英雄の誇りと兄妹の絆と (1)
空は高く澄み渡り、心地よい風が草原を駆け抜けていく。
はるか上空をゆったりと旋回する鳶の鳴き声が、静かな草原に優しく響く。
空を見上げれば、鮮やかな青を纏う蒼穹がどこまでも果てしなく続き、
水平線に目を凝らせば、優しい若草色に彩られた大地が果てしなくのびている。
これが、大草原というものなのだろう。
話には聞いていたけれど、こうして目にしてみるとやはり広い。
何より感じるのは、風が運んでくれる草や木々の香り。
都会育ちの私にはひどく新鮮で、不思議と心が和む。
これが自然の持つマイナスイオンの威力というやつなのだろうか?
「どうだ?すごいだろう?」
ポンと頭に手を置かれて、私はそれを鬱陶しげに払いのけた。
別にイヤなワケじゃないんだけど、子供扱いされてるみたいでちょっとね。
「うん、すごいよ。だけどね、。いちいち人の頭に手を置くのやめてよ。
私だっていい加減そんな子供じゃないんだから!!」
私が口を尖らせてそう言うと、はいかにも年長者らしい余裕ある笑みを浮かべる。
硬めの黒髪に中華風の赤い服。生き物を優しく包み込む大地の色を宿す双眸を持ち、額には赤いバンダナをつけた、やや童顔めいた顔立ちの青年。
彼は、60年ほど前にグラスランドを救ったという伝説の『炎の英雄』ご本人である。
真なる27の紋章がひとつ、真なる炎の紋章をその身に宿し不老の宿命を負う彼は、デュナン戦争の後、世界を見て回る事を決意した私の前に唐突に現れた。
そして気づけば一緒に旅をするハメになっていたのである。
ま、いいんだけどね。
でもさ、自分の恋人をほったらかして私と一緒に旅してていいわけ?
前にそう尋ねたところ、
『いいんだよ。サナだって納得してる。むしろあいつだって村長のお役目さえなけりゃ、と一緒に旅してたはずだぞ。そのくらいサナはお前のこと大切なんだからさ。わかってくれよ。』
とか言われてしまった…。
そこまで言われてそれ以上突っ込めるはずもなく、以来彼と旅を続けてるわけです、ハイ。
折角の御厚意を無駄には出来ないし、私としても一人旅はいささか心細かったからね。
「子供じゃないって言うやつほど子供なんだぞ、?」
「……元の世界じゃ、もう結婚できる年なんですけど、私…」
苦し紛れにそう言い返せば、がいきなり私の身体をガバッと抱き上げる。
って、ちょっとなにを・・?!
「元の世界に結婚する相手がいるのか?」
真剣な眼差しで見つめられて、顔から盛大に火が噴き出す。
未だに美形に対する免疫ないんだよ……、私ってば。
「いないけど。どうして?」
「いや。ただ聞いてみただけだ。」
「…はあ……」
私は脱力してにもたれかかる。
「ただ…お前もいつか嫁に行くんだと思うと、少し寂しいと思っただけだよ。」
……………………(目が点)。
。それって、思いっきり娘を嫁に出す父親の心境だよ?!
まあ、実年齢から言えばそんくらいな関係ではあるかもしれないけど。
「心配しなくても、当分はお嫁に行く当てなんてこれっぽちもないわよ、お父さん。」
「…あのな。嫁のもらい手がないなら俺が貰ってやろうと思ってたのに、そういうことを言うか、!?」
心底呆れたような表情で、は私の方を見ていた。
だが、一方の私としても呆れずにはいられない。
「あんたね、サナという人がありながらそういうこと考えてたわけ?」
「下手な男にやるより安心できるからな。」
「・・・・あんたは私の保護者ですか?」
「保護者じゃないが、お前は俺の大事な妹だからな。」
私は思わず額に手を当てた。
まさかにシスコンのケがあるとは思いもよりませんでしたよ、私は。
いや心配してくれるのは嬉しいけどさ。
そこまでしてもらわなくても、大丈夫だっての!!
・・・でも、よくよく考えてみると、サナもシスコンかもしれない・・。
普通、自分の恋人を妹の用心棒代わりにするか?
