■呼ばれて、出てきて、暴れてみました♪

 時間の感覚も寒暖も知覚できないような、一切の闇。
そんな中を私の身体は、ゆったりと泳ぐように漂っていた。
流れ一つない無の空間の中、意識があるのかないのか。それすらもわからぬままに、ただ私はその中に存在しているだけだった。

 そんな中から私を引きずり出すきっかけを作ってくれたのは、誰かの声だった。


『・・・出てこいよ!!』



 …ん? 私のこと、誰か呼んだ?

 誰かに呼ばれた気がして私が心の中でそう答えると、身体が赤い光に包まれた。
それとほぼ同時に、ゆったりと闇の中を泳いでいた私の身体が何かに引き寄せられるように緩やかな移動を始める。

 何はともあれ、まずはそちらへ行ってみましょうか。






 一気に視界が開けたと思ったら、身体を襲ったのは軽い浮遊感。
さっきまでいた場所が暗い闇の中だったからだろうか、肌に触れる大気や日の光が妙に熱く、じんわりと重くすら感じられる。すぅっと大きく息を吸い込めば、何とも懐かしい潮騒の音とともに独特の風合いを持つ潮の香りがつんと鼻の奥をくすぐる。

 ……ここ、海?

 辺りの景色を確かめようとする矢先、何かが足下にぶつかったような感触を覚えた。
だが今はそんなささいなことに構っている暇はない。
 私は目元を両手で覆うと、手の下でゆっくりと目を開く。そして両手の下で何度かゆっくりと瞬きをし、闇に慣れた瞳を光に慣れた通常版のそれへと戻した。

 そうしてゆっくりと顔を上げた先には………、どこまでも続く青い海と空。

「………うっわ、本当に海だよ。てか、ここどこさ? 」

「…リィンバウムに、きまっとるじゃろうが!! 」

「ん?」
 いきなり聞こえてきた叫び声に、私は辺りをキョロキョロと見回した。
だがその声の主と思われる人影は、どこにも見当たらない。

「気のせい、か…? 」

「気のせいやあらへんて。あんさんの足下、よぉ〜く見てみなはれ」
 そう声をかけてきたのは、明るいオレンジ色の髪の男の人だ。彼は半ば呆れたような表情を浮かべて、人差し指で地面を指差している。

 その動作につられるように、私もまた視線を下へと向け……
「……っ、どえぇぇぇぇっ?! 」
 思わず驚愕の声を上げて、慌ててその場から離れた。
 なんと私の足下には、蛙のように地面に潰れる人間の姿があったのだ。

 ビックリするなという方が、むしろ無理に決まってる。

「あ、あはははははは…………。どうも失礼しました」
 私は冷や汗を掻きながら、とりあえず謝罪の言葉を紡ぎ出した。

 謝っては見たけれど、多分許してくれないだろうなぁ……。
 てか私がもし相手の立場なら、絶対に許さない。
 せめて”天雷”の二,三発、ぶちかましてやらないと気が済まないだろう。うん。

「失礼しました、で済むかぁっ!!! 」
 そして、やはり私の予想通り。
こちらが謝ったにも関わらず、相手は食ってかかってきた。

「いきなり人の頭を足蹴にしておいて、言葉一つで済むと思っとるのかぁっ!
小娘だと思って手加減すると思ったら、大間違いじゃぞっ!!!! 」
 今時珍しいカイゼル髭は、奇妙な形で固まった癖のある赤毛の髪と同色。ところどころにフリルがあしらわれたタキシードに、ピンクの蝶ネクタイが妙に派手だ。渋いというよりは、むしろ濃い印象が拭えないそんなおじさんである。

「だーかーらー、謝ったでしょうが!! だいたい私だって、好きであんたを足蹴にしたワケじゃなし、これは偶然の事故よ! 事故! 事故にまでいちいちケチつけてくるなんて、ずいぶんと心が狭いわね。おじさん」

「黙れ黙れ黙れぇっ! 事故だろうが何だろうが、わしの頭を足蹴にしたのはお前だろうが!!! 化け物の分際で、わしに口答えするとは良い度胸じゃなぁ。ええ?! 」

 化け物? この、私が?
 そりゃあお世辞にも、可憐な美少女でも絶世の美女でもないこの私ですけど。
 十人十色な容色ではあるけれど、化け物ってのはちょっと言い過ぎじゃないの?

