英雄の誇り〜想いの強さゆえに (1)
空は高く澄み渡り、心地よい風が草原を駆け抜けていく。はるか上空をゆったりと旋回する鳶の鳴き声が、静かな草原に優しく響く。空を見上げれば、鮮やかな青を纏う蒼穹がどこまでも果てしなく続き、水平線に目を凝らせば、優しい若草色に彩られた大地が果てしなくのびている。
ああ、これが大草原というものなのか。
話には聞いていたけれど、こうして目にしてみるとやはり広い。何より感じるのは、風が運んでくれる草や木々の香り。都会育ちの私にはひどく新鮮で、不思議と心が和む。
これぞ、自然の持つマイナスイオンの威力か?
「どうだ?すごいだろう?」
ポンと頭に手を置かれて、私はそれを鬱陶しげに払いのけた。
いや、別にイヤなワケじゃないんだけど、子供扱いされてるみたいでちょっとね。
「うん、すごいよ。だけどね、。いちいち人の頭に手を置くのやめてよ。
私だっていい加減そんな子供じゃないんだから!!」
私が口を尖らせてそう言うと、はいかにも年長者らしい余裕ある笑みを浮かべた。
硬めの黒髪に中華風の赤い服。生き物を優しく包み込む大地の色を宿す双眸を持ち、額には赤いバンダナをつけた、やや童顔めいた顔立ちの青年。60年ほど前にグラスランドを救ったという伝説の『炎の英雄』、張本人である。
真なる27の紋章がひとつ、真なる炎の紋章をその身に宿し不老の宿命を負う彼は、デュナン戦争の後、世界を見て回る事を決意した私の前に唐突に現れた。そして気づけば一緒に旅をするハメになっていたのである。
自分の恋人をほったらかして私と一緒に旅してていいわけ?
前にそう尋ねたことがあったのだけれど、返ってきたのは
『いいんだよ。サナだって納得してる。あいつだって村長のお役目さえなけりゃ、と一緒に旅してたはずだぞ。そのくらいサナはお前のこと大切なんだ。その辺もわかってやれ』
という、苦笑気味の回答だった。
さすがにそれ以上突っ込むことも出来ず、以来彼と旅を続けてるわけです、ハイ。
折角の御厚意を無駄には出来ないし、『旅は道連れ、世は情け』。
…それに、私としても一人旅はいささか心細かったからね。ちょうど良かったんだ。
「子供じゃないって言うやつほど子供なんだぞ、?」
「……元の世界じゃ、もう結婚できる年なんですけど、私…」
苦し紛れにそう言い返せば、はいきなり私を抱き上げた。
って、ちょっとなにをっ?!
「元の世界に結婚する相手がいるのか?」
真剣な眼差しで見つめられて、顔から火が噴き出した。
未だに美形に対する免疫ないんだよ、私ってば……。
「いない…けど。どうして?」
「いや。ただ聞いてみただけだ。」
「………あのね。」
私は脱力してにもたれかかる。
「ただ・・お前もいつか嫁に行くんだと思うと、少し寂しいと思っただけだよ。」
・・・・・・・・。
。それって、思いっきり娘を嫁に出す父親の心境だよ?!
まあ、実年齢から言えばそんくらいな関係ではあるかもしれないけど。
「心配しなくても、当分はお嫁に行く当てなんてこれっぽちもないわよ、お父さん。」
「嫁のもらい手がないなら俺が貰ってやろうと思ってたのに、そういうことを言うか、?」
心底呆れたような表情で、は私の方を見てくる。
「あんたね、サナという人がありながらそういうこと考えてたわけ?」
「下手な男にやるより安心できるからな。」
「……あんたは私の保護者ですか?」
私は思わず額に手を当てた。
「。」
呼ばれて何の気もなしに、顔を上げ………そのまま私は目を閉じる。
しちゃいけないとわかりつつ、不倫をしてしまう大人達の気持ちがちょっとわかってしまったような気がする…(待て)。
角度を変えて何度も何度もキスを落とされて、気づかぬ間に私はの首に腕を絡めていた。
「・・・保護者が娘にこんなことするか?」
「しない・・。してたら速攻で殴り飛ばしてるわよ。」
は私の言葉を聞いて、満足げに微笑む。
年不相応な子供っぽい彼の笑顔が、私は大好きだ。
実は半ば一目惚れも同然であったことは、あくまで胸の奥に閉まっておく。
あぁ、ごめんねサナ。
私ってば貴女に心配してもらえるような可愛い女じゃないです。
「ところで、。ミリトの村ってまだ遠いの?」
「いや。もうそろそろ着く頃だ。今は丁度祭りの時期だからな、きっと賑わってるぞ。」
「美味しいグラスランドの料理も食べられるってワケねぇ。あぁ、早く食べたい・・。」
「相変わらず食用旺盛だな、は。」
苦笑いを浮かべるが、不意に草原の方へ目線をやった。そしてすぐさま顔つきが変わる。
「どうしたの?」
「・・煙が立ち上ってる。あれは、ミリトの村の方面だぞ。」
え・・・?
