フロト湿原の交戦(後編)
「さてと、あなた達の負けよ。」
「お前らのの正体とアメルを狙う理由、教えてもらおうか。」
未だに鎌を突きつけられたままで、イオスはトリスとフォルテに詰め寄られる。
ちなみにリューグは放っておくと、このまま自分の獲物を振り下ろしそうな勢いだったので、ケイナとミニスに見張られている。
「・・誰が、答えるものか。」
「往生際の悪い小僧じゃのぉ。己の立場というものがわかっておるのか?」
が呆れたように溜息を漏らすと、
「誰が小僧だ。そっちだって小娘のくせに。」
キッパリとイオスも言い返してくる。
「・・そんなに死に急ぎてえのか、ニンゲン?!あいつにそれは禁句だ!!」
妙に慌てているバルレルの姿に、イオスだけでなくまわりの皆も訝しむ。
しかし哀れなことにその答えは、自らが出してくれることとなる。
「・・・・わらわが、小娘・・?」
その途端、強烈な光が辺りに満ちあふれる。
「わらわのどこが小娘じゃ、小僧!おんしの目は節穴かえ?!」
本来の姿を取り戻したは、イオスの顔を強引に自分の方へ向けさせた。
「霊界の大天使が、どうしてここにいるんだ?!」
霊界の大天使。イオスは確かにそう口にした。
の姿はいまや、絶世の美女ともいうべき姿に変化していた。
足下まで伸びるまばゆい銀の髪、極上の赤玉を思わせる深紅の鮮やかな瞳。
身に纏うのは、動きやすいようにスリットの入った漆黒のナイトドレス。
その背に生えるのは、天使の象徴とも言うべき巨大な一翼の翼だ。
先ほどから手にしていた大鎌も、今の姿なら丁度いいサイズである。
「いろいろとコチラにも都合があるのじゃよ。さあ、命が惜しければとっとと・・」
「ゼルフィルド!今だ!僕ごとこいつらを撃てぇ!!」
イオスの叫びには思わずたじろいだ。他の味方も同様だ。
そしてかろうじてまだ動けた機界兵士は、鎌首をもたげて銃口をトリス達の方へと向ける。
イオスも射程範囲に捕らえたままで。
「撃てえぇぇぇっ!!」
その叫びを合図にゼルフィルドの銃口が火を吐いた。
無数の銃弾が撃ち出された。
その向かう先は、真っ直ぐにトリス達の場所だ。
そして。不意に空が輝いたのは、丁度そんな時だった。
「いかん!」
は慌てて大鎌を振るう。
しかし無慈悲にも銃弾はその刃の間をくぐり抜ける。
ガキィィィィン!!
そしてそのまま獲物を捕らえるかと思われた銃弾だが。
突如、空から降ってきたそれに弾かれて、あっさり地に落ちたのだった。
一、方いきなり銃弾を当てられた方は、いかに無害だったとはいえ、機嫌良いままでいられるはずもなく、怒りの咆吼をあげた。
白銀に光る硬質の鱗に、空中でゆらゆらと揺れる長い身体。
短い手足には鋭い鉤爪を生やし、淡く光り輝く宝玉をつかんでいる。
顔は鰐によく似て長く、その大きな顎にはナイフのように鋭い牙が無数に並び、顎から伸びるひげは身体と一体になって宙に浮いている。
「こ、これは・・・。」
「龍???」
「何でこんな所に龍が?」
突如空から降ってきた龍に、トリス達はただただ目を丸くするだけだった。
「馬鹿な…鬼龍召喚は、シルターンの高等召喚術だぞ!
おいそれと呼び出せる代物じゃない!」
「うむ。そちの言う通りじゃ、ネスティ。」
驚愕の声を上げるネスティに、は冷静そのものの声であっさりと同意する。
「ねぇ、その人誰?」
皆の目が突如出てきた龍に釘付けになっているところに、ミニスがひょいと龍に護られるように倒れている少女を見つけた。よくよく見れば、少女はイオスの上に折り重なるようにして倒れていた。おそらくは龍同様、空から落ちてきたのだろう。
その衝撃が怪我に響いたのか、イオスは苦悶の表情を浮かべていた。
「あれ、この人・・・」
トリスは少女を見て、かすかに声を上げる。
「知ってるのか?」
「うん。多分、この人メイメイさんのところにいた・・」
フォルテの問いにトリスが答える。
が。途中、それを遮るようにして、唐突に怒声が響いた。
「メイメイの馬鹿野郎!!!何の実験よ!