 第一ね。そんなこと、あんたみたいな濃いおじさんに言われたかない。

「私が化け物って…、ずいぶんと目がお悪いんですね。眼鏡かけたらどうです? 」
 今にも堪忍袋の緒がぶち切れそうなのを必死で押さえて、私は極力平静を装ったまま、髭面のおじさんに向かって言い放った。

「ふん! わしらとよく似た外見をしておっても、召喚獣は召喚獣じゃろうが」

「召喚獣? なにそれ」

「ふはははっ、聞いて驚け! 召喚獣というのはな、貴様のように召喚術で呼び出された異世界の者たちにつけられる総称よ。召喚獣のくせにそんな事も知らんとはな」
 親切なんだかそうでないのかよくわからない髭親爺は、そこまで言い終わると顎が外れんばかりに大口を開けてガハハハハと笑い出した。


 …にゃろう(怒)。なんならお望み通り、化け物召喚しちゃるからなっ!!

 そうして私がひそかに額の紋章へと魔力を注ぎ込んでいると、ぽんっと頭に大きな手が置かれた。なんだろうと仰ぎ見てみれば、あっちの髭親爺とはまるで対照的な若い男の人がいつの間にか隣に佇んでいた。
 ざんばらに肩の辺りで切り揃えられた髪は、鮮やかな黄金色。着ているのは胸元が開いた白いワイシャツと黒いズボン。肩に羽織るのは、黄色のラインが入った黒と赤を基調としたマント。裾の辺りが少し破れているけれど、それがかえって男っぽさを出しててすっごく格好いい。

 …でも。見た目はともかく、ビクトールによく似た雰囲気の人だなぁ…。

「あー…、そのなんだ…。いきなり呼び出して悪いと思うんだが、とりあえずそこの連中を倒す手伝いでもしてもらえないか? 勿論、無理にとは言わねえ。
ここがどことかそう言う詳しい説明は、後で専門家がしてくれるはずだ」

「そこの連中って、人を化け物呼ばわりしやがったカイゼル髭のおっさんと隣のタレ目関西人と悪人面した筋肉マッチョ野郎ども全員ですか?」

一応、念には念を入れて聞いておく。
万が一彼らの仲間が人質になってるとかいうオチだとまずいもんね。

「あ、うん、そうそう。この島で野菜泥棒してたやつらだから、遠慮なくやっちゃって良いよ。
もちろん、できれば……だけど」
 私の問いに答えたのは、さっきのお兄さんによく似た雰囲気を持つ女の子。
サラサラな金色の髪と紫色の綺麗な瞳、テンガロンハットをかぶり、動きやすそうな服装をした彼女の手には、投具らしきものが握られている。

 可愛い顔して、物騒なものをもってますね・・・。

「そうそう。カイルとソノラの言う通り。無茶はしなくていいのよ?
もし戦うのが苦手だって言うなら、そう言ってくれて構わないから」
 音もなく近づいて来たその人は、私の頭にポンと手を置いた。
珍しい紫色の髪を高い位置で結い上げたその人の瞳は、綺麗な空色。髪と同色のスーツはスラリとした長身にとてもよく似合っている。その上に首から肩を覆うように黒い毛皮のマフラーを巻き付けていた。刃のような鋭い美貌の……お兄さん…だと思う。

 喋り方はおもいっきしおネエ言葉なんだけどね・・・。

「ご心配には及びません。積もる話もあることですし、初対面の人間を化け物呼ばわりするような礼儀知らずにはさっさとご退場願いましょう。
あ、後ろに下がっててもらえますか? 攻撃力には自信があるんですけど、制御する力はあんまりないんで、とばっちり喰らうとポックリ逝きますよ」
 私は心配してくれている(多分)おネエ言葉なお兄さんに向かって、ニッコリと微笑んで見せた。
さりげなく物騒なことを付け足しながら。

