自分に正直でいられたと、言い切ることはできますかーーーー

 出来るよ。
 だって私は、私が正しいと思ったことを貫くだけ。
 大事な人の傍にいたいと思うから、そのためだけに行動してる。


 自分の『好き』という想いに忠実に行動しているのだから。





【自分に正直でいられたと、言い切る事はできますか】



《Part1》

 極限まで高められ、今にも解放されようとしていた朽木隊長の霊圧が霧散する。
 発動するはずだった魂魄刀「千本桜」の開放を第三者に止められて。


「…っ、浮竹隊長! 」
 驚愕の色を露わに叫ぶのは、ルキア。
恋次や花太郎の話ではあまり表情を表さなくなったという彼女だけれど、やはりまだ感情そのものを失ったわけではないようだ。
 ルキアのいる場所からは、おおよそ死角になる場所からそれを盗み見ていた私は、そのことにホッと胸を撫で下ろさずにはいられなかった。

「おーす、朽木! 少し痩せたな、大丈夫か? 」
 そして、驚愕の表情を浮かべるルキアに対して、浮竹隊長はいつもと寸分変わらぬ笑顔で応える。

(本当は心配で仕方なかったくせに、全然そんな素振りすら見せないんだから)

 常日頃浮竹隊長の近くにいる事が多かった私は、ふとそう思わずにはいられなかったけれど。心の中でかろうじて形にするだけで、声に出すまではしなかった。
 何のかんのいってあの人の何気ない振る舞いは、全てルキアに対する思いやりからくるものだと知っていたから。

 優しすぎるくらいに、優しい人。
 そのくせ、魂魄刀を素手で止めるなんてことをあっさりやってのける、とんでもない人。


 ふわり、と穏やかな熱が心を満たしていく。
 浮竹隊長のことを考えた、ただそれだけで。

 私は心を満たす穏やかな熱を抱えて離さぬままで、話の舞台へと姿を現した。


「やっほー、ルキア。私のことも忘れちゃやだよ? 」
 異形の漆黒の翼を背に纏い、死神ですら飛ぶことのできない空を悠々と渡って。
私は翼を畳みながら、ゆっくりとルキアのそばにあった手すりの上に舞い降りた。

?! 」
 最初こそ驚きに目を瞠っていたけれど、ルキアは徐々に強張っていた表情を緩めていく。

「そんな顔しないで、ルキア。貴女にそんな顔させたくて来たワケじゃないんだから」
 泣きそうな位に顔をくしゃくしゃにした友人の姿に、思わずもらい泣きしそうになるところをなんとか踏みとどまって。私は手すりの上から降りると、久々に対面した彼女の華奢な身体を抱きしめた。

 懺罪宮の中にいて、霊力のほとんどを奪い取られているせいだろう。
 私の背におそるおそる手を回してくるルキアの力は、か細かった。

 まるでこのまま腕の中から消えてしまいそうな、嫌な錯覚を覚えながら。
 私は極力明るい表情を浮かべて、言葉を続けた。

「心配しなくても、大丈夫だから。
それに………そういうしおらしい乙女の表情は、一護の前で見せてあげなさいよね」

「なっ…… !! 」
 一瞬、図星を指されたかのように言いどもりながらも、ルキアはすぐに我に返って反論してくる。

(このつっこみ返しの早さだって、前と寸分も変わっていない)

 そのことに深い安堵感を覚えながら、私はルキアの耳元で素早く囁いた。


『一護が、必ず貴女を助けに来るから』


 ルキアの大きな瞳が、見開かれたーーーーーーー。








《Part2》

 右手に嵌めた飛行用のアイテムでもって、いかにも真打ちらしく空から現れるなんて真似をしてくれたその少年は、ゆっくりと私たちの前へと降りてきた。

 死神特有の死覇装を纏い、左手に携えるのは大降りの魂魄刀。
 そして何よりも彼を彼たらしめているのは、あの個性的なオレンジ色の髪。

 ルキアだけでなく、私もまたよく知った顔だった。
 彼の名は、黒崎一護。
 紆余曲折の末に”死神代行人”となるに至った霊感少年にして、今はルキアを助ける為だけに「尸魂界」へとやって来た”旅禍”たちのリーダー格にあたる少年だ。


 ルキアは、彼を死神にしてしまったことを心のどこかで悔いていて。
 それを申し訳ないと思っていたからこそ、これ以上一護を巻き込みたくはなくて。

 一護は、自分が死神になれたことを悔いる気持ちは一つもなくて。
 それどころか、彼は護る力をくれたルキアに感謝さえしていたから。
 助けてもらった借りを返す、その為だけに彼はココまで来たのだ。

 彼らは気づいていないが、それは互いに互いを思うがゆえの意見なのだ。
 ルキアの贖罪を求める心と、一護のルキアを助けたいと思う心。
 そのどちらもが強く確かな想いであるからこそ、外野は口を挟めない。


 だけど………からかう分にはこれ以上の標的はないよ?