人を思いっきり危ない目にあわせやがってぇぇぇっっ!!!」
怒声の主は、メイメイの着ているような中華風の服を身に纏った少女だった。
黒い髪と黒い瞳を持つ整った容貌の彼女だが、怒り狂っているためにその魅力は半減している。
「・・・って、やだ貴方、怪我してるじゃない!」
ふと我に返ったの目に最初に映ったのは、トリス達ではなく、すぐそばで苦しそうにしていたイオスだった。
「ちょっと待ってね、今治すから。」
はゴソゴソと服の中を漁り出す。
と、宙に浮く龍が持っている玉を彼女に差し出した。
「あ、ありがと。」
世界の海を全て凝縮したような美しい青に輝く宝玉を手にとって、はイオスにそれを近づける。
「ちょっと待て、そいつは俺たちの敵なんだぞ!」
リューグがに掴みかからんばかりの勢いで、叫ぶ。
実のところ、本当に彼女を掴みあげようとしたのだが、龍に威嚇されて出来なかったのである。
「そんなの私の知ったこっちゃないわ。」
もキッパリとリューグに言い返す。
「そいつは、俺たちの村を滅ぼしたやつなんだぞ!!」
「あっそ。だからって見殺しにしていいなんて、そんな法律どこにもないわ。
それともなにか?ここには『悪人に人権はない!』とかいう法律でもあるの?」
「・・そんな法律は、聖王都にはないな。」
リューグの代わりに答えたのは、ネスティだ。
それを満足そうに聞いて、は呪文を唱え始めた。
「母なりし海の恵みを集約した大いなる龍の宝玉よ・・、我が願いを聞き届けたまえ、我が前に横たわりしこの者を汝が慈悲にて救いたまえ・・」
の呪文に応えて、宝玉がよりその輝きを増す。
光はたちまちに傷を塞いでいった。
「ん〜、これで大丈夫でしょ。これありがと。もう行っていいわよ。」
は宝玉を龍に返すと微笑んだ。
龍はそれに応えるように一声啼くと、青い輝きに包まれて姿を消した。
「あらあら、私の出番、取られちゃったわね。」
ミモザが姿を現したのは、丁度が龍を還した後だった。
「でもま、なんとかみんな無事だからよかったけどね。」
「先輩、今までどこに潜んでたんですか?」
「う〜ん、折角だからいいとこ取りしようと思ってたんだけど、その子に先を越されたわ。」
ミモザが言うのはおそらくのことだろう。
は思わずすみませんでした、と一言ミモザに謝る。
「いいのいいの。
それよりも、そっちのリーダーさんに一言言っておきたいんだけど。」
湿原を囲むようにして姿を現した一団に向かって、恐れる様子もなくミモザは言ってのける。
「とりあえず、この青年はこっちの捕虜としてもらってくからね。」
((((((((((((はい?))))))))))))))))
ミモザ以外の全員、とうのご指名を受けた本人も思わず胸中で聞き返す。
「どういうつもりだ。」
湿原を挟んで対峙する黒兜の男が答える。
おそらくは彼がこの一団の責任者なのだろう。
「どうもこうもないわ。単なる嫌がらせだから。次の時にちゃんと返してあげるわ。」
「それで我々にこのまま退けというのか?」
男の答えに、ミモザはわざとらしく腕組みをして見せる。
「人の家の前で堂々と戦い繰り広げてくれちゃって、おかげで家の玄関の修理にいくらかかったと思ってるの?お隣からの苦情だって馬鹿にならないくらいあったんだから。
それくらいのお仕置きは必要でしょ。」
「・・・・・だからといって、このまま引き下がるわけにもいかん。」
「あら。私だってこのまま、この子を帰す気なんてないわよ。」
まさに一触即発。
そんな空気を打ち砕いたのは、の意外な提案だった。
「なれば、わらわがそちらへ人質に行く。次回に人質交換というのは、どうじゃ?」
「それなら、商談成立よね。もしも私たちがこの子に危害を加えたら、あなた達は彼女をどうしようと勝手だから。そうでなければ、無傷で彼女を返してよね?」
「・・・それでいいのか?自分たちの仲間を自ら我々に差し出してまで、俺の部下に用事があるとでも言うのか?」
「しいていうなら、用事があるのは、私じゃなくてこの子なんだけどね。」
ミモザは唐突にをポンと前に出した。
「へ?イヤ別に用事ってワケじゃないけど・・。
ただ、今の傷が治るまで戦闘は控えた方がいいかなぁと思っただけ。
そっちにいるといやでも無理しそうでしょ、この人。」
「・・・・その言葉に、偽りはないな。」
「もちろんよ。嘘つきは泥棒の始まりって言うしね。」
「うむ。なれば、わらわはそちらへ行くとするか。」
は元の少女の姿に戻ると、鎌をその場に置いてトコトコと一団の方へ歩いていく。
「?!」
「心配するな、トリス。次の機会にまた会おうぞ。」
ユアンは相変わらずの強気な態度で、トリス達に手を振って見せた。