見れば、私たちが目指していた方角に高い煙がちらほら見える。
そして風に乗って届くのは、何かが焼け焦げる臭い……。
「行くぞ、。」
「ほい来た!我が額に宿る紋章よ、我が願いを聞き届け、我らを彼の地へと運びたまえ!!」
私の言葉に応えて、額がひときわまばゆい光を放つ。
その光に導かれて、私たちはその場を後にしたのだった。
「ひどいわね・・・。」
開口一番、私は顔をしかめた。
テレポートで村へ着くと、村の門は無惨に焼け落ちていた。門だけでなく、門近くにあった家屋や建物はみな焼け落ちている。近くに大砲の弾は落ちていない。それ以前にこちらの世界では、あまり大砲などの火器は用いられないのだ。明らかに紋章によるものである。
「盗賊か野盗の類・・・にしては、随分と手練れのようだな。
下級の紋章術でこれほどの被害は出ない。
それなりに紋章を使いこなしていなくては、これほどの術はまず使えないからな。」
辺りに落ちていた瓦礫を調べながら、こともなげには言い放つ。
よくわかるな、そんなこと・・。
まあ彼自身も炎の紋章を使ってるからわかることなんだろうけど。
ちなみに私は雷鳴と旋風の紋章を使っている。
本当は烈火の紋章を宿したかったんだけど、試しに使ってみたら、誤って本拠地を全焼させかけたので、シュウから炎系の紋章を宿すことも持つこともを固く固く禁じられてしまったのだ。
当時、私に魔法を教示してくれていたルックからも、紋章師のジーンさんからも『炎系紋章の相性は最悪』と太鼓判を押されていたから、泣く泣く諦めたのよ……。
「ねえ、。向こうが騒がしいけど、行ってみない?」
私が指さした方角で、なにやら人々の言い合いのような声が上がっていた。
「そうだな。行ってみるか。」
片手に愛用の棍を持ち、もう片手で私の手を取るとは辺りに意識を配りながら騒ぎする方へと歩き出した。
「意外に村の中はやられてないみたいね。」
歩きながら周りを見渡すうちに、私はふと気づいた。
村の門の周りはあれだけ派手に燃えていたのに、村の中はほとんど無傷のままだ。
一体どういう事なんだろう?
首を傾げて考えてみても、やはり答えは出ない。
に聞いてみようと私は口を開きかけたが、それよりも早く、が私を横抱きにして大きく跳躍する。そして気づけば、私たちは民家の屋根の上にいた。いきなり何を・・と声を出そうとするも、の真剣な表情に私は口をつぐむことにした。
下を見れば村人達はある一軒の民家に殺到している。彼らの話している内容はよく聞こえないが、様子から見てあまり良いものではなさそうだ。
黙って見ていると、家の中から一人の老人が姿を現した。村人達は彼に詰め寄り、彼は村人達に何かを説明しているようだった。しばらくすると、村人の何人かがどこかへか向かって駆けていき、残った村人達は皆解散していった。
「走っていったやつらは追わないの?」
「ああ。中にいる連中に聞いた方が、早そうだからな。」
そう言っては屋根の上から飛び降りた。
そして私を傍らに下ろすと、問題の民家の戸を遠慮無しにノックする。
「・・でもさ、なんて言うのよ?」
「さっき起こったことを詳しく教えてくれ。」
「まんまでしょうが。それじゃ教えてくれないかもよ。」
「まあ、見てろって。伊達に英雄やってたわけじゃないんだぞ。」
「関係ないじゃない、それ……」
「・・・あのぅ、何かご用ですか?」
私とが言い合ってたところに別の声が混じる。
その声に振り向けば、困惑した表情で佇む女性が立っていた。
「あ、えと・・・」
「さっきの騒動について、ちょっとばかし聞きたいことがあってね。
できたら教えてもらえないか?」
まんま言ってるよ、コイツ。
相手の方はと言えば、さらに困惑の色を深めて
「・・ですが、うちには怪我人がいるので、できれば他の方に・・・」
「怪我人がいるのか?なら、回復魔法でそいつの怪我を治してやるよ。
その見返りとしてさっきの騒動について教えて欲しい。それでどうだ?」
・・・・ちょっと待て。回復魔法を使えるって、それ私でしょ。
何を勝手に話を進めてるのかしらね、この人は。
だけどの提案は、あっさりと受け入れられた。
どうやらよほど、その怪我人が重傷らしい。あるいは、その人が彼女の大切な人だとか?
