■真夏の午後のひととき〜よりよい快適な昼寝法〜
まるで真綿にくるまれているような心地よい安堵感。
すぐそばに感じられるヒンヤリとした感触がどうしようもなく気持ちよい眠りを守り続けてくれる。浅く繰り返す呼吸は、あたたかで優しい風を身体いっぱいに満たしていく。
(ずうっっっと、このままでいられたらなぁ……)
永遠に続くものは存在しない。この心地よい眠りはほんのひとときの夢時間でしかない。
わかってはいる。それでもは、願わずにはいられなかった。
「んぅ…」
はかすかに身じろぎをすると、ぼんやりと身体を起こした。
どうやら自分でも気づかないうちに眠っていたらしい。
耳に届く小鳥のさえずりと風の音。木々の葉が擦れてかすかな音を立て、まるでさざめきのような音色を奏で出す。
そう、ここはもう現実の世界だ。
ずっといたいと思わずにはいられないほどに心地よかった微睡みの世界。だけど、結局は現実世界に戻ってきてしまったのだ。
は猫のように伸びをすると、まだ完全に開ききっていない目を何度も擦る。
すると、擦っていた手を捕らえられた。
「そんなに目を擦るな。傷が付く」
声と同時にひんやりとしたモノがのまぶたに触れる。
「まだ眠いならおとなしく寝てろ」
物言いはいささか乱暴だが、声音は優しい。
まるで清流の水のように澄み切った響きをもつテノールヴォイス。その声は不思議との心に容易く入り込み、不思議と安堵感を与えてくれる。
まだ頭のハッキリしていないは、その声の主に甘えるようにすがりつく。
身体を取り巻く、澄み切った清らかな風。
乱暴ではあるけれど、優しい声。
肌に触れる心地よいヒンヤリした感触。
(え、えっと……)
半分微睡みの世界に引き戻されながら、は必死で考える。
自分の隣にいるのが誰なのかを。
しかし。
結局眠気に負けて、は諦める。
(……まぁ、いっか………。)
そして身体を徐々に包み込んでいく心地よい感じに、ゆっくりと身を委ねた。
ところが………。
「やめなさいって言ってるでしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
不意に、けたたましい叫び声が辺り一帯に響き渡った。
その声の大音量に驚いて、は飛び起きる。
「なっ、なに今の?!」
まだ半分寝ぼけた頭でキョロキョロまわりを見回していると。
不意に誰かの手がの後頭部にまわる。ほぼ同時に腕をつかまれ、引き寄せられた。
「な……っ!」
そしてされるがままに、唇を奪われる。
重ねられた唇はヒンヤリしていた。
強引にされた口づけだというのに、不思議と嫌な感じがしない。むしろ気持ちがよくて、ずっとこのままでいたいとさえ思う。
それでも、しばらくして唇は離れてしまう。
気づけば瞑っていた目を開けば、ほぼ至近距離に一対の鮮やかな宝玉が映る。
どれほど研磨された宝石でも表現できない、生命力溢れる鮮やかでまばゆい輝き。極上のブルートパーズの瞳は、あたたかい光を宿していた。
「目は覚めたみたいだな」
耳に響くのは心地よいテノールヴォイス。
優しくの髪を梳いてくれるその人の髪の色は、銀とも金ともつかぬ淡い色彩だ。
「ソール…」
は彼の名を唇に乗せる。そして無意識のうちに、彼女の指はブルートパーズの輝きが美しいイヤリングに伸ばされていた。
指先に伝わる冷たい感触。それすらも愛おしく思えるから不思議だ。
(ソール…、愛しい風の王子……)
本来彼女の在るべき時代では、けして言葉にすら出来なかったひそかな想い。
原初の女神の血を受け継ぐ生粋の巫女として生まれたには、彼女の遠い祖である原初の女神以外の者を想うことは一切許されなかった。
それは、人ではない…精霊と呼ばれる存在であったソールもまた、例外ではなかった。
風の魔術師が至宝と戴く宝玉シルフソードは、世界に存在するありとあらゆる風を支配する風の精霊王。彼の主となるには、人並み外れた魔力の持ち主であり、宝玉自身に自らが主となることを受け入れられることが必須条件となる。
はシルフソードを手にするだけの条件を全て兼ね備えながらも、原初の女神の血を色濃く引くがゆえに彼の主になることは出来なかったのだ。
あくまで彼女は、原初の女神に仕える巫女であり、全てを女神に捧げていたから。
それがの望むものでなかったとしても。
彼女に選択権は一切なかったのだ。
現在、の元にシルフソードが存在するのは、ここが本来彼女の在るべき世界ではないから。なんの因果か未来の世界に飛ばされてしまったは、元の世界に帰れる方法がみつかるまでの間だけ、シルフソードの主となることを許されたのだ。
(ずっと帰れなくていいのに…)
たとえ歴史が変わってしまったとしても。
原初の女神の意志に背くことになろうとも。
愛しい王子をこの手にできるのなら。
どんな罰でも受ける覚悟はあるのだから……
そんなことを考えていたは、頭を振ってそれらを打ち消すと、ソールの頬に手を触れながら、実に上機嫌な様子で微笑んだ。
「やっぱり暑い時には、貴方にくっついて寝るのが一番気持ちいいわ」
暑いさなかの昼寝より快適にするため、はあろうことかソールに抱きつくことで涼をとっていた。彼女は、木陰に腰を下ろして休んでいたソールを見つけるやいなや、了解も取らずに彼に抱きつき、そのまま眠ってしまったのである。
対するソールは実に複雑そうな表情をしていた。
「…宝玉を暑さしのぎに使うなんて、お前くらいだろうよ……」
「いいじゃない。使えるものは使わないとね」
キッパリと言い切るを抱き寄せながら、ソールは苦笑いを浮かべる。
「実にお前らしい」
「それは褒め言葉と受け取っていいのかしら?」
は微笑みながら、ソールの首に腕を回す。
「好きに解釈すればいい」
ソールはぶっきらぼうに言い放つと、そのまま誘われるようにに口づけた。
*後書き・・・
・限りなく甘甘です。会話がいささか少ないですね・・・。
一応こちら、ひとみ様よりのリクエストで、相手はソール弟でした!!
ひとみ様!リクエストありがとうございました!!!