「そ、そう…。わかったわ」
 するとお兄さんは、かすかに口元を引きつらせながらも、私の言う通りに何歩か後ろへ下がってくれた。

 それをしっかりと見届けた上で、私はカイゼル髭+悪党面マッチョ軍団へ指を突きつける。

「よくも初対面のうら若き乙女に向かって『化け物』呼ばわりしてくれたわね!
私の繊細な乙女心がちょっぴり傷ついたわよ!!!
乙女の敵は人類の敵、よってこれからばっちり制裁受けて貰うから、覚悟なさい!!!」

「んなっ、ちょっと待たんか!!」

「待てない」
 慌てるカイゼル髭にキッパリと言葉を返し、私は呪文を唱え始める。

「我が額に宿る異界の紋章よ、我が魔力と記憶に従い、彼の者をこの地に呼び寄せよ!
天地を吹きゆく全ての風を支配する者、西天の地を統べる疾風の神獣。
異界に住む我らは汝をこう呼ぶ。
西天の守護神、風を統べる神獣白虎と!!!!」
 私の言霊と魔力に応えて、額に宿る紋章がひときわまばゆい輝きを放つ。
辺りを照らす金色の光に導かれて、風と共に姿を現したのは鋭い爪と牙を持った真っ白な虎だ。虎と言ってもその大きさは、普通サイズのゆうに3倍はあると思われる巨大な虎だ。

「やっちゃえ、白虎!!!“真空招雷撃”!!!!」
 即興でつけた技の名前にも怯むことなく、白虎は空へ向かって大きく咆吼をあげる。
辺りの空気さえ震わせる巨大な雄叫びに呼応して、標的となる海賊達を取り巻くように突然生まれた風が彼らを包み込む。
 そして――――。白虎が口から吐き出した強力な風雷波と地面から発生した風とが反応し、一定範囲にすさまじい疾風と雷撃が発生する。更に天から雷の群れが容赦なく降り注ぎ、鼓膜を震わす轟音と巨大な光爆発を発生させたかと思うと、視界が真っ白に染まった。



「…とまあ、こんな感じでいかがでしょうか?」

 私はそう言いながら、先程の攻撃で出来たクレーターを指さした。
ちょっとやりすぎた気もするけれど、殺さない程度には白虎が力をセーブしてくれたから大丈夫…のはず。以前、手加減なしでこの技を使った時には、確か半径1キロ程度のクレーターが出来まして、敵軍のほとんどを壊滅させた覚えがあるから。(オイ)

「…人は見かけによらないと言いますが…」
「なんつーか、身も蓋もねえような気がするんだがな、俺は」
 何も言えないパーティの中で声を出したのは、忍者さんと白虎さん(二足歩行型?)だ。

「んでだ、お嬢ちゃん。悪いんだが、そこの召喚獣を早いとこ送還しちゃくれねえか?
こいつらみんな、声も出ないくらいに驚いてるみたいなんでな」
 白虎さん(としかいいようがない)の言う通りに、私はちゃっかりと砂浜の上で座り込んでいた白虎に帰ってもらった。




「それじゃあ、海賊さん達の方は護人さんとカイルさん達に任せましょう。
ヤードさんは、私たちと一緒にこの人にリィンバウムのことについて説明しましょう。ね?」
 背中まで伸びる深紅の髪が綺麗なお姉さんはそう言って、パンパンと手を叩く。ベレー帽によく似た白い帽子をかぶり、着ているのは身体の線にあった赤いミニワンピース。胸辺りの長さを持つケープの後ろは、マントのように長く、彼女の足下まで伸びている。編み込みが施された真っ白いブーツは、ミニスカートで露出する足を包み込むかのように長いロングブーツ。
 綺麗と可愛らしいの両方の雰囲気を持った文句なしの美人さんだ。


