無礼講〜大山祇神に捧げる宴
昇っては、落ち。昇っては、落ち。
赤々と燃える太陽が昇れば、白い光を放つ月が沈み。
地平線の向こうへと太陽が落ちると、闇に包まれる地上を照らす白い月。
半永久的に自転する地球という惑星の上で生活する私たちにとって、太陽が昇って朝が来て、月が昇って夜が来るのは、もはや当たり前の事柄である。
しかし。
暦が一つ巡りきり、新しい暦を刻み始める初日の太陽だけは、この国に住む人々の誰に尊ばれる。その習慣は、長い時を経て文明が発達した今現在まで、絶えることなく受け継がれていた。科学が発達し、数々の気象現象が全て理論で説明できる時代となり、神々を信じる者が久しく絶えつつある時代でありながら、新年の訪れを意味する「初日の出」の存在は人々の心を突き動かす何かを持ち続けているのだ。
昨年の穢れ全てを祓い落とし、白々としたまばゆい光と共に地平線から姿を見せる太陽は、まさに高天原を統べる女帝――天照大神そのもの。新たに到来した年は、清らかで無垢なる存在に他ならない。
そして人々は新たなる年の到来を喜んで、これを祝う。
縁起を担ぐ意味を持つおせち料理を食べ、今年一年を無事に過ごすために神へ祈る。
祝い、喜び、その嬉しさを体現するかのように、皆で騒ぐ者もあるだろう。
羽目を外し、“無礼講”とばかりに宴会で盛り上がるのも大いに結構。
だが・・・・。
これはいくらなんでも、羽目を外しすぎじゃないんですかね?
皆様、新年あけましておめでとうございます!!!
今回は正月モードーー深紅の振り袖装備でお送りしております、嬢です。
去年は、美形パーティを一挙確保!!な、とてつもなく珍妙かつ奇妙奇天烈な出来事があったにも関わらず、今年もまた例年同様に家の者総勢で初日の出を拝んできました。
寒い寒い真夜中に眠い目をこすりつつ、三浦半島の先端まで出かけた甲斐あって、明け方の天気は快晴。朝靄のかかった太平洋の水平線から、白々とした光を纏って昇ってくる初日の出をたっぷりと堪能してきましたよ、ええ♪
その後鎌倉に寄り道して、鶴岡八幡宮で初詣をして帰ってきたわけです。
勿論、鎌倉は人混みでごった返してたけど、鶴岡八幡宮は源氏一門の守護神八幡神を祀るお宮さんですからねぇ。分家筋とはいえ、私も一応源氏の末裔なわけで。さすがにお参りしないわけにもいかないのですよ。
その後帰宅して、おなかが空いたところで朝ご飯!!
年末にお祖母様や母さん、私はもとより、アメルやレシィくんまで協力して作った大量のおせち料理とお雑煮がようやく食べられるわけです♪
ところが。
めでたい正月の朝だというのに、私の心は素晴らしく泥沼に沈んでいた。
なぜかって?
それは、今現在私の目の前で繰り広げられている馬鹿騒ぎのせいだ。
正月だけ許された飲酒天国「無礼講」の名のもと、爺ちゃんを始めとする“酒好き”な連中は、欲求に突き動かされるままに暴飲し続けていた。そのせいで、この部屋の中には酒独特の臭いがたっぷりと充満している。酒好きな人間には特に害はないかもしれないが、酒を一口も飲めない下戸である私にとっては、ハッキリ言って地獄だ。
その上、酒臭いだけでも頭が痛くて仕方ないってのに、目の前で繰り広げられている光景を視界に入れれば、より一層頭痛がひどくなってくる。
「ねぇ、シャムロック。」
鼻をつく酒の臭いに顔をしかめつつ、私は苦し紛れに手に持ったコップの中身を飲み干した。それでも、酸素と一緒に肺の中へ入っていった酒の臭いは、一向に体内から出て行く様子は全くない。
「なんですか、さん?」
おそらくは私と同様に部屋に漂う酒の臭いに辟易しているのだろう。
いや。もしかしたら向こうで、爺ちゃんや父さんと一緒になって酒盛りをしているフォルテの姿に呆れているのかもしれないが。
私の問いに答えてくれたシャムロックもまた、ひどくうんざりした表情を浮かべていた。
「つくづく隣の席にいたのが貴方で良かったと思ったわ。」
私がそう言えば、シャムロックは苦笑いを浮かべる。
「奇遇ですね。私も同じですよ。」