「ところで、。ミリトの村ってまだ?お腹へっちゃったぁ〜。」
グゥ〜と鳴ったお腹を押さえて、にしがみつけば。
「いや。もうそろそろ着く頃だ。今は丁度祭りの時期だろうし、上手いモノがたらふく食えるぞ。
あともう少しの辛抱だ。我慢できるな?」
「うん。大丈夫。我慢してた方がよりありがたみを感じるから。」
私がそういうと、はかすかに苦笑いを浮かべた。
しかしすぐさま、その表情は険しいものに変わる。
「どうしたの?」
「・・煙が立ち上ってる。あれは、ミリトの村の方面だぞ。」
え・・・?
見れば、私たちが目指していた方角に高い煙がちらほら見える。
そして風に乗ってかすかに香る焦げ臭い臭いと・・・・。
「行くぞ、。」
「ほい来た!我が額に宿る紋章よ、我が願いを聞き届け、我らを彼の地へと運びたまえ!!」
私の言葉に応えて、額がひときわまばゆい光を放つ。
その光に導かれて私たちはその場を後にしたのだった。
「ひどいわね・・・。」
開口一番、私は顔をしかめた。
テレポートで村へ着いたはいいが、村の門は無惨に焼け落ちていた。
門だけでなく、門近くにあった家屋や建物はみな焼け落ちている。
近くに大砲の弾は落ちていない。
それ以前にこちらの世界では、あまり大砲などの火器は用いられないのだ。
明らかに紋章によるものである。
「盗賊か野盗の類・・・にしては、随分と手練れのようだな。
下級の紋章術でこれほどの被害は出ない。
それなりに紋章を使いこなしていなくては、これほどの術はまず使えないからな。」
辺りに落ちていた瓦礫を調べながら、こともなげには言い放つ。
よくわかるな、そんなこと・・。
まあ彼自身も炎の紋章を使ってるからわかることなんだろうけど。
ちなみに私は雷鳴の紋章と旋風の紋章を使っている。
本当は烈火の紋章を宿したかったんだけどなぁ・・。
でも前に炎の紋章を試しに使った時に「あわや本拠地、全焼?!」な事態を引き起こしたので、「以後けして炎の紋章を使用しないように!」とシュウに固く固く言い含められてしまったのだ。おまけに当時、私に魔法を教えてくれていたルック、そして紋章を宿してくれたジーンさんからも『炎の紋章とは相性が悪い』とダメ押しされたからさ……。
仕方なく、未練は残ったけど泣く泣くあきらめたのよ・・・。
「ねえ、。向こうが騒がしいけど、行ってみない?」
私が指さした方角で、なにやら人々の言い合いのような声が上がっていた。
「そうだな。行ってみるか。」
片手に愛用の棍を持ち、もう片手で私の手を取ると、は辺りに意識を配りながら騒ぎが起きているらしい方角へと歩き出した。
「意外に村の中はやられてないみたいね。」
歩きながら周りを見渡すうちに、私はふと気づいた。
村の門の周りはあれだけ派手に燃えていたのに、村の中はほとんど無傷のままだ。
一体どういう事なんだろう?
首を傾げて考えてみても、やはり答えは出ない。
に聞いてみようと私は口を開く。
が、それよりも早く、が私を横抱きにして大きく跳躍した。
気づけば私たちは民家の屋根の上にいた。
いきなり何を・・と叫びかけたが、の真剣な表情に私は口をつぐむことにした。
下を見れば村人達はある一軒の民家に殺到している。
彼らの話している内容はよく聞こえないが、様子から見てあまり良いものではなさそうだ。
黙ってみていると、家の中から一人の老人が姿を現した。
村人達は彼に詰め寄り、彼は村人達に何かを説明しているようだった。
しばらくすると、村人の何人かがどこかへか向かって駆けていき、残った村人達は皆解散していった。
「向こうに行った村人の後を追わないの?」
「ああ。中にいる連中に聞いた方が、早そうだからな。」
そう言っては屋根の上から飛び降りる。
そして私を下ろすと、問題の民家の戸を叩いた。
「・・でもさ、なんて言うのよ?」
「さっき起こったことを詳しく教えてくれ。」
「まんまでしょうが。それじゃ教えてくれないかもよ。」
「まあ、見てろって。伊達に英雄やってたわけじゃないんだぞ。」
「関係ないじゃない、それ!」
「・・・あのぅ、何かご用ですか?」
私とが言い合ってたところに別の声が混じる。
その声に振り向けば、困惑した表情で佇む女性が立っていた。
「あ、えと・・・」
「さっきの騒動について、ちょっとばかし聞きたいことがあってね。
できたら教えてもらえないか?」
まんま言ってるよ、コイツ。
相手の方はと言えば、さらに困惑の色を深めて
「・・ですが、うちには怪我人がいるので、できれば他の方に・・・」
「怪我人がいるのか?なら、回復魔法でそいつの怪我を治してやるよ。
その見返りとしてさっきの騒動について教えて欲しい。それでどうだ?」
・・・・ちょっと待て。回復魔法を使えるって、それ私でしょ。
何を勝手に話を進めてるのかしらね、この人は。
だけどの提案は、あっさりと受け入れられた。
どうやらよほど、その怪我人が重傷らしい。
もしくはその人が大切な人とか?