マキと名乗ったお姉さんは、私たちを家の中へ招き入れた。
そして怪我人が寝込んでいるのであろう部屋のドアノブに手をかけた時、彼女は振り返って
「一応傷薬で傷は塞いであるんですが、まだ完全には治っていないみたいなんです。」
「マキさん。その人、まだ生きてるの?それなら治せるけど・・・。」
ちなみに死んでたら、黄泉帰りの術を使わないと生き返らない。
ただあれって後味悪い術だし、代償が必要だから正直お薦めは出来ない。
「とにかく怪我人を見てみるのが先だろ。ここで悩んでても始まらないぞ。」
うむ。正論だ。
マキさんも私と同じ事を思ったのだろう。部屋の扉を開けて、私たちを中へ入れてくれる。
中にはベッドに横たわる怪我人と・・・・・
へっ?
「「「「「「「「「?!」」」」」」」」」
「ナッシュ!アイリ!リィナさん!それにボルガン!
ギジムのおっさんにエン姐さん!!コウユウに、マイクロトフにカミューまでー!!!」
中にいたメンバーの全員が私の思いっきり知っている顔だった。
デュナン戦争の際、共に戦った仲間達だ。+αハルモニアの工作員もいたりするけどさ。
「皆さん、お知り合いですか?」
マキさんがビックリした顔で問いかけてくる。
そりゃそうだ。
私だって驚きましたよ。まさか顔見知りがこんなに大勢・・。
とか思いつつ、彼女の言葉を肯定するべく、首を縦に振る。
「怪我人ってカミューだったんだ?」
心底驚いて私が問えば、カミューは苦笑いを浮かべて見せた。
「ええ。まさかこんなところで会うとは奇遇ですね、。」
「でも一体何があったの?
カミューが重傷を負うなんて、よっぽどのことがあったんじゃないの?」
「それが・・・。」
何かわけありなのか。そのことについて触れた途端、皆の表情が沈んだ。
「『炎の英雄』って知ってる?」
リィナさんに聞かれて、私はしどろもどろしつつ答えた。
「え。あぁ、一応は・・・。」
答えつつ、私はの方をチラリとのぞき見る。
何も言わないところを見ると、そのまま隠しておいて良さそうだ。
「今回の騒動は『炎の英雄』とその手下達による略奪が原因なんだ。」
え・・・?
私は声を失った。
ナッシュの言葉を否定したい自分がいる。
でも、彼はウソをついてはいない。
「ウソ・・?」
「おいおい、嘘だろ?『炎の英雄』の話なんて、今時単なるおとぎ話でしかないぜ。」
さすがのもいささか驚いたらしく、声がかすかに裏返っている。
だがナッシュは、カミューは、そして皆は大きく首を横に振った。
「そう思いたいのはやまやまなんだがな、事実あれは・・・。」
「嘘よ!『炎の英雄』は村の略奪なんてしないわ!
彼は義賊だし、彼にとってグラスランドは生まれ故郷よ?!そんなこと絶対しないわ!!」
「?何をムキになって・・」
「なるわよ!!人の名前勝手に使って悪さしてる奴らが許されるの!?
くっそ、私がその場にいればぁっ!!
