 こちらへ向けられる冬獅郎君の視線は、やけに冷たい。

「今日は恋する乙女が意中の男性にプレゼントをあげると共に想いを告げる日なのよ! 」

「で? 」

 盛り上がりに欠けるリアクションだなぁ……もぉ。

「で、って言われても…。
てか、冬獅郎君なら女の子からいろいろもらってんじゃないの? 」

 もらってねえよ、なんて答えが返ってくるのを予想していたのだけれど。
返ってきた答えは、私が全く予想していなかったものだった。

「全部返した」

「はあ?! 」

「その想いとやらに応える気もないのに、物だけもらえるかよ」
 きっぱりと告げる冬獅郎君の言葉には、真摯な色が見え隠れしていた。
バレンタインそのものの意味は知らなくても、彼に物をあげるついでに想いを打ち明けた乙女の心を、彼なりに真摯に受け止めていたのだ。

 つくづく大人な考え方の出来る人だ、冬獅郎君は。

「………ほんと、冬獅郎君って時々、大人よりもよっぽど大人だよねぇ。
それとももしかして、誰かもらいたい人がいるとか? 」
 心底感心していたのもほんの束の間の事。
すぐに私は、再び冬獅郎君からかい体勢に入る。

「いねぇーよ」

「勿体ないなぁ…。でもそれじゃあ、私も渡すのやめとこ。
どうせ受け取ってくれないんだろうし、あとで自分で食べて……」
 現世で材料調達して、手作りで作ったチョコだけれども。
突き返されるとわかっていて、わざわざ渡すのもなんだか気が引ける。

 やれやれと、私は重い腰を上げて部屋を出ようとするが。

「誰も受け取らないとは言ってないだろうが」
 向けた背にかけられた言葉に、私はその場で足を止めた。
相変わらず不機嫌そうな声音ではあったが、それ以外の響きも無意識に感じ取れたような。

気のせいかもしれないが、そう、感じたのだ。

「さっきは全部返したって言ってたじゃないの」

 言ってる事が矛盾していることを指摘してやれば、なぜか彼はそっぽを向いてしまう。

「お前は例外だ」

「………なんで? 」

 単刀直入に聞いてみれば、冬獅郎君は頬を真っ赤にして怒鳴りつけてきた。

「うるせぇ、渡す気があるならさっさと渡せ、その気がないなら帰れ! 仕事の邪魔だ! 」

 なんで怒鳴るかな、そこで。

「………素直じゃないなあ。はいこれ。ところでこれ、義理でしょうか、本命でしょうか?
当ててご覧。当たったら、今日の運勢は大吉です♪ 」

、てめぇ……あくまで俺をガキ扱いしやがるつもりか」
 ただお茶目で言っただけなのに、なぜかあからさまに不機嫌になった冬獅郎君は眉間に皺を寄せる。別に私は子供扱いして言った訳じゃあないのにさ。

あのね、冬獅郎君。そういうのを“被害妄想”というのだよ?

「まあまあまあ。さあ答えてみよう! 」

「………義理」
 眉間に皺を寄せる数をより一層増やして、かつ不機嫌この上ないと言わんばかりの声音で、彼は一言できっぱりと当たりを言い当てる。

「おおっ、正解! よくわかったね?! 」

 パチパチと手を叩く私を、冬獅郎君は不機嫌を通り越し、不愉快そうに見遣る。

「……お前の“浮竹馬鹿”は、護廷十三隊にいるやつなら誰でも知ってるだろうが」

「そんなに有名なんだ〜」

 別に自分で言いふらしたつもりもなければ、浮竹隊長が言いふらすはずもないのに。
 なぜか気付けば、私たちが付き合ってることは周りに知れ渡っていたんだよな。

 ………なぜだろう? やっぱり私の態度があからさますぎるの?

「……ったく、あんなおっさんのどこがいいんだか」
 舌打ちして呟く冬獅郎君の言葉を、私はバッチリと聞き取っていた。


「日番谷冬獅郎君、今何か言ったかな? 」

 いくら冬獅郎君が私のお気に入りの一人だったとしても。
 浮竹隊長に対する悪口(ほか批難諸々)は、絶対に許さない。

 一瞬で倍増した霊圧をその身に纏い、目の笑っていない笑顔を浮かべて聞き返せば。

「………いいや。何にも」
 冬獅郎君はひどく疲れたような嘆息を漏らした。

「まあ、いっか。はいこれ。ハッピーバレンタイン、冬獅郎君♪ 」
 気を取り直して、私は懐からチョコの入った箱を冬獅郎君に手渡した。

「いっとくが、御礼は返さねえぞ? 」

「心配なく。もとより期待してないから」
 仏頂面で返してくる冬獅郎君に、私はニッコリと笑顔を浮かべたままで言い返す。

「…………ったく」
 折角プレゼントしてあげたというのに、冬獅郎君の表情は芳しくない。

「人から物もらっておいて、その顔はないんじゃないの? もっと嬉しそうにしてよね? 」
 思わずムッとして抗議する私だが、彼はそんな私にチラリと一瞥をくれただけだ。

「(義理でもらって嬉しいわけがないだろうが)」

 かすかに口元が動いたことから、かろうじて何か言ったらしいことはわかったが。
肝心の声があまりにも小さくて、私は全く聞き取れなかった。

「ん? 」
 なので、聞き返してみたけれど。

「なんでもねえよ。用事が済んだんならさっさと出てけ。仕事の邪魔だ」
 再び机に視線を向けた冬獅郎君は、まるで犬猫を追っ払うような仕草で私を追い払いにかかってくる。

「はいはいは〜い。言われなくても出て行きますよ」
 これ以上話をしても無駄だし、そもそも冬獅郎君への用事は済んだ。
なので私は、何も言い返さないまま、彼の言う通りにしたのだった。






「…………ったく。余計な期待させんじゃねぇよ、馬鹿が」
 呟く言葉は、彼の他に誰もいない隊首室の中に響いて消える。


それは、呟かれた言葉の荒さとは裏腹に。

聞く者の心を締め付けるような、ひどく悲哀の色のこもったものだった。




*後書き…
・バレンタインということで、お題をBLEACH夢で全て消化しよう企画!
オフ事情が忙しくなっても、相も変わらずな管理人でございます。
第一弾は、最近管理人脳内でひそかな萌えポインツの日番谷隊長です!
…といいつつ、実は日番谷隊長→ヒロインという一方的なものだったりしますが。
書いてるうちに、すっかりこの子は浮竹隊長LOVEになっちゃったので…(汗)。

と言いつつ、両想いバージョンの日番谷夢も書きましたけど。
おまけ夢がそうです。よければ、そちらも見てみて下さいね。

(06.02.11up)
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