マキと名乗ったお姉さんは、私たちを家の中へ招き入れた。
そして怪我人が寝込んでいるのであろう部屋のドアノブに手をかけた時、彼女はこちらを振り返って
「一応傷薬で傷は塞いであるんですが、まだ完全には治っていないみたいなんです。」
「マキさん。その人、まだ生きてるの?それなら治せるけど・・・。」
ちなみに死んでたら、黄泉帰りの術を使わないと生き返らない。
ただあれって後味悪い術だし、代償が必要だから正直お薦めは出来ない。
「とにかく怪我人を見てみるのが先だろ。ここで悩んでても始まらないぞ。」
うむ。正論だ。
マキさんも私と同じ事を思ったのだろう。
部屋の扉を開けて、私たちを中へ入れてくれる。
中にはベッドに横たわる怪我人と・・・・・
………
へっ?
「「「「「「「「「?!」」」」」」」」」
「ナッシュ!アイリ!リィナさん!それにボルガン!
ギジムのおっさんにエン姐さん!!コウユウに、マイクロトフにカミューまでー!!!」
中にいたメンバーの全員が私の思いっきり知っている顔だった。
知っている顔も何も、デュナン戦争のとき、共に戦った仲間達だ。
+αハルモニアの工作員もいたりするけどさ。
「皆さん、お知り合いですか?」
マキさんがビックリした顔で問いかけてくる。
そりゃそうだ。私だって驚きましたよ。まさか顔見知りがこんなに大勢・・。
とか思いつつ、頷いてみせた。
「怪我人ってカミューだったんだ?」
心底驚いて私が問えば、カミューは苦笑いを浮かべて見せた。
「ええ。まさかこんなところで会うとは奇遇ですね、。」
「でも一体何があったの?
カミューが重傷を負うなんて、よっぽどのことがあったんじゃないの?」
「それが・・・。」
何かわけありなのか。
そのことについて触れた途端、皆の表情が沈んだ。
「『炎の英雄』って知ってる?」
リィナさんに聞かれて、私はしどろもどろしつつ答えた。
「え。あぁ、一応は・・・。」
答えつつ、私はの方をチラリとのぞき見る。
何も言わないところを見ると、そのまま隠しておいて良さそうだ。
「今回の騒動は『炎の英雄』とその手下達が原因なんだ。」
え・・・?
私は声を失った。
ナッシュの言葉を否定したい自分がいる。
でも、彼はウソをついてはいない。多分。
彼が私たちに嘘をついてもなんの得もないから。
「ウソ・・?」
「おいおい、嘘だろ?『炎の英雄』の話なんて、今時単なるおとぎ話でしかないぜ。」
さすがのもいささか驚いたらしく、声がかすかに裏返っている。
だがナッシュは、カミューは、そして皆は大きく首を横に振った。
「そう思いたいのはやまやまなんだがな、事実あれは・・・。」
「嘘よ!『炎の英雄』は村の略奪なんてしないわ!彼らは義賊よ!!
私腹を肥やしたハルモニアの商人たちから略奪してただけでしょ!
彼らが善良な村人に悪さをするはずがないじゃない!!!!」
「?何をムキになって・・」
「なるわよ!!人の名前勝手に使って悪さしてる奴らが許されるの!?