一瞬で親玉も子分どもも消し炭にしてやったのに!!!!」
「。」
声をかけられると同時に、頭に大きな手が置かれた。
顔を上げれば、少しだけ悲しそうに微笑んでは私の耳元で囁いた。
『ありがとな。俺の代わりに怒ってくれて・・。』
あう・・。
一番辛いのは私じゃない。彼だ。
なのに、私は・・・。
「悪いな。そのことについてもっと詳しく教えてくれないか?」
皆は私の取り乱し様に呆然としていたようだが、ナッシュがいち早く我に返り
「ああ、そうだな。詳しくは俺から話す。・・・えぇと、あんたは?」
「だ。の旅の連れってとこだな。」
ってとこもなにも旅の連れでしょうが。
「・・・『炎の英雄』も確か、同じ名前でしたよね・・。」
グラスランドにいるだけあって、彼女の方が『炎の英雄』について詳しいらしい。
だがは、肩をすくめてそれをあっさりと否定する。
「たまたまだろ。それよりも、事件のことについて説明を頼む。
、お前は怪我人に回復魔法をかけてやるんだ。」
「あ、うん。わかった。」
ナッシュが詳しく事件について説明してくれている間に、私はカミューの怪我の治療に向かう。カミューが横たわるベッドの隣の椅子に腰を下ろし、ナッシュの話の邪魔をしない程度の小さな声で、術を発動させるべく呪文を唱える。
『我が額に宿る異界の紋章よ、我が魔力と記憶に従い、かのものをこの地へ呼び寄せん。
生命を生み出せし大いなる母の力の片鱗を抱く者、その身を水で形成せし者。
異界に住まう我らは汝をこう呼ぶ。水の精霊ウンディーネと!』
すると私の言葉に応え、額の紋章がまばゆい輝きを放つ。
それは青い輝きとなり、何もないはずの空間に一滴の水を生み出した。
滴はたちまちたゆたう水となり、一人の女の姿を形取る。
水の精霊ウンディーネ。私の元いた世界で語り継がれる精霊である。
ウンディーネは両手をカミューに向かって翳す。
淡い光がカミューを包み込み、たちまちのうちに傷という傷を全て治していく。
母なる海の司る慈愛の力は、こちらの世界でも元いた世界でも変わらないらしい。
治療が済むとウンディーネは滴となって、虚空にかき消える。
おそらくは元の世界に戻ったのであろう。
「これで大丈夫。にしても『炎の英雄』の紋章を受けてこの程度ですむなんて、ずいぶんと運が良かったわね。」
「。貴女はこの村を襲った奴らが『炎の英雄』ではないと、確信しているようですが…。
何故ですか?」
カミューの質問は尤もなものだった。
多分他の彼らも同じ事を私に聞きたいに違いない。
「本物の『炎の英雄』を知っているからよ。
前に時間を超えたときに、私は彼らに会ったの。
彼はグラスランドの平和のために戦うことを選んだ。
そんな彼が、どうしてグラスランドの村を襲うことが出来るの?」
彼は、デュナン戦争で人々を率いた少年と同じように、大切な人を守るために戦った。
炎の英雄もデュナンの英雄と呼ばれるべき少年も私は知っている。すぐそばで彼らを見ていたのだ。彼らは自分の私腹を肥やすために罪なき人々を苦しめる真似はしない。
むしろそんな人々こそ、彼らが守りたいと願う人々だったから…。
「……なるほど。確かに言われてみれば、そうかもしれません。
それに首領の振るう太刀筋、どこかで見たことがあるような気がしてならないのです。」
意外なカミューの言葉に私は目を見開いた。
「何より、。他ならぬ貴女が言うのなら、きっとそうなのでしょう。
それに私たちには彼らが『炎の英雄』であろうとなかろうと関係ありません。
再びやって来るであろう賊たちから村を守れさえすれば、それで構わないのですから。」
「・・・ありがとう、カミュー。」
「いえいえ。の笑顔が見れるのならば、この程度のことたいしたことではありませんよ。」
いかにも騎士らしい・・もとい彼らしい言葉に、私は少しだけ肩の荷が落ちたような気がした。
「よし!!私もこの村を守るために一肌脱いであげようじゃないの!!!」
ふっふっふ。
畏れ多くも私の大切な人の名前を騙って悪事を働いてくれたんだから、それ相応のお返しはさせて貰うわよぉ・・・・!!!!
