は少年の手のさす方向を見た。
 なにやら、人が出てくる。

 じーっと、彼女がその方向を見ているので、少年は。
 「良かったら、一緒に行く?」
 と言ってくれた。

 はにっこりと笑って。
 「えぇ」
 そう言った。

 会ってみたい。
 その、秀麗師という人に。



「藤華の麗し乙女」〜其の姫、藤の花房にごとく



 「姫様っ!」
 年嵩の侍女が静止しようとしたが。は目を伏せ、白く長い指を唇の前に置いた。
 彼女のこの仕種から察するに。

 (お父様やお兄様には内密に)
とのことだった。

 「姫様」
 はにこりと笑うだけで、自分の意思を曲げようとはしなかった。
その行動に、侍女は半ば呆れるように息をついた。

 「すぐに、戻ってきてくださいませ」
 その言葉に、は笑みを深めて、その少年と一緒に少年が指していた方向へと足を向けた。

 が少し見えなくなると、侍女ははぁとため息をついた。

 昔からだ。
 彼女が、こう自分の意志を曲げないのは。

 物心つく前に、母親と死別したった一人の姫ということで可愛がられてきたから、時々、こうやって意志を曲げないのだ。 いつもは淑やかで、大凡人の話を良く聞く良い姫なのだが、この性格が少し困りものだ。 まだまだ、自分の受難は続くと思い、侍女は本日何回目になるかわからないため息をついたのであった。





 「あなたの名前は何ておっしゃるの?」

 「俺?俺は柳晋!あんたは?」

 たぶん、あの侍女がいたら、『姫様に向かってどのような口を聞くのですか!身分を弁えなさい!!』などと言われるだろう。

 あんた、といういつもは呼ばれない新鮮な呼称に、はくすりと笑った。

 「私?私はと申します」
 新鮮な呼称に、はうっかり姓まで告げてしまったが、彼はさほど気に留めなかった。

 「へー、綺麗な名前だね。あんたに良く似合ってる」

 「ありがとう」

 飾らない、ほめ言葉が少し嬉しかった。


 「ほら、そこが秀麗師の家だよ!」
 指を指して、彼は案内してくれた。
ずいぶん、古びている。所々、崩れたり剥げたりしている。

 「しゅーれーせんせー!!」
 柳晋が声を張ったので、一瞬驚いたが、少ししたらさほど自分と変わらない年頃の少女が出てきた。





*後書き…
 良家のお姫様、ということで淑やか?なお姫様を目指してみました。
 あまり、なってないような気もしますが……。
 書かせて頂き、ありがとうございました。
 それでは次の方・よろしくお願いします。



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