「…ったく、これじゃまるでロココ時代の貴族令嬢の衣装タンスじゃない…」

 タンスの開き戸を外から覗き込めば、どこもかしくも服・服・服。
しかもその服の大半が暖色系で、レースやフリルをあちこちにふんだんに使った華やかな、それでいて可愛らしい女の子用のドレスやらワンピースばかりだ。

 全く…、私にこんな少女趣味丸出しな服を着ろと言うのか、あの兄は。

 いくら血の繋がらない偽りの兄妹関係であったとしても、もう一緒に暮らして三年。
いい加減に私の嗜好を把握してくれても良さそうなのだが、どうにも彼は未だにその辺を理解していないらしい。

 …いや、理解していながら自分の趣味を押しつけているのか。

 色とりどりのフリルで飾られたロココ調のドレスやら、襟と胸元や袖元にゴージャスなレースを施したブラウス。かたや、膝上丈のピッチリしたミニスカートや胸元の大きく開いた上着など、やたらに露出度の高い服(少なくとも私にはそう思える)を買ってきては、私にそれを着てくれとせがむのだ。
 いつもの私なら速攻で顔面足蹴にしているところだが、いかんせん私好みな美顔を蹴り倒すわけにもいかなくて。たいていの場合、私の方が折れて服を着てみせるという状況が続いていたりする。


 そして今回…、今日の外出の時もその例に漏れず。
 久々の兄妹水入らずの旅なんだから、と兄にさんざんに諭されて、私は首都セントラルまで少女趣味丸出しなフリフリワンピースを着ていく羽目になってしまったのだ。

 ああっ、つくづく強気に出れない自分が恨めしい…。
 それもこれも、兄さんが文句なしの美形さんなのが悪い!

 雨の日はとことん無能なくせに…(爆)。


 兄さんの悪口を呟きながら、私は少しでもフリルの少ない服を、少しでもシンプルなデザインの服を必死になって捜す。だいたいフリルたっぷりの服というのは、金髪青い目のヨーロッパ系美少女の必須アイテムであって、私のような黒髪黒目東洋系の凡人が着る代物ではないのだ。

 それにも関わらず。
似合わないのは誰が見ても一目瞭然だというのに、兄さんは
「何を着てもは可愛い。さすが、私の妹だ」などと言っては悦に浸っていたりするのだから……。


 呆れるのを通り越して、あれはもう重症だと思う。





「……ん?」

 半ば死に物狂いになっていた私の視界を、ふと黒い物がよぎった。
身体をさらに中へと入れて探り出してみると、タンスの片隅に忘れられるように置き去りにされた一着のワンピースがあった。暗くてよく見えないものの、フリルやレースがついている気配はないので、私は試しにその服を外へ出してみることにした。

「あ……」

 私が手に持っていたその服は、黒と紺の中間だと思われる深い色をした一着のワンピースだった。フリルやレースは一つもない、飾りっ気も何もないシンプルなそれの丈は、膝下まで伸びている。布地の手触りは微妙にゴワゴワしていて、明らかに普通の布ではない。多分、ナイロンかその類の布で作られているのだろう。


 忘れようにも、忘れるはずがない。
 私がこっちの世界へ来た時、着ていた中学校の制服である。


「どこにしまったかと思ったら、こんなところにあったんだ…」
 しみじみと制服を眺めながら、私は三年前のことを思い出していた。



*蛇足ながら、後書きモドキ。
・回想に到るまでの、ちょっとした前振りです。
同時にネタバレとも言うかもしれないですが…。
名前変換少なすぎ。
ときに、ヒロインさんのお兄様が誰だかわかりました?
わかりますよね、あの一言で。(笑)