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■導入~いつもと変わらぬ日常
デュナン湖のほとりにそびえ立つ、同盟軍の本拠地“レジェンダル城”。
都市同盟の北側に位置するハイランド皇国と現在進行形で戦争中であるにも関わらず、城の中には人々の明るい笑いと笑顔が溢れていた。それもそのはず、この城を治める城主兼同盟軍の軍主を務める少年は、かつて都市同盟で英雄と奉られたゲンカクの息子であり、狂皇子と恐れられた敵国の皇子を倒しているのだから。城に住む人々は、他のどこの街よりもここが一番安全な場所だと暗に信じているから、戦争中でも笑顔を絶やさずにいられるのであろう。
さてさて、そんな平和なレジェンダル城の中で。
私こと木崎ラリサは、必死こいて逃げ回っていました。
それこそ命を削って逃げ回っていると言っても過言ではないくらいに。
「ビッキー!!!一生のお願いがあるのッ!!!!」
私はそう叫びながら、大きな鏡のすぐ近くでポエ~ッと立っていた少女に掴みよった。
黒く長い髪に黒水晶を思わせるつぶらな瞳。白と青が基調のゆったりとしたローブを着込んだやんわりとした雰囲気の少女――ビッキーは、いきなり私に掴みかかられて目を白黒させる。
「えっ、えっ?どうしたの、ラリサちゃん?」
「いいから黙って私をどっかにテレポートさせて!!!今すぐに!!!!」
「どうしたの、そんなに慌てて?・・・あ、わかった。ショーンさんと追いかけっこしてるんだ。私も仲間に入れて欲しいなぁ・・・。」
私が急いでいることに気づいているだろうに、ビッキーは相変わらずの天然っぷりを最大に発揮してくれる。
別に彼女に悪気があってやってるワケじゃないことはわかってるんだけど・・・・。
それでもヒクヒクと口の端がひきつってしまったり、こめかみに血管が浮き出してしまうのは、仕方のないことだと思う。
何せ私は、私の将来の夫(勝手に決めるなっつーの)を自称するストーカーまがいの少年――ショーンから必死こいて逃げてる真っ最中なのだ。捕まれば最後、一日の体力をわずか一時間で消耗してしまうほどの不毛な言い争いを延々と続けなくてはならない。
というか、ショーン。私を追いかけてる暇があるなら、真面目に軍主として仕事をしろ!
人々に希望を与えるかつての英雄の息子にして、狂皇子を討ち取った同盟軍軍主が、毎日毎日懲りもせずに惚れた女のお尻を追っかけてると知ったら、間違いなく人々は希望をなくすわよ。絶対にね。
いつもなら、見かねたパオやササライが仲裁に入ってくれるのだが、あいにくと今日は二人とも不在なのだ。北方に位置する大国ハルモニア神聖国で神官将(とにかくすっごく偉い神官らしい)を務めるササライは、一年に一度ある国の重要な儀式に出席するとかで、今日はここへは来られないとか。パオはと言えば、彼の継母にあたる女将軍が3ヶ月間にわたる遠征からようやく帰ってくるとかで、彼女に会いに行くからしばらく帰って来れない、とのこと。
他の面々では、この世界の創世に関わっているという“神”をその身に宿したショーンに対抗する術がないのだ。ササライもパオも共にショーンと同じようにこの世界で“神”と呼ばれる存在を見に宿している。だからこそ、仲裁に入ることができる。
・・・いや。
ササライとパオ以外にも一人だけ、彼とまともに正面から戦いを挑んでも、確実に勝ち星を稼げる人間がいた。やはり彼ら同様にこの世界の“神”を身に宿し、同盟軍一の魔術の使い手と名高い魔術師ルック。もっとも彼の場合、実力行使という形をとらなくてもあの毒舌を持ってすればショーンどころかたいていの人間を屈服させることが出来るんだけど。
ただ欠点を上げるなら、極度の面倒くさがり屋であること。
さらに言えば、私が助けを求めても絶対に助けてくれない確率100%。
そうすると、私にはもはや“ひたすら逃げる”という選択肢しか残されていない。
とはいえ、もともとインドア派である私が、一流と言って差し支えない実力を持つ戦士であるショーンに体力的に敵うはずもなく。こうして、ビッキーにテレポートで別の場所へ飛ばしてもらって姿をくらますという作戦に出るしか他に方法がないのだ。
「お願い、ビッキー!!どこでもいいから、私を飛ばして!!!早く!!!!!」
私の切羽詰まった状況をようやくわずかに理解してくれたのだろう。
「う、うん。わかった。じゃあ行くよ、ラリサちゃん♪」
ビッキーの方もようやくやる気になってくれたようである。
手に持つ杖の先端を私の方へと向けて、彼女は早速呪文を唱え始めた。
あぁっ、どの世界であろうとも誠意を尽くせば通じるものなのね!(少し違う)
ところが。
やはり世の中そんなにうまくいかないのである。
「ラリサ、見つけたよっっっ!!!!」
聞き覚えのあり過ぎる声を聞いて、私は思わず身震いした。
おそるおそる顔を上げて見れば、両手を大きく広げてこちらへ爆走してくる少年の姿。
茶色がかった黒い髪と光加減で金色にも見える琥珀色の瞳。赤を基調とした拳法着に身を包み、頭には孫悟空のつけてたような金冠を嵌めた少年――ショーン。
私をしつこくしつこくしつこく追い回している、ストーカー城主兼軍主である。
「ビッキー、まだ?!」
私は思わず呪文を唱えている彼女を振り返る。
すると呪文が完成したのか、頭上に高く振り上げたビッキーの杖から放たれる魔力で、私の身体が光に包まれた。
よしっ、このままいけっ!!!!!
「ラリサ!!今日は逃がさないからね!!!!」
だが、ショーンは私がテレポートで逃げようとしていることに気づくと、さらに速度を上げて猛ダッシュしてきた。その姿は、まさしく猪突猛進イノシシの如く。
っっまずい!!!このままじゃ、追いつかれる!!!
私は慌てて額にある紋章に魔力を注ぎ込んだ。
言い忘れていたけれど、私の額にあるこの紋章も“神”に等しい存在なのですよ。
簡単に言えば、強力な力を秘めた魔術師用のアイテムですな。
「追いついたよ!!!」
手を伸ばして私の腕を掴もうとするショーン。
しかし・・・。
「甘い、ショーン!!!」
私は額に集めておいた魔力を一気に解放する。
自慢じゃないけど、私の魔力の高さはルックすら上回る。
ただし、制御力が伴わないから総合点は負けてるけどね・・・。
放った魔力は、黄金の輝きを帯びてショーンを吹っ飛ばす。
「悪いね、ショーン。今日は逃げ切らせてもらうよ☆」
私が床の上に伸びているショーンに向かってウインクを送ると、ビッキーのテレポートが完全に発動したのか、身体を取り巻く重力が一気になくなった。
そして、意識が暗転するーーーーーーー。
朦朧とする意識の中で、額の紋章が再びまばゆい輝きを放った。
黄金の光に包まれるように、私は完全に意識を手放したのだった。
post script
・むかしむか~し、書いてみた幻水2+サモン3夢。
このページは、全然サモン3要素ないけどね(威張るな)!
今となってはもう続きは書けないけど、捨てるのも勿体なくて引っ張り出してみた。
執筆年:2003年
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