多分そうだろうと思ってたのだが、予想してたものと同じ答えを返してくれたことが少しばかり嬉しくて。私は持っていたコップをシャムロックの持っていたそれに軽く当てた。
ガラス同士がぶつかり合って、キインと澄んだ音が鳴る。
その音が周りの空間を一瞬だけ正常なものに戻してくれたような錯覚すら覚えて、私たちは顔を見合わせ・・・・、大きくため息をついた。
「もしさんが隣でなかったら、
私もアメルさんの餌食になっていたでしょうから。」
「もしシャムロックが隣じゃなかったら、
今頃この部屋は大乱闘になってたわよ、きっと。」
シャムロックはと言えば、私の隣にいたためにアメルの“酒は飲めど飲まれるな攻撃”の標的にならずにすんだわけで。(アメルはなぜか私に対しては、強引に酒を勧めることはしなかった)
私の方はと言えば。酔っぱらいに絡まれるのが大嫌いな性分ゆえ、周りを酔っぱらいに囲まれると見境無く暴れ出すという悪癖を持つ私だが、隣に同士とも言うべき彼がいてくれたおかげで、こうしてどうにか正気を保っていられるわけである。
「それにしても、無礼講とはいえ少し羽目を外しすぎではないでしょうか…。」
再び周りの光景を見渡して、シャムロックが眉間にしわを寄せる。
私も同様に周りの人々を見渡して、大きくため息を吐かずにはいられなかった。
「そうよね。いくらなんでも、これは異常だと思うわ。」
部屋の中で上座に当たる場所にたむろしているのは、うわばみ・酒豪などの称号を授与されるに値する大酒飲みの連中――爺ちゃんや父さんを始めとする大人たち(+バルレル)。
彼らは飽きることなく、ひたすらに酒瓶を傾け続けている。どれだけ飲んでも顔が赤くなっていい気分になるだけで、けして潰れることのない彼らは…。まあ、飲んでいる酒の量はともかく、とりあえず他人への実害はないからいいとしておこう。
むしろ問題なのは、飲めない輩に嬉々として酒を勧めるアメルやその彼女と一緒になって他人に酒を強引に勧めるトリス。
「酒は絶対飲まない」と豪語していたネスティに無理矢理力づくで酒を飲ませるマグナ(彼もトリス同様、アメルに酒を飲まされて酔っぱらっている)。
かたや酒にはあまり強くないはずなのに、お互いに意地を張って飲み比べをするロッカとリューグ。
そして最も意外性が大きかったのが、モーリンとケイナさんに愚痴をこぼしながら酒を飲み干すカイナさん?!
ゲーム中では、ケルマに言い寄られているカザミネ師匠に対して「不潔です!」とまで言い切った人なんだけどなぁ・・・。
「無礼講を通り越して、ほとんど“酒池肉林”の世界よね。」
何気なく私は呟いたつもりだったのだが、シャムロックにはしっかり聞こえていたらしい。
耳にしたことのない響きだったのか、彼は不思議そうに訊ねてきた。
「しゅちにくりん?」
「・・・知らなくてもいい言葉よ。とりあえず突っ込まないで。サラッと流して。」
「は、はぁ・・・。」
あまり口にしたいような内容の言葉ではなかったので、私が適当なことを言ってかわすと。シャムロックはそれ以上の追求をしてはこなかった。
ふう、と一息つくと、再びアルコール混じりの酸素が気道を通っていく。
どうにも頭が重い。
身体は火照るように熱くて、フワフワと浮き上がってしまいそう。
ヤバ・・・・、もう限界だ・・・。
「・・・ちょっと外の風にでも当たってくるわ・・・。」
何とか我慢してきたものの、酒の臭いの充満する部屋に長時間居続けたのだ。
飲酒していない私も、空気中に混じるアルコールを取り込んだせいか、だいぶ酔っていた。
下手をすればこみあげてきそうになる吐き気を抑えながら、私はヨロヨロとその場に立ち上がる。ところが立ち上がったのはいいが、酔いが回ったせいだろう。うまく歩くことが出来ない。私は壁に身体を預けるようにして、庭に面した出口目指して歩く。
万一のことを考えて、壁際に席を取っておいて正解だったようだ。
一刻も早くここから離れたいのに。
そう思って焦る気持ちとは裏腹に。
身体は鉛のように重く、羽のように軽い。
