後悔なんて、してやらない。

 絶対にしてやるもんかーーーーーー。




【後悔しないと、誓えますか?】




「四番隊・卯ノ花救護特化班所属、ですが、中へ入ってもよろしいでしょうか? 」
 卯ノ花隊長から預かってきた書類を抱えたままで、部屋と廊下を仕切る障子の前で膝をついた私は、中にいる六番隊隊長へと声をかけた。

「入れ」
 ほとんど間髪入れずして返ってきたのは、相も変わらず耳に心地よい美声。
感情のほとんどこもらない冷たい声音であるにも関わらず、思わず聞き惚れてしまう。

 どうやら私の心も、変わらず朽木隊長に捕らえられたままらしい。


 部屋の中へ入る許可をもらったので、私は書類片手にゆっくりと障子を開けた。
中に入れば、机の上に積み上げられた書類を黙々と片づけていく青年の姿がある。

 冷静沈着・眉目秀麗の二熟語のよく合う、白皙の美貌は相も変わらないが。
 同時に”鉄面皮”にも匹敵するポーカーフェイスも、相変わらずご健在のようだ。

(あれだけ綺麗な顔してるのに、いつも無表情ってのも勿体ないよねぇ……)

 そんなことをつらつらと考えながら、私は部屋の中へ中へと足を進めていき、朽木隊長のいる場所から数歩離れた場所で足を止めると、その場に膝を下ろした。

「卯ノ花隊長より、書類を預かって参りました」

「空いてる場所へ置いておけ」
 私の方を一瞥することもなく、朽木隊長は指示を出す。

「御意」
 相手が簡潔な言葉を好むことは重々承知であったから、私は簡潔に答えた。

 そうして、事務処理の典型的な会話は途切れる。

 いつも、いつも。
 こんなやりとりの繰り返し。


 持ってきた書類を指示された通りの場所へ置いてしまえば、私のここでの仕事は終了。
 そのまま一礼して部屋を去るのが当たり前なのだが、敢えて私は書類を置いた場所のすぐそばに座り込み、黙々と書類を片付ける隊長の方へと視線を向けた。

 鼻梁の通った横顔は、思わず溜息をつきたくなるほどに眉目秀麗。
 背を流れる漆黒の髪は艶めいて、濡れそぼつ烏の羽色を彷彿とさせる光沢を放つ。
 気品と品格と威厳に満ち溢れたその様は、いつ見ても文句なしに美しく、いつ見ても見惚れずにはおられない。


「まだ何かあるのか」
 食い入るように、穴でも穿てそうなほどに凝視していた視線を、鬱陶しく感じたのか。
相変わらず顔は書類に向けたままで、朽木隊長が問うてくる。

「いつもいつも拝見していて思うのですが、ずっと同じ表情のままだと疲れませんか?
たまには表情を変えた方が、きっと顔の筋肉の為にも部下の心理状態の為にも宜しいかと存じますが」

「……戯れ言を聞くつもりはない。用事が済んだならさっさと下がれ」
 とりつく島もない、にべもない言葉が返ってくる。

 まあ、予想のうちではあったんだけど。

「折角の美顔が勿体ない……」
 心底そう思っていたら、気づけば嘆きの呟きが口をついて出た。

「そういう台詞は他の連中に聞かせてやれ」

「ご自分の美顔を損ねる表情ばかりしている方は、朽木隊長以外にいませんから」

「……私につまらぬことばかり聞かせる者も、お前以外にはいない」
 珍しくも返ってきたのは、呆れの色が色濃く滲む言葉だ。

 常に感情を乗せない声音しか聞かされていなかっただけに、相手から少しでも感情らしい感情を引き出す事に成功したことが、素直に嬉しかった。
 こんな程度のことで「嬉しい」と感じるなんて、相当末期だなぁと思いつつも。

「そういえばそうですね。光栄です」
 言われて気づき、私はニッコリと笑顔を浮かべた。

「わけのわからないことを……」
 ここで初めて、朽木隊長が顔を上げた。
わずかに顰められたその表情は、私を拒絶こそすれ受け入れはしない。


 それでも。
 今は、それだけで十分。

 話を振っても、完全無視されていた頃に比べれば。
 だいぶ進歩したものだから。


「……それでは、御前を失礼します。
そろそろ戻らないと、卯ノ花隊長に叱られますから」

 ようやく私は立ち上がると、朽木隊長に最敬礼を一つして。
なるべく足音をさせないようにして、すみやかに部屋を後にした。






「五月蠅いのがいなくなって、きっとせいせいしてるよねぇ……」
 四番隊の隊舎へと向かって足を進めながら、口を零れ出たのはそんな言葉。

 その言葉がかの人の心の中にある真実だと、なんとはなしにわかるから。
 余計に自分がみじめに、情けなく思えてくる。

 泣きたいわけでもないのに、目頭が熱い。


 最初から、叶わぬ願いだと、叶わぬ想いだとわかっているのに。
 どうして諦めることが出来ないのか。





 それは、きっと。
 自分の心に嘘をつくのが嫌だから。


 自分の心に嘘をついてまで、偽りの安穏を手にしたくはないから。



 そして何より、私は

 あの人を好きになったことを

 後悔なんて、していないから。






*後書き*
シリアス苦手と言いつつ、なぜかシリアスチックなお話でした。
どうして白哉夢を書こうとすると、夢らしくない夢ばかりなんだ(涙)。
やはり自分は、白哉夢を書くのに向いてないんだろうか……好きなんだけど。
明らかに一方的片想いなお話ですが、ヒロインは意外にもタフです。
明るい片想いを目指すと、どうしてもヒロインは精神的に強くなります。
自分もこのくらい精神的に強くありたいものだ。

(05.11.11up)

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