代わりに頭を埋め尽くすのは、真っ白な白紙の思考。
もはや意識すらぶっ飛んでもおかしくないところをかろうじて理性でとどめていると、私に声をかけてきた相手は、訝しげな表情を浮かべる。

「どうしたんだ、?僕の顔に何かついているか?」
言われて私は、自分が彼の顔をぶしつけにジロジロと眺め回していたことに気づいた。

そうして。彼の問いに首を大きく横に振ることで答えを返すと、私は目の前にいる超絶美形王子――イオスに向き直る。

「…………いえ、とんでもございませぬ。
王子のご尊顔は、あいも変わらぬお美しさでございますですよ。
ところで、どうして着物を着てるのですかね?」

「……さっきの獣人騒ぎで、軍服がだいぶ汚れたからな。
君のお祖母様がこの服に着替えるよう、勧めてくれたんだ。」

ナ〜イスッ、お祖母様!!!(グッ)
あと、ついでに獣人騒ぎを起こしたビーニャもナイスよっ!!!

「どこか変なところでもあるか?」

「いえいえ、滅相もない。」
あまりに私が凝視したせいだろうか、イオスはバツの悪そうな色を浮かべた。
が、私はその問いを一言でキッパリと一蹴する。


確かにイオスは美形だ、美形だと思ってはいたけど………。
正直、私は彼の美貌を侮っていたのかもしれない。

なぜなら。
日に照り映える小麦の穂を思わせる、自然で優しい黄金色の髪。
前髪で隠れたそのもう片方の瞳は、柘榴石もピジョン・ブラットすら足下に及ばないほどに研磨された鮮やかな深紅の隻眼。それらの色彩は、大理石を思わせる滑らかな肌と相まって、彼の肌の白さをより一層引き立てる。
だが、西洋系の彫りの深い顔立ちでありながら、直垂ひたたれ――武士の着ていた着物の一種だーーを纏っていてもまるで違和感を感じさせない。
着物の色がもともと彼の着ていた軍服と同様、紫紺であるせいであろうか。

……いや、違う。
これはまさしく、「美形は何を着ても似合う」というやつだ。
和洋折衷というある意味エキゾチックな雰囲気が、逆に彼の本来持つ美貌をより一層引き立てているその様は、まさしくキングオブ美形と呼ぶにふさわしい。
その上、どことなく色気すら漂っているというのに、私だけが鑑賞するにははっきり言って勿体ない。

あぁ……、萌えの頂点通り越すと、人間呆然とするものなのね。

しみじみと貴重な体験を実感しつつ、私は感嘆の溜息を漏らした。
そして、かた〜く心に誓う。
絶対にあとで、思う存分写真を撮らせてもらおう♥と。



***************


「…何をしているんだ、君たちは。
そこでつっ立っていられると、僕たちが中に入れないんだがな。」
うんざりとしたような、怒りを通り越して呆れたような口調は、ネスティのもの。

チッ、もう来やがった(オイ)。
もっとイオスを鑑賞してたかったのに。

心の中で盛大に舌打ちしながら、それでも仕方なくイオスから視線を外せば。
折角の綺麗な顔を勿体ないくらいに歪めたネスティと、他大勢の姿があった。

ちなみにその中には私の母の姿もあったが、今の彼女には何を言っても無駄だろう。

なぜかって?
そりゃあ彼女が、年甲斐もなく少女のように頬を染めて、イオスの着物姿にうっとり見入っていたからに決まっている(父さんがその姿見たら、泣くぞ)。
さすが、年季と筋金入った美形好きだ。


「入りたくても、入れないからここにいるのよ。」

「どういう意味だ?」

「中を見てみればわかるわよ。」

私の言葉を聞いて、ネスティはさらに顔をしかめた。

あぁ、折角の美顔が勿体ない………。

「中を見てみれば、…ねえ。
じゃあ早速拝見させてもらうとするか。」
そう言うなり、行動派のフォルテが障子を遠慮無しにいきなり開けた。
中にいる人間に声の一つもかけないままで。

あ〜あ、開けちゃったよ。

ふとミニスとバルレルの方へ視線を移せば、彼らも私と同じことを考えていたのか、我関せずといった表情を浮かべながらも、その視線は障子の中へと向けられている。

私もそれにならって視線を部屋の中へと移し……………。


……………あ、あれ?


