「それじゃあ、護衛獣の召喚を頼む。あとは任せるぜ、召喚師様よ。」
話が一段落ついたところで、ブロンが曲がりかけていた話の筋を本筋へと戻した。
「あ、はい。わかりました。」
も本来の目的を思い出すと、早速懐から何かを取り出す。取り出したのは、それぞれ黒・赤・碧・紫の四色を宿す握り拳大の宝石だ。
「それは、サモナイト石…ですか?」
「ご名答。…ささ、プラティちゃんはサモナイト石を全部手に持ってくれる?」
がサモナイト石を差し出すと、プラティは言われた通りにそれを手に持った。
「じゃあ、それを持って。そして、貴方の力となってくれる護衛獣が必要だと念じてみてくれる?貴女と深い絆を持つことの出来る護衛獣を召喚するために、まずプラティちゃんと相性の良い属性を知りたいのよ。」
「は、はい!」
四つのサモナイト石を抱えたプラティが目を閉じる。
それを認めた上で、は両手を地面につけて魔力をわずかに解放した。するとプラティの足下に巨大な魔法陣が現れ、彼女の魔力を受けた四つのサモナイト石が淡く光を放ち始める。
「…へぇ…、全属性と相性の良い子なんて珍しいわね。」
自分も全属性の召喚術を使える身でありながら、はふと一人ごちる。
その言葉が聞こえていたのか、ガルマザリアはやや複雑そうな表情を彼女へと向けた。
《鬼妖界の第九護龍、龍神ミカヅチを護衛獣に持つおんしが言う言葉ではなかろうて…》
龍神ミカヅチといえば、リィンバウムが悪魔に侵攻されていた戦争時代…豊饒の天使アルミネを始めとする天使たちや龍神たちが人間と共に戦っていたあの時ですら姿を見せたことのない、天空の支配者たる神だ。なのに、下界に干渉することと人間と関わることを極端に嫌うかの龍神は、がこの世界に召喚されたその時、自ら彼女の護衛獣を名乗り出たという。
《彼女の声は異界に住まう者たちの心を容易く掴んでしまう…。一体そなたは、何者だというのだ…?》
千年単位で世界を見続けてきた魔臣たる彼女でも、その答えを導くことは容易でなかった。
ガルマザリアが己の考えに没頭していたその頃、はプラティの持つサモナイト石のうち一つがかすかに強い光を帯びているのを見つけた。
(赤いサモナイト石…、鬼妖界と相性が一番良いって事ね。)
はしっかりとそのことを確認した上で、もう一度両手を地面につける。再び魔力を解放すると、プラティの足下に描かれていた魔法陣が鮮やかな深紅の輝きを放ち始めた。
そしてはプラティの後ろへと回り、魔法陣の中へと足を踏み入れる。両腕を大きく広げ、プラティを後ろから包み込むようにしてシルターンのサモナイト石へと両手を翳し。もまた、目を閉じる。それとほぼ同時に、彼女の持つ魔力が完全に外へと解放される。より一層深紅の輝きが強くなり、辺りが緋色に染め上げられる中。は静かに召喚の呪文を唱え始めた。
「古き英知の術と我が声によって、今ここに新たなる召喚の門を開かん…。
少女の強き思いに呼応せし鬼妖界の住人よ、我が魔力で創りし召喚の門よりここへ来たれ!!