 助けに来たと言い張る一護と、助けに来たことを叱り飛ばすルキア。
”喧嘩するほど仲が良い”という格言の意味に漏れず、口論する彼ら二人はどっからどう見ても良いコンビとしか見えない。ハッキリ言って二人は、誰の目から見ても『相性の良い』二人組としか見えない事だろう。

 最初こそは「青春ってのはイイねぇ」と高みの見物を洒落込んで、傍観していたのだけれど………、なんだか二人の仲を見せつけられているようで、妙に腹が立ってきたのは。ごくごく普通の感情だと思うのだが、いかがだろうか。

 だから私は、初々しい青少年コンビをからかってやることに決めたのである。


「なんつーか、思いっきり私ってばお邪魔虫みたいねえ? 」
 明らかに二人をからかう意味を込めて、そう突っ込んでみると。すっかりと私の存在を無視して口論していたルキアと一護の二人は、揃って私の方へと視線を向けてきた。

 そして、私の姿をはっきりと認めた一護は表情をかすかに動かした。

「お前………! 」

 両目を見開いて、あからさまに動揺しているらしい一護の様子を見て、私ははてと首を傾げる。
否、傾げずにはおられなかった。

「ってお前、 か?! なんでこんなところにい……」
 一護がべらべらと喋り出したその途中で、私はようやく思い出していた。

 普段から甘味巡りツアーと称して度々現世に降りていた私は、いろいろ複雑かつ様々な縁もあって一護とはすっかりと顔見知りになっていたのだ。だがあくまで単なる顔見知りと言うだけであって、間違えても自分が死神であると相手に明かした事はなかった。

 となれば、ここで私と再会した一護が驚くのも無理からぬ事。

 ただし、あくまで私はこっそりと監視の目を盗んで現世に降りていたのである。
 このことを知っているのは、浮竹隊長と京楽隊長、恋次の三人だけだ。

 万一ここで朽木隊長にこのことがばれようものなら、一体どんな恐ろしい事になるか。
 それどころか、見て見ぬふりをしてくれていた三人にもとばっちりが行く可能性さえあった。

 だから私は、喋る一護の足を思いっきり踏みつけて、言葉を中断させたのである。
そして足を踏まれた痛みで言葉を途切れさせたのをいいことに、私はとっさに思いついた嘘を並べたてたのだった。

「つい先日、流魂街で会ったばかりでしょう? 覚えが悪い頭ね」

「んだと、コラ! 流魂街で会ったも何も、てめぇはしょっちゅうげ…」
 さらりと流したつもりだったのだが、一護に私の思惑を理解しろという方がどだい無理な話で。
おかまいなしに彼は、声を張り上げて抗議してくる……が、

 それよりも先、再び私が渾身の力をこめて足を踏みつける方が早かった。

「っっっいっ、でぇぇぇぇぇ!! 」

「やかまし。だいたいお目当てのルキアを前にして、その反応の薄さは何?
仮にも相棒でしょ? 感動の再会なんだから、彼女を抱きしめるくらいのことはしないと」
 からかってみたいと思っていたこともあるが、それより何よりとにかく“私と現世で会っている”と口にしようとする一護の注意を別の場所へ向けることを最大の理由に、私は逆に一護をからかいに入った。

「なんでそうなるんだっっ!!! 」
 そして……案の定。
実は結構のりやすい一護はあっさりと私の言葉に乗せられて、話題を素早く切り替えてくれた。

「ふっ、運命の歯車が狂って一度は離ればなれになった男女が再会した時は、必ず『感動の抱擁』がつきものと世の中決まっているのよ!!! 」

 ズバリと世の中の摂理というやつを言い当ててやれば、なぜか一護は激昂して反論を返してくる。

「んなわけねーだろうが!!! 」

「照れるな少年。青春真っ盛りなんだから、ちゃんと青春しないと。
あ、でもやっぱりルキアのお兄様の目の前でそんなことできないか……」

「…………まあ、あいつをどうにかしないと、こいつを連れて帰れねえだろうしな」
 ルキアから視線を外すと、一護はやや距離を置いて向かい側に佇む朽木隊長の方へと向き直る。