くっそ、私がその場にいればぁっ!!一瞬で親玉も子分どもも消し炭にしてやったのに!!」
「。」
声をかけられると同時に、頭に大きな手が置かれた。
顔を上げれば、少しだけ悲しそうに微笑んでは私の耳元で囁いた。
『ありがとな。俺の代わりに怒ってくれて・・。』
あう・・。
一番辛いのは私じゃない。彼だ。
なのに、私は・・・。
「悪いな。そのことについてもっと詳しく教えてくれないか?」
皆は私の取り乱し様に呆然としていたようだが、ナッシュがいち早く我に返った。
「ああ、そうだな。詳しくは俺から話す。・・・えぇと、あんたは?」
「だ。の旅の連れってとこだな。」
ってとこもなにも旅の連れでしょうが。
「・・・『炎の英雄』も確か、同じ名前でしたよね・・。」
グラスランドにいるだけあって、彼女も『炎の英雄』について聞いたことがあるらしい。
だがは、肩をすくめてそれをあっさりと否定する。
「たまたまだろ。それよりも、事件のことについて説明を頼む。
、お前は怪我人に回復魔法をかけてやるんだ。」
「あ、うん。わかった。」
ナッシュが詳しく事件について説明してくれている間に、私はベッドに上体を起こしているカミューの元へ行くと、ナッシュの話の邪魔をしない程度の小声で小さく呪文を唱える。
『我が額に宿る異界の紋章よ、我が魔力と記憶に従い、かのものをこの地へ呼び寄せん。
生命を生み出せし大いなる母の力の片鱗を抱く者、その身を水で形成せし者。
異界に住まう我らは汝をこう呼ぶ。水の精霊ウンディーネと!』
すると私の言葉に応え、額の紋章がまばゆい輝きを放つ。
それは青い輝きとなり、何もないはずの空間に一滴の水を生み出した。
その滴はたちまちたゆたう水となり、一人の女の姿を形取る。
水の精霊ウンディーネ。
私の元いた世界で語り継がれる精霊である。
ウンディーネは両手をカミューに向かって翳す。
淡い光がカミューを包み込み、たちまちのうちに傷という傷を全て治していく。
母なる海の司る慈愛の力は、こちらの世界でも元いた世界でも変わらないらしい。
用事が済むとウンディーネは滴となって、虚空にかき消える。
おそらくは元の世界に戻ったのであろう。
「これで大丈夫。にしても『炎の英雄』の紋章攻撃を受けてこの程度ですむなんて。
カミューはずいぶんと運が良かったわね。」
「。貴女はこの村を襲った彼らが『炎の英雄』たちではないと
まるで確信しているような風ですね。何故ですか?」
カミューの質問は尤もなものだった。
多分他の彼らも同じ事を私に聞きたいに違いない。
「私は本物の『炎の英雄』を知っているからよ。
前に時間を超えてテレポートした時に、会ったことがあってね。
彼はグラスランドの平和のために戦うことを選んだの。
そんな彼がどうしてグラスランドの村を襲うことが出来るの?」
彼は、デュナン戦争で人々を率いた少年と同じように、大切な人を守るために戦った。
炎の英雄もデュナンの英雄と呼ばれるべき少年も私は知っている。
すぐそばで彼らを見ていたのだ。
彼らは自分の私腹を肥やすために罪なき人々を苦しめる真似はしない。
むしろそんな人々こそ、彼らが守りたいと願う人々だったから・・・。
「・・・そうですね。確かに言われてみれば、そうかもしれません。
それに首領の振るう太刀筋、どこかで見たことがあるような気がしてならないのです。」
意外なカミューの言葉に私は目を見開いた。
「それに、。他ならぬ貴女が言うのなら、きっとそうなのでしょう。
それに私たちには彼らが『炎の英雄』であろうとなかろうと関係ありません。
再びここへ戻って来る奴らからこの村を守れさえすれば、それで構わないのですから。」
「・・・ありがとう、カミュー。」
「いえいえ。の笑顔が見れるのならば、この程度のことたいしたことではありませんよ。」
いかにも騎士らしい・・もとい彼らしい言葉に、私は少しだけ肩の荷が落ちたような気がした。
「よし!!私もこの村を守るために一肌脱いであげようじゃないの!!!」
ふふふ・・。
畏れ多くも私の大事なお兄様の名前を騙って悪事を働いてくれたんだから、
それ相応のお返しはさせて貰うわよぉ・・・・!!!!