足下をよく確かめながら歩いてみるものの、どうしても足取りは千鳥のそれに近い。
ハタから見れば、危なっかしいことこの上なくフラフラと歩き続ける。
そんな時。
突如、身体のバランスが大きく崩れた。
なんのことはない。
足下に転がっていた盃に足を引っかけて、バランスを崩したのだ。
あぁ・・・このままじゃ床に激突だね・・・。
まるっきり人事のような感覚で、私の身体はゆっくりと床に向かって倒れ込む。
このまま倒れたら、きっと指一本動かせなくなるだろう。
そうしたら、ずっと酒臭いこの部屋にいなくてはならなくなる。
イヤだ、と思う気持ちはあるのだが。
身体は最高潮に不調を訴えていて、腕を先に出して身体を支えようとする気力もない。
「!!」
強く呼ばれて、腕を強く引っ張られた。
それでもまだ・・私の全身を起きあがらせるには、弱い力だ。
「しっかりして、!!」
聞き覚えのある甲高い声が耳をよぎっていく。
それが誰の声か、動きの鈍った頭で考えようとした時だった。
力強い腕が、倒れ込む私の身体を逆方向へ大きく引き寄せたのは。
「大丈夫ですか、さん?!」
ボォ〜っとした頭に、シャムロックの低い声が心地よく響く。
倒れそうになる私を引き起こしてくれたのは、彼だ。
ホッとして身体の力を抜けば、シャムロックが私の身体を支えてくれた。
「しっかりしろ、。起きてるか?」
そろえた指の裏で頬をペチペチと叩かれる。
シャムロックよりは高いが、甲高いと言うほど高い音域の声ではない。
アルトとテノールの中間域を思わせる、中性的な響きを帯びた声の主は、背中に蜂蜜色の髪をした女の子を背負っていた。自身も背中の少女と同様の輝きを放つ、まばゆい金色の髪を持ったその人は、さっき私の腕を引いてくれた青年だった。
「・・・なんとか生きてるよ、イオス・・・。」
力無く笑いを浮かべると、彼は大きく息を吐いた。
「あんまり心配させないでくれ・・・。」
そう呟くと、彼は私の額に自分のそれを押し当てる。
至近距離に迫るイオスの吐息には、気持ち悪くなる酒の臭いはほとんど感じられない。
「あんまり酒は飲まなかったみたいね、イオス。」
「隣にミニスがいたからな。もともと酒が好きなわけでもないし、飲み過ぎては彼女に悪いだろう。」
「・・・そういえば、ミニスも具合悪いんでしょ?大丈夫?」
イオスの口からミニスの名前を聞いた瞬間、先ほど私に声をかけてくれたもう一人の人物のことを思い出した。
「私よりもの方がよっぽど重症じゃないの。人のことを心配する余裕があるなら、自分の心配しなさいよね。」
確かに、ミニスはわりと大丈夫そうだ。顔色も悪くないし、まだ強気な発言をするだけの余裕は持ち合わせているようだから。
「それもそうね。シャムロック、悪いんだけど手を貸してくれない?外に出たら、すぐに返すから。」
「そういうわけにもいきませんよ。」
そう言ってシャムロックは、私の身体を横抱きに抱き上げる。
・・・って、いきなしお姫様だっこですか?!
「シャムロック?!」
「さんは無理をしすぎです。・・・こんな時くらい、私を頼ってくれて構わないんですよ?」
「それじゃ、苦しい時の神頼みと一緒よ。それじゃ悪い・・・」
「構いません。私はただ、少しでも貴女のお役に立ちたいんです・・。」
うっ・・・・!!
真剣そのものの表情で、こんな口説き文句を囁かれた日には、どんな乙女だって赤面する以外の反応はないわよ(断言)!!
つくづく騎士ってのは、素面で恥ずかしい台詞を口に出来る人が多い。
これも職業的傾向なんだろうか?
「ら〜りを勝手に、二人だけの世界をつくってるんですら〜?」
膠着しかけた場の雰囲気を和ませてくれたのは、ぐでんぐでんに酔っぱらったトリスだ。
片手に空の酒瓶、もう片手には朱塗りの盃を持っている。彼女は千鳥足でヨロヨロ歩いてくると、シャムロックの背中にベッタリとくっついた。
こんな時になんですが、シャムロックがちょっと羨ましかったりして・・・・。
私もトリスにギュ〜ッとして欲しいわ!!!!