 彼女の声に、呆然としていた他の人達も正気に戻ったようで、それぞれ動き出す。その様子をボンヤリと見ていると、突然声をかけられた。

「俺の名前はレックス。君の名前は?」
 さっきのお姉さんと同じ深紅の髪をしたお兄さんが、私に右手を差し出してくる。赤いジャケットと黒いズボン、黒いマフラー(スカーフにもよく似てる)を首元に巻き付けた彼は、穏やかな雰囲気の好青年だ。どことなく赤い髪のお姉さんに似た印象を受けるけれど、姉弟なんだろうか?

 差し出されたその手が握手を求めているんだろうな、と思ったのでその手を握りかえして
と言います。と呼んで下さい」
 自分的に最高の笑顔を浮かべて、微笑んだ。

 やっぱり第一印象は、大事だもんね。(すでに遅いとかいうつっこみはなし)

 すると、レックスと名乗ったお兄さんの頬が真っ赤に染まる。

…はえ?


さん・・ですか。とても素敵なお名前ですね、私はアティと言います。
こっちで赤くなってるレックスは、私の兄なんですよ」
 未だ握ったままだったレックスさんの手をスパンと払いのけて、深紅の長い髪のお姉さんが私の手を握っていた。

「あ、それで感じが似てるんですね」

 どおりで雰囲気が似てるはずだ。

「似てますか?」
 アティさんが首を傾げる。その拍子に深紅の髪が肩越しをサラサラと滑り落ちる。

 あぁ、綺麗な人だなぁ…。羨ましい。


「はい、なんとなく優しそうな感じがとてもよく」

「だそうですよ、兄さん。よかったですね、第一印象はまずまずですよ」
 私がそう言うと、なぜかアティさんはニッコリ笑顔のまま、レックスさんの方を意味深に振り返る。

「なっ、何を突然言い出すんだ、アティ!!!」

「そんなに照れなくてもいいじゃないですか、兄さん。
第一印象で好印象を与えることは、恋愛の上では必要最低条件ですよ?」

「れ・・・・!?だから別にそういうつもりじゃ!!」

「私としても是非兄さんに頑張ってもらいたいんですよね。
可愛い妹が欲しいな、と思ってたところですから」

「アティ!!!」

 なぜか兄妹げんかを始めてしまう、赤毛兄妹。

 えっと・・・。


 何を言っていいのかわからずに、とりあえず呆然と二人の口喧嘩を見ていると。

さん、とおっしゃるのですね。私はヤードと申します。
先程貴女がおっしゃっていた“この世界”について、簡単にご説明いたしましょう」
 後ろから声をかけられて振り向くと、銀色の髪をもつ長身の男の人が立っていた。
赤と黒を基調としたロングコートに身を包んだ、温和な印象を与える美形さんだ。

「あ、宜しくお願いします。…でも、あの二人はそのままにしておいていいんですか?」

「構いませんよ。とりあえず、今のところは」
 そう言ってふんわりとヤードさんは微笑んだ。
大人っぽいんだけど、どこか少年のような印象を受ける笑顔が文句なしに素敵です☆
そのあまりの素敵さに思わず赤面してしまいましたよ。

 う〜にゅ、未だ美形に対する免疫が出来てないらしいなぁ…。






 笑顔が素敵なヤードさんのお話によると、ここはやっぱり今までいた世界じゃないらしい(それはなんとなくわかってたけど)。
 ここはリィンバウムと呼ばれる世界で、「機界ロレイラル」,「鬼妖界シルターン」,「幻獣界メイトルパ」,「霊界サプレス」と呼ばれる四つの異世界に囲まれた世界なんだとか。
 なんでもこの世界の魂達は、これら四つの異世界を輪廻し続けていて、この輪廻の輪から外れた魂によって形作っているのが、リィンバウムなのだそうだ。