思わず高笑いしたくなる気持ちを抑えて、私は知らぬまにほくそ笑んでいた。
ナッシュたちの話によれば、この村はニセ炎の英雄に”貢ぎ物”を差し出して、彼らに村を守って貰おうと考えていたらしい。
ところがそこにたまたま居合わせたナッシュたちが、彼らを追い払ってしまったものだから、村長以下村人たちは怒っているというのである。
もっとも、山賊であるギジムたちに言わせれば、単に自分たちの手間を省くために、嘘八百をのたまわっているだけとのこと。
とどのつまり。貢ぎ物を出そうが、出すまいが、どのみちこの村は彼らに襲われるのである。
ところが、彼らの怒りの原因というのはそれだけではなかった。
なんとデュナン戦争時代に同盟軍を名乗る賊に、略奪されたことがあるというのだ。
私自身もデュナン戦争で同盟軍に参加していたが、彼らの中にはそんな卑怯かつ最低な真似をするような馬鹿はいなかった。
だけど、戦争に乗じて略奪を行う馬鹿者というのは、どこの世界にもいるのだ。
世界史や日本史を習っただけでも、必ずと言っていいほど略奪行為が繰り返されてきているのだ。長い長い人間の歴史は、認めたくないが認めなくてはいけない現実を暗に肯定している。
にしても、同盟軍の名の下に略奪が行われていたという事実は、聞いていて面白くない。
私がそのことを知ってたらなぁ。
速攻でそいつらを瞬殺して、古代エジプト流冥界の裁判にかけてやってるのに。
そしたら賊ども心臓は、ぜ〜んぶアメミット(悪者の心臓を食べる魔物)の餌よ、エサ。
もしくは閻魔大王の御前に引きずり出して、舌を引っこ抜いちゃる。
それでもって、恐怖の八貫地獄体験ツアーへご招待☆
いやいや、それとも真綿で首をキュッと絞めるようにジワジワといじめ抜くべきか?
「なんか物騒なことを考えてないか、?」
後ろから声をかけられて、私は嬉々として振り向いた。
「そんなことないわよ、。私はただ、全世界の粗大ゴミを抹消する方法を考えてただけよ。」
「それが物騒だって言うんだよ・・・。」
は呆れたように呟くが、ふと微笑を浮かべたかと思うと私を自分の腕に抱き上げた。
「ちょ、ちょっと、?!」
いきなりプリンセスホールド(お姫様抱っこ)されて、あたふたする私。
だけどは、全く取りあうつもりはないらしい。
「・・・。さっきはありがとうな。俺のために怒ってくれて。」
「べっ、別に?!のためだけに怒ったんじゃないわよ!
あれは炎の運び手全員に対する侮辱よ、侮辱!!
ゲドとかワイアットとかサナとかみんなが馬鹿にされて、黙ってるさんじゃないわ!!!」
真顔で見つめられて、赤くなった顔をふいと背けて私は怒鳴る。
・・・ちょっと、言い過ぎたかな?
ほんの少しだけ、罪悪感にかられての顔を盗み見ると。
彼は、嬉しそうに笑っていた。
心から幸せそうに、優しく笑っていた。
「は本当に優しいな。俺の大事な仲間たちの代わりに怒ってくれるんだから。
本当に優しい、いい子だ・・・。だから、俺もサナもゲドもワイアットも、みんなお前が好きなんだ。
それに、口では言ってても、俺のことだって心配してくれてるんだろ?」
「・・・!!」
の笑顔に、私は初めて彼らと会った時のことを思い出す。
自分が生まれ育ってきた世界では、私は必要とされていない。
紋章を宿すために、この世界で必要とされる自分。
そんなことを紋章の化身にハッキリと言われて。
信じられないくらいに落ち込んでいたその時。
時を超えて巡り会った、炎の運び手のみんな。
はんば自暴自棄になっていた私を、叱ってくれた。
自分が必要とされていないなんて、馬鹿なことを言うな、と。
優しく慰めてくれた。
自分たちはみんな、私のことが大好きだから、って。
優しくて、あたたかくて。
とても心の強い人達。
そうなの。
あなた達が私を大好きだって言うのと同じくらい。
私は、たちが大好きだよ。
優しくてあたたかい、同盟軍の人達とは違う、ぬくもりをくれた人達。
だから、許せなかった。
私の大切な人達の大事な誇り、グラスランドを守りたいという強い意志。
それら全てを土足で踏みにじるような真似をした、偽物たちが。
許せない。絶対に。
「・・・だって、は私の大事なお兄ちゃんだもん。
いつもいつもそばにいて、私を守ってくれる、私の自慢のお兄ちゃんだもの。
ゲドもワイアットも、サナも、みんな私の大事な人達だもん!!
