朝焼けの眠り姫
白んだ空が、徐々に淡い色彩を帯びていく。
淡い橙色、淡い桃色、淡い藤色。
様々な色彩に彩られながら、新年最初の太陽が地平線に姿を現した・・。
「ふわぁ〜あ・・・・」
太陽が昇る前に屋根の上に昇って、新年の初日の出を鑑賞した後。
屋根の上から飛び降りるやいなや、私は盛大な欠伸をした。
あくまで無意識に出てしまった欠伸だったのだが、私の後に屋根の上から降りてきた青年はしっかりとそれを目撃していたらしく。せっかくの綺麗な顔を勿体ないくらいに歪めた。
昨年の穢れを祓い落としたためか。
いつも以上に神々しく煌めく太陽の輝きを受けて、私の目の前に立つ青年―――イオスの金色の髪がよりまばゆく輝く。大地の恵みと太陽の加護を得てすくすくと大地に育つ稲穂を思わせる、柔らかであたたかみをもつ金色の光だ。
「欠伸をするときには、手で口を押さえるのが普通だろう?仮にも君は、年頃の女性なんだから、そういう所にはもう少し気を配るべきじゃないのか?」
美形の評点にはうるさい私ですら、文句なしに最高点をあげてしまうくらいに整った麗しの美貌。まさに王子様の形容がよく似合う中性的で端麗な容姿を持っていながら、イオスは限りなく小姑に近い言葉を吐き出した。
彼の上司ルヴァイドに言わせれば、彼のこういった忠告は“世話焼き”なんだそうだが、私に言わせりゃ“小姑”そのものなんだよね。まぁ、イオスの場合、あくまで好意が言わせるものであって、私をいじめるためにこういう事を言ってくるワケじゃないとわかってるんだけど。
それでも・・・、時々口うるさいと思わずにはいられない・・・。
「見ないふりをしてればいいでしょうが。そうやって小さいことにこだわってると、ハゲるよ?」
思わずそんなことを口にすれば、当然の事ながら彼はいい顔をしない。
「」
「わかってるわよ。しょうがないでしょ。手で押さえようとする前に欠伸が出ちゃったんだから。私だって、大口開けてるとこを見られてばつが悪いってのに・・・」
イオスがまだ何か言おうとするのを遮るように、私は言い放つ。
なんとなく彼の顔を直視できず、私はクルリと後ろを向いてそのまま自分の部屋へ歩き出す。
・・・否、歩き出そうとしたところで、身体がフワリと宙に浮いた。
「へ?」
「部屋へ戻るのなら、送るよ?」
お姫様抱っこされた上に、耳元のすぐそばで囁かれた声で一気に顔に血がのぼる。
多分、耳まで真っ赤になっているだろう。
「な・・、別にいいわよ!私の部屋なんてすぐそこなんだから!」
「それは顔を真っ赤にして言う台詞か、」
「それはっ・・・、心の準備もなく耳元で囁かれたら、誰だって私と同じ反応をするわよ!」
ズバリと突っ込まれて反論する私を見ながら、イオスは深く溜息をついた。
「わかったから、おとなしくしてくれ。じゃないと落としかねない。」
「だったら、さっさと降ろせ!!」
「それはお断りだ。せっかく捕まえたお姫様を手放すなんて、僕には出来ない。」
極上の笑顔を浮かべながら、キッパリと言い切るイオス。
私はと言えば・・・間近で彼の笑顔を目にして(+先程の言葉に)絶句してしまいましたよ。
彼はそんな私を満足そうに見下ろすと、そのまま私の部屋へ歩き出した。
私の部屋の前に来ると、イオスはちゃんと私を下ろしてくれた。
部屋の中まで入られたらどうしよう、とひそかに心配していたのだが、さすがこの辺りはキッチリとわきまえていて。内心ホッとした。
「もう一眠りするんだろう?おやすみ、」
「うん、おやすみ・・・・・ッて、ちょっと待った!」
やんわりと微笑んで去っていこうとするイオスの腕を、私はグイッと引き戻す。
「どうしたんだ?」
「いや、すっかり言い忘れてたから。・・・新年明けましておめでとう」
「・・・おめでとう、」
多分挨拶の意味はわからなかっただろうに、それでもイオスは私に合わせて挨拶を返してくれた。
しかもご丁寧に私の手の甲に口づけまでも。
「っ!!だーかーらー、こういうのは慣れてないから、やめろって言ってるでしょっ!!」
キスされた手の甲をもう片方の手で覆いながら、私は真っ赤になって叫ぶ。
「仕方ないだろ。赤くなるは見てて、楽しいから」
「イオス!!!」
苦笑するイオスに掴みかかろうとする私だが、その手はあっさりと止められてしまう。
そして、いきなり抱き寄せられたかと思うと、頬に柔らかい感触が当たる。
・・・・・え?
呆然とする私を見つめる彼の瞳は、ひどく穏やかで愛おしげな眼差しを浮かべていた。
深紅に輝く瞳と前髪の間から覗く紫色の瞳が、とても甘やかな風情すら帯びて・・・。
「何より、赤くなった君はとても可愛いから・・・」
彼の指が私の髪を優しく梳いていく。
その感触が気持ちよくて、私は無意識に目を閉じる。
すると、先ほどと同じ感触が唇の上に降ってきた。
ビックリして目を開けると、すぐそばにイオスの顔があって。
至近距離と言って差し支えない距離で、彼は極上の笑みを浮かべる。
「・・・それじゃ、おやすみ」
そう言って私の身体を解放すると、イオスはそのまま去っていった。
残された私はと言えば、そのまま畳の上に座り込んでしまった。
多分、顔は真っ赤になっている。
心臓はうるさいくらいに早鐘を打っていたから。
「・・・やっぱし根っからの王子様気質な訳ね・・・」
富士山も茄子も鷹も初夢の中には出てこなかったけど。
今年は、結構幸先が良いらしい。
おみくじを引いたら「大吉」が出るような気さえする。
とにもかくにも、今年もいい年であることには違いない。
素直じゃないお姫様と王子様が結ばれる日は、意外と近い・・・?
*後書き・・・
・書く予定はなかったのに、気づけばイオス夢の完成です。
正月早々、攻めなイオスと完全受け化してるヒロインさん・・・・。
なんかキャラが壊れている気がするのは、私だけ?
ひそかに「夕暮れの眠り姫」のシリーズ的夢小説だったりして。
何はともあれ、新年明けましておめでとうございます!!