書架棚の奥の方まで入って来た私は、銀色の箱を床に置き、中を開けてみる。 とーーーー。 「…………なんで、セーラー服???」 中に入っていたのは、黒いセーラーカラーのついたブラウスと白いタイ、それにプリーツのスカートだった。どこからどう見ても、これはセーラー服の一式だ。 なんで、これを着ろと………??? 頭の中で様々な思考が錯綜していったが、最終的に私はセーラー服を着ることにした。詳しい話はこれを着てからだ、と篭目老人は言っていたし、久々にセーラー服を着てみたいと思う思いがあったことは否めない。 例え百万分の一の確率で、この服を着ろという老人の言葉に下心があったとしても。そんな場合は、あとで新技開発の時に実験台になってもらえばいいことだ。(極悪) 「言われた通りに着てきましたけど。」 さっきまで着ていた服を銀の箱に詰め直し、その箱を脇に抱えて、私は皆がいるところへと戻った。 「………セーラー服がよく似合うな、。まるっきり高校生にしか見えないぞ。」 真っ先に声をかけてきたのは、再びいじっていたノートパソコンのディスプレイから顔を上げた雅行だった。 「雅行……、それって褒めてるの? それともけなしてるの?」 「よく似合うって、褒めてるじゃないか。」 しかしそう言う彼の口元は、笑みの形を刻んでいた。どう見たって、明らかに私の姿を見て面白がっている。つーか、楽しんでる。 おのれ………、絶対いつか、吸血鬼のコスプレさせてやるからっ(断言)! 「心配するだけ無駄だったようだな。」 一方の篭目老人…もとい籠目部長は、淡々と事実を把握しているだけだ。 面白がられるのもいやだけど、ここまで無関心を貫かれるのもなんだかイヤだ。 「心配って、そういう心配だったんですか。」 セーラー服を着た私が高校生に見えるか、否かという心配だったわけですね。 「で、事情を話してくれますよね? どうして私がセーラー服を着る必要があったのか。」 「お前が御霊部メンバーたる資格があるかどうか、試験をする。」 …………。 ………………………………はい? 「ちょっと待って下さいよ、部長!! いくら能力があるとはいえ、は………」 どうせ私は、お公家さんの血統でもなんでもないわよ。 だけど、それがどうした!!! 今時、家柄だの血統だの気にするのは、一部の大金持ちと犬猫で十分よ! 「うちが慢性的な人手不足に悩んでいることは知ってるだろう。 『天の眼』……サリエルの邪眼は、この先二度と出てくるかもわからない稀少な能力だ。それにそろそろ、攻撃系の能力者を入れたいところだと思ってた。」 そこまで言われてしまうと言い返すに言い返せず、柊一は口を噤んだ。 だが私とて、言いたい事は当然ある。ありすぎるくらいに、ある! 「ちょっと待ってよ! 言っときますけど、私は『借りを返す』ために協力しているのであって、もとはヤミブンのアルバイト員なんですからね!!!」 「そのことならもう、彼女と話はついている。」 彼女。この言葉が誰を指すのかーーー、いわずもがなヤミブンの女王様のことだ。 「エリ子さんと?!」 「どうせバイトさせるなら、コンビニよりも御霊部の方がまだ安心だと言われてな。」 ……どういう意味で安心できるんだろう。 相変わらずエリ子さんが何を考えているのか、さっぱりわからない。 いや。あの人の思考を、この私の鈍い頭で理解しようとするのが無理なのだ。 「コンビニのバイトよりも安心?! おい、。お前のところの上司、一体何を考えてるんだ!!」 「……さあね。でもエリ子さんらしい答えよ、実に。 だって彼女がヤミブンに嘱託で復帰したのも、スーパーのレジ打ちよりも簡単だからっていう理由だったわけだし。」 それを聞いた時は、私もさすがに驚いた。 楠木さんに至っては、呆れ半分と怒り半分の心境だったようだが。 「レジ打ちバイトの方が、ヤミブンのバイトよりも難しい??? なんなんだよ、あのおばさん……。」 ぼやく気持ちはよくわかるわ、柊一。 でもおばさんってのは、禁句よ。禁句。 「とにかくそういうわけで、お前には安内市に向かってもらう。 あそこは二十年に一度、必ず綿密な調査を行わなくてはならないーー御霊としては、間違いなく一級の相手だからくれぐれも注意するよう。 そのために、お前は安内市の県立高校に転校生として潜入してもらう事にした。 制服はその高校のものだ。これでわかったか?」 「……………あの、つまり、私に安内市で高校生をやれ、と。」 「そうだ。」 「なんなんですか、それはぁーーーーーーっ!!!!!」 私の口を絶叫(不満の声)がついて出る。 ところが、その声があまりに大きかったので、柊一を含む三人から冷たい視線を浴びせられてしまった。 だけどね?これが叫ばずにいられるかってのーーっ!!!! ************************ そうして、安内市の県立高・舟山高校に転校し、今に至るのである。 年齢を3つもごまかしているというのに、誰一人として私に疑いを持っていない。 それどころか、ひどいときには高校一年生に間違われるくらいだ……(泣)。 「はぁ………」 丁度席が窓際であることを良いことに、私の視線は外にばかり向かっていく。 季節はもう夏。あと一ヶ月もしないうちに、学生待望の夏休みがやってくる。 でもその前に、その前にどうやって理数系科目のテストを切り抜けようか…。 もともと私が通っていた女子校は、文系私立大に特に強い進学校であったから、理数系の科目は高校二年生のときから一切勉強していない。 他の科目はともかくとして、理数系だけは昔とった杵柄というわけにもいかないのである。さらに、もともとこのての科目は苦手&嫌いなので、授業聞いてても何の事なのかまるでさっぱりわからないのだ………。 溜息をつくなという方が、どだい無理な話である。 「!授業に集中しろっ!!!」 「っ、はい!!!」 先生に注意されて、私は反射的に返事をすると、ようやく視線を教科書へと戻した。 *後書き… ・ようやっとです。聖霊狩り夢連載の始まり始まり〜。 さてヒロインさんのポジションですが、最初は誠志郎と一緒に安内市に行かせようと思ってたんですよ。 でもそれじゃつまらん!と思って考えて考えた結果、こうなりました。 ズバリ舟山高校潜入作戦!です。 ヤミブンではこのように身分を偽って仕事をする事、結構多いじゃないですか。 だからいいかなぁ〜?と。 本当は早紀子や萌との関わりとか、いろいろ書きたかったんですけど、そうすると柊一たちがなかなか出てこないので、敢えて割愛。そのうち閑話として、ポツポツ書いていく予定です。 |