フィリアのご厚意に甘えて、ずうずうしくストレイライズ神殿で世話になるようになって、もう何日経つのだろうか。

 どうやら私が飛ばされたのは、まだバルバトスがフィリアを狙ってやって来るよりもずいぶんと前の時間だったらしい。
 それゆえに、フォルトゥナの鼻っ面をへし折るどころか、フォルトゥナの栄えある下僕第一号のエセ聖女エルレインとだって会っていないのだ。

 どうにも、地球への帰還はまだまだ先の話になりそうだ、はぁ……。


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 夜も遅くなっていたのでそろそろ寝ようと、欠伸一つして身体を伸ばしていたところで、私はいきなり強烈な睡魔に襲われた。
抗うことすらできず、なすがままに眠りに落ちた私の身体は、寝台の上に倒れ込む。

 そして………。



『どうやらちゃんと目的地に着いたようだな。』

 その声に目を開ければ、周囲はまるでギリシャのパルテノン神殿を彷彿とさせる、不思議な雰囲気のある場所だった。どこもかも美しい彫刻で装飾されていて、壁や床の色は美しい大理石で覆われている。
 荘厳でおごそかなその様は、まさしく万神殿そのものだ。
その中に佇む女神――おそらくは私をTOD2世界へ誘った張本人ーーの姿は、その風景の中に綺麗に溶け込んでいて、驚くくらいに絵になっていた。

「……あー、ファルトゥナ嫌いの自称神様(仮名)。
ちなみにまだエルレインにすら会ってないから、大ボスと会うのは当分先よ。」

そういや、今更気づいたんだけど、私この神様の名前聞いてないんだよね。

 だから、とりあえず仮名で呼んでみた。

 すると、彼女は当然いい顔をしなかった。

『誰もそんなことは聞いていない。それから勝手に変な名前をつけるな。
折角いい物を渡しに来たんだが………、やはりやめるか。』

なにぃっ!!!

「ちょっと待った!
変な名前云々については、名前を聞いてないんだから仕方ないでしょ。
それから、戦うことのできないかよわい女子大生を
こんな危ない世界へ丸腰で送るなんて、一体どういう神経してるの?
せめて自分の身を守るための道具くらい、くれてもいいでしょ!!」

そうです。ここはTOD2の世界。
そこらを歩いていれば、一定確立でモンスターに遭遇するという世界!!

 なのに私は、全く戦いのたの字も知らない弱弱ちゃんだったりする。
剣道習ってて段持ちとか、弓道やってましたとか、うちが道場で護身術を会得してるとか、実は闇家業で“忍び”の家柄だったりとかしないので、本当に弱いんだよ。

 このまま一人で街の外に出たら、まず間違いなく数秒で骸と化す。


『どこまでも口の減らんやつだな。だが、面白い……。
名乗るつもりはなかったが、気が変わった。
特別に教えてやろう、私の名を。
我が名は、アテナ。
オリンポス十二神が一人にして、戦いと正義と知恵を司る戦女神だ。』


へ?


「ぬええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」

 アテナって、ギリシャ神話に出てくる軍神のこと?
オリンポス十二神(封神演義でいう十二仙のようなもの)で、主神ゼウスの頭を破って生まれてきたっていう奇妙奇天烈な女神様のこと?

 でもなんで、そんな女神様がフォルトゥナを目の敵にするの????

 とりあえず彼女の正体はわかったとはいえ、疑問が再び浮上してきたので、思わず首を傾げていると。

押し殺したような笑い声が、聞こえてきた。

『…ぷっ、くくくっ…、つくづくそなたの反応は見ていて飽きないな。
第一私がこれほど目にかけた人間を、そうたやすく死なせてやると思うか?
我が血を引く唯一の娘――よ、これを受け取るがいい。』

 言うなりアテナは、虚空に右手を翳す。
すると何もなかったはずの空間から、突然一本の剣が現れた。

 スラリと綺麗な弧を描く長い刀身持つ両刃の剣。
だが。刀身の片側には、かぎ爪を思わせる突起が二つあって、その先には鋭い爪にも似た小さな刃がくっついている。
 握りしめる柄の部分は普通の剣のような棒状のそれではなく、持ち手が握りやすいように工夫された形状なのだが、ところどころを見れば、刀身の突起につけられたものと同じ爪のような刃がついていた。
 まるで蝙蝠か、はたまた悪魔を彷彿とさせる異形な形状をした剣。
その刀身の色は、鮮やかすぎるほどのぬばまたの漆黒。

 これほど特徴のありすぎる剣のことを忘れるはずがない。
TOD1のラスボスが使用していたソーディアン、ベルセリオス。


『こちらの世界ではソーディアンと呼ばれ、自らの意志を持つ魔力剣…。
名は……わざわざ私が知らせてやるまでもなかろう?』

「それは、そうだけど……。でもどうしてアテナ神がこれを?
…まさかとは思うけど、ぶっ壊れる前の過去から持ってきたもので、さりげなく“コアクリスタルの中にミクトランの精神入り“じゃないわよねぇ…。」

 万が一ミクトランの精神がまだ生きていたら、私もヒューゴの二の舞だ。

『案ずるな。これは粉々になった剣の破片を全てかき集め、鍛冶の神ヘパイストスに打ち直させただけの代物。妙な憑き物は以前破壊された時に消えているから、心配はいらない。』


あ〜、さいですか。

にしても、一度壊れた剣の破片をかき集めたって、誰が集めたんだろう?
まさかアテナ神本人がやったわけじゃないわよね(だって偉い神だし)。
じゃあ、一体誰が…………???