 よくわからんが、この世界の他にも近くに四つの世界があるってことね。

 それで、この世界では“召喚術”と呼ばれる魔術が発達しているらしい。
 “召喚術”とはその名の通り、異界から対象を召喚する術のこと。
サモナイト石と呼ばれる特殊な鉱物を使って、異世界へ続く門を繋げ、対象を呼び出す。ゆえに“召喚術”にサモナイト石は必要不可欠なのだとか。
 さらにここで言う“異界”というのは、先ほど挙げた四つの世界のことで、たいていの召喚術は「機属性」,「鬼属性」,「獣属性」,「霊属性」の四つの系統に分けられるそうだ。

 ただ中には、“名もなき世界”と呼ばれる、リィンバウムとそれを取り巻く異界以外の世界から生物が召喚されて来ることもあるらしい。
 私の場合はまさに、この例に当てはまるのだそうだ。滅多に起こることじゃないらしく、『召喚術の事故や暴発などの偶発的なもので起こりうる緊急事態』という程度の解明しかされていないとのこと。


「貴女を召喚してしまったのも、一種の事故みたいなものだと思います
元の世界へ戻すことは、できなくもありませんが、なにせ召喚したのがカイルさんですから、“送還術”を覚えてもらうのに多少時間がかかると思います。」

「あ、別にいいですよ。
とりあえず帰れることだけわかれば、それでいいですから。」

 “異世界に飛ばされるのは、慣れてますから…”と言いかけて、私は慌てて口を噤む。ただでさえややこしいのに、これ以上事態をややこしくしてどうするよ。

 それに今回の召喚についても、どうも単なる事故とは思えない。
実はビッキーのテレポートで飛ばされて、気を失う直前。私の額に宿る「異界の紋章」が一瞬、まばゆい輝きを放ったのだ。
 私の紋章が司るのは、”変革と解放”。
そして私の使う魔法は、紋章の持つ強大な魔力でもって、世界と世界の理を強引に解放し、異世界からの召喚を可能にする…というメカニズムの基に成り立っているのだ。
 おそらく、この世界へ来てしまったことには、「異界の紋章」が関わっている。
 だけど、敢えてそのことはふせておいた。

 だって説明するの、めんどくさいし。

 一方の私は、ヤードさんから是非にと乞われて元いた世界のことを説明した。
 世界の創世記から存在し、全ての力の象徴であり、根元である27の紋章。
忌まわしいほどに強大な力と永遠の記憶を持つそれらは、いわば神そのもの。
 そして、私たちの世界で“魔術”を行使する際には、必ず“紋章”と呼ばれる強い力を秘めたアイテムが必要不可欠になる。つけ外しは自由だが、基本的に右手と左手に一つずつ違う紋章をつけることが出来るのだ。魔力の強い人なら、さらに額にも紋章を宿すことが出来る。

 ここまで説明したところで、ヤードさんが質問をしてくる。
「それでは、先ほどさんが使ったあれも紋章を媒介にして“魔術”を行使したものだと考えてもよいと言うことですか?」

「そうですよ。厳密に言えば、“召喚魔法”の類なんで、こちらの世界でいう“召喚術”によく似たものですね。まあ、媒介とするものが“サモナイト石”か“紋章”かの違いがあるだけで、さっきのアレは異界から神獣を呼び出したわけなんですが。」

 実のことを言うと、“異界”というのは私の生まれた地球がある世界のことなんだが、その辺を話すとややこしいから、やっぱり割愛した。


******************


「おーい、そっちの方は終わったのか?」

 声のした方を見れば、私を呼び出した本人であるところの金髪お兄さん、ヤードさんの言葉を借りるならカイルさんがヒラヒラと手を振りながら、こちらへとやって来るところだった。

「ええ、おおまかな説明は終了しました。カイルさんがこちらにいるということは、彼らの方もどうにか片が付いたようですね。」

「ああ。先生たちの意見でな、捕った分は作って返せ、ってことでユクレス村の果樹園で畑仕事をやらされることになったんだ。」

「畑仕事・・・・ですか?海賊である彼らがですか?」

「うん。さんざんぶーぶー言ってたけどね。」

「ま、自業自得ってとこよねェ。」

 あの海賊達が畑仕事をさせられる、と聞いて目を丸くするヤードさんだけど、そこへ後ろからやって来た金色の髪の女の子とおネエ言葉のお兄さんの言葉を聞く限りでは、本当の話らしい。