そして我はここに刻む、新たな誓約の名を!!その名は、プラティ!!」
プラティの持つ赤いサモナイト石が、一際まばゆい輝きを放った。
周囲を包み込む鮮やかな深紅の光の中で、プラティの足下に描かれた魔法陣から一条の閃光が迸る。閃光は世界と世界を結ぶ召喚の門となり、一瞬だけ異界とリィンバウムを繋げることに成功する。
そして───── 。
「…ここは、まさかワイスタァンか?」
シルターン特有の赤い光に包まれて姿を現したのは、一人の鬼人だった。
アーモンドを彷彿とさせる黒褐色の肌、ざんばらな硬質の長い髪は朱に近い緋色。意志の強さを感じさせる切れ長の鋭い瞳は、研磨された極上の柘榴石のようで、逞しい体躯に鳶色よりもやや深い色の動き易そうな甲冑と虎縞のマントを羽織っている。なかでも目を引くのは、額から伸びる黄金の角と先の尖った長い耳。整ってはいるものの、どこか野性的な雰囲気すら漂わせる面立ちの青年である。
『ほう…、まさか鬼王を召喚するとは思わなんだ。』
ガルマザリアは思わず感嘆の溜息を漏らす。
「おいおいおい…。」
一方のブロンは、唖然とした面持ちで召喚された若き鬼王の方を見ていた。
召喚された鬼王…鬼人族の青年は、視線をあちらこちらへと動かしていたが、ふとその視線が一点に集中する。
「……あんた、まさか……。」
驚愕に見開かれた柘榴石の双眸は、真っ直ぐにの方に向いていた。
「なに?」
わけがわからずは首を傾げる。
「オレ様を召喚したのは、あんたか?」
「私は手伝っただけ。実際に貴女を召喚したのは、そっちにいるプラティちゃんよ。」
「だが、あの異界の扉を開いたのは、あんただ。違うか?」
「そりゃまあ…。」
異界への扉を開くには、ある程度の魔力を持つことと魔力を自在に操れることが原則となる。召喚師である者たちとそうでない者たちとの違いは、潜在している魔力を操れるかどうかで決まる。今回の召喚は、懸命に願うプラティの思いをが異界へと渡し、その思いに応えた者をコチラへ呼び寄せる形式を取っている。彼を召喚したのは確かにプラティ自身だが、シルターンとリィンバウムを結ぶ召喚の門を開いたのはだ。
「龍神も魅入られる少女……か。その割にはイマイチ色気が足りねぇな。」
「はい…?」
思いっきり失礼なことを抜かす青年の言葉に、は一瞬何を言われたのかわからずに、思わず聞き返していた。だが、彼は全く答える気はなかったようであっさりとその言葉をスルーする。
そしての頭の上から足の先までジロジロと眺め回すと、ある一点で視線を止めた。
「…まぁ、それでも胸はそこそこあるか。」
そう言うのと、青年の手がの胸に触れたのはほぼ同時。
彼女の意識が完全に覚醒したのも、丁度同じ時だった。
「にぎゃあああああああああっっっ!!!!」
絶叫するのと同時進行でライザーを召喚したは、渾身の力を込めてライザーを青年の顔面目がけて投げ飛ばした。
ゴンッ。
咄嗟のことで反応が遅れた青年は、ものも見事にライザーに顔面直撃されてその場に倒れ伏す。
『鬼王といってもいろんなやつがおるようじゃの。』
半ば呆れた口調で言い遣りながら、ガルマザリアは、倒れ伏す鬼王へ冷ややかな視線を送る。
「………親方。本当にこの人が、私の護衛獣なの?なんだか不安になってきた」
一連の出来事を端から見ていたプラティが、こっそりと隣に立つブロンに耳打ちする。
「…ラショウのやつ、何を血迷ったんだか……」
一方、青年を見知っていたブロンは、頭を抱えてその様子を見ていたのであった。
*後書き…
・かれこれ2ヶ月以上放置していたクラフトの続きをようやくUPしました。
やっと少しだけゲームシナリオに沿ってきたかも?
プラティの護衛獣になったのは、ラショウです。彼を出した理由は至って簡単。クッティとザンテックは人間の話さないし、シュガレットは一度もやったことがなかったから。
私、別にラショウが嫌いなわけではないです。ただ、さんが鬼妖界の住人たちの間では有名人であることを書きたかっただけ…。
ラショウ好きな方、お気を悪くされたらごめんなさい。
次回は鍛聖の方が出演する予定です。(あくまで予定ですが)