そして。
「トリスの言う通りですよ。私のさんと勝手に二人だけの世界を作るなんて、シャムロックさん、覚悟はもちろん出来てますよねェ?」
アルコールが空気中に充満しているにも関わらず、全く酔っていない素面のアメルが、正黒々とした笑みを浮かべていた。
正月早々ブラック降臨ですか、アメルさん。
ところで貴女、意外と飲んだらいける口なんじゃ・・・・。
「そうですよ?命が惜しかったら、おとなしくさんを僕に渡して下さい。そうすれば、アメルにお仕置きの2割引くらいにしてもらってもいいですよ?」
さらに、アメル同様に黒い笑みを浮かべて現れたのは・・・!!
意外や意外。なんとロッカだ。さすがにアメルとの付き合いが長いだけあって、浮かべる黒い笑みも限りなく彼女のそれに近い。
にしても・・・、爽やかロッカが・・・壊れていくよぉ・・(泣)
そしてそこへ赤触覚――もといリューグが、噛みつかんばかりの勢いでロッカに掴みかかった。彼の場合、酔っていても素面でもやってることは変わってないような気がする。
多分、唯一酒乱の卦がないんじゃないのかなぁ・・・・・。
「何を勝手なこと言ってやがるんだ、兄貴!おい、シャムロック!俺にを渡せば、アメルのお仕置きを3割引にしてやるぞ!!」
でも・・・お〜い、アメル。
二人ともこんなこと言ってるけど、言わせておいていいんですか?
「リューグ。なにを勝手に3割引にしてるんだい。いくらアメルだって、そこまで安くしてはくれないよ。嘘をついてさんを自分のものにしようだなんて、僕はそんな子に育てた覚えはないんだけどなぁ。」
「けっ!何を言ってやがる、馬鹿兄貴!!そういうてめぇこそ、隙あらばを自分のものにするつもりだろうが!!」
善言撤回。リューグも立派に酒乱だ。
しかもロッカみたく目立たないけど、何気に彼も黒そうです。
さすが、あの妹にしてこの双子あり。
ま、一歩譲って、それらをさし置いたとしても。
なんでいつの間にか、“私を自分のモノにする”という話になってるんだ!
しかも二人は、酔っぱらってるだけあって酒臭い・・・。
それなのに息も荒く、私のすぐそばで言い合いをしてくれるものだから…。
おさまったかと思った頭の痛みがぶり返すわ、吐き気もぶり返すわ。
私は再び酒の毒気に当てられてしまいましたよ。
あ〜あ。
折角、シャムロックの口説き文句(?)で、最高ランクまで気分は上昇☆
体調だって「病は気から」、すっかりと完全復活してたのにぃ〜っ!!
酔っぱらいたちに絡まれたせいで、最高潮だった気分もなんとか浮上しかけていた体調も、一気にどん底中のどん底まで墜落してしまったわよ(怒)!
さてさて、ハタから見ていても私の体調悪化は目に見えていたのだろう。
「訳のわからないことを言っていないで、さっさとそこをどけ!お前たちがそこにたむろしていると、の体調がどんどん悪化していくんだっ!!!」
痺れを切らしたイオスが、ありったけの音量で叫んだ。
しかし、相手は腐っても酔っぱらい。
彼らに一般的な判断を求めてはいけない。
「・・・うるさいなぁ、もう・・。イオスは少し黙っててよ。」
右手に眠っているネスティの首根っこ、左手には肩に乗せた大剣の柄を握ったマグナは、そう言ってイオスを睨みつけた。
あううううっ、いつものマグナじゃないよぉぉぉぉ〜っ!!!!!
いつもは穏やかで天然なワンコだというのに!!