「あれ・・・、レックスさんとアティさんは?」
 さっきの赤毛兄妹の姿が見えないことに気づいて、私が訊ねると
「先生達なら、先に船に帰っちゃったよ。
あの子達も一緒に先に帰っちゃったみたい。」

 あの子達?まだメンバーがいるんですか?

 そんな私の心の叫びには気づかぬままで、彼らの方でトントンと話が進む。

「それじゃあ、一旦船まで戻るとしようか。
俺たちの自己紹介は、船に戻った後ででもゆっくりしようや。」

「賛成!
船に帰って、あの子達のことも含めてあとでじっくりと自己紹介だね!!」

「さあ、そうと決まれば善は急げよ。さ、お嬢ちゃんもいらっしゃい。」
 実に楽しそうにしてそう言った後、おネエ言葉のお兄さんは私の腕をひっつかむとぐいぐいと引っ張っていく。

「ちょ、ちょっと、そんなに早く歩かないで下さいよ!!!
私とお兄さんじゃ、足のコンパスの長さが違いすぎるんですからぁぁっ!!!」
 微妙なバランスで小走りしなくてはならなくなって、私が思わず苦情を言うと彼はいきなりピタリとその場に足を止める。そして私の身長に合わせるように軽く腰を曲げたかと思えば、彼にいきなり額を弾かれた。

「だめよ、アタシのことはスカーレルって呼んでくれなきゃ。」

何を言い出すのかと思えば、そんなことですか?

 私は弾かれた額をさすりながら、
「知らなかったんだから呼びようがないですよ。以後はそうします。」

「是非そうして頂戴ね☆」
 やっぱり美形さんだなぁ、なんて思いながらスカーレルさんの顔を眺めていたら、いきなり私の身体がフッと宙に浮いた。
 
 …否、抱き上げられました。

「ぬえっ?!」

「さぁ、早いところ船に帰りましょう。ほら、カイル達もゆっくりしてないの!」

「やけに楽しそうだな、スカーレル。」

「何言ってるのよ。
早く帰って魚釣りに行かないと、今日の晩ご飯おかず抜きになるの忘れてた?
折角新しい仲間ができたのに、おかずナシじゃマズイでしょ?」

それは確かにイヤかもしれないです。
ってか、いつの間に私は仲間になったんでしょう?
いや、見捨てられるよりはいいけどね。

「それは確かにそうかも・・。兄貴、早く帰ろう!
そんでもって、たくさん魚を釣ってご馳走にしなきゃ!!」

「おいおい、あんまりはしゃいでこけるなよ、ソノラ。」

「兄貴ってばひっどーい!!」



 そんなほのぼのとした会話を続けながら、船へ向かっていく彼らを見ていて思ったのは、私には幸運の女神様が微笑んでるんじゃないかということ。
 今までいた世界に初めて放り出された時もそうだったけど、私が会う人会う人みんなとても親切な人ばかりだったんだ。
 今回の異世界でも会ったのは、すごく温かい人達ばかり。

 もしも、私の持つ“異界の紋章”の力が、少しでもこの人達の役に立つなら、是非そうしたい。
 ビッキーのテレポートとテレポート直前に私が使った紋章の力が妙な反応を起こしたせいかもしれないけど、ここへ来たのも何かの縁だもんね。
 帰る手段がないわけでもないみたいだし、しばらくはここにいてみたいなぁ、なんて思うのはいけないことかな?


post script
・むかしむか〜し、書いてみた幻水2+サモン3夢、続き。
人数が多いと、なかなか満遍なく一人一人が書けませんね!
今となってはもう続きは書けないけど、捨てるのも勿体なくて引っ張り出してみた。

執筆年:2003年


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