「ウブかと思えば、意外に大胆発言だね。
兄の目の前で妹攫って、そのまま駆け落ち電撃結婚に持ち込むなんて」

 私はただ、『攫って連れて帰る』というフレーズから連想したことを、ありのままに口にしてみただけなのだけれど。

「てめぇはその腐った思考をどっかに捨ててこいっっ!!!! 」
 シリアスムードに入っていたはずの一護が、ものすごい形相で怒鳴り込んでくる。

「いくら照れ隠しでも、それは少々頂けないなぁ」

「………いい加減にしねぇと、斬るぞコラ」
 一護は完全に据わった目で睨みつけてきたかと思えば、斬魄刀を突きつけてくる。

 だけど。私はあいにくと、刀突きつけられて黙ってられるほど気が長くない。

「やだな、一護。いくら君が強くても私には到底勝てないよ? 」
 私は一護の肩に手を置いてニッコリ笑うと、笑ったままで力を開放する。
 本来なら力の完全解放は禁止されているのだが、現在は戦時特令により斬魄刀の開放が完全許可されている。それゆえに私が本来の力を開放したところで、掟破りにはなるまい。

 ならないよね、山本のお爺ちゃん?


 深い、どこまでも奥深い、深淵の闇。
 冷たくて、あたたかくて。痛くて、優しくて。
 あまりに両極端な二面性を帯びた、原始の力。
 その一つである、酷薄な死の一面と慈悲深い聖母の両者の力持つ「闇」。

 いつもは半分以下に抑えられていた闇の力が、徐々に身体の中に染み通っていく。
 身体の芯まで染み通ると同時に、身体にも徐々に変化が起こってくる。
 抑えつけていた力が戻るにつれ、身体の各パーツそのものの大きさが変化していく。
 腕も足も長く、髪も長く、翼はさらに巨大に、四肢の長さもまたわずかながらに。

「なっ………!!! 」
 一護が大きく目を瞠るのが、見える。
その隣ではルキアもまた、驚愕の表情を隠せないでいるようだった。

 そりゃあそうだろう。
 いきなり目の前で知り合いの姿が、変化すればねぇ……。

 通常時は死んだ時そのままの姿(15,6才の姿)を取っているのだが、力を完全開放すればたちまち私の姿は現年齢・20代前半の姿に変わる。それはすなわち、“伊弉冉尊の後継者”たる女神を務めるにふさわしい、人が最も美しく輝く時代の姿でもあるのだ。

 呆然と私の方を見ている一護とルキアの姿に、私は笑みを隠せなかった。
 なまじ今までが全然見応えのない反応を示す人々ばかりだったせいで、二人の反応がより一層新鮮なものに見えるから不思議だ。

「その辺にしておけ、
 どこか呆れたような色さえ浮かべた冷ややかな声が、後ろからかかる。
振り返れば、朽木隊長の切れ長の双眸が真っ直ぐに私の方へ向いていた。

 正直、この人には逆らえない。
 白煉様以外で唯一、私の心の琴線をかき鳴らした人。
 私が憧憬という名の念を覚えずにはおられなかった、王たる貴人。
 そして、私のこの姿を見ても顔色一つ変えないどころか、まるで無反応を貫き通してくれたという、強者中の強者である。

 この人に逆らって、少しでも機嫌を損ねようものならば。
 まず間違いなく、二度とあの綺麗な黒髪を梳かせてもらえなくなる。

 冗談じゃないわ!
 やっとの思いであの髪を梳く権利を得たのに、今更手放せるか(問題はそこか)!