どうやら彼も酒乱の卦があるのだろう。普段は柔らかな光を宿す藍色の瞳は、完全に据わりきっている。
これにはさすがのイオスも言葉が出ないようだ。
「いい加減にして!!トリスもマグナも、みんな元に戻ってよ!!!」
彼らの持つひどい酒乱癖に混乱したのだろうか。
唐突にミニスは、叫びだした。
しかし、当然の事ながら酔っぱらっている彼らには、ミニスの声は届かない。
今の彼らには、せいぜい子供が騒いでいるという認識しかないだろう。
「ミニス、落ち着いて・・・・」
私はどうにか気力を振り絞り、ミニスを落ち着かせようと声をかける。
が、それよりも彼女が行動を起こす方が早かった。
「・・・お願い、出てきてっ!シルヴァーナッ!!!!」
ミニスの悲痛な声に応えて、彼女の胸元に揺れるペンダントがまばゆい輝きを放つ。
彼女の大事なお友達にして、彼女を守る頼もしいナイトでもあるシルヴァーナは、メイトルパ特有の鮮やかな碧色の光に包まれて、部屋の中にその姿を現した。
恐竜に酷似した大きくて真っ白な体躯、背に生えるのは翼竜を彷彿とさせる骨張った大きな白翼。猛禽類のそれよりも鋭い輝きを放つ瞳は、見る者に一対の緑柱石を思い起こさせる鮮やかな碧色だ。
シルヴァーナは知性の輝きを宿した目を召喚主であるミニスの方へと向ける。
その瞳に宿る光は、先ほどのものとはうってかわって穏やかで優しい。
ミニスはシルヴァーナの姿を見て、少しだけ落ち着きを取り戻したようだ。涙に濡れていた紫色の瞳には、彼女らしい自信に満ち溢れた光が戻っている。
「シルヴァーナ、この部屋に満ちたイヤな空気を吹き飛ばして!!!」
キッパリと言い切ったミニスの言葉に、私は一瞬にして酔いが覚めた。
否、彼女のやろうとしていることを悟り、青ざめた。
「ちょっ、ちょっと待ってミニス!!!
そんなことしたら、部屋がメチャメチャに・・・」
私は、蒼白になって彼女を止めようとしたが。
私が声を上げるのと、シルヴァーナが咆吼を上げて翼を動かし始めたのは、ほぼ同時だった・・・。
シルヴァーナの羽ばたきで起こされた突風が、部屋の中を荒れ狂う。
部屋の中にあった重箱や料理、食器や調度品などありとあらゆる物が風に吹き飛ばされ、それらが一斉に庭側の障子へ向かって飛来した。
当然、障子がそれらの総攻撃に耐えられるはずもなく。
風と様々な日用品、それから吹き飛ばされた人々によってあえなく障子は破壊され、修復不可能なほどにバラバラに砕かれて、地面に散ったのであった・・・・。
幸いというか、シルヴァーナの召喚主であるミニスを背負っていたイオスと彼女のそばにいた私やシャムロックは、実害はほとんど受けずに済んだ。 当たり前と言えば当たり前の話だろう。あくまで召喚獣は、召喚主を守るためにその力を振るうことが主なのだから。
もっとも、他の面々はそうはいかなかったようだ。
家具や調度品、重箱や障子の残骸などに混じって、割れた一升瓶や酒のこぼれた桝なども地面に投げ出されていた。そして酒を飲んでいた多くの人間もまた、地面の上に潰れている。
そんな彼らの姿を、私は呆然として眺めていた。
「・・・だから、待ってって言ったのに・・・・・・。」
「だって・・・。」
さすがにマズイと思ったのか、ミニスは口ごもってしまった。
「多少やりすぎな所はあると思うが、皆の頭を冷やすのに丁度良かったんじゃないのか?」
「・・・そうですね。部屋は壊れてしまいましたが・・・。」
ま、確かにイオスとシャムロックの言う通りなんだけどね・・・・。
そのことは理解してはいるものの、私はおそるおそる後ろを振り返った。
すると部屋は、そこだけ台風一過に見舞われたように、なんとも無惨な有様になっていた。
思わず肩を落としてしまう私を責められる人間は、どこにもいないだろう。 …多分。
「ごめんなさい、。」
イオスの背から下りたミニスは、おずおずと私の前に歩いてくると頭を下げた。
私はそんな彼女を慰めるように、蜂蜜色の頭をポンポンと叩いてやる。
別に今回のことは、ミニスだけの責任ではない。
むしろ彼女もまた、被害者のうちの一人なのだから。
「いいわよ、別に。終わったことをグチグチ言っても始まらないしね。」
「でも・・・・。」
それでもまだ気にしているらしい彼女を、私は優しく抱きしめた。
