年賀状=恋文、ではありません
「はい、これ。宛の年賀状よ」
「ありがと」
元旦において、どこの家庭でもよく見る光景の一つ。
年賀状を受け渡しする家族の図。
それはちょっと世間ずれした我が家でも見られる光景だ。
まあ、当然と言えば当然か。
年賀状は遡ること千年も昔、平安時代の貴族社会にも存在していたらしいから。
なんでも当時の貴族たちは、“書状”として年始の挨拶を送っていたらしい。
年賀状の“状”という字は、“書状”を意味する字なんだろう。きっと。
さらに遡れば、年始の挨拶そのものは奈良時代からあるものなんだとか。
奈良時代って、今から千三百年近く昔の時代よね?
そんな時代からある慣習だなんて、年賀状はもはや日本の伝統文化だわ。
だからこそ、古くさい慣習が多く残る元華族――さらに遡れば清和源氏の傍流だしーーである我が家でも、毎年毎年欠かさず年賀状を送るわけなのよ、きっと。
「何を見てるんですか、さん?」
私が年賀状を見ていたところ、突然フッと手元が暗くなった。
顔を上げれば、藤を基調とした古風な柄が美しい藤色の振り袖を着たアメルがこちらの手元を覗き込んでいた。いつもは無造作に流している亜麻色の髪は、高い位置で綺麗に結い上げられて、蒔絵螺鈿の簪が飾りにとめてある。
そんな姿でこちらを見下ろしているので、ほっそりとした白い項がよく見える。
さらに、まとめきれなかった後れ毛が項に落ちている様もまた、実に艶めかしい。
さすが清楚な美少女にして、聖女。着物姿も実に、色っぽいわねぇ〜。
これで、あのスキルがなければ、完璧な淑女なんだけど………。
世の中って、うまくいかないものね。
「あぁ、これはね……」
私はアメルに年賀状を渡そうとするが、彼女の手に渡るより前に、突然割り込んできた誰かの手によって取り上げられてしまう。
「ほほぉ……、こいつはもしかしてラブレターじゃねえの?」
「ちょっと、フォルテ!!何やってるのよ、に返しなさい!!!!」
聞き覚えのある声が二つ、上から降ってくる。
新年早々、コンビでのご登場なフォルテとケイナさんだ。
フォルテはいつもとあまり変わらない服装だが、ケイナさんは白牡丹を基調とした深紅の振り袖姿。麗しの黒髪は一つに編み込まれていて、頭には金と赤い造花で彩られた冠を被っている。その様は実に麗しく、大和撫子と呼ぶにふさわしい。
さすが、ケイナお姉様……(惚)。
あとで写真取らせてもらおうっと。
「別にかまわねぇだろ、減るもんでもなし」
そりゃ、確かに減るもんでもないけどさ…。
だからって、本人の許可も無しに取り上げていい物でもないと思いますが?
「悪ふざけも大概にして下さいよ、フォルテ様……」
騒ぎを聞きつけて来たのか、それともたまたまか。実にナイスなタイミングでやって来たシャムロックは、フォルテとケイナさんの会話から大まかな状況を察したのだろう。呟く彼の口調は、呆れの混じった疲労の色濃いものだった。
「シャムロック、貴方からももっと言ってやって頂戴。
女の子のラブレターを盗み見するなんて、デリカシーがなさすぎよね?!」
「ラブレター……?」
いつの間にやら、年賀状がラブレター扱いですよ……(汗)。
人の話はちゃんと聞いてもらいたいものです、全く。
「お前も気になるだろ、シャムロック。宛のラブレターだぜ?」
怪訝そうな顔をするシャムロックに追い打ちをかけるように、フォルテは彼の肩に手を回すと、いかにも何かを企んでいそうな表情を浮かべる。
「………あのね、フォルテ。私、それがラブレターだなんて、一言も言ってないだけど?」
さすがにこれ以上、誤解をほったらかしにしておく訳にもいかず。
私はフォルテに“年賀状”のことについて、簡単に説明した。
が……。
「照れることねぇだろ。お前がもてるのは、今に始まったことじゃねぇんだし。現に俺たちの中にだって、お前に惚れてるやつはたくさんいるんだしよ。なあ、シャムロック?」
「なっ……!!!!」
ちゃんと説明したはずなのに、まるでフォルテには通じてなかったらしい。
どころか、完全に別の方向に誤解されているような気すらする。
……全くもぉ………。
私は、胸中でこっそりと呟く。
この後でもう一度、フォルテに年賀状のことを説明してやろう。
そう私が思った、矢先のこと。
「さあ、プチデビルさん。おもいっきり、殺っちゃってくださいね♪」
ゴオオォッ!!!