思わず高笑いしたくなる気持ちを抑えて、私は知らぬまにほくそ笑んでいた。
どうやらこの村の村長は、エセ英雄に金品を捧げて村を守るつもりだったらしい。
ただギジムの言っていた言葉が気にかかる。
『金品を出せば命だけは取らないでやるというのは、いわば盗賊の常套手段。
とどのつまり自分たちでめぼしいものを捜す手間を省こうという魂胆だ』、と。
どこの世界も悪党のやることは同じだね。
命乞いしてきたやつをこき使うだけこき使って、必要がなくなれば「ごくろうだったな」とか言ってそいつを殺してしまう。最低最悪な手段だよ。
そういう悪党は真の随まで思い知らせてやらなきゃいかん。
私はエセ英雄が魔法を使ったという広場を改めて見回して、両手を見た。
右手には、5行の紋章の中でも単体攻撃最強威力を誇る雷鳴の紋章。
左手には、回復も全体攻撃もそつなくこなせる万能系である旋風の紋章。
そして額には、元いた世界の神や精霊達を自在に召喚できる、真なる27の紋章の一つ『異界の紋章』が宿っている。
デュナン戦争の際は、「破壊神」とすら呼ばれた私だ。
たかが盗賊の一つや二つ、相手にするくらいわけないわ!!
「っっっしゃぁ!!」
興奮する気持ちを抑えてガッツを入れたその時、私の頭に大きな手が置かれた。
「あんまり無茶するなよな、。」
「大丈夫よ。村を破壊しないように、キチンと制御して盗賊だけ吹っ飛ばすから。」
私の言葉には苦笑いを漏らす。そうして後ろから私を優しく抱きしめた。
「どんなにきれい事を並べたところで、俺たちがやっていたのはまぎれもなく盗賊だった。
それにこれだけ有名になれば、名を騙るやつが現れても仕方ないさ。
俺は・・・が笑っていてくれればそれでいい。
お前が俺のそばにいてくれれば、それでいいんだ・・。」
・・。
彼の言葉が心の底からの本音だとわかるから、私は嬉しさで胸が詰まりそうだった。
本当に彼が私のことを想ってくれているから・・。
だけど・・・。
「貴方の名を騙るやつはやっぱり許せないわ。
そいつがやってるのは、貴方のグラスランドへの思いを土足で踏みにじることだもの。
それだけじゃない。ワイアットやゲド、サナ、貴方を信じて最後までついてきたグラスランドの人々を愚弄しているのよ。そんなこと、許せるわけないでしょ。」
「。」
「わかってる。貴方に心配をかけるような真似はしないわ。
油断せずに、全力で奴らを叩きつぶすから。」
なんたって攻撃は最大の防御だものね。
そんな軽口を叩きながら、私を抱きしめているの腕に頬を寄せる。
は私を抱く腕により力をこめた。
「・・・これ以上、言っても無駄だな。」
「うん。」
私は不敵な笑みを浮かべてみせる。
彼は溜息をつくと、私の頬にキスを落とした。
「くすぐったいってば・・。」
「このくらいの代償はあってもいいだろう?」
私はかすかに笑いを漏らし、の顔を仰ぎ見る。
すると唇に彼のそれが押し当てられる。キスの味に酔うように私はその身をにゆだねる。
と、彼の唇は私の唇からさらに下、首筋まで降りていく。さらには大きく開いた襟から垣間見える鎖骨にまで唇が押し当てられた。
「やめ・・、・・・ん・・。」
皮膚に噛みつくように、鎖骨の上を唇が這っていく。
思わず漏れた声は自分でもびっくりするくらい艶っぽかった。
「・・そんな声を出すんじゃない。
少し印をつけるだけのつもりが、このままお前を押し倒す羽目になるだろうが。」
耳朶に触れるの吐息が熱く感じる。
身体が熱くなるような不思議な高揚感を抑えるため、私はゆっくり息を吐いた。
「・・・お取り込み中悪いんだが・・、。
お前の会いたがってた盗賊達がもうすぐここへやって来るらしいぞ。」
ハッと顔を上げてみれば、困ったように笑顔を浮かべるナッシュの姿があった。
慌ててから離れて、私はナッシュに向き直る。
「来たの!?どこどこ?村に入る前に吹っ飛ばしてもいいの?」
「・・・。俺の話をキチンと聞いてたのか? 村人は盗賊達と取引するつもりらしい。
だからとりあえず様子見だ。万が一村人が襲われそうになったら、俺が合図をする。
それまでは持ち場で待機だ。」
「えぇ〜?」
折角奴らを一網打尽にしようと思ったのに・・・。
不服気に顔をふくらませると、ナッシュは深く溜息をつく。
「とりあえず今回は俺の指示に従って貰う。いいか、?」
「ふわぁ〜い。わかりましたよ、ナッシュ軍師様。」
ここで仲間割れしても仕方ないので、しぶしぶ私は頷くことにした。
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