「気にすることないわよ、ミニス。そもそも悪いのは、そこいらに転がってる酔っぱらいたちなんだしね。賠償をしてもらうなら、彼らに請求するから安心なさい。」
「私は別に、そういう意味で気にしてるわけじゃないわよ!!」
「そうそう。ミニスはそうでなくっちゃ♪」
強気発言の戻ってきた彼女らしい発言に、私は喜色満面で応えた。
そうしているところに、主の命令を忠実に実行したシルヴァーナがやって来た。彼(彼女?)はミニスの姿を見つけると、嬉しそうに顔をこすりつけてくる。
そして彼女はそんなシルヴァーナの頭を優しく撫でてやっている。
こうして見てると、ワイバーンも犬も大差ないねぇ・・・(笑)。
にしても、このままここでジッとしているわけにもいかないわ。
早速行動を起こさなくてはね。
そう考えた私は、シルヴァーナの頭を撫でるミニスに話しかける。
「ミニス、一緒にはねつきでもして遊びましょ☆」
「は?」
「?」
「この惨状を放っておくつもりですか?」
私の唐突の提案に、ミニスとイオス、シャムロックの三人がそれぞれ疑問の声を上げる。
「だーかーらー、はねつきするのよ。私たちはあくまで部外者!部屋を壊したのは、酔っぱらいたちがやったことなの!!で、私たちは何も知らないのよ!!いい?!」
このままこの場所にいては、部屋の惨状に気付いた母さんやらにとっ捕まってしまう。
そもそも悪いのは、酔っぱらいたちなんだからこのくらいの罰は当たって構わないでしょ。
少なくとも、私もミニスもイオスもシャムロックも“被害者”なんだから!!
「でも、このまま放って置いていいの?」
「そのうち目が覚めるわよ。むしろ私たちは彼らの心配よりも自分の心配をすべきよ!!この状況を作り出したのが素面の私たちだったとわかれば、絶対にとんでもないことになるから。私は少なくとも、もう唸りを上げて飛んでくる鎖分銅と鎌との連携攻撃を受けたいとは思わないもの!!」
叫びながら、笑顔のままで鎖鎌をぶん回している母さんを想像して(過去に一度やられたことがあるのだ)私は思わず身震いした。
「鎖分銅と鎌?一体何のことだ?」
訝しんで聞いてきたイオスに、私は説明してやる。
「母さんの得意とする武器“鎖鎌”のことよ。
母さんったら、怒るとすごく凶暴になって分銅付き鎖やら大鎌やらをぶん回してくるから。だけど、これをやったのが、酔っぱらいたちだと知ればある程度は大目に見てくれるのよ。だから。」
「変に正直に答えるよりも、ある程度嘘を言った方がよいと、
そういうことですか?」
私が答えようとしたことを代わってシャムロックが答えてくれた。
「そういうことよ。わかったら、あなたたちも一緒にはねつきしましょう。そしてこの惨状にはなんら関わっていないと進言するのよ!!」
皆は何も言わない。
私はとにかく瞳に全身全霊の思いを込めて、必死で皆に視線を送る。
結局、先に折れたのはイオスたちの方だった。
「……ダメだと言っても、無駄なようだな。」
「一度決めたことは何がなんでも押し通す人ですからね、貴女は。」
「しょうがないわね、付き合ってあげるわ。」
仕方ない、と言った風に。それでも皆は承知してくれた。
「ありがとう、みんな!!!じゃあ、早速ここを離れましょう!」
私はミニスをギュッと抱きしめた後、彼女の手を引いて意気揚々と歩いていく。
ミニスは子供じゃないんだから、と手を繋ぐのを嫌がっていたが、私が全く取りあう気がないと知ると文句を言うのをやめた。
イオスとシャムロックはと言えば、半分あきらめの境地で私たちの後をついてくる。
わ〜い、ミニスと一緒にはねつきだ♪
いろいろあったけど、ミニスとはねつきできるからそれで全てチャラ☆
一時は酒に呑まれて二日酔いの道を辿るかと思ったけど、ミニスのおかげでなんとかなったし。そのおかげでちょっと部屋が壊れたけど、それは地面に倒れ伏す酔っぱらいたちのせいにして(極悪)。
さあっ、今年も萌えパワーで頑張ろうっ!!
*後書き・・・
・内容はともかく、2004年サモン正月夢です。
なんかギャグも萌えも不発に終わってしまって、ただ長いだけの代物…。
楽しみにして下さった皆様には、なんとお詫びして良いやら…(汗)。
今回は珍しくシャムロックが出てます。というより、初登場です!
後、ミニスとイオスの二人がセットで出てます。このコンビ、大好き☆
ひそかにイオス&ミニスの金髪兄妹同盟なんて作ってみたいな…と思ったり。