■「肩書きとか、形容とか、そんなものは知ってましたが。あなたを知ったのは、今が初めてです」
「…なんで俺につきまとう」
「しいていうなら、同郷のよしみ…ですね」
苛立ちを隠すことせず、不機嫌の色を露わにした神田の鋭い眼差しに一瞥されて、なお。
の顔から笑顔が消えることはなかった。
先程から……、否。気付けば、ここ最近一日に一回は似たようなやりとりをしている彼らだが、最終的にはいつも神田が折れる形で敗北に終わっている。どれだけきつい眼差しで彼が睨みつけようと、はニコニコと笑顔を浮かべたままでサラリと返答を返してくるのだ。
大抵の連中は、彼が睨みつけたり、あるいは無幻の柄に手をかけた時点で去っていくのだが、彼女だけは怯えて逃げるでもなく、低レベルな口喧嘩をふっかけてくるわけでもない。常にニコニコ笑みを絶やさず、最後には神田の方が譲歩してしまうのだ。ちなみに、譲歩した際の記憶があまりないので、何か催眠術かよからぬ術をかけられたのかと考えたこともあったのだが、結局の所は『柔よく剛を制す』の精神で敗れ去っていることに気付いたのは、最近のことだったか。
「周囲の方々は貴方のことを色眼鏡で見過ぎてます。
彼らが貴方の本質を全く見抜いていないことくらい、少し観察すればすぐにわかりますよ。
私は、周囲の反応や評価とは別に、『神田君』がどんな人か、自分なりに見極めます。見極めたいんです。
だから、私のことはそこらにある草木、あるいは道ばたに転がった小石だと思って無視して下さい」
「…………変な女」
「ふふふ、よく言われます。
でも、気付いてますか? 神田君。昔から言いますよね、『類は友を呼ぶ』と。
だから…多分、私も神田君もどこか似た部分があるんだと思うんですよ」
相も変わらぬ笑みを浮かべたの表情。
すっかり見慣れていた表情のはずが、なぜかそのときは見慣れぬ表情に見えて、思わず神田は目を瞠っていた。
彼は知らない。
が普段から浮かべる笑顔が、本心からのものではないことを。
客商売を職業とする人間の性か。常に笑顔でも大抵は『営業スマイル』でしかないのだ。
そして、今の一瞬浮かべた笑顔こそ、彼女の本当の笑顔であることを。
「勝手なこと言ってんじゃねぇ」
「あら。神田君も結構言いたい放題言ってるじゃないですか。勝手と言いたい放題で、『おあいこ』です」
の言ったことはなるほど確かに的を得ていたので、言い返そうとした神田は喉の奥まで出てきた言葉を呑み込まざるをえなかった。
自身も、たいがい歯に衣着せない物言いをする方だが(自覚は一応あるらしい)、目の前の彼女は人畜無害そうな笑顔を浮かべて、歯に衣着せない物言いをしてくるのだから、全くもって質が悪い。
「………チッ! 勝手にしろ!! 」
返す言葉の代わりに盛大な舌打ちをし、自分の敗北を認める一言を吐き捨てて。
から視線を切り離すと、神田は不機嫌MAXも露わにさっさと足を進めていく。
早足気味に歩く彼の数歩後には、満面の笑みを浮かべたの姿があった。
そして、今日もまた、勝負の軍配はに挙がったのである。
*後書き…
特殊な魂を持つBLEACH・日番谷夢のヒロイン、居酒屋の若女将にご出演願った、Dグレ・神田夢。
書いてみて思った。このヒロインの方が、Dグレ夢は書きやすいのかも。
本人自覚はないが、天然かつ少々毒舌。神田とは違う意味で、歯に衣着せない物言いする子です。
そして、この子だとややヒロインの立場が有利……って、一応年上ヒロインだからね(笑)。
文章能力向上の練習も兼ねて、敢えて三人称形式。
09/01/12 作品up