「……了解です、朽木隊長」
 なので私は、一切逆らう素振りを見せることなく、命令におとなしく従った。

「お前……」

「悪いね、一護。
私はただのヒラ隊員だから、他の隊とはいえ隊長クラスの人の命令には逆らえないんだ」
 驚愕の表情を浮かべる一護に対して、私はから笑顔を浮かべて答えてやる。

 だが……、ルキアはなぜか得体の知れないようなものを見る目で私の方を見ていた。
その視線は『ひどい時には総隊長の命令すら平気で無視する人間が、よく言ったものだ』と、実に雄弁に彼女の思いを語っていた。

 やだなぁ、ルキアってば。確かに貴女の考えてる事は過去の事実だけど、何もそんな疑わしい目で私の方を見なくたっていいじゃない……。


 私は最後にルキアの頬をぷにぃと軽く突いて、ゆっくりと踵を返す。折りたたんであった背中の翼を広げ、足場を軽く一蹴りすれば、たちまちに私の身体は重力の制約から解放されて足場一つない虚空へと舞い上がった。
 そうして今ではすっかりと馴染んだ神経を使って、背の翼を羽ばたかせれば。たちまちに私の身体は空を吹きゆく風と一体化し、自分自身が望んだ目的地へと容易くその身を移動させることを可能にさせてくれる。

 ゆっくりと翼をしまいながら私が足を着けたその場所は、浮竹隊長の立つその隣だ。

「正確には“お前自身が気に入ってる隊長の命令には逆らえない”、だろ? 」
 旅禍である一護と親しげに会話をしていたことには一切触れずに、浮竹隊長は穏やかな笑みを浮かべたままで、私に声をかけてきた。

 そしてこの人もまた、私が今の姿を見せてもたいして驚かなかった人の一人である。
 なんといっても最初の一言が『一体どうやって化けたんだ?』だったのだから。
 あの時は怒りを通し越して、もはや呆れの境地に至っていたような気がするよ…。

「無論。ですから浮竹隊長の命令にも逆らえませんよ、私は」
 すっかりと私の性癖を見抜いてくれている彼に対して、私もまた笑顔で応える。

「好かれてるのは嬉しいが、どう頑張っても俺は卯ノ花よりも下だろう? 」

「確かに卯ノ花隊長は、私にとって恩人であり尊敬すべき御方ですからね」

 そう。卯ノ花隊長が、私の最も敬愛する上司である人。

 だけど、“敬愛”と“恋愛”を同じ主軸に並べることなんて出来るはずもない。
だから、敬愛する卯ノ花隊長と恋慕の対象である浮竹隊長とでは、どちらが上かと言われても本当に困ってしまうのだ。

 だって。どちらも私にとって大切な人であることに、変わりはないのだから。

「でも浮竹隊長だって、私にとっては何にも代え難い大事な人ですよ」

「……それでも、卯ノ花よりは下なんだろう? 」

「そもそも、敬愛する人と恋慕する人とで順位を決めろという方が無理なんですよ。
どちらも私にとっては、大切で何よりも大事でかけがえのない人たちなんですから」

「じゃあ、白哉と俺ならどっちが上だ」

「……わかりきったことを聞かないで下さいよ。勿論、浮竹隊長に決まってるじゃないですか」

「そうか」
 当然のことを言ったまでなのに、なぜか浮竹隊長は私の答えに満足した様子で。
ついさっきまで渋い顔をしていたと思ったら、途端に機嫌良くニコニコと笑みを浮かべているのだから。本当に子供っぽいというか、自分の感情に素直な人だ。

『……まあ、そんなところも好きなんですけどね』
 本人にも聞こえないくらいに、小さく呟いたのだけれど。

「何か言ったか? 」
 めざとく私の呟きを聞きつけてくれたらしく、しっかりと反応を返してくれる浮竹隊長に。

「いいえ、なんにも」
 私はニッコリと笑顔を浮かべて、思いっきり嘘をついてしまったのだった。



 だって、場所が場所だから、本当の事なんて言えないじゃない………。





《Part3》



*後書き*
・お題沿いかつ微アニメ沿いで、書きたいところだけをピックアップして書いてみました。
書きたかったのは、「ルキアとヒロインの友情夢」と「一護をからかうヒロイン」、
そしてとどめに「夜一さんに惚れるヒロイン」を入れる予定(3は執筆中です)。
そしてヒロイン、すでに浮竹隊長と恋仲設定となっております。管理人趣味炸裂。
とにもかくにも、素晴らしくオリキャラメインなお話に仕上がりました。
夢小説と言うよりは、名前変換小説の方が近いですね……トホホ。

というか、ぶっちゃた話。自分に正直なのは書いてる本人ですね。
本当に書きたいところだけをブツ切りで書いてるんだから。


(05.11.11up)

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