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界を越えて〜霊界の堕天使


荒れ狂う乾いた風の吹き荒れる荒野。
霊界サプレスのなかでも特に環境の悪いそこは、
数多い悪魔のなかでも「虚言と奸計を司る魔王」として名を馳せる上級悪魔
メルギトスが君臨していた階層である。

もっとも現在、階層の主はここを留守にしていた。
リィンバウムに降り立ち、何らかの目的のためにかりそめの身体を手に入れて様々な場所に暗躍しているという。
吹き付ける風は強い瘴気を含み、ひとたび身体に取り込めば生きとし生けるものは一瞬で屍と化すだろう。いやたとえ悪魔だとしても、下級悪魔ならばこの風にあっさりと命奪われることだろう。

そんななか、一人の女性が静かに佇んでいた。

銀色の長い髪は地にたゆたい、瘴気の風に吹かれて虚空を泳ぐ。
鮮やかな輝きを放つ深紅の瞳は、極上の紅玉すら遠く霞んでしまうような美しさ。
巨大な大鎌を片手に携え、漆黒のナイトドレスに身を包んだ彼女の背を、二翼の巨大な翼が鮮やかに彩っていた。
その翼の色は、瞳に連なる極上の深紅色だ。

「やはり、あやつはリィンバアムへ降りたっておったか・・・」
薔薇色の唇が紡ぎ出すのは、澄んだ鈴の音のように清らかな響きだ。
風に掻き乱される髪を乱暴に掻き上げ、大鎌を握る手を持ち直すと、
彼女は心底面倒くさそうに溜息を漏らした。
「めんどうじゃのぉ・・わざわざ結界を切り開かねばならぬか・・・」
そうして彼女は、静かに目を閉じる。
ほぼ同時に膨大な魔力が彼女の身体から立ち上る。
陽炎のように立ち上る魔力は、
彼女が司る力を映し出すかのような暗い漆黒の闇色。
それに応じるように彼女の持つ大鎌の刃が黒く染まっていく。
「我・・ここに古きいにしえよりの盟約を砕かん・・・我が力、破壊と虚無の名の下に世界を包む大いなるエルゴの力をもて・・・我が前に異界への門を印さ・・・」

不意に彼女の詠唱が途切れた。
同時に集まっていた魔力は、一瞬にして虚空へと霧散する。
深紅の双眸が細く見開かれ、愉悦のあまり彼女の口元にはわずかに笑みが浮かぶ。
「これはなんたる奇遇かえ?召喚の門が開かれようとしているではないか・・・」
そして、彼女─── 破壊と虚無を司る霊界の大天使は、自らの翼をはためかせて宙へ舞いいあがった。



「古き英知の術を我が声によって、今ここに召喚の門を開かん・・・」
紫色の髪の少女が手に持つサモナイト石が、彼女の言葉に応えるように紫の光を放つ。

「我が魔力に応えて異界より来たれ・・・新たなる誓約の名の下にトリスが命じる!呼びかけに応えよ、異界のものよ!!」
声に応えてトリスの持つ魔力が一気にサモナイト石に流れ込む。
と。
その力を行使したサモナイト石は、ひときわまばゆい輝きを放つ。
同時に落雷のような轟音と共に空間が裂け、異形の者がその姿を現した。
逆立った深紅の髪と同色の鋭い瞳。
いかにも生意気そうな顔つきをした子供である。
何よりも目を引くのは、その背に生えた骨張った翼か。
コウモリの翼を思わせる骨組みの見える翼の先には鋭い爪がついている。
まぎれもなく悪魔と思われるその子供は、不機嫌極まりない表情でまわりを見回すと、側にいたトリスに焦点を合わせた。
「オイ・・・冗談じゃねえぞニンゲン!!」
呼び出した子供にいきなり怒鳴られて、トリスはキョトンとする。
「へ?」
「よくも俺を呼びつけやがったな、高くつくぜぇ?この貸しはよォ・・」
子供らしからぬ不敵な笑みを浮かべて、彼はほくそ笑む。

そこへ。
「なにをいうておる。たしかに召喚されたことは不服かもしれぬがな、召喚された以上は腹をくくってはどうじゃ”狂嵐の魔公子”殿。」
「・・てっ、てめぇは!!」
明らかに狼狽した様子でコチラを振り向く悪魔の頭を大鎌の柄で思い切りドついてやると、少女は不遜な目つきで小悪魔を見下ろした。
「わらわが何者かわかってるのなら、もう少し礼儀正しい言葉を使わぬか。
ここがサプレスなら、おんしの身体は一瞬で砕けておるぞ。」
銀色の長い髪と極上の紅玉の瞳。美少女ではあるものの、傲慢不遜なその態度で魅力も完全にかき消されてしまう。
漆黒のワンピースとマントを纏うその背には、小さな深紅の翼がついていた。

「え・・?召喚獣が、二人???」
完全に取り残されていたトリスは、ようやく声を絞り出した。
それに気づき、少女の方がトリスを振り返った。
「うむ。ちといろいろと訳ありでな。
・・・何はともあれ、おぬしの召喚に応じたも同然なのだから、誓約の名の下、そなたの護衛獣となろう。わらわの名は、じゃ。主の名はなんという?」
「と・・トリス・・。」
「トリス殿じゃな。そら、小僧。おんしも名を名乗らぬか。」
「・・・バルレル・・」
「わかった!とバルレルだね!ところで、二人とも知り合いなの?」
持ち前の明るさを取り戻したトリスは、ニコリと笑顔を浮かべる。
「うむ。まあ、いろいろとな。」
「・・・俺の方としては、知り合いたくなかったけどな・・・」
トリスの問いには言葉を濁す。
バルレルはこっそりと本音を漏らし、に頬をつねられた。


と。
「ふはははは、二匹呼び出したと思えばたいしたことのない下級悪魔と下級天使か。果たして、役に立つのかどうか・・。何はともあれ、そいつらがお前の呼び出した護衛獣だ。これから最終試験を行う。そいつらと共に敵を倒せ。いいな。」
もバルレルも下級と言われてこめかみに怒りマークを浮かべるが、お互いに自粛して荒い息をつくだけにとどめておく。
「なるほど。あやつらを倒せばよいのだな?」
「うん。そうみたい・・。ごめんね、呼び出した早々。」
「なに、主殿が謝ることはない。
それでは、適当に料理してやるとしようかのぉ・・。」
「ケッ、憂さ晴らしに遊んでやらぁ!!」
殺る気満々で、バルレルが槍を構える。
も大鎌を両手で持ち直した。
「それじゃ、行くよ!」
サモナイト石を手にしたトリスの合図で、
皆は敵を倒すべく、敵に向かってかけだした。


「なにやら妙なことになったが、
とりあえずリィンバアムに来たのだからまあよしとするか。」

はふとひとりごちると、飛びかかってきたダークプリンを鎌で一刀両断にした。



世界の理を乱す者を殺す。
それが今回、に課せられた任務だ。
目標は魔王メルギトス。
虚言と奸計を司る彼のことだから、既に動き出しているだろう。
それを突き止めるためにも、自分の正体をばらさないためにも。
護衛獣をするのは、物事にプラスに働く。

一瞬脳裏を横切るのは、巫女装束に身を包む少女。
『二度と・・・彼女のような犠牲者を出すわけにはいかぬ・・・』
はかつて起こった悲劇を思い、口の端を噛みしめた。


*後書き・・・
・2連載ボツ作品の一つです。
主にオリジナルキャラのさんの説明メインですな。
個人的には、結構気に入ってたんですが、この子…。
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