『余計なことは気にする必要はない。
、そなたはフォルトゥナをぶん殴ることだけを考えておればよい。』

…………ぶん殴るんですか、神様(一応)を。
アテナ神、貴女は一体フォルトゥナとどんな因縁があるんでしょうか。
とても気になって仕方ありません………。







 妙に疲れた気分で目が覚めて。
気づいてみれば、枕元にはベルセリオスがあった。

夢じゃないし、本当にベルセリオスがあるよ……(涙)。

 私はあらかじめ準備されていた神官服に着替えると、マントの後ろにベルセリオスを隠すようにして腰に差すと、疲れた足取りのままで部屋を出た。


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 私の毎日の日課は、まずフィリアに会うことから始まる。
彼女としばらく話した後、今日やるべきことを言付けられて。
そこでようやく、一日が始まるのだ。



「おはようございます、ラリサさん。よく眠れましたか?」

「……あんまし。夢を見て疲れたので。」

「夢を見て、疲れてしまったんですか?」


 訝しんで首を傾げるフィリアに、私は簡単に今朝見た夢について話した。 


 すると。

「まあ、そんなことがあったんですか?
ラリサさんは、とてもその女神に愛されていらっしゃるのですね。」

 フィリアから返ってきた答えがこれでした。
アテナ神からもらったベルセリオスを見せても全く動じないどころか、こんな一言で全てをあっさりと片づけてしまえるなんて、やはりフィリアは大物だ。

「全然驚かないのね、フィリア。」

「ええ、驚きませんよ。そもそも異世界から貴女がここへ来たこと自体、とても信じられないようなことだったんですし、この際ラリサさんの周りでどんなあり得ないことが起こっても、一切驚かないようにと心に誓ったんです。」

………フィリア、それは私が異常なやつと認識されていると思って間違いないかな?




『十中八九間違いなく、異常人物と認識されてるわね。あんた。』



「え?」

「あらまあ。」

突然聞こえてきた第三者の声に対する私たちの反応は、似て否なるものだった。

 っていうか、ベルセリオスって男じゃなくて女、だったんだ………。

『そっちの眼鏡っこ、あんたにも私の声が聞こえたの?』

「これでも、元ソーディアンマスターですから。」
 ニッコリと笑顔を浮かべるその姿は、まさしく司祭そのもの。
だが事実フィリアは、十八年前の神の騒乱を収めた四英雄の一人であり、ソーディアン=クレメンテのマスターだった人だ。

『へぇ………。とすると、貴女が使ってたソーディアンってクレメンテ?』

「はい、そうです。よくわかりましたね。」

『だって貴女、クレメンテの好きそうなタイプだもの。』

………………そういう基準でマスターを選んだのか、クレメンテ!?

「………えっと…、ハロルド博士…でいいのよね、貴女。
私はラリサ。一応貴女のマスターってことになってるんだけど………いいの?」
なんとなく無視されたままでは悲しいので、私は思いきってベルセリオスに話しかける。

『博士なんて堅っ苦しいから、普通に呼んで。
それにいいもなにも、私に選択の余地はないわよ。
あんたの手助けと護衛を条件に、私は今ここにいるんだから。
それに…………あんた、見てて飽きなさそうだもの。』

「飽きない?」

『そうよ。だいたいソーディアンに自分が使って良いか?
なんて聞いた人間、今までもこれからもあんただけよ。
それにあの女神の血を引いてるんでしょ。
神の血を引く人間なら、付き合っても退屈しなさそうだしね。』

「あ、あはははは…………。」
 実にマイペースなハロルドの言葉に、私は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。


にしても、私がアテナ神の血を引いてるってどういうこと?
アテナ神って、有名な処女神でしょ?


 いろんな意味で、私、ついていけないです。
また余計なメンバーが増えたせいで、余計に話がこんがらがりそう。






*後書き…
・お題無視どころか、全然夢じゃないお話。
そして素晴らしく原作無視の方向です、一部。
っていうか、いいのか。ソーディアン=ベルセリオス出して?
なるべく他のサイトとは違う夢展開を心がけてますので、お許しを……(汗)。
次回は多分、初穴子さんヴォイスマンとの戦闘シーンの辺りです。
ところで、この話。見ている人っているんだろうか……?
まあ自己満足で書いてるだけだから、いいけどね………。