みんなの思いを踏みにじるようなやつら、許しておけるわけないじゃない!!!」
悔しいよ。
みんなのことを何一つ知らない馬鹿たちが、みんなの大切な誇りを汚していくなんて。
悔しさと悲しさで、目から涙がボロボロこぼれてくる。
それをごまかすために、私はの首にしがみついて嗚咽を懸命にこらえた。
「泣くんじゃない、。俺たちは大丈夫だから。ニセものが現れたって、俺たちは俺たちだろ?
ニセものが現れたことより、お前が泣いてる方が俺にとってはよっぽど辛いんだ。
だから、俺のことを思ってくれるなら、泣かないでくれ・・・。」
耳に心地よい、の声。
心の心まで染み渡っていく、あったかいテノールヴォイス。
の大きな手が優しく私の頭を撫でてくれる。
それがあたたかくて、不思議と気持ちが落ち着いていく。
高ぶっていた気持ちも落ち着いて、涙も止まった頃。
ようやく私は顔を上げた。
「少しは落ち着いたか?」
「うん。落ち着いた。」
「そうか。・・・、少しじっとしてろよ。」
「?」
が何をしたいのかよくわからずに、私は首を傾げた。
すると、不意にまぶたに柔らかいものが触れる。
よくわからないけど、それが気持ちよくて私は目を閉じた。
突然まぶたに触れたそれは、両目まぶたから目元、頬へとだんだん下へと降りていく。
時折皮膚に触れる熱い何かがくすぐったくて、私は声を上げる。
「やっ、くすぐったいってば・・・!」
するとの笑い声が聞こえてくる。
「そんなに可愛い声出すなよ。余計な悪戯したくなるだろうが。」
「だって、くすぐったいんだも・・・・んっ、やだも〜。」
「・・・この辺でやめとかないと、サナに殺されるなきっと。」
そんなの呟きが聞こえて、私は目を開く。
「?どうしたの、顔赤いけど?」
思った以上にすぐそばにあったの頬は、心なしか赤い。
「なんでもない、なんでもない。あんまりが可愛いもんだから、つい、な。」
「ついって何よ?」
「・・・いや、妹相手に本気で欲情するとこだったというか・・、イテッ!!」
とんでもないことをサラリとぬかすの頭を、力いっぱい殴りつけて。
「そういう冗談言ってると、サナに言いつけるよ?が浮気したって。」
「浮気なんてしてないさ。俺はいつだって、サナ一筋だからな☆」
あっけらかんとぬかすに、私はジト目を向けたまま。
「さっきのあれはなんなのよ。」
「それはが可愛すぎるからいけないんだ。俺のせいじゃない。」
「つくづく嘘しか言わないのか、この口は!!」
もしくはよっぽど目が腐ってるか、どっちかだな。
じゃなきゃ、私が可愛すぎるように見えることなんてないんだから。(断言)
「嘘じゃないさ。もし俺にサナがいなかったら、絶対お前を俺の嫁にしてる。」
「・・・・・・。そういう台詞を素面で吐かないでよ。」
「ん?照れてるのか、?照れる姿も可愛いなぁ。さすが俺の自慢の妹。」
「いい加減にその口開くのやめないと、深淵の狼フェンリルでも呼び出して襲わせるよ。」
「・・・だからそういう洒落にならない冗談は・・・・、」
「お取り込み中悪いんだが、ちょっといいかい?」
困ったような声が聞こえて、そちらを見ればナッシュが苦笑いを浮かべていた。
「が会いたがってた盗賊がそろそろ来るらしいんだが・・・」
「えっ、どこどこ!!ナッシュ、早くそこへ案内してよ!
村に入る前に、呪文一発で全員消し炭にしてみせるから☆」
「・・・俺の話を聞いてなかっただろ、お前。
とりあえずは様子見だ。村人が盗賊たちと取引するらしいからな。
万が一の時になったら合図する。それまでは持ち場でおとなしくしてるんだ。」
「えぇ〜っ?!先手必勝、攻撃は最大の防御!!
やつらが村人に手出ししそうになったら、魔法で吹っ飛ばせばいいんじゃ・・・」
「とにかく今回は俺の指示に従ってくれ。頼むから・・・。」
「は〜い。わかったよ、ナッシュ軍師。」
渋々ながら、私は頷いた。
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コメント
炎の英雄・夢主溺愛義兄設定が生きまくってる外伝夢。
この偽英雄話、3プレイ後に見たら妙に腹が立って仕方ありませんでした。 彼らの名前を騙るなんて…っ!と。
そんな思いから生まれた、偽英雄VS本物夢。完全に管理人趣味炸裂のお話ですが……まあ、いいじゃないですか。