「・・わかった。」
不承不承、トリスは頷いた。
「というわけで、商談成立ね、黒騎士さん。」
満面の笑みを浮かべたミモザがキッパリと言い放つ。
ようは何を言っても無駄だと、言外に示しているのだ。
黒騎士は、しばらくの沈黙後。
「わかった。だが、先ほどの言葉を忘れるな。
もし俺の部下に何かあるようなら、容赦なくこの娘を切り裂く。」
「それなら大丈夫ですよ。なんか貴方達とトリスさん達、訳ありみたいですけど。
私の目の黒いうちは、貴方の大切な部下には指一本触れさせませんから。」
そのときは容赦なくミカヅチ君を召喚してやりますので、ご安心を。
ニッコリと極上の笑みを浮かべたまま、かなり凶悪なことを言ってのける。
「・・退くぞ。」
黒騎士は一団に退却命令を出すと、自らもマントを翻して湿原から去っていった。
「あ!」
黒騎士達の一団が姿を消してだいぶたった頃。唐突にが叫んだ。
「どうしたの?」
「あの黒騎士さんに名前を聞くの忘れてた。」
「また次の機会に聞けるわよ。さあ、とりあえず帰りましょうか。」
ミモザは手を叩きながら、動こうとしない皆に声をかける。
「・・なぜイオスを連れて行くことにしたんですか、先輩?」
おそらくは皆が心の中で思っていること。
それを代表して、ネスティがミモザに訊ねる。
「・・丁度都合がよかったのよ。がデグレアの事を調べたいって言ってたからね。」
「それじゃ、さっきの娘はそのために・・?!」
「そんなに目くじら立てないの。別に貴方達の軍のことを調べに行ったワケじゃないから。
あの子が調べたがってたのは、悪魔に関することらしいのよ。」
憤りで立ち上がるイオスをなだめるように、ミモザはパタパタと手を振った。
「悪魔について・・?でもなぜ?」
「それは直接本人に聞きなさい、ネス。もっとも聞いて答えてくれるかどうかはわからないけどね。」
「・・・あの〜、そろそろ帰らせて頂きたいのですが、よろしいですかぁ?」
なかなか重い雰囲気のなかで、おずおずとが言い出す。
と。
「何ふざけたこと言ってやがるんだ、てめぇは!お前も一緒に来るに決まってんだろ!」
一番最初に声を張り上げたのは、リューグ。
「そうだな。経緯はともあれ、君がイオスの看護をすると言いだしたんだからな。
責任はとってもらうぞ。」
「メイメイさんには、私から言っておくから、ね。一緒に来てよ。」
「それに貴方にはいろいろと聞きたいこともあるし。」
続くように、ネスティ・トリス・ミモザに畳みかけられて、は反論を失う。
(いや、別にそういう意味で言ったワケじゃないんだけど・・・)
はあくまでさっさとここから去らないのか?と言う意味で言ったのだが・・。
イオスをそのまま放って置くわけにはいかないし、メイメイにこのことを説明しておかなければいけないし、何より彼女に文句の一つも言っておきたかった。
(とにかく湿原を離れましょう・・・っていうつもりだったのにぃ〜・・・)
「ま、そういうわけだ。観念して、俺たちについて来いよ。」
「その方がいいと思うわ。」
「私も同感ね。私たちがついてるよりも、貴女がついてる方がよさそうだから。」
フォルテ、ミニス、そしてケイナに続いて、おずおずとの前に出てきて頭を下げたのはアメルだった。
「お願い・・してもいいですか?」
は俯いたままのアメルの肩をポンポンと叩くと、苦笑いを浮かべた。
「お願いされるも何も、もとより私はそのつもりだったんだけど。」
「ごめんなさい、貴女まで巻き込んでしまって・・。」
「気にしないでよ。むしろ勝手に私が巻き込まれたんだから。」
そうしてはバツの悪そうな表情を見せているイオスの方へ歩み寄ると、ニッコリと微笑んでで見せた。
「そういうわけでしばらくは私に付き合ってもらうわよ、金髪美人さん。
ちなみに反抗の意志が見えたら、容赦なく制裁を加えますんでよろしく。」
「・・・・・。」
笑顔の奥に見え隠れする恐ろしげなオーラに気圧されて、イオスは何も言えなかった。
「さて、それじゃみんなうちに帰るわよ。」
そしてトリス御一行は、新たな人間を二人連れて聖王都ゼラムへと帰路についたのだった。
*後書き・・・
・そうしてここから、ゲーム沿いでイオス寄りに展開するつもりだったんですよ。
今思うと、逆召喚夢よりも目新しさはなかったな…うん。
その後、思いつきで「逆召喚」設定にして連載を書いていたわけです。
で、クラフト夢を書こうとしたとき、色々設定を加えてこの子をリサイクル利用したわけですよ。更に設定的に絡めやすいという理由で、4夢主にも採用。と。
つくづくいい加減な管理人ですね…(汗)。