アメルの声がするのと、フォルテが手に持つ年賀状が紫色の炎に包まれて燃え上がるのとは、ほぼ同時だった。
そして。当然の事ながら、手に持っている年賀状が燃えたんだから、フォルテが無事で済むはずもなく……。
あ、案の定。頭に燃え移ってるよ、あの火。
「どわあぁぁぁっ!!あっち、あっちゃ、あっちぃっっっ〜!!!!」
まさに字の如く、頭から火を出しているフォルテは、熱さに悶えて右往左往と部屋の中をグルグルと走り回る。
「フォルテ!」
「フォルテ様!!」
さすがにこれは黙ってみていられないだろう。
ケイナとシャムロックが、慌ててフォルテに駆け寄っていく。
だが、その騒ぎを起こした張本人は…………。プチデビルをさっさと送還して、のんびりと高みの見物をしゃれこんでいた。穏やかな笑顔を浮かべているその姿は、いかにも大和撫子・清楚なお嬢様といった風で、とてもじゃないが、フォルテに火をつけた張本人とは到底思えない。
しかし、現実とは………かくもシビアなもの。
深窓のお嬢様を思わせる清楚な微笑みを浮かべながら、アメルはクスクスと笑う。笑いながら紡ぎ出したのは、ブラック降臨聖女様の本領発揮といった、いかにもらしい言葉だった。
「あらやだ。プチデビルさんたら、手加減しちゃったんですね? 仕方ありませんね、それじゃあ後は私が…………」
虫一匹殺せません、というお嬢様スマイルを浮かべながら、彼女は着物の袖の中――正確には身八つ口から袂に手を入れて、一つの石を取り出し………。
げ。あの石って……まさか!!!
「ちょ…っ、アメル!!私、これから出かけようと思うんだけど、よかったらアメルも一緒に行かない?!」
アメルが取り出したのが紫色のサモナイト石だったことで、私は慌てて彼女に駆け寄った。さらにさりげなく、彼女の注意を引くかもしれないことも言ってみる。
今までのパターンから言って、あのサモナイト石はおそらく……サプレス最強の召喚獣「レヴァティーン」を呼び出すサモナイト石に間違いない。
となれば、今ここで止めなければ!!!
でないと、フォルテの身ならず、我が家も確実に損傷を受けることに!!
フォルテなら殺しても死ななそうだけど(待て)、うちの家屋は築数十年の年季入り!!
ギルティブリッツなんぞを喰らったら、速攻で倒壊すること間違い無しよ!?
(多分、鉄筋コンクリートの建物でも崩れると思うが)
「勿論です、さん。さあ、出かけましょう」
どうやら私の苦し紛れの言葉は、功を奏したらしい。
アメルは、いつの間にかやらサモナイト石をしまっていた。そうして彼女は、裏一つない清楚な微笑みを浮かべながら、私の腕を取る。
「そ、そうね……。それじゃ、私たちはちょっと出かけてくるわね」
アメルに半ば引きずられる形で、私は部屋を出て行く。
その前に振り返って、ケイナさんたちに挨拶すれば。
「ええ……いってらっしゃい」
フォルテについた火を消そうと、彼を座布団で叩いていたケイナさんは、その手を止めてこちらを振り返ってくれた。そんな彼女の瞳には、なんとも複雑そうな感情が灯っている。
おそらくは、「アメルを連れ出してくれてありがとう」と「犠牲にしてごめんなさい」の二つの感情が微妙に入り交じっていたのだろう。
多分、私がケイナさんの立場でも同じことを考える。
部屋を出て行く前に振り返った時に見えたのだが、フォルテはといえば。
身体についた火を消す為なのだろう、シャムロックに座布団で殴られまくっていた。
端から見ると、シャムロックにいじめられているようにも見える。
あのコンビでそれはあり得ないと知っていながらも、やっぱり不思議な光景だった。
とりあえず初詣と称して、私はアメルを連れて近くの神社へ行くことにした。
しかしどうでもいいが、やたらと人目を引きまくっているのは、やっぱり振り袖姿の乙女二人が腕を組んで歩いているせいだろうか………。
妙な誤解、されてなきゃいんだけど………。
私は確かに腐女子だけど、百合に興味はないのよ???
いや、本当に。
「そういえば、アメル。どうしてフォルテに火をつけたの?」
「別にフォルテさんにつけたわけじゃないですよ? “年賀状”をこの世から抹殺したかっただけです♪」
唐突に疑問に思って質問を投げかけた私に、ニッコリ笑顔で微笑むアメル。
彼女の答えは、凶悪なことは変わらないが、同時にどこか妙な答えでもあった。
「どうして年賀状を抹殺したかったのよ?」
「だって、さん宛のラブレターなんて、いりませんから。(私が書くものだけで十分です♪)」
「あのねアメル…さっきも言ったけど年賀状って、ラブレターじゃないのよ?
あれは、知り合いに年始めの挨拶を送るための手紙なの」
「え………、さっきフォルテさんに話していた話って、本当だったんですか?」
真顔で驚くアメルを見て、私は思った。
リィンバウムの皆にも年賀状のことを説明しておけば良かった、と。
……結局のところ、私に年賀状をくれた人って誰と誰と誰だったの……???
そう問うてみても、肝心な年賀状はすでに灰になってしまっている。
複雑な私の心の中とは裏腹に、北風吹きすさぶ空はすっきりと晴れ渡っていた。
*後書き・・・
・お正月企画失敗の代理品、その壱。
冬ネタドリームフリー配布品・サモンナイト版です。
年賀状ネタでssを…と思ったのですが、短編クラスの長さになりましたね…。
年が変わっても、アメル嬢は相も変わらず元気元気。ブラック降臨スキルは健在です。
今回は、フォルテ・ケイナ漫才夫婦とシャムロックの登場。
私が書く夢にしては珍しく、イオスやミニスが出てないなぁ………。
つーか、萌えの少ない夢ですみませぬ………。