中には何事もなかったかのように座る、とキールの姿があった。
さっきまであれだけいちゃラブしておきながら、そんな雰囲気は微塵も感じさせないのは、さすがというか。何というか。


「…で、入りたくても入れない理由を説明してもらおうか、。」

そして。
当然のことながら、ネスティの冷えた視線が私に注がれる。

「状況が変わったからね。さ、皆さんも入った、入った。」

だが私は、あえてネスティの視線を無視して、他の皆を部屋の中へ入るように誘導したのであった。

おのれ、め。あとで覚えておけよ。




皆が中に入り、それぞれが腰を下ろし終わったところで、が口を開く。

「それじゃあ、まず単刀直入に答えを言う。
あんたたちがこの世界へ喚ばれてきたその理由は………ズバリ、偶然だ
それからこの世界で召喚術が使える理由は、世界の質が変化してリィンバウムのそれと近しい質に変化したから。以上。」

………………オイ。

あまりにも簡単すぎる説明に、思わず私は脱力する。
脱力するな、という方が無理な話だ。
ゲーム内のキャラが突然現れて、使えないはずの召喚術が使えるようになった。

そんなとんでもないことがあったというのに。

今回のことには、小難しい、複雑な理由があるのかと期待していたのに。

偶然ってなんだよ、偶然って(怒)!!
世界の質が変化したって、なんで変化したんだよ!!

このような疑問を抱いたのは、何も私だけではなかった。

「……それでは、あまりに単刀直入すぎる。
理由をキチンと説明してくれないか。」
いささか気分を害したらしく、いつも以上に表情が硬くなっているネスティ。
ついでにに問いかける声も、明らかに怒気が混じっている。

対するは、隣に座るキールへチラリと目配せをして。
再び私たちの方へと向き直ったかと思うと、面倒くさそうに後ろ頭を掻いた。

「理由……、どうしても説明しないとダメか?
結構面倒だし、時間もかかるし、
何より俺たちのことについてもいろいろ話さないとならなくなるんだが……。」
いかにも気が進まないと言わんばかりに話す

対するネスティの答えは、
「構わない。」
一言キッパリである。

「まあ、面倒な説明ってのはあんまり聞きたくもないんだが、
俺としてはあんたたちに興味があるんでな。
……じっっくりと、腰据えて話そうや。」
フォルテの言葉は、多分他の皆の言いたいことを代弁したものに違いなかった。
現に彼の言葉に、皆がそれなりに反応を示した。

そして、それは私にも言えること。

「私としても気になるわね。
悪いんだけど、秘密は一切無しでキッチリと話してもらいましょうか。
獣人騒ぎが収まったら全部話してくれる、そういう約束だったわよね、。」


「…………にまでそう言われちゃあ…、話さないわけにもいかないか。
いっとくが、途中でやっぱり聞かないっての無しだからな?
それから、くれぐれも。
オレがこれから話す話はのろけ話じゃないからな?
そこんとこ、あらかじめ了解しておけよ、いいな?

は私たち全員の顔を見渡した。
そうして念を押しておき………(しかしのろけ話じゃないってのは、一体どういうことなんだろうか)、やおら大きな息を吐く。


「まずは、オレとキールのことについて話さなきゃならんのだがな………。」


気が進まない。
そう明らかにわかる、口調で。

それでもは、語り出した。





*後書き…
・た、大変申し訳ありませんでした〜っ!!!(平謝り)
皆様の当サイト訪問目的No.1のサモン2パラレル夢、おおよそ半年ぶりの更新となりました……(滝汗)!
すみません、すみません。もう謝っても仕方ないくらいなのですが、謝ります。
とにかく管理人、気まぐれでして。
今の今までずっと気分が乗らなくて、書けなかったんです!!
そうしてようやっと、進んだかな〜と思ったらまた続きかよ?!
はい、続きです……申し訳ないですが。
できるだけ、続きは早めにUPしますので………(怪しい)。


 

 


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